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2015 / 09 / 29 ( Tue ) 曰く、皆が攫われた際に投与された毒、そしてそれが塗ってあった吹き矢が、谷底で王子が受けた傷の原因と一致するものであるという。 「あれは国の伝統工芸だ。関連付けるには十分だが、因果関係までは定かではない。谷底の者が里を取り込んだのか、里の者が谷底に流れ着いたのか」 オルトファキテ王子はそんな一言を添えた。 「やっぱり国ぐるみで何か企んでいるのでしょうか」 「わからない。それを前提として今後の展望を考えるのもいいかもしれないな。最悪を想定していた方が対策も立てられよう」 「もうひとつ情報がある」 そう切り出して、ゲズゥはリーデンから聞いた話を伝えた。耳を傾けている内に王子はまた起き上がった。 (この話、きっと呪いの眼の作用で通信したのよね) あらかじめからくりを知っていなければ不自然に感じるはずなのに。情報をどういう方法で得たのかを王子が問わない辺り、信用の表れのように感じられた。 そして件の情報の内容は、ミスリアを戦慄させた。 「女が集中的に狙われていたというのは初耳だ。言われてみればあの里は若い女が少なかったな」 王子も驚いているようだった。 「十人の女を見ても、二十歳以下は二人も居なかったと。リーデンはそう数えたらしい」 「里の女はよく動いてよく働いていたからな。男よりも数が少ない印象はなかった。歳に至っては、あの顔を隠す布の所為で、私は気付けなかった」 「どうして女性ばかりを……」 つい思い出してしまうのは、ウペティギの城での一件だ。世間では男性が女性を数多く所望するのは、あまり珍しい現象ではない。そのことを自分も理解しつつあるけれど、恐怖に慄くのはやめられない。 ゲズゥは相変わらずの無表情のままで、一方では王子は色々とひとりごちている。その着眼点は、ミスリアとは少し違うところにあった。 「女を攫われたのが自演でないとなると、関連していても共犯とは限らないか? いや、その程度の工作くらいやってのけるか。この区域の長は聡明な女と聞く――聡明さが狡猾さと同義かと言うとそうでもないが、しかし自演をしているのなら目的は何だ?」 革の手袋の甲の部分を前歯に軽く引っ掛けながら独り言を続けている。よほど考え込んでいるのだろう。 (この人、頭の回転が速いけど、なんだか不思議な感じ) 人を疑う様に鬱屈としたものが無い。 (あらゆる可能性に考えが及ぶだけで、それは人間不信とかではなくて) 人は誰しもいつでもどの道にでも転ぶものだと、考えているようだった。人間の性根には必ずどこかに善意があるのだと信じたい自分や、その逆の考えを持っているらしいゲズゥたち兄弟とはまた、違う人生観である。 「最も問題視すべきはそこではないな」 王子は勢いよく立ち上がって、何故か荷物をまとめ始めた。 「どういう意味だ」 「予想以上に連中は切羽詰っているということだ。少なくとも明日明後日は動きが無いと踏んでいたが……もしかしたらもう、移動しているのではないか」 |
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