46.f.
2015 / 08 / 02 ( Sun )
 ゲズゥはくるりと王子に背を向けて、こちらを見下ろした。

「怪我」
 この冷静な双眸と視線を絡めると、ミスリアは逆に落ち着かない。そんなに寒いわけでもないのに両手の指を擦りあわせた。
「ありません。檻や崖を登る苦労も王子が負担して下さったので、私は擦り傷すら負ってません。ゲズゥの方こそ大丈夫でしたか?」

「逆さに吊るされてた名残を除けば、大したことない」
 そう答えて彼はこめかみに指関節を押し当てた。よく見ると足首や手首の周りに充血の痕がある。
 というよりも、改めてみると、この不自然なまでの肌の露出。ミスリアも上着や荷物がなくなっているが、ゲズゥに至っては言葉通りに身ぐるみを剥がされている。

 まるで見計らったかのようにぶわっと何かが宙を横切って飛んできた。大きな布を、ゲズゥは片手で受け取る。

「お前には丈が短いだろうが、無いよりマシだ。使え」
「…………」
 ゲズゥは訝しげに眉をひそめた。その手にあるのは、砂色のマントである。ついさっきまでの持ち主であった王子は、黒に近い濃い茶色の髪をかき上げる。

「流石に腰布一枚じゃあ過ごせまい? 悪いが、私物の回収は後にしてもらおう。じきに日が暮れる」
 彼は時刻を気にする発言をし、サッと天を一瞥した。青空はいつしか雲の割合がかなり増えている。
「……不本意ながら、礼を言う。ミスリアに関しても」
 やっとのことで口を開いたゲズゥは、機械的に言葉を連ねた。言い終わる前にも手を動かし、マントを羽織っていた。胸元で紐を結び合わせると、少なくとも上半身は完全に覆われる。

「気にするな。借りとは、返せばいいだけのもの」
 もっと恩着せがましいことを言うのかと思いきや、王子はあっさり流して歩き出した。深く考えずにミスリアたちもその背後についた。
 岩場なのに裸足で大丈夫かな――とミスリアはゲズゥの足の裏の皮膚が気がかりだったが、私物の回収をしている暇は無いという発言の方が重要度が上だと判断し、道すがら問い質すことにした。

「あの、じきに日が暮れるというのは、魔物の出現を危惧してるのですか?」
「魔物じゃなく――『混じり物』の活動時間に、おそらく昼夜の制限は無い。ただ、理由はまだ突き止めていないが、ヤツは夜に活動するのを好むらしい。私がこれまで観察してきた分にはな」
 オルトファキテ王子は大袈裟に肩をすくめてみせた。

「活動していない時間に探りを入れるのが狙いか」
 そこでゲズゥが静かに口を挟む。
「そういうことになる」
 王子は振り返らずに相槌を打った。

(でもオルトファキテ王子なら、探りに行くくらい一人でも向かってそうなものだけど……)
 もしや腕の異常はその結果だったりしたのだろうか。
 毒などではなく魔物か「混じり物」が発した呪いみたいな物だったりして――?



ほぼ裸マントってなんだwwww 気が付けば状況的にこうなったのであって、断じて私やゲズゥの趣味ではありませんよwww

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