49.b.
2015 / 10 / 22 ( Thu )
 なるほど、と興味が失せたようにゲズゥは視線を逸らした。
「ミスリア」
 振り返らずに、呼ぶ。
「はい」
「落ちるなよ」
「わかってます」
「なら、いい」
 話はそれで終いとなり、二人の男性は瞬く間に地上から姿を消した。

 両手両足をつけて窓の中を覗き込んでも、もうミスリアの瞳が奥の闇から何かの輪郭を見出すことは叶わない。諦めて頭をもたげ、周りを見回す途中、寒気にぶるっと身体が震えた。
 気味悪い静けさが鈍い眩暈をもたらしている。それでなくとも足場はやや不安定だった。つい座り込んでしまうのも当然のことだろう。

 ミスリアたちは巣窟の裏口を確認した後に、運良くこの窓を見つけたのである。巣窟の入り口はどれも河に面した地上に位置しており、それらの視界から隠れようと思えば、狙いの付けどころは「上」しかなかった。
 ここから絶対に動かない――そう約束したのも、暗闇で迂闊に動こうものなら、うっかり足を滑らせて谷底に落下してしまいそうだからである。

(……ただ待つしかないってのは、想像してたよりも辛い)
 冷えつつある両手に吐息をかけたのと同時に、鋭い悲鳴が聴こえた。聴こえたけれども、どうすることもできなかった。里の人たちが、裏口に向かったジェルーゾと遭遇したのかもしれない。既に双方の血が飛び散っているのかもしれない。怒声や衝突音からは、詳しい事情が読み取れなかった。

 このままでは悪い方向に想像が捗りそうだ。唇を噛みしめ、一度深呼吸した。

「なるべく穏便に。みんな無事に、済みますように」
 両手の指を絡め合わせてミスリアは無心に祈り続けた。時折近付く魔物に祈りを妨げられないように、小さな結界を張ることも怠らない。
 大切な仲間の名を一人ずつ呟き、大いなる存在の加護が届くようにと、かつては聖獣の鱗であった水晶にそっと願いを込める。
 どれくらいの時間そうしていたかはわからない。地中から響く騒音は未だ止まず、むしろ音量が増していたように感じられた。

 ふいに、総毛立つ。
 腰を落ち着けた姿勢なのに、何故かよろめいた。慌てて後ろに片手をつけると、その原因に思い当たる。谷が、正確にはミスリアが座している辺りの谷肌が、揺れたのだ。
 窓を覗き込むのが怖かった。一体何が這い上がって来るのか? 知りたいけれど、知りたくない――

 状況は、迷う暇すら与えてくれなかった。
 ――ずぼっ。
 チューブ状の空間にパンパンに詰まっていた物が抜け切った瞬間の、小気味いい音。抜け出てきたソレは、傷や穴だらけの骨ばった翼を広げて浮遊する。

(竜!? まさか、ジェルーゾ)
 直後、身構えるミスリアに向かって、飛龍らしき影が声とも言えない声を浴びせた。

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