はじめに読んでください
2030 / 12 / 17 ( Tue )
こんにちは。はじめまして。
甲(きのえ)といいます。

かつてまだ厨二病が癒えなかった頃、サイトを立ち上げて創作小説を公開していました。
あれからだいぶ経ち、諸々の事情あってサイトは長らく放置してきました。

今回ブログを作ってみたのは、ちまちま小説を書いていくには管理しやすく適していそうだなと考えたからです。

たまったら校正し、サイトのほうで載せなおしてみようかと思います。


<http://nanatsukai.lv9.org> 


少しでも楽しんでいただけると幸いです。


*******

「聖女ミスリア巡礼紀行」について。

この話自体は私の中ではこれでも新しい方ですが、何度か練り直してるうちに結構いい感じに世界観が発達してきたので、他の古い話よりも今書きたいと思いました。

アクションやら化け物やら組織やらいろいろ出ますが、元は単なる「旅する男女」を書きたくて練った話です。あまり深く考えすぎないでそこをがんばります。

なお、極端な表現は抑えますが、多少の残虐非道な行為・発言または性的描写は含むかもしれませんので、15歳未満の方は閲覧を遠慮してください。なるべく誰も不快にさせないよう極力気をつけます。

最後に、作中に主張される信念や思想は私の脳から出たものであってもすべてを私が支持しているわけではありません。あくまでフィクションです。


*******

初めていらっしゃるお客様はまずサイトの方のインターフェイスを試しに見て行ってください。本編は長いので最初はブログよりもサイト(または小説家になろう、カクヨムでも同タイトル同名義で掲載しています)で見た方が読みやすいと思います。ブログで読む方は下の目次記事へどうぞ。

一節ずつが長すぎて読みにくくならないように、数字のあとに小文字でabcとつけて整理しています。本編はどの記事も大体5分以内で読めるでしょう。

*閲覧推奨ブラウザ: Firefox, Google Chrome (なぜかテンプレがIEと相性悪いようです)

感想はコメント・拍手でも何でもどんと来いです お待ちしてます(・∀・)


ではよろしくお願いします!




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23:59:59 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
本編目次
2030 / 12 / 17 ( Tue )

混沌に満ちた架空の大陸を舞台にした長編ダーク・ハイファンタジーです。
世界を救うために旅立ってますが、
その実主人公たちは別の何かを 探しているのかもしれません。

ここは目次ページです。初めての方ははじめにの記事へどうぞ。



第一章: 行路を織り成す選択の連なり

01 06 - a b c d e f g 11 - a b c d e f g h
02 - a b c d e f 07 - a b c d e f 12 - a b c d e f g h i j k
03 - a b c d e f g h 08 - a b c d e f g h 13 - a b c d e f
04 - a b c d e 09 - a b c d e 14 - a b c d e f g h i j
05 - a b c d e f 10 - a b c d e f g h i j  


第二章: 聖地を巡る意味

15 - a b c d e f g h i j 19 - a b c d e f 23 - a b c d e f g
16 - a b c d e f g 20 - a b c d e f g h i 24 - a b c d e f g
17 - a b c d e f g h 21 - a b c d e f g h i 25 - a b c d e f
18 - a b c d e f g h i j 22 - a b c d e f g 26 - a b c d e f g h i j k


第三章: この世で最も価値がある

27 - a b c d e f g h 31 - a b c d e f g 35 - a b c d e f g h i j
28 - a b c d e f g h i 32 - a b c d e f g h i j 36 - a b c d e f
29 - a b c d e f 33 - a b c d e f g 37 - a b c d e f g h i
30 - a b c d e f g h i 34 - a b c d e f g 38 - a b c d e f g


第四章: 満たされんとして追う

39 - a b c d e f g 44 - a b c d e f g h i j 49 - a b c d e f g h i
40 - a b c d e f 45 - a b c d e f g 50 - a b c d e f g h i j k l
41 - a b c d e f g h i 46 - a b c d e f g h 51 - a b c d e f 
42 - a b c d e f g h i j 47 - a b c d e f g h i j k
43 - a b c d e f g h 48 - a b c d e f g h


第五章: 常しえに安らかなれ

52 - a b c d e f g 57 - a b c d e f g h i j k 62 - a b c d e f g h i j k
53 - a b c d e f g h i 58 - a b c d e f g h i 63 - a b c d e f g h i j
54 - a b c d e f g h i 59 - a b c d e f g 64 - a b c d e f g h
55 - a b c d e f g h i 60 - a b c d e f g h i 65 - a b c d e f g h i j
56 - a b c d e f g h 61 - a b c d e f g h 66 - a b c d


あとがき


[簡易紹介]

地名・組織名 登場人物 サブキャラ

 

[読み返しガイド] 

場所別

おまけ・番外編

拍手御礼01-05 拍手御礼06-10 拍手御礼11-15 拍手御礼16-
Valentine's Day 戦闘スタイルメモ 魔物特性メモ もしも彼女だけでも
2000の想い 100記事記念 200記事記念

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07:23:34 | 目次 | コメント(2) | page top↑
ゆみとミズチ
2029 / 02 / 10 ( Sat )

タイトルからおわかりかと思いますが、爬虫類要素を含みます。
苦手な方はごめんなさい。





「なくなよ。おいらが、ゆみをまもるから」

 どこかで聞いたようなベタな約束を果たしに来たのは、自らを「みずち」だと言い張る謎の少年。

「きみはいつまで居座る気なの」
「ゆみが死ぬまでかなー。だってほっとけねーし」
「……それって、すごく長くない?」

 どこにでもいそうな独身OLと、人間の姿かたちを真似た化け物の、【非】日常ファンタジー……?


第一章:みずちという子
1 - a b c d e f2 - a b c d e f g h i3 - a b c d e
第二章:厄寄せのゆみ
1 - a b c

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07:15:32 | 目次 | コメント(0) | page top↑
きみの黒土に沃ぐ赤
2028 / 02 / 13 ( Sun )
(きみのくろつちにそそぐあか)

 あとがき



今夜、夫となる男と初めて顔を合わせる。
明後日、結婚式を挙げる。


そのはずだったが、物事は予定通りに進まず――  

波乱に立ち向かうか、安寧に逃げ戻るか。
選択の刻が迫る。


 零、きみと求める自由  a b
 一、ラピスマトリクスの涙  a b c d e f
 二、咲かせる花   a b c d e f g h
 三、危険な夜 a b c d e f g h i j
 四、予定がない午前 a b c d e f g h
 五、約束をつなぐ午後 a b c d e f

 五と六の合間 abc

 六、決断を迫られ ab c d e f g
 七、善意のかがやき a b c d e f g h
 八、整理と采配 a b c d e f g h
 九、とんぼ返り a b c d e f g 
 十、渦に呑まれるなかれ a b c d e f g h i j k l m

 終、きみと駆けはしる行方 a b c d e f

 人物紹介


【これは聖女ミスリア巡礼紀行と世界観が繋がってますが、独立して読める恋愛ファンタジーです。流血沙汰や狂気、死などのダーク要素が出ますので苦手な方はご注意ください】

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00:00:00 | 目次 | コメント(0) | page top↑
2-1. c
2018 / 06 / 23 ( Sat )
「ああ言えばこう言う! いけ好かない奴だよおまえさんは」
「ひよりに好かれたいと思ったこたぁないなー」
 そう返してやると、女は額を押さえて深くため息をついた。動きにつられて、かんざしの先についている金色の扇子を模した部分がしゃりんと揺れる。一瞬そこに視線が釘付けになった。こういった細やかに動きは、つい目で追ってしまう。

「おまえたち人外は厄介だよ。『蛟』ほどの個体ともなれば、悪意や真意を悟らせないようにうまく隠せるだろ? まあ……ゆみが気に入ってる時点で、たぶん悪意はないのだろうね。あの子には、そういったモノが視えてしまうから」
「わかってんじゃん」
 ミズチは数歩の距離を保ったままに、中庭でごろんと横になった。逆さの視界の中で、ひよりを見上げる。

 目の前のこの和服女は、おそらく既に己の寿命の半分以上は生きているという。その面貌には皺もあればシミもあり、笑っていない間は、全体的に皮膚が緩やかに垂れているように見える。
 大抵の生物には当たり前に訪れる、老い、というものの一環だ。老化現象に取り残されたミズチには掴みづらい概念だが、どうやら漆原ひよりはそれなりに老いているらしい。

 それが能力の衰えと同義かは知れないが、少なくともこの家を囲って張り巡らされた微かな結界の糸はなおも頑丈だ。術者と命をかけてやり合う気がなければ、簡単に破れるものではない。
 ゆえに、術者の許しを得るか唯美子が自ら出てくるまで待つしかない。いつものことだ。よほど目を凝らさなければ見えないこの銀色の糸は、許可なく入ろうとする侵入者を拒むが、内から出ようとする住人をあっさりと通す。

「どうして、そんなにしつこいんだい」
「ゆみが好きだからじゃねーの」
 と、感慨のない声で答える。
「信じられないね。獣《ケモノ》が何の見返りも求めずに、自分よりずっと弱い生き物に愛着が沸くものかね」
「さー」

「おまえさんのそれは、庇護欲じゃないか」
「なんだそれ」
 ぐるんと反転し、肘を支えにして上体を起こす。ひよりは縁側に座したまま前のめりに身を乗り出し、胡散臭いものを見るような目で言った。
「ゆみを愛玩動物《ペット》みたいにかわいがってるつもりなんだろ」

「ペット? ってなんだ。眷属みたいなもんか?」
「いや。上下関係はあるけど忠誠とか家族じゃなくてもっと生活の上で依存した……ああもう、どうせわかりゃしないのに、説明がめんどうだね」
 女は諦めたように膝の上に片手で頬杖をつく。

「よくわかんねーけど。なんびゃくねんの生の中でニンゲンに善意をもらったのは二度目だ。もっと観察してみたいと思ったのも、な」
 さわっ、と木の葉が風に揺らされてこすれ合う音がする。
 放たれた言葉の意味を咀嚼する間、女は値踏みするような目でこちらを見下ろした。

「いいじゃん、あそぶだけ。おいらがついてんだ」
「おまえさんはそれでよくても、ゆみには異形にかかわってるだけでも危険なんだ。理由はわかっているくせに」
「けどあいつ他にともだちいないだろ。ほっといたら夏中家からでないんじゃねーの」

 ひよりは何か言い返そうとして口を開き、一拍して、唇を閉じた。事実であるから、反論を持っていないのだろう。
 そのうち、家の中から「おばあちゃーん」と呼ばわる少女の声が響いてくる。
「……仕方ないね」
 迷いの残る目で、ひよりはこちらから視線を外した。


 回想はそこで終わりだ。
 あの頃と同じ姿のミズチは、黒い墓碑の前で頭をかいた。

「踏んでも平気そーなやつだったのに……『がん』かあ」
 病気というものは、頭では理解できても真に実感を抱くことはできない。
 ひよりが息を引き取って間もなく、あらかじめ設定してあったらしい式神が発動して、ミズチの元まで飛んで彼女の死去を報せてくれた。術式とはいえ遠く離れたギリモタン島までは時間がかかり、更にミズチ自身が日本まで来るのにもそれなりの時間を要した。

「遅れてわるかったな。おまえとのやくそくも、ちゃんとまもるよ」

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22:08:28 | 小説 | コメント(0) | page top↑
2-1. b
2018 / 06 / 18 ( Mon )
 その問いに対して、母が重くため息をつき、少年は舌をべっと突き出した。
「ながめ? ――ああ、おまえが化け物につけた名ね。もちろん知ってるわ。昔、こっそり唯美子を遊ぼうと誘い出しては、傷や泥だらけで連れ帰ってきた嫌なやつよ」
「そうだっけ?」

 正直、唯美子が思い出せたのは雨の中で出会った最初とその次の邂逅だけである。
 チラリと当事者の方を見やるも、彼は目線をあさっての方向に飛ばして、何も語るまいと唇を引き結んでいる。

「そうよ。百歩譲って遊ぶのはいいとしても、ミズチみたいな化け物には人の労わり方も思いやり方もわからないの。何度も無自覚に危ない目に遭わせたでしょ。唯美子が風邪をひいて帰ってきたのは一度や二度じゃないわ。海で溺れた時だって――」
 ひと息にまくしたてながら、母は押し込むように入ってきた。慣れた手つきで古びたスニーカーを脱いで揃える。

「吉岡由梨にはかんけーねーだろ」
「関係ないはずがありますか。母親ですよ! 一生心配するし、小言も言わせてもらうわ」
「んなこと言ったって、おいらにはよくわかんねーよ。オヤってーのは」
「わかるはずがないでしょう。化け物だもの」
「わるかったなー、ニンゲンじゃなくてー」
 応酬は一向に止まりそうにない。これではいけない、と唯美子は駆け寄った。

「ね、立ち話もなんだし、二人とも中で落ち着いて」
 ところがナガメの方がくるりと踵を返した。一度閉まったばかりの扉をまた開けている。
「どこ行くの?」
「てきとーにその辺。そいつが帰るまで、もどらない」

「残念だったわね、今日は泊まっていくわ」
 母が、自身が引いて来たキャリーケースをぽんぽんと叩く。
 少年はそのまま無言で出て行った。晩ごはんどうするのと訊く暇もなく。
(いいのかな……)
 実際、心配する必要はないのだった。彼は以前言った通りに、週に数度何かを口にしただけで十分らしく、睡眠ですら毎日とらなくてもいいらしい。放っておいても自力で生命活動を維持できるだろう。

 何も心配はいらないというのに、胸の奥に沸き起こるこのモヤッとした感触はなんなのだろう――。
 ふと、母の視線と視界の中でひらひらと振られているものに気付いた。薄緑色のふっくらとしたパックだ。

「ちょっと前の旅行のお土産。お高い煎茶らしいわ。これで、お茶にしましょ」
「いいよ」
 破顔し、唯美子は湯飲みや急須を用意した。次にトラの印がついた給湯ポットに向かった。
 二人でちゃぶ台を囲んで、高級煎茶を堪能する。猫舌気味の唯美子には80℃でもまだ少し冷ましたいくらいなので、のんびり飲んでいる。

「大丈夫だよお母さん。ナガメはあんなだけど、わたしを危険に巻き込んだりしないよ。むしろ何度も助けられてる」
 ふう、と急須に軽く息を吹きかける。九月とはいえまだ暑く、水で淹れられなかっただろうかと今更ながらに思案した。これを飲んだら余計に汗をかきそうだが、こうなっては致し方ない。
 母はなかなか言葉を継がなかった。

「……それなら、いいけど」
 今の間は何だったのだろう。色々と訊きたいことができたものの、「仕事どう?」と先に質問されたのでひとまずミズチの話は打ち切られてしまった。

     *

 在りし日の漆原家が住んでいた家は、山麓の住宅街にあった。地価の安い県だ、一般家庭が買えるレベルの一戸建てでも快適に広い。
 当時は三世代で暮らしており、仕事で出払う他の大人たちに代わって、漆原ひよりが孫・唯美子の世話をすることが多かった。唯美子と知り合って間もないミズチも、既にそのことを知っていた。

 ひよりは、こちら側に踏み込んでいるニンゲンだ。漆原に嫁いだ彼女は元からそういった素質を秘めていたらしく、そのことを自覚して、己の潜在能力を引き出す修行をした。
 彼女とは顔見知り程度に面識があったが、それが雨の日に出会った少女の祖母だと知ったのは、より最近の話である。

 ある夏休みの日のことだ。
 蛙狩りに行こうと唯美子を誘いにやってきたら、うかつにも気配を消すのを忘れていた。
 和室の縁側でくつろいでいた和服姿の女が、素早く目を見開いた。

「おまえ……ミズチ、また来たね」
 おう、とめんどくさそうに返事をする。
「帰りなさいな。あたしの目が黒いうちはゆみに手出しさせないわ」
「じゃあ、ひよりが死ぬのを待てばいい?」

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07:01:04 | 小説 | コメント(0) | page top↑
考えた…
2018 / 06 / 12 ( Tue )
個人的な話になりますが、我が家族・親族は全体においてマルチリンガルです。いろんな文化をミキサーにぶっ込んでみたみたいなバックグラウンドです。

そんな家庭で育った私は中途半端にあの言語やあの言語が話せたり聞いて理解できたりするわけですが、ひとつの問題に気付きましたよ。祖父はぼけ始めた頃から母語しか喋らなくなり、今では日本語は簡単な単語以外ほとんど消えてしまっています。

私「お父さんがぼけ始めたら何語をしゃべるんだろう。私は〇南語を勉強した方がいいのか?」
父「結局はじいちゃんみたいに入れ歯がなくて、何を言ってるのか誰にもわからないから」


……それもそうだな…w

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06:12:31 | 余談 | コメント(0) | page top↑
2-1. a
2018 / 06 / 09 ( Sat )
 九月に入ってから二度目の土曜日、ようやく唯美子は壁のカレンダーを放置していたのだと気付く。ぺらりと片手でページをめくりあげ、カレンダーは夏の風景から秋の風景写真に入れ替わった。紅葉が舞う部分になんとなく指先を滑らせたりもする。

 時の流れはあっという間だ。会社の同僚と海に行ったのがまるで遠い昔のように感じる。
 いつの間にか、いたはずの人物がひとり消えて、どこの記録や誰の記憶にもその男が存在した痕跡が残らなかった。末恐ろしい話だけれど、それはそういうものだという。後始末や裏工作が得意だからこそ、彼らはヒトの警戒網から逃れ続けてきたわけだ。

「わっ!?」
 考え事をしながら薄闇に包まれた居間を片付けていたのがいけない。いきなり柔らかいものにつまずいてしまった。
 ちゃぶ台が眼前に迫る。咄嗟に腕を突き出して、倒れ込むのを阻止した。

(あぶなかった)
 自身をつまずかせたものを探り、ちゃぶ台の下を覗き込む。そこに、十歳未満の少年が座布団の上にうつ伏せになって寝ていたようだ。突然の衝撃に起こされて、眠そうに唸っては頭をもたげている。

「ごめん、今日ここだったんだね」
 ところかまわずに横になる彼にも非はあるが、蹴ってしまったことにはすかさず謝っておいた。
 小鳥が陳列した赤いパジャマを着たこの少年は、不定期に唯美子のアパートに遊びに来ては、いつの間にかいなくなっている日もあれば、朝までよくわからないところで寝ている日もある。昨夜は後者だったようだ。

「うー……もう朝かぁ」
「午前八時だよ。ナガメ、起きたのなら顔洗ってうがいしてきて。それで、ちょっとここ片付けるの手伝ってくれる?」
「ぬー」
 嫌そうな声を出しながらも、彼は半分だけ目を開ける。ボサボサの黒髪を指で梳いて、のっそりと起き上がった。

 半目のままではあるが、ナガメは望まれた通りの行動をとった。彼は寝起きの時が一番素直なのかもしれない。
 そして少々、無防備だ。
 カーテンの隙間から漏れる朝日が、ちょうど少年の右腕を照らした。そこに、ぬらりと、鈍く光を反射する部分があった。

 鱗である。
 人間の七歳ほどの男児とほとんど見分けがつかない姿をしていながらも、ナガメは人間とは異なる存在だった。では何なのかと問われても、唯美子は完全に答えることができない。
 以前、質問にはゆっくり答えてやると彼は言った。その割にはお盆の季節に何も言わずにふらりといなくなるなど、未だに見えない一線を画されている感じはする。

 結局ナガメは自分のことはあまり教えてくれなかったが、自分たちの性質については教えてくれた。
 数百年の生を経て龍の位階に登った蛇、わかりやすく呼んで、蛟《ミズチ》。彼のような異形は人間が認識している以上に数多く、ひそやかに人に紛れて暮らしているという。

 妖怪の類と混同されることもあるが、彼らは実体を持っていて生物寄りだ。その辺りの説明は、学生時代の生物の授業をあまりおぼえていない唯美子には難しかった。
 ――生物でありながら、既存の生物の枠からはみ出たもの。

 いつだったか、誰かが獣《ケモノ》と呼び始めた。
 通常、遺伝子がタンパクに翻訳され肉体を構築していくはずだが、獣においてはその過程に謎のあやふやさが、柔軟性がある。なんと言っても変化ができるのだ。しかしいくら変容した彼らを調べたところで、元々属していた種の遺伝子と大した違いが見られないらしい。

 一方、生殖能力は確かに失われている。代わりに「精神力」と「生命力」を軸として、長い長い時間を生きられるそうだ。
 そんな彼らの本質が瞳に浮かびあがる瞬間を、何故か唯美子には視えるらしい――

 ――ぴーんぽーん。
 呼び鈴の間延びした電子音が、思考を中断させる。
 思っていたより到着が早い。両手いっぱいに雑誌を抱えていた唯美子は、玄関とナガメを見比べた。出てくれる? と目で訴えかけると、少年は意を汲んで出入口へ向かっていった。

 その間に雑誌を縛って隅にやった。背後では、ガチャリと扉が開く音がする。ナガメは無言で来客に応じたのか、しばらく沈黙があった。
 次いで鋭く息を呑む音が重なる。

「げっ、吉岡由梨」
「あんた!? まさか、『みずち』……! カンボジアとかに行ってたんじゃないの!」
「インドネシアな」
「どっちでもいいわ! なんでいるのよ! お義母さん――じゃなかった、ひよりさんが追い払ってくれたと思ったのに! また唯美子につきまとう気!?」

「はあ? 別においらは、ひよりに追い払われたんじゃねーし」
 いきなり険悪だ。唯美子は玄関付近を振り返った。二人の間に入って言い合いを止める決定的なひと言が放てたならよかったが、驚きの方が勝ってしまった。
 唖然となって二人を順に指さす。
「……お母さんとナガメって、知り合いだったの?」

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13:36:42 | 小説 | コメント(0) | page top↑
あふふ
2018 / 06 / 06 ( Wed )
戻ってきました。書きたい欲が駆け巡るぜうずうず。

黒赤の公募の話ですが、案の定(?)二次落ちだったので、まずはブログとサイトから再公開します。久しぶりに彼らに会いに行ってやってください。

ただいま! (´ぅω・`)ネムイ

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10:42:37 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
明日から旅行っす
2018 / 05 / 23 ( Wed )
なので、二章投稿は戻ってから開始します。

ちょうどいい機会なので、日本の生活らしさというものを今一度勉強してまいりますw なんだろう、こっちで生活してると座布団とか座椅子とかちゃぶ台とか布団とか畳とか、全然意識にないんですよ。畳の匂いとか意識して思い出さないとならないし、1LDKとか1DKの違いをぐぐらないといけないのですよ。

年中ソファとベッドですから…。

朝から晩まで日本語喋るのって、毎度ながらびびります。すごい、私一日中日本語喋ってる! ってなります(当たり前だ

しばらく留守にしますが、また後ほどかまってくださいね(⌒∇⌒)ノ

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00:52:03 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
ひと息ついてまた
2018 / 05 / 18 ( Fri )
どうも、ツイッターのせいか(ぁ)最近あまりブログで騒がなくなっているけど元気な、甲です。

ゆみみずを小説家になろうに投稿して数日経ちますが、読了などを見る感じでは、おおむね好評みたいです。よかった(´▽`)

ガチガチのファンタジーも楽しいけど、ローファンは現代語を遠慮なく使えるのがいいですね。そのうち「甲さんそれはもう死語ですよ」とか言われそうなのは、ともかくして。

5月16日締め切りのピュアフル大賞に滑り込みで応募してきましたw

10万字推奨なので多分力及ばずになってしまうでしょうけど、誰かの琴線に触れないかなとちょっぴり期待しつつ。

二章を書いていきますよっと。引き続きよろしくお願いいたします!


あと、来週水曜から日本行きます。(旦那つれて)(日本はじめてよ)
だからどうと言うことはないですが、皆様と同じタイムゾーンになるのがちょっとドキドキです。

ていうか94歳ほどのおばあちゃんが我が夫と対面するというのはよく考えたらとんでもないことでありますよ。やばい。やばすぎる。子供の頃、一時帰国から戻るたびに「次はじいちゃんばあちゃんに会えなかったらどうしよう」と胸に不安を抱いていた私が、まさかここまで来れるとは。うん。ばあちゃんは一体いつまで生きるのかわからないけど、この機会を大事に、思い出の写真をいっぱいとりたいと思います。

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1-3. e
2018 / 05 / 15 ( Tue )
「え? そんな怖いこと考えてないよ。ただ、あの人たちは悔い改めも償いもしないのかな、って」
 ナガメは不可解なものを見るような顔をした。子供の姿の時の表情をそっくりそのまま大人にしたようで、不思議だ。普通は、誰かが年を重ねる前後の姿を見比べる機会は写真や映像の中でしかない。

「たとえばコモドオオトカゲが人里に降りて人を喰い殺した時、その個体に悔い改めて欲しいと思うか」
「なんでそんなマニアックなたとえなの」苦笑する。「えっと、思わないかな」
「な、人を喰った動物は退治するか、遠くに追い払うかするだろ。害獣だっつって。種をまもりたいなら、不安要素は放っておけない」
 ――言われてみれば、そうだ。

「でもコモドオオトカゲとは意思疎通ができないよ」
「さっきのやつらとだって、言葉が通じても意思疎通ができるかはわからないぜ」
 それで遠くへ追い払ったのかと思えば、どこか納得できそうだった。でもこの場合は唯美子にとっての遠くであって、人里に届かないようなところではない。また犠牲者が出ることは十分に可能だ。そう漏らすと、ナガメは二匹のトンボたちを指先にのせて遊びながら、実にどうでも良さそうに答えた。

「人類のことは人類がどうにかすればいーだろ。俺がまもるのは、ゆみだけだ」
「そ、そう」
 感覚の不一致に、越えられない溝を感じる。先述の通り、言葉が通じても理解し合えるわけではないのだと思い知らされているようだ。
 けれど彼は助けてくれた。今はそれだけに、感謝すべきだろう。

「ナガメ、ありがとう。ごめんね忘れてて。十七か十八年前のことだから」
 難しいことを考えるのはやめだ。昔そうしてもらったように、今度はこちらから彼の手を握る。
 握り返してきた指は記憶の中のそれと違って骨が太く、慣れない感触だった。心臓が二、三度大きく跳ねる。
 作り物の温もり――ぬるま湯のようで、触れているとなんだか気が楽になる。
 ニヤリ、青年は片方の口角だけを吊り上げた。

「やーっと思い出したか。まあ、思い出せなかったのもたぶん、ひよりの術のせいだろーな」
「また、おばあちゃんの術――」
 タイミングを見計らかったかのように、地鳴りのような低い轟きが響いた。と言うのは大げさで、実際はただの腹の虫だったが、恥ずかしい。いいかけていた言葉を飲み込み、唯美子は耳元の髪を指先でいじった。
 歩いて帰らないかと提案する。ナガメは手を振って却下した。

「何時間かかんだよ、それ。川でも使った方が早くね」
「川を使うという発想がまずよくわからないのだけど。あ、そうか! きみ、蛇の姿にもなれるんだよね」
 そう言ってぽんと手を叩き合わせた時、何かもうひとつ大事なことを思い出しそうになったが、空腹のせいかうまく頭が回らない。

「ん。『蛇』は手の平サイズ、『蛟』だと全長十メートル。ミズチっつってもその単語が一番わかりやすいから使ってるだけで、記録の中の蛟と比べて、独自の生態があるから」
「自分のこと、生態とかいうんだね」
「生態は生態だろ。だから、蛟の姿なら川」
「待って。きみが何を言おうとしているのかわかってきた。やっぱり、タクシー呼ぼう」

 両手を突き出して制止を呼びかける。いくらナガメが一緒とはいえ、水辺や鱗はできれば触れずにいたいものだ。
 ふいに静寂があった。もしや、断ることで傷付けてしまったかと焦る。
 唯美子が少し上に目線を上げると、そこには、難しい顔をして額を押さえる青年がいた。どうしたのと問いかけると、ナガメは歯切れ悪く言った。

「いや……たくしぃってなんだっけなって。車の種類なのはおぼえてるけど。うーうー鳴るやつか?」
「タクシーは鳴らないよ。お金を払って車で快適に送り迎えしてもらうシステム……?」
 乗ればわかるから、と唯美子は思わず笑って返した。

     *

 外食は節約の敵だ。多少の空腹を我慢することになろうとも、自炊がベストの選択と言えよう。
 残り物のご飯に冷凍野菜を加えてサッと炒飯に仕立て上げ、卵でとじる。後は豆腐とワカメたっぷりのみそ汁でたんぱくを補えば事足りる。
 ごはんできたよと呼ばわりながら振り返ると、なんとちゃぶ台の前に、七歳くらいの少年がちょこんと座っていた。危うく皿を取り落しそうになる。

「いつの間に縮んだの!」
「体積を減らすへんげは四十秒でできるぜ。外皮は特殊仕様でみずにとけるから、トイレにながしとけばすむし」
「うわあ……」ドン引きだ。この話題はあまり引きずりたくなかった。唯美子は散らばってた雑誌や新聞紙をちゃぶ台の上から落として、皿を下ろす。「きみも食べるよね」
 訊くと、黒い目線がぐるんとこちらを向いた。

「きょう何曜日だ」
「金曜日だけど、それがどうしたの」
「じゃーくわなくてもいいや。小さいときは、省エネだし」
「なに言ってるの。少しでいいから食べないと」
 半ば強引に小皿とスプーンを持たせ、ついでに「いただきます」などの挨拶について教え込んでおいた。こうなってしまえば、意外に彼は素直だ。咀嚼音とテレビの音が、しばらく続いた。

「ごちそさま。しってたか、ゆみー? ヘビの舌って、ほぼ味覚がねーんだよ」
「えっ」
 この時にして、もしかしたら本日一番の驚きに出会ったかもしれない。驚く点の多い一日だったのだから、相当だ。
「なんとかソン器官のほうに、舌でひきこむんだよ」
 思わずスマホで検索した。厳密にはヤコブソン器官というらしい。

「それで『多分おいしい』なんて感想になるんだね」
 スマホから顔を上げた唯美子は、あれ、と目を瞬かせた。少年の朗らかな笑顔に、違和感をおぼえたのである。その源を特定しようとして、さんざん見つめることとなった。
 歯だ。前歯の欠けている部分が、大人の時と子供の時とで違うのだ。欠けた歯の種類も、位置も合わない。そう指摘した。

「こっちは子供の歯が抜けた穴で、あっちは大人の歯が殴られて折れたんだよ」
「うん? 脱皮して変化してるのにそういうの関係あるの」
「まあ、いいじゃねーか。細かいことは」
 あからさまにはぐらかされた。
 そして追究する間もなく、にゅっとナガメが唯美子の腕の下をくぐり、懐に入ってきた。きゃ、と反射的な悲鳴を上げる。
 腹部に小さな背中が当たっている。嫌ではないが、変な感じだ。

「ナガメは、大人の時と子供の時とでちょっと雰囲気違うね?」
「おう。ニンゲンのたいどって相手の見た目によってかわるから、こういう姿なら、あまえほーだいなんだろ」
「……なんか作為的だね」
「うけうりだけど。そーゆーもんじゃねえの」
「たぶん根っこのところではみんなそうなのかも……そんなこと考えながら生活してるのって、計算高い感じがするけど」

「ケーサン?」
 少年がぐりっと頭を後ろに傾けた。双眸に光る黄色い環は、時折現れては消える。それは「ミズチ」の非人間的な本質を象徴しているようだった。
 この子は、人間を冷静に分析していながら、さらなる一歩を踏み込む気がないのではないか。計算高いのではなく、本当に素直に、誰かに言われたことを実現しているだけに思える。

「ううん、気にしないで。それよりきみはいつまで居座る気なの」
 流れで夕食に誘ってしまったが、彼にも帰るところがあるのではないか。
「ゆみが死ぬまでかなー。だってほっとけねーし」
「……それってすごく長くない?」
 困った顔で問い返すと、ぶかぶかの服に着られている少年はニッと笑んでみせた。

「おまえもききたいこといっぱいあんだろ? ゆっくりこたえてやっから。これからめんどーな目に遭うんだしな」
「でも」
「おいらは長寿だ。不死じゃないけど、不老なの。ゆみひとりの人生に付き合ったって、何も減らないどころか暇が有り余るんだな、これが」

「わたしの生活費が……というよりきみの食費……」
「一週間に一度食えりゃたりる。そんなにかさばんねーとおもうぜ」
 安心しろ、と彼は舌を歯の間にちろちろと出し入れしてみせた。ちゃんと人間の舌の形をしていたそれは、蛇である時の動作をそのままクセにしたようなものだという。
 唯美子が思い悩んだ時間はそう長くなかった。

(可愛いから、いっか)





長くなっちゃってサーセンッ
ミズチの擬態はいい加減なとこもあって、蛇の構造を人型のまま使ってたり、人間の構造を真似ているところもあります。自分ではうまいと思っているけど微妙に化かし切れていなくて、血が出ないのは雑さの表れみたいなものです。

これにて第一章は終わりです。いざ書き終わってみるとあまり言うことがないですね… 次でお会いしましょうとしか…w

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12:33:02 | 小説 | コメント(0) | page top↑
マスカダイン島に短編追加
2018 / 05 / 13 ( Sun )
ブログで宣伝するの忘れてた。読んでね!

https://ncode.syosetu.com/n7092dn/





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22:19:37 | 余談 | コメント(0) | page top↑
1-3. d
2018 / 05 / 07 ( Mon )
 さかのぼったのが数日分か、数週間分かは定かではない。
 ――けがしてる……。
 ひとつの思考をきっかけに、場面が断片的に再現される。
 その日も雨が降っていたが、唯美子は傘を手にしてしゃがんでいた。視線を注ぐ先は、地面でうごめく小さな生き物。

 ――あめ、しみちゃう。でもながくてうねうねしてるの、きもちわるいなあ。さわりたくないなあ。
 小さな生き物をどこかへ避難させてやりたかったが、運ぶ手段が問題だ。下敷きか何かで拾えただろうに、その時は思いつかなかった。

 触りたくないけれど、雨に降られているのがかわいそうだ。結果、傘をあげることにした。後に母に「ずぶぬれじゃない! ちょっと目を離した隙にどうやって傘をなくしたのよ!?」とひどく叱られたものだ。
 ――へびってなにたべるのかな。

 呟いても、答えはなかった。大人の手の平に収まりそうなほど小さい蛇は、弱々しく頭をもたげようとするだけだ。
 ――はやくげんきになってね。
 せめてものエールを送るつもりで、唯美子は蛇に笑顔を向けた。

     *

 建物がひしゃげてつぶれるような凄まじい破壊音の連鎖で覚醒した。
 浮遊感に、息が詰まる。寝ぼけた頭が発するそれではなく肉体全体で感じ取れる重力の欠如――つまりは落下が始まる予兆である。
 恐怖は抱かなかった。唯美子を包み込む気配が、安心をもたらすものだからだ。

(…………ナガメ)
 これが偽りの温もりだと言われても、俄かには信じがたい。自身の肩を握りしめる大きな手も、膝を支え上げる力強い腕も、作り物だとは思えなかった。あるいは真偽のほどは大して重要でないのかもしれない。信頼できると直感できるなら、それで十分だろう。
 着地の衝撃はほとんどなかった。

「先達に敬意を払えって、習わなかったのかあ? こいつの糸を引いてたのって、あんただな」
 成人男性の姿をしたナガメが、毒を含んだ声で言い放つ。
 数秒ほどの沈黙。さきほどまで喫茶店であったはずの瓦礫の下から、先にマスターが這い出て、恐縮したように深く頭を垂れた。

「まさか近くに上位個体がいたとは気付かず……礼を欠いてしまい、申し開きもありません」
「おう。わかりゃーいいんだよ」
「これからどうするおつもりですか。我々はニンゲンの法では裁けない。顔を変えることも、DNA鑑定をごまかすことだってできます」
「おとなしくどっか遠くに消えるんならどうもしないぜ。俺は別に、餌場荒らしがしたかったわけじゃねーし」

「慈悲を与えてくださり、感謝」
「はは、お前も大変だな。ニンゲンの味をおぼえた獣《ケモノ》は、大抵は餓え続ける。俺たちは確かに新鮮な内臓を喰えば生命力が跳ね上がるけど、喰った相手の思念も己の血肉に吸収されるからな。その業を消化できるほどの精神力がなければ、狂った化物と化すだけだ」
 次のひと言は、マスターの後方からゆらりと立ち上がった影に向けられていた。

「ニンゲンの思念は、重くて粘っこいだろ。案外ギリギリのとこで理性保ってんじゃねーの」
「せっかくの、すごく、うまそうな、エモノ! じゃまを――するなぁっ!」
 影は威嚇するように呼気を吐いた。察するにこれが笛吹の本性なのだろう。「これ」と会話して食事をしていたとは、なんと不気味な……。
「頭冷やせって。もっかい吹き飛ばしてほしいみたいだな」
 唯美子はただ息を呑み、悠々としているナガメにしがみついた。
 そこに、マスターが間に入って手を突き出す。

「ご心配には及びません。力ある眷属を育てたかったのですが、いつの間に勝手に食の範囲を広げて、収拾がつかなくなってしまいました。この個体はいずれ、私の方で『処理』します」
「おー、ぜったい半径百キロ以内に戻ってくんなよ」
「はい」
 二つの影は瞬時に折り重なり、突風を伴って消えていった。悔しそうな雄叫びも一緒になって遠ざかる。

 今になって振り返ると、笛吹秀明が真に経理課の先輩だったかどうかに自信が持てない。初めて会ったのがあの合コンで正しいのか、またはいつから勤めていたのかを思い出そうとしても、頭の中に靄がかかったように判然としない。

 これまでに得た情報を疲れた頭でかき集めると――彼は、彼らは、人間ではないもので。この周辺で(死体を隣の県に捨てたりして?)、人に害をなしていたのだという。
 非日常感が強すぎてなかなか理解しきれない。自分は死にそうになっていたのか。食べられるところだったのか。
 騒ぎを聞きつけた者が駆け付けるよりも早く、ナガメもあっという間にその場を後にした。サイレンの反響から離れられたところで、やっと地に下ろしてもらった。

「泣いてんのか、ゆみ。よしよし怖かったな」
「……違うの。わたしは助かったけど、助からなかった他の女の人たちがどんなに怖かったのかと思うと、ほんとにこれでよかったのかなって」
 ふと頭を撫でる手が止まった。
「報復したいって意味か?」



グロ派手人外バトルを描こうか迷いましたけど、今回は導入部でソフトスタート(唯美子にとっても)なのでおいおい行きます。書く前に抱いていた悪役像が結構あやふやだったので、書きながら勝手に進化していったのが面白かったです。

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23:46:14 | 小説 | コメント(0) | page top↑
1-3. c
2018 / 05 / 03 ( Thu )
「ひどい。なんでわらうの」
「ごーめんって。ほら、やってみろよ」
 彼はもう一度両腕を広げた。加えて、目を閉じ、雨に感じ入るようにして顔を天に向ける。
 そうすることに何の意味があるのか。

(やってみればわかるかな)
 とりあえず真似をしてみた。本音では自分も、怖いという気持ちを捨てられたら楽になれるだろうなと思う――
 瞼が下りた瞬間。ぐらりと、上体を支える体幹が傾いだ。パッと目を開け、姿勢を調整する。
 一方のミズチは相変わらず瞑目して雨天を仰いでいた。しかも水を飲むように口を開けている。

 水。喉が渇いていたことを唐突に思い出して、唯美子も彼に倣う。
 舌に弾ける雨粒がくすぐったい。冷たい感触が喉の内を伝い落ちる。寒さと潤いを同時に感じて、身震いした。
 雨は飲めるのだと思い出し、心の中で、あんなに恐ろしかった自然現象がただの水になった。ただの、日常的で身近なものだ。

 ――捨てる。
 余計な思考も感情も、被った布をするりと脱ぎ捨てるように手放せた。恐怖の対象だった雨とひとつになっているのが、妙な気分だ。
 なるほど、とても開放的で、楽しい。
 うっとりした。数十秒経つと、くしゃみの衝動で我に返る。

「はっくしゅん!」
「そろそろ川を見にいくか」
「やだ、かえりたい。かぜ……かぜひいちゃうよ」
「しょうがねーな。じゃあ、つれてってやるよ」
 涙目で訴えてやると、ミズチは渋々承諾した。まるで寒さを感じていないのか、平然とあくびをしている。

「かえりみち……」
「わかるわかる。あと、おいらは夜でも見えるから」
 少年の瞳が黄色い環を描いて光っていた。妖しくて、きれいだ。黒目の部分はやはり縦に細長い。
 唯美子は、思いついたままに喋った。

「ね、おなまえないなら、メナガってどうかな。めがながいってかんじで」
「やだよかっこわりぃ。それ、なんかの虫の名前じゃねーの」
 即刻、提案が跳ね返された。めげずにまた考える。
「じゃあじゃあ、ナガメ」
「それも虫……ふーん。ナガメ、な。悪くないひびきだな。くっさい虫とおなじなのはきになるけど……わかった、ゆみだけ、呼んでいいよ」

 いしし、と少年は口角をいびつにつり上げて笑った。喜んでもらえたのが嬉しくて、唯美子は水を弾けさせながら飛び跳ねた。
 話がついたところでようやく帰路についた。

 奇妙な少年に手を引かれ、勢いの引きつつある雨の下を、二人でトコトコ歩く。道は濡れていて危ない。どうしても、暗闇を急いでかきわけることはできない。
 山は異様に静かだった。動物の音も気配も一切しないのは、みな雨宿りしているからだろうか。

 ――知らないひとについてっちゃだめよ。
 母の警告がどこかから聴こえてきた。それに対し、もう知らないひとじゃないからいいよね、とひそかに自答する。

「きみ、ほんとはなんなの」
 先導する背中に問いかけた。
「そうだな……」彼は振り返らずに答えた。ぽたぽた、との継続的な雨音に覆われて、へたすると聞き逃しそうになる。「二ホンの昔話にあるだろ、ツルのおんがえし的な? そーゆーあれだよ」

「ぜんぜんわかんない」
「まあいいじゃん。今日は、うねうねしてないからさわれるだろ」
「え?」
「おいらの『ギタイ』すげーだろ。ちゃんと、体温までまねしたんだ――」
 暗くて、振り返った横顔はよく見えない。
 薄っすらと浮かび上がる白い歯の隙間に視線が吸い付けられる。右手に絡んだナガメの手の温みを、唯美子は急に強く意識した。

     *

(……違う。初めて会ったのは、あの時じゃない)
 不安定な子供の記憶を、大人の脳の処理能力でさかのぼる。なぜか今は不自然なほどに明瞭に呼び覚ませる。
 彼は確かに擬態と言った。人の姿を、うまく真似ているのだと。ならば、ヒト型ではなかった時のミズチは果たしてどんな姿であったのか。

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