47.h.
2015 / 08 / 28 ( Fri ) 普通に言い放たれた過激な内容に、一歩退いた。 (なぶり殺す? 逃げた一人って、王子のこと……?) 視界が歪んだ気がした。目に見えるものを信じてはいけない、そんな心境だ。 しかし相手は待ったなしで仕掛けてくる。 二人が岩を飛び降りるのが見えた。片方が空中で回転し、ミスリアたちの背後に回った。もう一人が体勢を調整して落ちる速度を加速させた。 (――!) 伏せろの一言もなしに、ふいに背中を押しつけられた。 こんな時は素直に身を委ねていい。経験上、ミスリアはそれを知っていたため、抵抗せずにしゃがんで地面に手をついた。背中に触れた手は離れなかった。 「ふぎゃっ」 衝撃音と、少年の呻き声の方を振り向く。 ミスリアの背につけた手を支えに、ゲズゥが半月を描いた蹴りを決めたのである。その流れを生かして、逆側に滑空していたもう一人をも蹴飛ばした。 「いってえな、なにすんだよっ! デカブツ!」 「ジェルーチ……きをつけて……そいつ、つよい……かも」 二人は各々距離を取って体勢を立て直した。 「大体さあ、オイラたちの可愛いペット君をよくも消しやがったな!」 少年がびしっとゲズゥに人差し指を指した。 「ペットってもしかしてあの大型魔物のことですか?」 つい口を挟まずにいられなくなり、ミスリアは質問した。 「そだよ! 珍しいモグラと珍しいアルマジロのコラボが面白かったのに」 ジェルーチと呼ばれた方の少年が地団駄を踏んだ。相変わらず暗くてよく見えないが、輪郭だけでは見分けがつかない。話し方が頼りだ。 「そうだ、さっきの……ひかり……なにしたの」 ジェルーゾと呼ばれていた方がボソボソと不満そうに言ったので、ミスリアはあることに気が付いた。 (この子たちは聖人聖女に会ったことがないのね。魔物が浄化されるのを、初めて見た?) ならば聖気と瘴気、その因果関係に関しても無知かもしれない。悟らせないようにすれば、後々有利に働くかもしれない。 (それにしても魔物をペットと呼ぶなんて。彼らの倫理観は危険だわ) 他にも山ほど危険な点はあるが、敢えてそこに意識を集中させた。好奇心旺盛であれば、そこに付け入る隙があったりして――? 「お、教えて欲しかったら、周りの魔物たちを引かせなさい」 ミスリアは強気に出てみた。 「えー、つまんないからやだ。ルゾ、こいつお持ち帰りしてからゆっくりきこーぜ」 「わかった……」 何気ない一言の後に。 己の正気を疑う出来事が始まった。 (な、に。何が起きてるの!?) ジェルーゾから瘴気が濃く立ち昇った。壮絶な悪臭に、空吐きしそうになる。 そして人の形がドロドロと溶け始め――別の形を成し始めた。 |
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