27.d.
2013 / 11 / 15 ( Fri ) 「知らない人間についていくな」
親が子供に言い聞かせるようなありふれた言葉なのに、彼の低い声が呟くと、極めてシビアに聴こえる。 「すみません。でもせっかく親切にして下さった方にそれは失礼です」 ミスリアは負けじと言い返してみた。 「親切な人間にこそ警戒しろ」 そう答えたゲズゥはミスリアではなく隣の青年を見下ろしていた。表情の険しさは増している。 「リーデン」 意外にもゲズゥの様子には敵意でも警戒でもなく、不機嫌、が表れているように見えた。これまでに見たことの無い表情である。 どういうことかと憶測をするよりも、ミスリアは二人のやり取りを大人しく見守ることにした。 「う、うん。久しぶり」 一方で絶世の美青年は唇を噛み締め、笑いを必死に堪えているかのような歪んだ顔になっている。 そしてついに、堪え切れずに爆笑し出した。何事かと周囲の人間がチラチラとこちらを一瞥する。 「あー、ダメ、もう。保護者っぽい君とか、ナニソレ、面白すぎ。あーはっはっはっは」 リーデンは仰け反って膝を叩いた。咳き込みそうな勢いで笑っている。 「…………」 それに対しゲズゥの眉間に更に皴が増える。 (旧知の知り合いだとして、あまり仲が良いとも言えなそうね) 一方は相手をずっと睨んでいて、もう一方は相手を思いっきり笑い飛ばしているのだから。 「ふー、笑った笑った」 十数秒ほど経つとリーデンは笑い過ぎで滲み出た涙を指で拭い――打って変わって、企みを含んだ妖しげな笑顔を浮かべた。そういう顔も、息を呑む程魅力的だった。 「で、何の用? 僕を探してたんでしょ? 途中からゴメンねー。気付いたからにはちょっと遊んであげようかなって、あちこちうろついちゃったよ」 「お前は相変わらずだな」 「いいじゃない、それでも君は追いつけたんだし」 「…………」 話の内容について行けなくなったミスリアは、あることに気が付いた。リーデンのとろける笑顔は、どうやらゲズゥの心を動かすには至らないらしい。「何の用」という質問の答えを、彼はいつまで経っても口にしようとしない。 そんなゲズゥを放って置いて、リーデンはミスリアの方を向いた。 「とりあえずウチ来る? お茶ぐらい出すから。ゆっくり話でもしようか」 「でも……」 ミスリアは未だに不機嫌そうなゲズゥを一瞥した。彼は無言のままだったが、何となく、断って欲しい訳ではない気がした。 (この人を探してたのが本当だとするとやっぱりここは受けるべき……よね) どう返事をしようか一考する。 ふと、象牙色の指がミスリアの白い指に絡まってきた。思いがけない温もりに手が硬直した。温かいよりはぬるいと言えるような体温だが、そんなことは今の状況に関係が無い。 「あ、あの――」 「愛らしい女の子に出逢えたからには、もっと一緒に居たいからね」 狼狽えるミスリアをよそに、リーデンは急に耳打ちする。 それに伴って爽やかな香りが漂った。森だか石鹸だか洗剤だか、よく思い出せない何かの匂いが、鼻腔を満たす。 頭がぼうっとする。 何だか何も考えられない。耳にかかる熱がじわじわと近付いている―― ――唐突に、熱が消えた。 視覚が二つの動きを捉えたけれど、動きが速すぎてそれが何であったのか脳はまだ解釈できていない。 瞬けば、リーデンの長い裾がはためいているのが見えた。 「いきなり蹴りかかるなんてひっどいなぁ。そういう物騒なトコ、何とかなんないの」 「なるか」 「だよねー。今更ねー」 「…………」 「ちょっとした挨拶だってば。怒った? 勘弁してよ、いくら僕でも君の蹴りはそう何度も避けられないからね」 秋風に弄ばれる髪に片手を添えるリーデン。その他愛ない笑みをミスリアはまだぼうっとする頭で見つめ、何処か浮世離れた存在を観賞しているような不思議な気持ちになった。 果たして読者様の何人が、嫉妬イベントに期待していたのでしょうか…w。 げっさんはちなみに嫉妬してるとかじゃなくて「コイツうぜぇ」が主な感想だと思います。 拍手返事: えではじまる…の人 でんでんでででん~ 今作はじめての女たらしではなかろうか |
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