54.e.
2016 / 03 / 20 ( Sun )
「絶対防壁の弱点、みーっけ。この狭さなら、魔物が偶然見つけて侵入する心配も無いかな」
 目に見えない亀裂の大きさを測るように、リーデンが切り株の隣に片膝ついて宙に手を浮かせている。指先で縁を撫でたり、こじ開ける動作などをなぞったり。事情を知らぬ者が傍から見れば、相当な奇行に映ることだろう。

「そうですね」
「けど、結界の内側で新しく発生する魔物相手には無意味だね?」
「……はい」ミスリアは苦笑を返した。「それを見越して、日中はできるだけ瘴気を浄めていきます。ただ、彼らのしていることは――異例、ですので、原因を取り除かないことには防ぐのは難しいかと」

「うんうん。君の憂いの元はちゃんと駆除するから、大丈夫だよー」
「そ、そんなに憂えているように見えましたか」
 ゲズゥとリーデンが異口同音に「見える」と答えると、ミスリアはどこか気まずそうに笑った。
「でもさー、そもそもよく見つけられたよね、こんな穴。結界って新しく張る度に綻びの位置も一緒なの?」
「丁寧に手順を踏めば張り直されるはずです。同じ場所に何度も出るなら、術者のクセでしょうか……」

 近くにあった綻びはこれだけだった。奴らはここを通ったと仮定できよう。
 次にはゲズゥは草をかき分けて足跡を探った。指を地に這わせて触覚のみを使うのは、なるべく明かりを使いたくないからだ。星の輝きを頼って進むのは時間がかかったが、運の良いことに痕跡を見つけるに十分とかからなかった。

 そうして次に向かうべき方向を定め、静かに、慎重に進む。三人の会話の糸は途切れたまま再び結ばれることはない。
 いつしかゲズゥは大剣の柄に右手をかけて歩いていた。
 深夜特有の不気味な静けさが――風の気配が、まるで後ろ首に吐息をかけているようで、落ち着かない。

 ――果たしてどんな刺激が最初に五感を突くのか。
 先刻のような、相手の無防備な場面に遭遇するのはまずありえないだろう。追われることを警戒しているのなら、逆に待ち伏せをしている可能性も――

 ――チャッ!
 ゲズゥは大剣の柄を押し込んで木製の鞘から解放した。
 ――右回りに薙ぐ――
 脳が勝手に発した神経信号。身体はそれ以外の命令を要さなかった。

 このような場所でこのように異様な汚臭を放つ存在が、まともであるはずが無い。嗅覚が拾ったのは魔物の腐臭か、鮮血の異臭か。ゲズゥにはどちらでもいい。
 結論は一瞬後に得られた。

「うおっとぅ!」
 驚く少年の声、金属同士の衝突音。右腕に走る手応えの質量、それから。
「お待ちしていましたよ」
 闇夜に躍る、別の青年の嗜虐的な笑い声。

「さしずめ僕らは君たちの次の玩具に抜擢されたってとこかな」
 リーデンが冷静に言い放った。
「あなた方ならきっと来て下さると思っていました」
「あははは! 光栄だよ」
 まるで引けを取らない嗜虐的な笑い声が、鉄輪に乗って銀色の弧を描く。

 俄かに勃発した四対二の交戦状態の最中、なんとか短い会話を挟んだ――。

 ――愚弟。
 ――何かな、愚兄。
 ――ミスリアの動向に気を付けろ。
 ――わかってるよー。

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