53.d.
2016 / 02 / 19 ( Fri )
 彼ららしくも無く、素人目にも明らかなほど、無駄の多い動きで立ち回り始めたのである。
 リーデンは掴んだ若者の手を放し、優雅に宙返りをした。近くの敵に向けて中段・上段・下段・中段、と素早い蹴り技を連続で出してから、また舞うように距離を取った。

 一方ゲズゥは助走で勢いをつけて跳び蹴り、次に側転、回し蹴り、踵落とし、と大振りな動きに徹底した。真上の木の枝を掴んで振り子の勢いを交じえた攻撃も加え、木の葉をぱらぱらと視界に撒き散らす。果てには鞘を外さずに大剣を振り回し始めたのである。
 対する襲撃者四人は最低限の動きをもって兄弟の攻撃を避けたりいなしたりしている。

 どういうつもりなのか、まるでゲズゥたちは攻撃を当てる気が無いようだった。
 仕上げにリーデンは路上パフォーマンスを終えた芸人が如く、袖を翻して一礼した。
 疎らな拍手が耳に届く。

 ハッとなって周りを見回すと、中庭の他の人々がこちらに注目してた。図書館内の利用者も窓辺によって庭の様子を気にしている。
 そこでようやっと、襲撃者たちは肩から力を抜いた。四人はそれぞれフードを下ろし、観衆に手を振ったりする。

「お代は結構。ただの予行演習だよ。騒がせたなら、ゴメンね?」
 リーデンがウィンクをしてベンチに戻った。観客の興味の視線はそうして払われたが、四人の若者は立ち去らない。

 ミスリアは手持ちの資料を折り畳んで懐に仕舞い、姿勢を正した。背後ではゲズゥがベンチの真後ろに立った気配がある。
 四人の若者がゆっくりと歩み寄ってきた。少年が二人、少女が一人、そして最後の一人は他よりも年上の青年に見える。
(先制攻撃による不意打ちが完全に潰された今なら、強気に出られる)
 気を取り直して、ミスリアは改めて彼らを見やった。

「弁明や、ご用件があるなら聞きましょう」
 険を含んだ口調で声をかけると、四人が顔を見合わせた。年長者の青年が何と答えようか吟味する素振りを見せる。
 なかなか、返答がない。
「君たちの狙いは僕を殺して死体ごと持ち去ることだったのかなー」
 背もたれにリーデンが悠然と肘を乗せて、長い脚を組み替える。

(殺す?)
 ミスリアはぎゅっと眉根を寄せた。真実であれば聞き捨てならない。
 青年は長い茶髪を揺らして頷いた。

「そうです。やってくれましたね。あなたがたは派手に人目を集めて己の存在を印象付けた。こうなっては、我々があなたがたの中の一人を誰にも気付かれずに消し、立ち去るのは困難でしょう」
 確かに今ならこの樹の下から一人減ったとして、周囲の誰かが気付くかもしれない。

「倒すよりは、穏便に『お話し』したかったからねー」
 と、何気なく笑うリーデン。
「お前、ちょっと顔がいいからって調子に乗んな。ウゼエ」
 紅一点の少女が噛み付きそうな表情で唸る。最初に通行人を装って接触してきたのが、彼女だろう。旅装のような動きやすそうな麻ズボンを穿き、黒い外套を羽織っている。

(私だったらウザいなんて言われたらすごく落ち込むのに)
 言われた当人は、ふふふふふ、と鼻で笑っている。
「 ウザい、か。その言葉そっくりお返しするよー? 某組織のお若い組員さんたち」
「――――な」
 彼らが怯んだ。同様にミスリアも驚いた。反応からして図星なはずだ。しかし一行の服装はばらばらで、以前出会った二人組のような濃いパイングリーン色のマントを身に着けていない。

「どうしてそれを」
「ツメが甘いね。本気で正体隠して近付きたかったなら、ソレも隠さないと」
 青年の問いに応じ、小麦色の長い指が隣の少女の首元を指した。鎖骨辺りに刻まれた刺青が外套の下からのぞいている――両刃斧の真上に禍々しく見開かれた目。斧は少ししかその輪郭を確認できないけれど、間違いない。

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