50.d.
2015 / 11 / 10 ( Tue )
(あー、きっつ。敗因は体力差かな。ていうかいっそ手足の数)
 強気な思考が保てなくなるほど、リーデンはボロボロにやられていた。
 悔しいが勝敗を決するのは本当に手足――ほぼ触手――の数となりそうだ。

 リーデンは奇襲や暗殺の技術を磨いてきたのであって、正面から強大な的を打ち負かすには向いていない。瞬発力を受け継いではいるが、純粋な力よりも制御と正確さが売りだ。
 つまりヤン・ナヴィのような相手では大振りな攻撃は諦めて、細かい攻撃を重ねて少しずつ削る作戦を用いることとなる。

 残念ながらそれが果たせるよりも先に、自身が力尽きてしまいそうだが。
 里の連中と合わせても、なかなかうまく行かない。ナヴィの本体の動きはそれほど速くなくても、触手や両腕が防御と攻撃を兼ねているのだ。完全に数の勝利である。
 ゲズゥであれば、大剣で一刀両断できただろうか。或いは、百足の腕に阻まれて失敗に終わっただろうか。考えたところで、無意味だ。その助けは期待できない。何故なら兄は今別件で立て込んでいるのだから。

「しかも、まさか毒矢を飛ばしてくるとはね。そうなると君が里の毒に耐性があるのは、超越者になれたからじゃなくて、訓練の賜物だったりするのかな」
 せめてもの抵抗と思って、ぼやいた。
 そう、ナヴィは持ち前の肉体だけでなく武器を使用して来たのだ。手数が多すぎて捌き切れず、リーデンは下腹部に三本食らってしまった。
 完全に動けなくなるまでのカウントダウンは既に始まっているどころか、終わりが近い。

『元々使っていた武器だしな。知れた敵への当然の対策を取ったまでだ。流石に、余所者への対策は立てようがなかったが』
「気にすることないんじゃない? 君は十分うまくやってるよ」
 確かに、彼がまだ人であった頃に毒の吹き矢の扱いに長けていたと言うのは頷ける話だ。むしろそれを予測しなかった己の方が間抜けであろう。

『ふん。敵に賞賛を送るとは、余裕だな。やはり嫌な奴だ。もっと血反吐を吐くといい』
「誤解ダヨー。余裕なんてナイヨー、今にも死にそうなんだって」
 と訴えてみたものの、まるで説得力がなかったようだ。
 ヤン・ナヴィは触手をしならせた。それに鞭打たれて、一瞬意識が飛びかけた。意識だけでなく、身体も飛んだ。

 いつの間にか地に落ちていて、しかも瓦礫に埋もれかけていた。
 まだチカチカと星が散っている視界の端でイマリナが泣いている。駆け寄ってくるように見えた――

「来るな!」
 一喝して制した。イマリナはびくっとその場に硬直した。
 運命を共にする必要はない。彼女だけでも、生き延びればいいと思った。

(そもそもなんで、僕はこんなところでこんなことをしてるんだっけ)
 大型猫の頭部が近い。吐息の熱が、涎が、かなり不快である。
(ああ、そうか。苦しんでる人を助けないと、あの子の気が済まないからだ)
 喉を噛み切られる――ふと直感した。
 リーデン・ユラス・クレインカティは忍び寄る死の気配には構わずに、ひとりごちる。

「ねえ聖女さん。コイツと対峙したら君は、かわいそうだと思って救いたがるのかな。それとも心を鬼にして、何が何でも倒すべきだと声高に叫ぶかな。今死んだら、君の葛藤を見れなくなるのが一番の心残りだ」

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