06.e.
2012 / 01 / 23 ( Mon )
 物置部屋の壁際のチェストに保管されてるだけあって、どの武器も大分前に手入れされて久しいようだった。種類こそ多く揃っているが、錆びれて使い物にならなそうなのばかりだ。教会が建ってまだ半年だというのだから、最初からこの状態で持ってこられたと考えるのが妥当か。

 それにしても鎖鎌からメイスやモーニングスターなど、教会にしては物騒な武器まである。まともな状態に戻せれば魔物相手に十分健闘できるだろう。

 魔物は他のどんな生き物とも違って、決まった急所が無いのが特徴だ。個体差あれど四肢を裂かれても動き続けることは可能だし、時間を置かずに元通りに再構築されることだってある。ゆえに徹底的に無力化する必要がある。
 人間の敵は比較的脆く、両の手だけでも退けられる。魔物との戦闘を思慮に入れて武器を選ぶ方が賢明だ。しばらく、チェストの中を漁るのに没頭した。

 リーチの長い武器が好ましい。投げるタイプの槍を手にとったが、やめた。チェストの底の長剣が目に入ったからだ。柄を掴み、引き上げた。鉄と鉄がこすれあう音がする。
 ゲズゥの両腕を広げた幅と同じくらいの長さの剣は、決して鋭利な刃を持っていないが、研げば使えそうだ。裏を返したり、刀身に触れたりした。

 ふと近づく足音に、ゲズゥは振り返った。

「あの、カイルの叔父様がお茶を出すそうです」
 聖女は今朝と同じ水色の質素なワンピースのまま、髪を首元の右側に結んでまとめている。出会ってから今まで見た中で一番、目が穏やかだった。

「わかった」
 通常ならばめんどくさいと感じて無視を決め込むところだが、叔父という男が引っかかるので、行くことにした。

 ダイニングルームに、ハーブの香りのようなものが漂っている。ティーポットとカップは白地に多少の模様が入ったような一式だ。
 テーブルに向かっているのは叔父ひとり。聖女がその隣の椅子に腰掛けた。面倒と思いながらも、ゲズゥがその隣の椅子に座った。偶然にも叔父と向かう形になる。

「改めて初めまして、私はアーヴォス・デューセと申します。聖人カイルサィート・デューセの父方の叔父で、この教会を受け持つ司祭です。ようこそいらっしゃいました」
 司祭と名乗った男は一礼し、二人にハーブティーとクッキーを勧めた。事情を甥に聞いたのか、追及するような発言はない。その甥は祈祷の後に急用に出たらしく、結局茶の席にいない。

「ありがとうございます。私は聖女のミスリア・ノイラート、彼は私の旅の護衛です。昨日からお世話になってます」
 差し出されたティーカップを受け取りながら、聖女は小さく礼を返した。

「ゲズゥ・スディル、『天下の大罪人』であって『呪いの眼』の一族の最後の生き残りですね。これはまたすごい用心棒を得られましたね」
 その笑い声にゲズゥはかすかな濁りを感じた。
「確かにすごい人です」
 聖女は微笑みを返している。

「今夜はお二人だけで大丈夫ですか?」
 司祭は急に話題を変えた。チラリとゲズゥを一瞥した後、再び聖女と目を合わせる。

「それはどういった意味で?」
「実は今、隣の町で魔物が頻繁に出現していましてね。昨晩はその対応に出かけて戻らなかったんです。するとそこで病が流行っているともわかって、今晩カイルを連れて行こうと思っています」
 やり取りを、ゲズゥはバタークッキーを食べながら静観した。

「私も手伝いましょうか?」
「いいえ、お気持ちだけで充分ですよ。ゆっくりお休みください」

「……ではお言葉に甘えてそうさせていただきます」
 ゲズゥの意見を仰がず答え、聖女は横目でこっちを見た。別に仰がれても是とも非とも助言するつもりは無いのでどうでもいい。

 一度頷いてから薄い黄色の茶を味わい、思わぬ甘さにぎょっとした。

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