42.c.
2015 / 04 / 04 ( Sat )
「無駄よ。あたしはアイツに盲目的に従ってたんじゃない、自分の行動に自覚はあったわ。どんな報いも受ける。でも、口を割るのだけは絶対にできない」
「それでは……ティナさんの帰りを待つ子供たちはどうするつもりですか。報いが大きすぎたら」

 極刑を科された場合を思って、ミスリアは抗議した。この国の法律はよく知らないし、大臣さまの出方も予測できない。友達に死刑か長期に渡る懲役が科されるのかと思うと、いたたまれなくなる。
 当のティナは押し黙った。

「とりあえず今一度事態の整理が必要ですね。この件は任せていただけませんか」
 カイルの笑顔にはしなやかな威圧感があった。彼はその勢いのままに「しかし」や「旦那様が」とまだ反論したがる衛兵隊長を説き伏せた。

_______

 次の日、監視と言う名目の下にミスリアたちはティナの買出しに付き添っていた。昨夜以降、彼女は大人しくなりこれといって反抗の意思を見せていない。
 人通りの忙しない街道を歩きながらもティナは時々チラチラと後ろを小さく振り返る。先頭としては後ろの全員がついて来ているのか、様々な意味で気がかりなのだろう。

 よく観察して見ると、ティナの視線がリーデンのまだ痣が完治していない目元に集中していることに気付いた。
 リーデンも気付いて視線を返した。そこでようやく「ねえ」とティナは口を開く。

「顔を蹴ったこと、怒ってたりするの」
「うーん。爽快なハイキックだったなー、とは思ってるよ。久々にむっちゃ痛かった」
 リーデンは形の良い眉を捻りつつ答えた。

「ご、ごめ……」
 その一言がとても言い難いことのようにティナは躊躇していた。
「別に謝らなくていいよー? 僕も兄さんも謝らないし」
「でも」
 ティナがこちらを一瞥し、切り傷のあった手に触れた。

(もしかして、自分の怪我は治してもらったのにリーデンさんのが治ってないのを気にしてるのかしら)
 だとしたら要らぬ気遣いである。リーデンが聖気による治癒を自ら断ったのだから。

「ウェストラゾ……ウェス……アスト……?」
 背後を歩く青年の一人がブツブツと呟き出したので、ミスリアは彼を振り返った。
「どうしました? カイル」
「そちらの方と似た語感の名前を最近聞いた気がしてね。なんだったかな。アストラ……『アストラス』?」

 ティナの指先がぴくりと身じろぎしたのが目に入った。

「そうだ、それだ。ティナさん、レイラ・アストラスという名前に何か縁があったりしない?」
「……今はしたくない話だわ」
「ティナちゃんて秘密多いんだねえ」
 茶化すようにリーデンが言う。
「よりによってアンタみたいな胡散臭い奴には言われたくない。女に秘密はつき物よ」
「僕と歳あんま変わんないでしょ? 女に秘密だなんて、そんな熟女みたいな物言いでいいの」
「誰が熟女よ!」

 二人の言い合いが白熱するに連れ、ミスリアはなんとなく後ろに下がってゲズゥとカイルの間に並んだ。

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