46.e.
2015 / 07 / 30 ( Thu )
 それに対して先ず抱いた感情は、畏怖だった。
 ミスリアは内ポケットの水晶を無意識に撫でた。

(すごくハッキリしてる)
 眼窩に戻った呪いの眼があの光の発信源なのは明白だが、以前は微かにしか目視できなかったのが、今度は昼間にも目に見えるほどに濃い。半歩後退ったのは不可抗力だ。
 ゲズゥは崖を登り切ると、鍵束を落として尻餅をついた。息を整えてから、どことなく不機嫌そうにこちらを向いた。

「ミスリア」
 首を斜めに逸らす仕草で、こっちに来い、と伝えている。
 呼ばれたミスリアはたじろいだ。彼の不機嫌の原因に思い当たらなくて、気後れする。
(ううん、きっと大丈夫)
 再会への心配と安心を胸の奥でモヤモヤさせたまま、結局駆け寄ることにした。

「オルト、お前には用が無いが」
 立ち上がったゲズゥは「さっさと消えろ」とでも言いたげな視線を知人に向けた。不機嫌の原因は王子だったようだ。なんとなくミスリアは気が抜けて、ゲズゥの隣に立った。
 どうしてかその位置には言葉に表せない安心感があった。無事で良かった――しみじみそう思う。

「ご挨拶だな。私も久しぶりにお前に会えて嬉しいよ」
 王子は浴びせられた嫌味をものともせずに笑った。そんな彼を、ゲズゥは目を細めて睨んだ。
「見ていたな」
「ほう、何を?」

「リーデンだけが連れ去られた場面だ。何故崖に吊るすのか……連中の狙いも、わかっていただろう」
「ああ、わかっていたぞ。何を隠そう先に同じ目に遭っている。よってお前たちに比べれば遥かに状況を理解していた」

「放っておいてもいずれ解放されていたはずだったのも、か」
 もしかして助けに来てくれたことを責めているのだろうか、とミスリアは意外に思って隣の青年を見上げた。

「解放どころかその眼があれば優遇すらされたかもしれないな。妙な手違いによって、崇められているのはお前ではなく銀髪の方だが」
 王子の思わせぶりな眼差しや仕草からは、呪いの眼の正体や、ゲズゥの左眼から漏れる瘴気が見えているのかどうかまでは読み取れない。或いは彼はあらゆる事情を把握しているのかもしれない。

「だからこそ逃れる必要があった。連中の四六時中の監視の目があっては望むように立ち回れないし、隠し事もされやすい。情報に誤りが生まれては面倒だ」
「……お前は俺らに何をさせる気だ」
 その問いかけで、腑に落ちた。ゲズゥが不機嫌なのは、助けられたことに不信感を持っているのは、目の前の王子が企みを秘めているからだ。

 そこまでわかると、ミスリアも興味津々に返事を待った。

「わかっているくせにいちいち訊くな。私は都市国家郡を連邦とし、他国に抵抗しうる一つの勢力として育て上げるのが目的だ。残る地の一つ、カルロンギィ渓谷は国としての機能が不完全だったため、偵察に来た」

「そうしてお前一人の手には負えない厄介ごとを見つけたと」
「うむ。よって、お前たちの手助けを乞うことに決めた。何だ、姫君を救ってやったというのに礼の一言も無いのか?」

 口の端を歪に吊り上げた笑い方は、見る者の不快感を煽ごうとしている――ミスリアにはそんな気がしてならなかった。



ふと、オルトの発言のノリがちょっと折原○也に似ている気がしてきた…やべえ。嘘だと言ってよママン。


その辺に漂う瘴気と魔物が発する光はほぼ同じものです。ただ魔物に付着しているかしていないかで色が付きます。
同様に、大気中の聖気はあまり色がついてるようには見えませんが(レティカ除く)、器を通して発せられていると金色、魔性の物と混ざると銀色に見えます。

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