38.d.
2014 / 11 / 22 ( Sat )
 子供はどうしてか好きになれない。よって、なるべく関わり合いになりたくない。
 未だに騒ぎ続ける連中から目を逸らして、リーデンは周囲を見回した。雲の量からして雪は当分続きそうに思えた。兄たちは何事もなく戻って来れるだろうか――などとやんわり心配していた、そんな時。
 件の人物の気配が近付いてくるのを感じた。あまりに意外だったため、思わず通信を送った。

 ――早くない? 思ってたより近場だった?
 三分ほどして、返事があった。

 ――途中で引き返しただけだ。先に町に入る。
 ――うん? じゃあ、支度して待ってるよ。
 事情は会ってから説明してもらえればいいと考え、リーデンは携帯式絨毯から腰を上げた。イマリナもそれに倣う。

 「片付けようね」、『わかった』、の短いやり取りを交わし、己の髪に付着していた雪を落として上着のフードを被り直した。下ろしていた荷物を残らず集めて肩にかけ、眠そうにしていたロバの手綱を取る。その間、イマリナがロバの毛についていた雪を払った。

 それから更に五分もすると、新雪を横切る真っ黒な兄の姿が森の中から現れた。行きの時と違って今度は聖女ミスリアを背負っている。
 合流し、全員は縦一列を組んで坂道を上り出した。

「どうしちゃったの、聖女さん?」
 僅かに振り返りながらリーデンは問いかけた。対象の顔はフードに隠れていて見えないが、大体の察しはついた。

「熱を出した」
「あらら。しょうがないね、急いで宿を探そう」
「……ああ」
 とは決めたものの、宿まで急ごうにもそれまでの道のりに様々な障害物が残っていた。南門までできるだけ足早に進み、そこで人の列の最後尾に並んだ。都に入るには身許調査やら持ち物検査やらを乗り越えなければならないからである。

(天気が天気だからかな、出入りをする人が少なめで助かったよ)
 幸い、自分たちの前には十人も並んでいなかった。
 順番が回ってくると、リーデンは四人を代表して受け答えをした。

 何処から来て何をしに来た、荷の中身は何か、都内に知り合いはいるのか、などの幾つもの質問に淀みなく答えた。衛兵らがロバや荷物を確かめるのにも快諾した。だが、何故かなかなか通してもらえない。
 あらかじめ用意していた、封蝋が施された身分証明書――自分とイマリナのは正規のルートから入手した物ではないが――までをも見せたにも関わらず、衛兵たちの視線は訝しげだった。

 挙句の果てにはミスリアの首回りをまさぐってペンダントを取り出して見せたが、それでも胡乱げな視線は消えない。

「貴方がたの言い分は理解した。が、聖女様ご本人から話を伺いたい」
 背の高い衛兵が一人、鎧をガシャッと鳴らして前に出た。同じく長身のゲズゥを睨み、要求するようにミスリアを指差した。
「聖女さんは今は体調を崩しているから無理ですよー」
 微動だにしないゲズゥに代わってリーデンが答えた。

「随分と都合の良い状況だな」背が低い割には体格が無駄に良い、別の衛兵が兜の面頬(ヴァイザー)を開けた。「言わせてもらおう。貴様らは年端も行かない少女を誘拐し、聖女に仕立てて儲かりたいと企む……ただの不審者にしか見えん。そもそもそのペンダントは本物なのか?」

 衛兵の言い分こそが正論に聴こえたリーデンは、ぽんっと両手を打ち合わせた。

「なるほどー。これは論破できないや。間違いなく本物なのに、どうやって証明すればいいのかすら僕にはわからない。嵌め込まれた水晶が何の水晶なのかもわからないしね。能力で示さないと、それらしく見えるだけじゃダメってことかー」

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