11.d.
2012 / 04 / 06 ( Fri )
 さっそく教会の中へ戻っても、手がかりを探すべき場所がすぐには思い当たらなかった。
 もともと居住空間が少なく、私物が置かれるようなスペースは寝室のみにある。探っても、これといって変わりはなかった。
 
 そもそも、何を探せばいいのかすらイメージが掴めない。書置き? 何かの地図? 手がかりがあるという仮定からして外れているかもしれない。
 廊下をうろつきながらミスリアは思考を巡らせた。
 
 どんな些細なことでもいい。違和感を感じたような場面が、何か無かったか。わかっているのは、ラサヴァで病が流行りだしたこと以外に、魔物が頻出していること。それ以上の詳細は聞かされていない。
 
(……それよりも、カイル自身の言葉に何か変なところは無かったかしら)
 彼は出かけた朝、普通に朝食を摂って身なりを整えてから教会を後にした。急いでいた様子もなく、普段通りに落ち着いている風だった。
 その前の日は、典礼があった紫期日。一日のほとんどの間ずっと会っていて、色んな話をした。たとえばゲズゥの罪過や、最初の巡礼地について。
 
(あれ?)
 唐突に足を止めて、書斎の方を意識した。
「本のことで何か言っていたような……」
 ひとりごちて、ミスリアが書斎に入る。
 すぐに、古い本特有の匂いが鼻についた。
 
 カーテンに覆われた窓から暖かい日差しが漏れている。本棚にびっしりと詰められた人類が蓄積した知識の一端を、ミスリアは一歩下がって両目に収めた。
 窓の下に位置する机の、右隣の本棚の一番下の段に、「現代思想」を見つけた。カイルが強く勧めたシリーズである。
 
 確かに、最終巻らしい本があった。ほかの巻と比べて一回り分厚い。ミスリアはしゃがんで、それを手に取った。適当にパラパラとページを捲る。これには新しい本特有の匂いがある。
 ふとまた本棚を見やったら、隣の巻に書かれた「4」が目に入った。
 妙である。ミスリアは手に持っている本を裏返し、背の「6」の数字を認めた。ならば、隣の本は五巻であるべきだ。なのに何度見ても本棚には一から四巻までしかない。
 
『教会の書斎に全六巻揃ってるから暇を見つけて目を通してみるといいよ』
 
 彼はそう言った。ならば足りない一冊に何か意味がありそうだ。
 ミスリアは部屋の入り口を見上げた。例によって静かに出現していたゲズゥに、驚かないふりをした。
 
「五巻を探すのを手伝ってください。これと同じフォレストグリーン色のカバーです」
 立ち上がり、本を指しながら頼んだ。字が読めないというゲズゥでも、数字ぐらいはわかるだろう。彼は無言で応じた。
 
(目線の高い人ってこういう時すごく助かるわ……)
 彼が本棚の上まで見回っている様を眺めて、しみじみとそんなことを思った。
 十分余り、二人は書斎の中をくまなく探した。書斎に本が無いとなると、他にどこにあるというのか。
 
(読みかけて手元に置いたとか?)
 寝室と台所と聖堂はさっき余すところなく見てきたばかりで、どこにも「現代思想」の五巻の姿は無かった。
 
「あ!」
 思い出して、ミスリアは大きく声を上げた。その音に、ゲズゥが怪訝そうに振り返る。
「そういえばカイルは、寝る前に読書をする習慣があったんですよ。消灯時間になると読みかけの本をナイトテーブルの引き出しに入れていたんです。大体そこは祈祷書を収める場所なんですが」
 
 ミスリアたちがこの教会で寝泊りし始めてからは、そんな場面を見ていないのでもうしていないかもしれない。教団に居た頃は、早く就寝したがった同室の他の修道士たちに迷惑がられていたと、本人から聞いたことがある。
 
 寝室には、三台の二段ベッドにそれぞれ挟まれて二台のナイトテーブルがあった。ミスリアは引き出しの中から目当ての本を取り出した。
 紙束がはみ出ている。 
 
 四つ折に折られていた紙束を開くと、一番上にあった紙に見覚えがあるような気がした。
 これは、典礼の朝にカイルが隠したものと似ている。一行の長さや空白が箇条書きのように空いているのが一緒だ。ざっと目を通すと、時系列みたいな、何かの記録のようだった。
 
「何だ?」
 ミスリアの肩越しに見ていたゲズゥが、短く訊ねた。
「……よくわかりません」
 
 次の一枚を見ると、表だった。日付、場所、人の名前、などの項目がある。「食べた物」と「症状」という項目に目が行った。

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