48.g.
2015 / 10 / 04 ( Sun )
(まだそうと決まったわけじゃない。もしかしたら隣接してて気付いてないのかも)
 これまでに巡礼してきた聖地では、傍で人が普通に生活をしていた。聖気を扱う訓練をしていない者がそこに何も感じないのは頷ける話だ。あの空気感を感じ取れるか取れないかは慣れから来るもの、ミスリアも回を重ねるごとに感度が上がっている手応えはあった。

 けれども彼らは人ではなく、闇に闊歩する異形ではないか。

(真逆の性質を感じ取るはずだわ。好きでその位置を選んだってこと?)
 聖地から漏れる気配に強弱があるらしいことに、巡礼している内にミスリアは気付いていた。或いは彼らにとっては気にしなくて済む程度の濃度なのかもしれない。

 それとも、当て付けのつもりでそこに陣取ったとでも――
 すぐ近くからあからさまな舌打ちが聴こえてきたため、思考は中断された。

「急に何だ?」
 王子が舌打ちの発生源であるゲズゥに訊ねた。
「リーデンの意識が遠ざかった。連中に何かされたのだろう」
「想定の範囲内ではあるか……どちらにせよ、わざわざチヤホヤしてやったくらいだ、生かして使いたいのだろう。と言っても急いだ方がいいな。私も無駄口はやめるとしよう」

 宣言通り、王子はその時点から黙り、つられてミスリアも口を噤んだ。
 月が照らす夜の河辺をひたすらに押し進む。
 河と風の流れる音を除いて、周囲は気味が悪いほどに静かだった。

_______

 眠りについた記憶は無いのに、途端に目が覚めたような気がした。両手両膝を地面に付いた姿勢だ。

(あ、酔いが醒めた感じの方がよく似てるかも)
 試しに掌の中に息を吐いてみたが、酒の匂いはしなかった。リーデンはゆっくりと瞬きを繰り返した。暗い。松明に照らされたを探して目を彷徨わせるも、成果は芳しくなかった。

(気配……前方に一人と一ナニカ、背後に複数人)
 半ば癖で兄の存在をも検索した。近くに居るらしいのはわかるが、別の空間なのか、多くの障害物に遮られているようだ。少なくとも目と耳の届く範囲で捉えることはできない。
 耳と言えば――何やら馬鹿げた叫び声が聴こえてくる。

「解放主! 憎き怪物を退治してください!」
「彼女がやられてしまいます! お早く!」
 実につまらない叫びが続いているな、と思ったが、やられそうになっている女が気になったので顔を上げた。

「そういえば攫われた女の子たちがその後どうなるのか、聞かせてもらえなかったな」
 これは直に答えを見つけるチャンスだ。そう思ったのと時を同じくして、背後から松明が放物線上に投げられる。フォン、と炎が空を切る音がした。

 刹那の間、巨大で気色悪い異形が照らされる。そしてソレの足元で蹲る女性の姿を見つけて、一気にリーデンの血液が頭部に集中した。

「あんのクソ女(アマ)、今度会ったら頭髪を十本ずつ引っこ抜いてやる」
 ――なんて悪辣な策だ。思った以上の女狐だったか、いっそ称賛を送ってやりたいくらいだが、それはとっ捕まえて拷問にかけながらにしよう。
 全てはこの局面を切り抜けられたらの話だ。

「マリちゃん、立って! 考えるな!」
 ――逃げなさい――
 最も彼女と馴染み深い言語で怒鳴りつけた。
 主人の命令を受けて、イマリナは一瞬だけ凍り付いた後、行動に移した。

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