54.d.
2016 / 03 / 19 ( Sat )
「はい」
「で、お遊びが僕らにバレちゃった以上、あの子たちは首都を出るはずだよね。まだまだ遊びたいお年頃だから、玩具のいなさそうな方を行かないと考えて、大きい道に絞ろう」
 つまり、人の出入りが比較的少ない道は眼中に無い。
 首都の外郭から伸びる主な道路は五本。南西の一つを排除するように、リーデンは石をのせた。

「某組織の正確な位置は不明だけど、すぐ南西、山岳地帯のこの辺じゃないかな。上司の目に付きそうな方角へは逃げないと思うね。北は果ては教団に行き着く道だから、それも選ばない気がする」
「確かに、悪事が露見しそうな道は避けそうですね」
「そ。残るは西、東、と南東に行く道。特に南東は人の出入りが多い。僕らもこっちから首都に来たもんね」
 都市国家群やヤシュレ公国からの貿易商が多く使っている道だ。

「西は可能性が低いとして、後は東か南東ね。僕は南東だと思う。両方見に行って外郭の兵士に話が聞けたら一番早いけど、ちょーっと協力してもらえるか怪しいよね」
「一刻を争うなら、今選べと言うのですね」
「そーゆーこと。どうする、聖女さん?」
 枢機卿と多少話し込んだとはいえ、今ならまだ十分に追いつける。奴らは首都から出ても、獲物を求めてまだ近くに居る可能性が高いのだとリーデンは主張する。

「一晩の内にそう何度もやるのか。狙いを定める時間や準備は必要だろう」
 ふとした疑問を口に出した。
「どうだろうね。一度は邪魔をされたから、俄然やる気出して新しい獲物を急いで捕まえに行くかも。夜はまだまだこれからだし、本人たちも若さゆえに体力あるんだし、何度でもチャレンジしそうじゃない?」

「…………」
 ゲズゥは反論しなかった。鬼畜な連中の思考を読むことに関して、この弟に敵うはずがない。
 沈黙の中、リーデンの従者の女が心配そうな顔で地図を眺めている。箪笥の上の小型時計が秒刻みにカチカチ鳴るのが、やけに大きく響いた。
 やがて三人の視線が少女の元に集まる。
 ミスリアは応えるように頷き、決定を言い渡した。

「南東に向かいましょう」
「わかった」
「オッケー。五分以内に支度するよ」
 そうして魔物退治ならぬ悪者退治に出かけたわけだが――自分が退治される側でない現状に、相変わらず皮肉を感じるのだった。

_______

 あふ、とミスリアが欠伸を掌で塞ぐのを横目で見た。直後に小さく震えたのは欠伸の反動か、それとも寒いのか。

「すみません。気になりますか」
 視線に気付いて、ミスリアがこちらを振り向いた。
「別に」
 夜の屋外活動に備えて昼寝をしたわけでも無いのだから、眠いのは当たり前だ。

 それきり、静かに歩を進めた。いつもは口数の多いリーデンも、黙って周囲に神経を張り巡らせている。
 外郭から出て数分、振り返れば首都の灯りも点滅して見えるくらいに離れている。
 今のところ、首尾は悪くない。夜中にこんなところを出歩いていたことも、魔物退治の為だとミスリアが説明するだけで衛兵はすんなり納得した。

 通行止めをくらっても仕方のない状況だった。何せ夜は更けつつある。それでも首都を覆う結界の範囲から抜け出たいなら自己責任で踏み出すのみだが、為政者は民の安全を守るのだと言って出入りを制限している。その辺りこちらは正当な理由を用意してあったので、管理者もあっさり結界を解いてくれた。

 曰く、日暮れ以降に南東から出て行く者は他に居なかったと言う。
 首都の結界はたとえ目に見えなくても、超えがたい防壁である。自然と導き出される解答、それは奴らが結界の綻びから抜け出たということ。
 そこまでわかれば後は該当する箇所を見つけるだけだ。

 そしてそれは、何の変哲も無い切り株の傍にあった。

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