47.e.
2015 / 08 / 25 ( Tue )
 背中越しにミスリアが頷く。
 この体勢で寝たら首など色々と凝るだろうと考え、ゲズゥは手早く地面にマントを敷いた。少女の上体を引き寄せ、そのまま布の上に横たわらせる。

 ひとりでに丸まった背中をじっと見下ろしていると、新たな問題点が浮かび上がった。
 火の傍とはいえ乾ききっていない布に肌が触れている状態では、冷える。できれば熱源を増やしてやりたいところだ。

 何も無い洞窟の中での他の熱源と言えば――。
 思い当たる節は一つしかなく、よってミスリアのすぐ後ろで寝そべることにした。触れるか触れないかまでに隙間を縮め、左腕で頬杖ついた。

「あったかい」
 まだ起きていたのか、端的な感想が返る。少女は身じろぎし、二人の間に僅かに空いていた隙間を完全に無いものにした。
「生きているから当然だろう」
「はい。ありがとうございます」
「…………」
 温かいことに、それとも生きていることに感謝しているのか、どちらとも判じがたい。

「こっちの台詞だ」
 一考した後、そう呟いた。ゲズゥにとっては両方に対しての率直な答えである。
 ふふ、と微かな笑い声がしたが、それきり静かになった。いつの間にかミスリアは寝息を立てている。

 ほどなくして、ゲズゥも半分瞼を下ろした。疲労感はあるが、時刻の所為かあまり寝る気になれない。が、腹に伝わる鼓動や呼吸のリズムに、それだけでたとえようのない安息を覚える。
 実のところ左眼にはまだ違和感が残っていた。滅多にしないことであり、しかも結構長い間本体を離れていた後遺症で、脳と左眼の意思の伝達はまだ滑らかではない。

 危険な賭けに出たものだ。リスクの高い行為と知りながら、それを実行せずにいられなかった。
 無事かどうか気がかりだったといえばそうだが、それだけじゃなかった。勝手に動き回る左眼を気味悪がるかもしれないと踏まえた上で、少しでも心の支えになれればと思った。

 ミスリアがどんな想いで故郷を去り、聖女となったのか。聖女となって、より険しい道のりを歩もうと思ったのか。出逢ってから幾度となく言葉を交わしてきたが、おそらくこれからもこの娘が抱える孤独や重圧をみなまで理解してやることはできない。誰も他の誰かを真に理解するのは不可能だからだ。

 すぐ目の前に無造作に流れる髪の一房を指ですくった。
 
 ――せめて少しでも安らかな場所を作ってあげることなら、できる。半径たったの数フィートでもいい、この少女が安寧と共に過ごせる場所を。
 できうる範囲でそうしてやりたいと願っている。

 ――確かに、自覚しつつあった。

_______

(私は……! なんって恥ずかしいことを!)
 意識が覚醒してから数分経ち、もうすっかり夜も更けたのだと察したミスリアは、眠りに着く直前の己の行動を思い出した。
 はしたない真似をした。何か、肌と肌を密着させて横になったような気がする。というよりも――そう、自分から擦り寄った。とても気持ち良さそうに。

(うええええ)
 心の中で奇声を上げ、おそるおそる周囲に注意を払った。何か布が掛かっているらしいのはわかる。
 次いで目を開いた。いつの間に寝返りを打っていたのか、火は背後側にある。自分の居る位置と洞窟の壁との間は無人だ。ほっとしたような残念なような、奇妙な感情に揺らされながら起き上がった。

(なんだろう、他にも……)
 無意識に髪に手をやってから、思い出した。眠りが浅かった間、何かが髪に触れていた。梳いていくように、繰り返し、優しく温もりがすり抜けていったような――
(まさかね)
 雑念を振り払い、洞窟の入り口付近に青年の姿を見つけた。しゃがんだ体勢のゲズゥはこちらの視線に気付いてサッと振り返る。
 無音でその唇が「うごくな」の一言をなぞった。



@はるさま
わわわ、ありがとうございます(;ω;) そしておそらく気のせいでは無いでしょうw

おっと、やさしい時間から一変、またバタバタパートのはじまりです。
切り込む時は切り込み、包み込む時は包み込める、願わくばゲズゥが多角的ヒーローに育てばいいなと思っていますが、叶うかどうかはこれから…わかるといいですね!

応援ありがとうございます。まだまだ書きますよッ

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