28.g.
2014 / 01 / 06 ( Mon ) レイがレティカの前に立ってロングソードを構えた。その横をエンリオが走り抜ける。走りながら彼はレインコートを脱ぎ捨てている。 「お任せ下さいレティカ様!」コートの下からナイフベルトが現れた。腰や脚や腕にまで、びっしりとナイフが収納されている。 まるで呼び寄せられたかのように、タイミングよく上空に影が三つ浮かんだ。カイト(凧揚げの凧のこと)みたいにひし形から線が伸びている。三つの影はそれぞれ回転しながら急降下してきた。 「アレって魚の一種じゃないですか? 魚のくせに空飛ぶなんて生意気な!」 変な文句を言いつつもエンリオはナイフを三本放っていた。どれも見事に的中し、魔物たちはけたたましく叫びながら地に落ちる。 (そうだわ。図鑑で見た海の――エイという動物に似ている) それを思い出した所で何の役にも立たないだろうけれど。 次いで、上流の河辺から何かが複数現れ転がり落ちるのが見えた。よく見えない、何だろう、と思っていたらエンリオが素早く後退った。 「ぎゃああああ! 人面団子虫ぃいいいいっ」 転がって来る何かの姿が彼にはそう見えるらしい。人面が外殻に現れているせいか、魔物たちの転がりようは不自然にぼこぼことしていて一直線ではない。 「うるさいぞ、エンリオ。夜中に叫ぶな」 やっとレイが喋ったかと思えば、第一声がこれだった。 「叫ばずにいられますか! 気持ち悪すぎですよ! だーもうっ、こっち来るなあああ」 「前衛のくせに気の小さい男め」 「どうせボクはビビりですよ! でも気持ち悪いのは関係ないですっ」 小柄な護衛は口数が多かったけれど、それと同じくらい手数も多かった。叫んだり悶えながらも的確にナイフを放ち、敵の進攻を止めている。そして隙を見て投げたナイフを回収するのも怠らない。 「注視せずにさっさと倒せばいいだろ」 そう言うレイは近くまで転がって来た一体を斬っていた。 「むり! 目が良くてすいませんね」 「二人とも、喧嘩していないで集中しなさいな」 前に出たレティカが静かにたしなめる。彼女は動きを止めた魔物を次々と浄化して回った。 「はい。すみません」 「レティカ様がそう言うならわかりましたよ……」 慣れた様子で動き回る三人を、始終ミスリアは口を開けて眺めていた。 (すごい……) 多分自分も参加すべきだろうと思いながらも、見とれて動けない。 そういえば、ゲズゥがこの時点でまだ戦闘に参加していないのが意外だ。そう思って見上げると、彼は大剣を構えて突然体をくるりと前後に反転させた。 「一応、後ろを引き受ける」 「え」 ミスリアも後ろを向き直った。大小さまざまな空飛ぶエイの群れが向かってきている。数は軽く三十を超えていた。 戦慄せずにはいられない数だ。 (聖女を二人も一箇所に集めると、それまで遠くに居た魔物も一気に引き寄せられるのかしら) 人数が多ければ心強い反面、そういった問題も浮かび上がる。が、わざわざ獲物を探しに行かなくていい点では、楽なのかもしれない。それで倒しきれないほどの大群が来たのなら本末転倒だろうけれど。 それにしたって、異常な数である。 「だ、大丈夫そうですか?」 「さあな。こういうのは、リーデンの方が得意だな」 「それは……残念ですね」 魔物退治に出かけると伝えた時、リーデンも一緒に行きたそうだった。ただ、今夜も何かしら用事が忙しくて都合が合わず、だから明日なら一緒に行けると彼は言った。 「試しに呼んでみるか」 「呼んでみる、って?」 ゲズゥは既に臨戦態勢に入っていて、答えなかった。跳び上がり、近付いてくる敵を順に斬り伏せている。レティカに倣って、ミスリアは落ちた敵を浄化していった。 (もっと効率的なやり方が無いかしら……カイルは何て言ってたの) 咄嗟に思い出せないのが悔しい。 エンリオっていい名前だと思うんだけどなぁ……どうも「サンリオ」と「エンリケ」を混ぜたみたいな感じがするのは何故だろう。 レイは本当はレイチェスって名前です。本人が面倒なのではしょってレイって名乗ってます。 |
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