9. d.
2026 / 03 / 28 ( Sat )
「うん、でも来週の予報は大雪らしいよ。また積もるかも」
「早いな今年……本格的な冬は年明けからじゃなかったのかよ。あー、暖炉のある家に住んでみてえな」
「いまから見つけられても、間に合うかな。冬に引っ越すの大変じゃない?」

「そん時は業者呼んでサクッと終わらせようぜ。そういう金はケチるもんじゃねえよ」
「そうだよね」
 要するにお金をかけて手間を省こうと言うのである。シェリーもその選択には同意できた。そもそも自分は車を持っていないので、業者に頼むのが一番丸い。

「ね、私たちって結構、価値観が合うと思わない? 生活のテンポも。だからこんなに居心地良いのかな」
「バカ言え。合わせるんだよ、そういうのは。めんどくせえけど意見が一致しなかったら、都度話し合って妥協点をさがす」

「あ、そっか」
 能動的だ、と感じ入る。ほぼ母に従っていればよかっただけのシェリーには、価値観を擦り合わせるというのが、まだ慣れない発想だった。これも「脳の筋肉」というものに連なるのだろう。
 臆してばかりいないで、踏み出すしかない。

「アレクス、来週仕事ある?」
「さすがにクリスマス前後は予定入らねえよ。なに、なんかしたいことあんの」
「したいことって言うか」
 シェリーは苦笑した。
(一緒に過ごしたいだけなんだけど……)
 むず痒くて口にできない。答えあぐねてると、リクターが「あっ」と言ってこちらを見下ろした。

「そういや同僚が美味いタイ・中華料理やってるとこ見つけたって。365日開いてるらしいから、当日はテイクアウトにしようぜ」
「中華好きだし、いいよ」
 そう答えながらも、シェリーはやや拍子抜けする。 自身で素晴らしい晩餐を用意しようと企画していたわけではないが、クリスマスにテイクアウトはなんというか、初めてである。

(そういうのでいいんだ)
 なんとなく彼が祭日にこだわらないタイプな気はしていた。
(家族は――アレクスは疎遠になってるから関係ないか。私は、叔父さん叔母さんのお誘いはもう遠慮しておいたし)
 自分たちはこれでいい。誰に断る必要もない。

(イルミネーションを見に行かなくても、私の暗闇を照らしてくれる導はもうここにある......なんてね)
 親族への義務よりも二人で祝日を過ごすのを想像するほうが、心が躍った。実はこっそりプレゼントも買ってある。ツリーもライトも飾らなくても、二人で決めた過ごし方こそが正解なのである。

「んでクソ映画も観ようぜ」
「それなら私が選んでみたい。ホラーじゃないけどベタなクリスマス映画」
「ダッセェのにしてくれよ」
「任せて」
「おう、楽しみにしてる」



 並んで歩きながら――今日の幸福と、来週、そしてその先に続くであろう時間に想いを馳せた。ふたりでテイクアウトを平らげて、後片付けを後回しにして。ブランケットに包まって、もし映画がつまらなかったらそこで寝ちゃったりして。プレゼントを渡すタイミングは食事時でいいだろうか。どんな顔をしてくれるだろうか。

 いつかまた別れが来たとしても、今度はずっと思い出が心の支えとなってくれるように。そっと、胸の内に願う。
 それから来年は暖炉の前で、もしかしたら新しいソファで、身を寄せ合ってやはりダサい映画を鑑賞している様子を夢想する。
 どれも、とてもとても幸せな光景だった。

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