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没場面
2017 / 07 / 31 ( Mon )
夜中三時くらいに魔物の気配で目が覚めたエラン。(女子はぐっすり)
己が身構えるより早く、ゲズゥの大剣一振りであっさり吹き飛ばされる敵の大群を見る。

その場の熱で「稽古つけてください」と頼み、快諾されるが、ボロ雑巾になるまでに約一時間。

その後も涼しい顔で魔物を片手で倒すゲズゥを<地面から>見上げて、タバンヌスとどっちが強いかな、世の中って広いんだなぁと悟る公子。そのまま二時間くらい熟睡するの巻。



本編と関係ないので割愛www

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21:27:44 | 余談 | コメント(0) | page top↑
八 - a.
2017 / 07 / 29 ( Sat )
 政権争いと無縁な人生であれば良かった――この期に及んで、ヌンディーク公国第五公子はそんな風に考える。
 領民が健在で、治める土地が概ね平和であればそれで事足りた。俗世のしがらみから離れて、悠久の空の下、無限の大地をいつまでも駆けていたかった。
 生き甲斐とは、そういった何気ない欲求の連なりであってもいいのではないかと思う。

 そして周りに期待されないというのは空しいと同時に、気楽だった。母が他界してからの数年、誰にも咎められずに都の諍いから抜け出すこともできた。
 ――まさかこんな形で追われるとは。
 奴らが仕掛けたのがほんの一週間早かったなら。エランディークはもしかすると、もっと従順でいたかもしれない。

 今は尊き聖女に進呈した誓いがある。国の行く末を左右できる立場にありながらその権力と義務から目を逸らしたら、きっと彼女が望む「人助けの心」から遠ざかるだろう。
 抗わねばならない。エランの決意はいつしか、確固たるものとなっていた。
 問題はセリカラーサ公女の身の安全をどうやって確保するか、である。
 国が傾ぐような事態となれば、縁談は破談となる。公女は所在を失い、祖国へ帰されるはずだった。

(セリカは私に与する方を選んだ。こうなっては最悪、暗殺者に狙われる)
 どうやってゼテミアン公国まで無事に帰せるのかを考えあぐねていた。時間はあまりない――
 出し抜けに、服の裾を掴まれた。
 エランはついクセで左肩から振り向いた。

 通常、自分と接し慣れていない人間であれば、必ずしも左側に控えていてくれるとは限らない。視界に入っていなくとも声は届く。相手にとってはその程度の認識、だったりする。
(そういえばセリカは割といつも左側に居るな)
 静かな気遣いに、静かに心打たれる。

 そんな彼女の横顔は心なしか青ざめている。衣服を掴まれたと言っても、本人はこちらに目を向けていない。
 下町を歩いたことがないからこの人込みと空気感に気圧されているのか、真っ先にそう考えたが、どうやら違うらしい。オレンジヘーゼル色の双眸は空を見上げていた。

 遥か上空に鳥影がある。それは、あっという間に過ぎ去った。
 猛禽類を見かけるのは、別段珍しいことではない。にも関わらず、何故かセリカは異様に怯えている。そんな姿を眺めていると思い知らされる――自分は彼女について何も知らないのだと。

「あの鳥がどうかしたのか」
「……や、あれってお兄さんのハヤブサ……?」
「隼? 私にはよく見えなかったが、『お兄さんの』というのは」
「な、なんでもないわ。行きましょう」
 セリカはぎこちなく笑って誤魔化した。先を急ごうと、エランの長すぎる袖を引っ張って促している。

 ――家族を思い出したのだろうか。恋しがっているのだろうか。
 この時になってようやく、エランはセリカの意思を聞いていないことに気付いた。道が分かれるのが当然の成り行きだからと、訊かなかった。

(いや、そうじゃない)
 帰りたいか、と一言訊けば済むことだ。
(もしも訊いてみたとして……全く別れを惜しまれなかったら)
 情けない話だが、少なからず傷付く自信があった。
 そんな雑念を振り払わんと、小さく嘆息する。

「行きましょうって、お前、行き先がわかるのか」
 エランはフードをより目深に引き下ろした。目立ちすぎるのを避ける為に、町に入ってすぐにフード付きの外套を二着入手したのだ。
「わかんない。どっち?」
 例によってセリカの返事はそっけない。一方で、その瞳は右へ左へと忙しなく飛び回りながら輝いていた。市場が、大通りが、山羊を引く人が、物珍しいのだろう。

「あの路地を通ったら右だ」
 彼女は言われたままに方向を修正した。そしてここに来て突然思い当たったように、質問を口にした。
「で、どこに行くの」
「タバンヌスの母の家だ。名を、ヤチマという」
 そう答えると、ふいにセリカが立ち止まった。次に口を開くまで、かなりの間があった。

「…………置き去りにしたの、申し訳ないと思ってるわ」
 躊躇いがちに振り返ったその表情は曇っている。主語が無くとも言わんとしていることは伝わった。
「気にするな。それがその時選べる最善で、本人の希望だった」
「でも……」
「お前が気負うことじゃない。契約だからな」
 少しでも元気付けようと思って、笑いかける。するとセリカはぎゅっと眉間を絞った。

「それ、あいつも言ってたわ。何なの、契約って?」

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02:41:59 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
私は気付いた
2017 / 07 / 27 ( Thu )


敢えて目元を隠すと、エロさが三割増しだということを(世迷言

フルはこっちね:https://pbs.twimg.com/media/DFoYcNEUIAAbrUP.jpg:large


年始の頃に途中まで塗ってたらしく、ちょっと手を加えてみました。最後にオーバーレイで張り付けたテクスチャ、もうちょっとうまいやりかたがあった気がする…。

さあ、もっとこのお姫さまをかわいがるぞー。

鉛筆書きに色をぶっかけるのも意外と悪くない気がしてきました。それよりきれいな線画を描けよとの自己ツッコミはいたしません。

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00:48:56 | | コメント(0) | page top↑
七 あとがき
2017 / 07 / 24 ( Mon )
変な長さになった…w




続きどうぞん


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08:34:11 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
七 - h.
2017 / 07 / 24 ( Mon )
 野営地に戻った頃には姫君の機嫌もすっかり直っていた。
 不機嫌が一過性ならば、原因を突き止める必要がないというのがエランディークの意見だ。要するに下手に蒸し返したくないのである。
 森で声をかけた際にセリカが垣間見せた攻撃性は何だったのか。言動が随所で尖っているのは元からだが、知り合って数日、これまでにも彼女が度々表してきた「拒絶」とは一線を画したものだった。

 ――突き放すようで、不貞腐れているようだった。
 そこまで感じ取っていながら、エランには理由がさっぱりわからない。
 命を助けてくれた上に、また会えて嬉しいとも言ってくれた。悪くない感情を抱かれている印象だ。後は「乙女の機微」とやらが、これ以上わかり合うことを阻んでいるのだろうか。

(訊いても、明かしてくれないだろうな)
 言葉にされていない想いをあれこれ勘繰るのは無意味だと判じ、エランは思考を中断した。
 背中からセリカを下ろしてから、聖女とその護衛だという男に向けて順に会釈する。
 黒髪の男は無機質な眼差しでこちらを見上げた。服装も総じて色が暗い――そう観察したところでエランは開口した。

「着替えをいただけないでしょうか。上だけで十分です」
 血に汚れてしまった自身のチュニックを示す。男は考えるように数度瞬き、やがて荷物を引き寄せる。中から灰色の衣服を掴み出し、こちらに向けて投げて来た。
「ありがとうございます」
 替えの服を手に、エランは木陰に向かう。汚れた方のチュニックを勢いよく脱ぎ捨てて――何故かいつの間にかはだけていたため脱ぐのは容易だった――男にもらった方のそれを着る。身長差から予想はできていたが、裾と袖の丈が余っている。

「お茶どうぞ」
 聖女が、セリカに座るようにと笑顔で促している。
 エランも輪に加わり、皆で焚き火を囲う形になった。四人が一堂に会するのも初めてだからと、改めて自己紹介を始めた。
「私は教団に属する聖女、ミスリア・ノイラートと申します。彼は護衛を務めてくださっているスディル氏です」

「二人だけで巡礼ですか?」
 エランはつい口を挟んで訊ねた。
「いいえ。私たちは帝都ルフナマーリからカルロンギィ渓谷へと向かっていまして……他の仲間が道中にヤシュレ公国に所用あるそうなので、彼らと再び合流するまではのんびり二人で進んでいます」
 エランは脳内に大陸の地図を思い浮かべて、納得した。現在地は聖女ミスリアが挙げた二つの地点の中途にある。そして少々の寄り道になるものの、ヤシュレ公国も行路上に位置している。

「ご存知の通り、私はエランと言います。こちらは……」
 隣に目配せする。「セリカです」「よろしくお願いしますセリカさん」と、女性同士で微笑みが交わされた。
「詳しい事情は話せませんが、我々は逃亡中の身です」
 エランは我知らず声を潜める。
「そうなんですね。私たちを巻き込みたくないから詳しくは話せないのですね」
「察しが良くて助かります。それから、昨夜は本当にありがとうございました」
 改まってセリカが深い礼をした。彼女に倣い、エランも頭を下げる。

「どういたしまして。貴方がたはこれからどうするんですか?」
 聖女の問いかけで隣のセリカが不安そうな顔をしたかもしれない。その辺りを見極めてから喋るべきだという発想を、エランは持たなかった。
「身を寄せられそうな町を知っています。セリカとはそこで別れて……今後の身の振り方を検討します」
 自分が思い描いている段取りを包み隠さず語る。聖女は頷きながら相槌を打った。

 隣から、息を呑んだような音がした。
 失言をしたのかと思ってエランは己の言動を振り返ったが、引っかかる箇所は無かった。
 隣を瞥見する。
 セリカが刺すような視線で見つめ返してきた。どうした、と無音で唇を動かしてみたが答えは得られず、公女の表情が余計に険しくなっただけだった。

(言葉にしなければ伝わらない。或いは言うべきか否か迷っているのか)
 物申したいような顔をして、何故口を噤んでいるのか。一向にわからない。
「では、そろそろ朝食にしましょう」
 聖女ミスリアはそれ以上の込み入った質問をせずに、食事の準備に取り掛かった。炒った木の実と、小型げっ歯類の丸焼きが全員に行き渡る。
「ねえこの小動物、鼠に見えるんだけど」
 不快感を隠さずにセリカが呟いた。

「鼠だ」
 スディルという男が無表情に肯定する。
「えっ。鼠って、た、食べられるの? 食用に向かない気が」
「旅をしていて、そういつも『当たり』に遭遇できない。肉が獲れるだけ運が良い、大体は鼠でなければリスかアライグマだ」
 男は容赦ない現実について淡々と述べた。言い終わるなり、手持ちの丸焼きに無遠慮に前歯を沈めている。

「リスね……アダレム公子が聞いたら泣くかな……」
 セリカは尚も気の進まない顔で丸焼きを見つめている。
 公宮育ちなのだ、食べる物は概ね上等で、狩る獲物の選別にも美学があると教え込まれているのだろう。気持ちはわからなくもない。エランもルシャンフ領に行かなければ、似たような拒否感を持ったかもしれない。

「アダレムは、泣きそうだな」
 セリカはそれには反応しなかった。手元を凝視し、覚悟を決めたように鼠に齧りついている。
 やむを得ない。そっけない姫君に話しかけるのはひとまず諦めて、こちらも食事に専念した。
「移動をするなら魔物が現れない昼間が適していますよね。すぐに発ちますか?」
 聖女の問いに、エランは首肯した。

「そうですね。追っ手が居ても居なくても、猶予があまり無いでしょう。こうして出逢えたからには、もっとご一緒できれば良かったのですが」
「ありがとうございます、私も同じ気持ちです。でも貴方には重要な差し迫った用事があるようですし、そちらを優先した方がいいです」
 人の好(よ)さそうな小さな聖女が破顔する。相手を、奥深くまで温めてくれるような笑顔だ。つられて笑い返した。

 それから世情に関する話をしたり、旅に関する助言を受けたりした。
 結局、朝食を終えて旅支度を済ませるまで、セリカは一度たりとも目を合わせてくれなかった。

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08:26:58 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
よそさまでの活動
2017 / 07 / 23 ( Sun )
アッ、ブログで宣伝するの忘れてました。


まず先日、小説家になろうで公開された企画ものについてです。

【習作】描写力アップを目指そう企画

ちなみに私が書いた奴は、厨二時代の甲の妄想を今の甲の技量で出してみたような仕上がりとなっております。ふしぎななつかしさを覚えましたねw




+おまけ

「きみの黒土に沃ぐ赤」のアルファ転載も始めました。スマホアプリだと縦読みがきれいなので読み返しにオススメでっせ。いまのところ週一更新。

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05:26:06 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
七 - g.
2017 / 07 / 20 ( Thu )
「拒否できると思っているのか」
 青年は眉間に皺を寄せて高圧的に言う。右手の指からサンダルがこれ見よがしに揺れている。
「じ、自分で歩けるわよ」
「却下。細かい傷が増える」

 もはや言い返せないと判断し、セリカは肩を落とした。差し出された背中に渋々ながら掴まる。
 体格が近いゆえに重心を安定させるのはきっと難しいと見越して、これまた渋々とエランの首に腕を回す。脚もしっかりと腰に巻き付けて、こうして、来た道を引き返すこととなった。

(無心になれ……無心に……)
 接触している各部位のことは気にしてはいけない。太ももに触れている腕など、そんなものは存在しない。
 会話が途切れているので、気を紛らわせる為にセリカは脳内で祖国の国歌を再現した。曲を半分ほど進めたところで、割り込む音があった。
 咳だった。悪寒が、背骨を駆け抜ける。

「大丈夫?」
 完治したと思い込んでいたが、後遺症があるのだろうか。腰にかけている圧力は、実は身体に障るのだろうか。
「喉が渇いただけだ」
「……そっか」
 明らかに安堵して、強張らせていた手足から力が抜けた。自分がこんなに神経質になっているとは知らなかった。

 咳の音で、昨日のあらゆる出来事を思い出してしまったのだ。どんな風に恐怖し、苦しみ、思い悩んだのかを。同時に、今の状況を改めて見つめ直せた。
 この男を変に意識し出したせいで気持ちが逸れたが、本来抱いていた感情が呼び起こされる。

「さっきのあんたと聖女さまとの会話、少し聞こえてたの」
「聞こえてたのか」
 これといった感情が付随していない返事だった。意に介さずにセリカは続けた。
「聖女さまの真似じゃないけど、あたしもね。あんたが元気になって、こうしてまた話ができて……すごく満足してる。恩返しとか犠牲を払っただとか、気にしなくていいからね」

 ――伝えた。伝わった、だろうか。
 求めていた見返りは単純だ。会いたかった、ただそれだけだ。
 そのことを思えば、こうして触れている温もりも髪の匂いも、心地良いものに感じられた。自然と目を瞑る。しばしそうしていたが、沈黙がいつまで経っても破られないことを不審に思い、目を開けた。

「ちょっと聞いてたの、エラン。さっきから静かじゃない」
 勇気を出して胸の内を吐露したのに、無反応とはあんまりではないか。首を伸ばし、表情を窺おうとする。
「……聞いてる」
「ならいいのよ。相槌が欲しかっただけ」
 唇を噛んでいるのが見えた。この仕草には覚えがある――

「嬉しくて、思考が止まった」
 ――不意打ちだった。
 よく見れば耳も赤くなっているようだ。
「え、えー。そういうこと言う? あたしまで照れるんですけど」
 セリカは上体を仰け反らせる。多分だけれども自分もつられて体温が高くなっている気がして、気付かれるのを避けたくなった。この状況では、他に距離の取りようが無い。

「元はと言えば誰のせいだ」
「何も変なこと言ってないわよ、『元気なあなたに会えて幸せだ』とかそんなんでしょ」
 あれ、とセリカは口を開けたまま視線をさまよわせた。簡略化して言い換えると、まるで想いを募らせた恋人同士の逢瀬の挨拶だ。
 会えなかった期間は短かったのに、大層な言い様である。かなり恥ずかしい。

(でも、生死を彷徨ってたのを見守るのはキツかったわ)
 青くなっていた唇や溢れ出した鮮血を思い出すと、照れて暴れる気も失せた。
「……本気でそう思ったのよ」
 ふと、エランが笑った気配があった。
「ありがとう。私も元気なセリカに会えて、幸せだ」

_______

 ――ええ全く、殿方には呆れますわ。乙女の機微を読み取る努力をもっとしていただきたいですわね。
 ――簡単に見せないから機微と呼ぶんじゃないのか。
 ――いいえ兄さま! 隠したいから隠しているものは別でして、気付いていただきたいから隠す感情というのがありますのよ。

 ――ややこしい。お前にもそんなものがあるのか、リュー。
 ――ありますとも。この気持ちを知って欲しい、けれど自分から言うのが悔しい、だから言えない! なんて想いが。
 ――なんだそれは……。言わなければ伝わらないだろう。
 ――ええまあ、わたくしと兄さまほどの仲なら、思った傍から何でも話しますけれど。

 ――なら何も問題がない。
 ――そう思いますでしょう? でもいつかお妃さまを娶る時が来ましたら、こうはうまく行きませんわよ。わたくしはエラン兄さまを心配しているのです。ちゃんとお妃さまを、見ていて差し上げなさいな――

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23:45:31 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
七 - f.
2017 / 07 / 17 ( Mon )
 微妙な静寂が降りる。セリカは虫から話題を逸らす術を探した。
「ね、触れてみてもいい……?」
 気が付けば大胆な質問を口にしていた。何故そんなことを望んだのか、後になって考えてみても、衝動だったとしか言い表せない。
「どうぞ……? 面白くも何ともないぞ」
 意外そうな返答があった。

「縫った痕っぽいわね」
 まずはじっくり眺めてみる。瞼まで縫い付けられているため、右目は開かないようになっている。
「刃物でざっくり斬られたそうだ。昔のことだ」
「うわあ、痛そう」
 顔を歪めて言うと、実はよく憶えてない、と彼は肩を竦めた。どこか他人事のように語るのもそこに起因しているのだろう。幼い頃の記憶とはそんなものだ。

「あ、ごめん。憐れまれるのが嫌なんだっけ」
 セリカは宙に浮かせた手を止める。
「遠巻きに憐れまれるのは鬱陶しいが、この近距離なら別にいい」
「あんたって、つつけば変な理屈ばっか出るわね」
「何とでも言え。……――痛かったかは憶えてないが、声が出なくなるまで泣き喚いたのは憶えている」

「じゃあ今は?」
 訊きながらもセリカは左手を伸ばした。中指と薬指の先で、肌の盛り上がっている部分を遠慮がちになぞってみる。
「痛くは、ない」
「それはよかった」

 なんとなく継続して指先で触れる。
 傷痕を形成する組織はデリケートなはずだ。これだけ大きい傷ながら、痛くないのには安心した――
 ふいにエランが身じろぎした。まるで撫でる指先から逃れたがっているみたいに。

(あれ。この反応)
 存外に面白いではないか。セリカの中に、おかしな欲求がふつふつと沸き上がる。
「もしかしてくすぐったいのを我慢してた感じ」
「…………」
 無言で身を引いたのが肯定の証。逃げられると追いたくなるのが人の性か、両手を伸ばした。耳の下から包み込むようにして捕らえる。

「やめろ」
 手首を掴まれた。引き剥がそうとしているらしい。セリカは全力で抵抗した。
「いいじゃない、さっきの仕返しよ。足触られるのすっごくくすぐったかったんだからね!」
「それは手当てだっただろうが! 同列にするな!」
「問答無用!」
 腕力が何故か拮抗している状態で、左手の親指を動かす。今度は指の腹で、じっくりと撫でてやる。

「ん……や、め……」
 顔を背けながらエランはまた身じろぎした。その振動が掌を伝わり、肘まで上り詰めた。
 ――唐突に、意識する。

 香(こう)と汗と埃の匂い。爪先に触れる、黒茶色の巻き毛の感触。両手の中にある温もり、頬の柔らかさや顎骨の形、昨日から生え出したのであろう顎髭のざらつき、手の甲に当たっている耳飾の冷たさと硬さ。
 目の前の「男」の存在感を。

 それらへの認識は土砂降りのように降り注ぎ、未知の意欲を突き動かす。
 しかもたった今の一瞬で見え隠れした表情を、敢えて世間の言葉で形容するなら「色っぽい」でいいのだろうか。これが適当な表現かは、よくわからない。誰かにそんな主観を強く抱いたことが無いのだから。
 とにかく背筋がゾッとした。手を放し、次いで委縮した。

「はいあたしが全面的に悪かったですごめんなさい」
 石の上で背中を丸めて頭を下げる。
「急にどうした」
 訝しげな声が聞こえた。
「総評――い、いい顔だと思うわ。断じて醜くなんてないです」
 一方で、こちらはうわずってしまった。

「それはどうも……? いや本当にどうした。無理するな」
 直視できない。どうしたんでしょうね何を口走ってるんでしょうね、とは声に出さずに「さあ戻ろうきっと聖女さまたちが心配してる!」と早口で応じる。
「……裸足でか」
 石から降り立とうとするセリカの眼前に、一対のサンダルがぶらんと見せ付けられる。受け取ろうとして手を伸ばす。
 が、サッと取り上げられた。

「返してくれませんか」
「包帯巻いてる足では履きづらいだろう。背負って行ってやる」
「それはイヤ! ヤメテ!」
 負ぶさるともなると接触する面積が広すぎる。ありがたいけれども、今この時に限っては迷惑としか感じられない提案であった。


なんだこのラブコメ波動は。作者がどんな顔をしてこの場面を書いたのかは想像しないでいただきたいw


@ナルハシさん

そーなの、私の作品が好きな人なら私の好きな作品もきっとお口に合うはず論でした( ´艸`) 予言の聖女なら軽く読めるしちょうどいい長さ。
本当は違うところから先にクロスオーバー案があったのですが、ついミスゲズをドラマティック登場させてしまいました。反省はしてません!

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23:32:08 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
七 - e.
2017 / 07 / 15 ( Sat )
「ねえ、すごくいい話をしてるのに悪いんだけど」――ひと呼吸を挟んでから続ける――「気になってしょうがないのよ。顔……隠さなくていいの」
 黙っていようと思っていたのについに言ってしまった。微かな後悔に、目を逸らす。
 視界の端で青い宝石が揺れるのが見えた。

「牢を駆け回れるような勇敢な姫が、こんなものを怖がるのか」
 その声は、落胆しているようにも聞こえた。慌てて否定する。
「平気! 全っ然余裕ですね!」
 再び目が合った時、そこには悪戯っぽい笑みがあった。
 ――はめられた。

「誘導するみたいな言い方しなくても……叫んだりしないわ。勇敢って何よ、嫌味?」
「まさか」
 洗う作業を終えたらしいエランが、残った布を引き裂いて包帯を作る。まだむず痒さが続くことにセリカは内心で呻いた。これ以上、我慢せよというのか。

(やだもう。反射で蹴っちゃいそう)
 公子をうっかり足蹴にしては大問題だ。いや、相手が公子でなくても結構な問題である。
 こうして悶々としている内に片足の処置が終わって結び目がこしらえられた。残る足に移ったところで、エランはこちらを見ずに口を開いた。

「毒にやられてた間のことは、断片ながら後になって徐々に思い出せた」
「……うん」
 まるで溺れていたようだったと、彼は語った。諦めて流されればその度にまた息継ぎができてしまい、遠ざかっていた五感が恨めしい激しさで戻った――痛い、苦しい、いっそ死んでしまえたらいい、そこまでして生きる価値なんて無い――かわるがわるそう感じたと。

「価値が無いって、そんな」
「ああいう状態では心の澱が浮かび上がるものだ。きっと自分がいなくなっても誰も悲しまない、あがくまでもない、と」
「やめてよ。あんたがどんな闇を抱えてるかなんて知らないけど、冗談でもそういうこと言わないで!」
 身を乗り出して怒鳴った。

「そんな感じだ」
「なっ、何が」
 妙な反応をされて、セリカは怯んだ。
「激励する声を聴いた。腕を引っ張る手の温かさを感じた。不確かなものしかない世界の中に、お前の気配を捉えられた。いわばその熱量が、私を生かしたのだろう」

 打ち明けられた想いの深さに戸惑った。何やら胸の奥がこそばゆい気がする。
 彼の挙げたものに、心当たりは当然ながらある。それでも、この瞬間にどんな言葉が見合うのか、セリカにはわからなかった。褒めてもらいたかったのは認めるが、いくらなんでもこの言い方は大げさではないか――。
 ふたつ目の結び目が完成した。足が解放された機に、早速石の上で座り直す。
 エランは俯きがちに、依然としてしゃがんでいる。

「話戻すけど、もう隠さないの」
 青年の額の右側から頬まで、眉骨や右目を巻き込んだ縦長の傷痕を、控えめに指さして訊ねる。
「ルシャンフに帰っている間などは特に隠してないが……この際、率直な感想を聞こう。――醜いか」
 男でもそういうことを気にするんだとセリカは意外に思い、しかし反省する。周りの目が気になるのに老若男女の違いなんてないはずだ。

「率直って、本当の本当に言っちゃっていいの」
「頼む。取り繕われるよりは、その方がわだかまりなく付き合っていける」
 当人がそこまでの覚悟なら仕方がない、じゃあ、とセリカは切り出した。

「強いて言うなら、でっかいムカデが這ってるみたいよ」
 直後、顔を上げたエランの口元が引きつっていた。
 ――傷付いたのか。どんなに前置きがあっても傷付いてしまうものなのか!
「だって率直な感想が欲しいっつったのそっちでしょ!?」
「その通りだ。なるほど、そうか……虫。セリカは、虫は平気か」
 まだ表情筋が引きつっている。

「気持ち悪いし触るのも嫌よ。でも怖いというよりは敬意を払うべき強靭な生命体だと思っているわ、特にムカデ級ともなるとね、うん」
 論点がずれた気がしなくもないが、問われたので答えた。

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今日は更新できる予感がしないッ
2017 / 07 / 14 ( Fri )
いい…とこ……なのに……!(血涙


リアルが邪魔をしやす。

ていうか私は仕事ができる頭のいい女子と通してるんだけど(ドヤァ)、大抵サボってる。今日みたいにすごく働いてる日ばかりが人の記憶に残る。好都合。明日は朝は歯医者行きます。


ブログのお客様が更新待ちしている間に退屈だとしのびないから、ナルハシさんの予言の聖女あたりを読めばいいんじゃないかな。http://ncode.syosetu.com/n7318bp/

読み終わる頃にはまたここに戻ってくるといいんじゃないかな★

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