37.a.
2014 / 10 / 03 ( Fri )
 旧き信仰とは、ラニヴィア・ハイス=マギンが「ヴィールヴ=ハイス教団」を立ち上げ、大陸中に聖獣信仰を浸透させる以前から存在していた宗派を指す。今でも各地にその残滓を残すも、総数は知れていない。

 いわゆる神格階級(ヒエラルキー)の中では神々が総じて「主」であり聖獣がその「御使い」に該当する。
 神々が既に地上を去ったと認識されている以上、神々そのものではなく御使いの方を崇めるべきだと人々の見方が変わったのだ。旧き神を信仰してもその加護を受けられるのか疑わしい、が現在の教団と大多数の民の考えである。

 だが加護を受けられなくてもいいから旧き神に倣って生きたいと願う者は今も居る。
 特にそれが顕著なのは対犯罪組織「ジュリノイ」だと言えよう。
 彼らの主神たるジュリノク=ゾーラは裁きを象徴し、罪を犯す者には同等以上の罰を与えるべきと説いた――

(――はずよね、確か。座学の内容なんてあまり覚えてないけど)
 聖女ミスリア・ノイラートはまだ急展開に頭がついていけず、思考の脱線は現実逃避でもあった。

 現在地はディーナジャーヤ帝国領土内、ヴィールヴ=ハイス教団が保護する二十九の聖地が一つ、クシェイヌ古城の屋上。
 そこで出会った、目が不自由な男性に頼まれて別棟に向かっていたはずが、彼とその連れは実はミスリアたちを捉えに来たと言う。そして戦闘が勃発し今に至る。

「一体何事ですの!?」
 連絡通路での騒ぎに気付いた尼僧が早足に近付く。彼女の背後では、観光客たちが恐怖やら興味やら様々な反応を示している。
「説明は後でします! 念の為、皆さんを避難させて下さい!」
 ミスリアは振り向きざまに叫んだ。それから水晶の嵌め込まれたアミュレットを取り出して身分を明かした。

「わ、わかりまし……こ、の場はお任せしてよろしいかしら、聖女さま」
 尼僧は少したじろぎ、どもりながらも承った。
「はい」
 事態がどう収まるのか正直イメージが沸かないけれど、とりあえず是と答えた。そして戦闘の方に注意を戻す。

 ユシュハという女性が濃いパイングリーン色のマントを翻し、腰に提げていた武器を後ろ手に掴み上げているのが見えた。クロスボゥは右の前腕に装着したままだが、折り畳んで仕舞っている。

 彼女の攻撃はリーデンの動きを制限できなかったようだ。銀髪の美青年は矢を巧みに避け、ユシュハに接近していた。いつの間にか柱を駆け登り、屋根に跳び上がっている。
 リーデンは屋根に飛び乗ったのと同時に右手を光らせていた。

 ――ギャン!
 飛んできた円形の刃物を、ユシュハが手元の武器を回して防ぐ。

(何!? あの棒)
 思わず戦慄した。ミスリアには見覚えの無い凶器だ――両手で構えた長い棍棒の先から二本の鎖が伸び、その鎖の先にはそれぞれ黒い球が付いている。スパイクを生やした、恐ろしき鉄の塊だ。

「女の人がフレイル、しかも双頭のモーニングスターを振り回すなんてね! 物騒なお姉さんだよ」
 リーデンが冷めた笑いを響かせる。
 その一言に、ゲズゥが反応した。ちょうど彼がフォルトへの三日月刀を弾き、横に跳んで距離を取った瞬間だった。

「双頭のモーニングスター…………ああ、そうか」
「思い出すの遅いですねぇ。貴方はもうちょっと先輩を恨んでても良いと思いますけど~」
 フォルトへが軽い調子で口を挟む。

(どういう因縁なの……恨みって)
 ミスリアには見守る以外にどうすればいいのかわからなかった。

「俺を二度も牢に放り込んだ奴か」
 とゲズゥが無機質に言うと、屋根の上の女性は肉付きの良い胸を張った。ここからだと表情までは見えない。

「――そうだ。それだけじゃない、貴様のふくらはぎの肉を細かく抉るぐらいはした」






はじまっちゃいました。「ミスリア」は可愛くない女ばっかり出る…何故……。
だ、大丈夫、ツェレネ(故)&マリちゃんがいる!! <主人公は別枠

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