47.d.
2015 / 08 / 24 ( Mon )
「すみません、自分じゃ見えませんよね。首の後ろから背中にかけて、赤紫色の痣が広がってます。王子の腕を侵していた…………毒、と同じに」
「そうか」
 ミスリアが「毒」と繋げるまでに不自然な間があったが、口は出さないでおいた。

「それにしても本当に禍々しいですね。痛みはありませんか? 王子の腕は、動かせなくなっていましたけど」
「痛みは無い。麻痺しているのか、むしろ何も感じない」
 時間差で効果が出る種類の毒なのかもしれない。もう少し気付くのが遅かったら、肩や腰にまで影響を及ぼして、立てなくなっていただろうか。
 思考を巡らせている間にも、背後から聖気の気配を感じた。

「王子の腕の件、何のことかわかりますか? えっと……『みて』たんですよね」
「視覚的記録はある」
「それはつまりどういうことで……やっぱりあの目玉は……」
 少女が遠慮がちに問う。無理もない。何をどうやって訊けばいいのか、明確なイメージが持てないのだろう。小さく息を吐いて、ゲズゥは答えを告げた。

「左眼が独立した状態で経験する大体の記憶は、曖昧にだが伝わってくる。本体に戻れば、まるで自らが経験したことのように――取り込まれる」
 意外にも、話し始めるまではちゃんとわかりやすく説明できるつもりでいたのに、言っている内に自分でもわけがわからなくなっていた。これでは魔物ばかりをデタラメな存在と言えない。

「ほ、ほんたい? ですか。どうして身体の一部なのに、自立した活動ができるのでしょうか」
 その質問はもっともであった。生き物の部位が勝手に身体を離れて動けるなど、有史以来、なかなか事例の無い現象だろう。
 ゲズゥは遠い昔に聴いた父親の話を回想し、語った。今となっては正確な台詞の再現とは言えず、自分なりの解釈の割合の方が大きい。

 ――我々のこの「呪いの眼」と呼ばれている代物は身体の一部であり、だがしかし全く別の存在だ。二十年もすれば自我が育ち、本体を離れても元に戻ることが可能になる。主(あるじ)と簡単な意思疎通ができる共存意識を持った寄生虫、とでも思えばいい。

「意思疎通……!? 眼球と!?」
「別に会話ができるわけじゃない。単純な命令・信号のやり取りだ」
「他の身体の部位を操るのに比べて、もう一段階の遅れがある感じなんでしょうか。離れても動かせるのは便利そうな気がしますけど……自己の中に別個の意思が混じっているのって、なんだか怖いですね」

「それほど気にならない。多分、コレは意識さえしなければ、『自己』として認識されるものだ」
「ややこしい、ですね」
 背後からの声が心なしか弱々しくなっている。なんとなく振り返ると、少女は眠そうに目を擦っていた。
「おわり、ました――あざ、なんとか消えましたよ……」

 とん。前のめりに倒れたミスリアの額が、背中に当たった。まだ濡れたままの栗色の髪の生温い感触は心地良いとは言えないが、かといってゲズゥは振り払ったりしない。
 もたれかかってきた重みを、反射的に支えようとして背筋に力を入れた。

「眠いなら、寝ればいい。休める時に休むべきだ」
 そういえばミスリアが今日聖気を使ったのは既に三度目なのだと気付き、精神や身体に結構な負担がかかったのではないかと危惧する。



大変お待たせいたしました_OTL

これまで何をしていたのかっていうと全くの初心者にかぎ針編み教えたり、翻訳頼まれてたり、通信教育の宿題してたり(真面目にタヒぬかと思った)、普通に仕事してたり、ジムでマッチョ目指してたり、コミコ読んでたりしてました(おい)。

そのぶん今週は睡眠時間削ってでも超絶執筆週間にしますので、応援のほどよろしくお願いしますッ! 切実に!

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