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にゃお
2017 / 09 / 19 ( Tue )
この時期はいつものごとくリアルが立て込んでいるのでちょっと更新間隔が長めです、すみませぬ。(クライマックス間近だから慎重になっているのもあるww

えっと、9月末から10月11日までは日本にいます。法事とかあるのん。

家族孝行メインだと思うので多分友達に会うチャンスどころかいつものように書籍を買い込む時間があるのかすら謎です。なかったら、まあ次回に期待。この頃はBookwalkerとかなろうとかで日本語欲(?)が満たされるので前ほど「買いにいかなきゃ!!」感が無いんですよね。ははは…

そろそろ野郎も一度くらいは日本行ってみればいいんじゃないかと誘ってるんですが、自分でうろつくより旅行会社のパッケージの方が格安なのでそっち試すかもしれません。後、奴は外国語さっぱりで旅とかあんまりしたがるタイプじゃないのですがw


それでは後ほどに~ノシ

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06:24:56 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
十 - a.
2017 / 09 / 16 ( Sat )
 遥か頭上の狭い窓枠に鳩が停まった。
 指を差した途端に飛び立ってしまったが、その姿が見えなくなって数秒経っても、目はこげ茶と灰色の羽の美しさを忘れられずにいた。

「ははうえ、みましたか! ハトさんがとてもきれいでしたよ」
 少年は部屋の隅に蹲る母の元へ明るく話しかける。
「……アダレム。窓の下から離れるのです」
 応じた声は暗く厳しく、空虚な部屋の中をこだました。触れられたわけでもないのに、アダレムは叩かれたみたいに身を強張らせた。

 ごめんなさい、だって、と口ごもる。そんな彼に、彼女は繊手を伸ばして手招きする。幾度となくそうしてきたように、子は母の腕の中に飛び込んだ。

「世界は恐ろしいのです。お前にとってはよくないことばかりなのですよ」
「でもここはなにもないし、ぼくはおてんとさまにあいたい……」
 もう何日も外に出ていなくて、退屈だった。窓に停まる鳩くらい、心ゆくまで眺めたい。

 それにこの部屋は空気が良くないようだ。
 部屋の角からもくもくと立ち上がる白い煙が、しつこく視界を滲ませる。香炉からの慣れない香りに鼻がツンとする。
 空気の質と関係があるのかはわからないが、一晩通して眠るのが難しく、何度も目を覚ましてしまう。妙に弱気になってしまうのはそのせいだろうか。

「いけません。お前にはまだわからないだけで、外には混沌しかないのです」
「こんとん……」
 いきなり両頬を冷たい手で包まれた。覗き込む女の顔は、恐ろしい。アダレムは生まれて初めて母に近付いて欲しくないと感じた。

「はな、して! ください!」
 混乱した。母は、こんなことを言う人ではなかった。なかった、はずだ。
「アダレムよ、可愛い我が子よ。陛下に最も良く似た子。人の群れに触れてはなりません。お前まで陛下のように病に落ちてしまってはいけません。ここにいなさい。ここなら、ハティルが守ってくださいます」
 すぐ上の兄の名を出されて、アダレムはぎくりとなった。

 ハティル公子に好かれていないのは子供心ながらによくわかる。しかしアダレムの方はなんとかして兄に好かれたいので、近寄るのを諦められない。そのせいで余計に鬱陶しがられているのもわかっている。

 鬱陶しそうにしていても、なんだかんだ言って相手にはしてくれた。
 そして時折ハティルが向けてくる眼差しは、とても悲しそうだった。それが気になって気になって、やはり近寄るのをやめられない。
 ――向けられた感情が「憐憫」であることを、幼児はまだ理解できない。

「ひとのむれって、なに」
「おぞましいものです。穢れてしまいます。ああ、おぞましい」
「……」
 うわ言のように繰り返す母の拘束から、アダレムは身をよじって何とか逃れる。四つん這いになって、窓から床に形を成す光を求める。
 日差しが暖かい。それでも、涙はすぐには乾かなかった。

 人は生まれ育った区域を飛び出て初めて、世界の広さを知ることができる。
 では狭かった世界が更に狭まった時、人の心はどう歪むのか。
 少年は、言葉もなく悠久の空を見上げ続けた。

_______

 嫌な空気だ、とエランディーク・ユオンは真っ先に感じた。
 いつものように自身が煙たがられるのとはわけが違う――宮殿の庭や内なる通路を歩く面々からは、別種の緊張が感じ取れる。
 それこそ、裏山に面する門から現れた珍妙な一行を誰も疑問に思わない程度には、意識が他に向いているらしい。

 とりあえずエランは近くの会話に耳をそばだてる。
 知らぬ間に足を止めてしまったのか、背後の騎士たちから「公子?」と不審がる声がした。何でもない、とエランは無難な笑みを浮かべて再び歩き出す。

(大公がいよいよ「危篤」――)
 ひそひそ話だったので部分的にしか拾えなかったが、どうやらそういうことらしい。
 掌に滲む汗に気付かないふりをする。
 いつしか右方に現れていた人影に、軽く会釈した。

「お帰りなさいませ」
 そう迎えてくれたのは他でもない、ヌンディーク公国の宰相の座にある男だ。
 瘦せ細った長身で背中はやや曲がっているため立ち姿に覇気を感じられないが、齢五十を超えても未だに褪せる兆しを見せない眼力と長く黒い顎鬚が、彼の印象を思慮深い賢者のものとする。
 一度深く腰を折り曲げてから、宰相はよく通る声で言った。





お待たせしました。
とりあえず私は二度と宮廷ものを書かないぞと早くも固く誓っていますw

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06:18:37 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
七話のあれ
2017 / 09 / 13 ( Wed )


それなりに満足しているのでブログにも載せ。
でも色を塗るほど満足しているのかはちょっと不明。

ていうか私のお絵かきって、脳内(作中)のいろんな構図を眺めたい欲求がまず先にあって。宣伝画像に使えるまでの盛り付けに至るまでにモチベーションが消滅してしまうのですよねw 線画? 色? 加工? 私程度の腕では悲惨よ?

なんとかしたいけど、それより構成組んで執筆してろって感じですね。


誰か代わって(⋈◍>◡<◍)。✧♡ 
(どっちを? は敢えて沈黙させていただこう

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22:05:51 | | コメント(0) | page top↑
紫に偏りすぎている
2017 / 09 / 11 ( Mon )
私の個人ツイッターを見ている人はご存知でしょうけど、先週ちょっとお絵描きをしていました。宣伝用に口絵的な何かが欲しくて三話の場面をね。

変遷↓ 三番目と四番目はPaintschainerを使いました。どれもちょっと好きでちょっと物足りなく思っていますw つたない線画なのでいないと思いますが、塗ってみたいよって人はどうぞどうぞ。




ついでと言ってはなんですが、黒赤をアルファポリスのファンタジー大賞にエントリー中です。応援してもいいよって方は以下のURL先の左側の投票ボタンからどうぞ。私は、まあ作品が多いので、貴重な三票を大事に取っているんですけどねw まだ誰に入れるか未定。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/783140241/360118997

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23:35:22 | | コメント(0) | page top↑
九 - g.
2017 / 09 / 10 ( Sun )
 強く押し付けられたのは刹那のことで、唇は間もなく離れた。
「必ず、帰る。私は果たせない約束はしない」
「うん」
 それきり、幸せはするりと腕の中から抜けていった。もう少し、と望んでも、冷たい風が吹き抜けるだけだ。
 去り行く者はやがて馬上の人となり、兵と共に一列に防壁の門に向かって降りていく。

(あは。これか、恋愛感情)
 この局面で自覚してしまうとは、何と悲しく切ないことだろう。セリカは掌で額を押さえた。
(世の中の皆さんは、どうやってこれを抱えて生きていけるの)
 女の一生は忍耐――母が昔そう言っていたのは、こういう意味だったのだろうか。よくわからない。
 袖で目元を擦ると、セリカは顎を引き上げた。今は感傷に浸るべき時ではない。

「あの塔で間違いないのね」
 未だ陰に潜む女性に向かって問いかける。女性は音も立てずにセリカの傍に来ると、頭を下げて答えた。
「はい。表向き、アダレム公子はご気分の優れない母君に付き添って部屋から出ていないという話になっておりますが、我が同胞が調べましたところ、塔にて幽閉されていると判明いたしました」

 密使の彼女が革手袋に覆われた指を指す。塔は防壁の角に位置しており、門からもそう遠くないように見える。
「わかった、行きましょう。段取りはあなたに任せるわ」
 御意にございます、と密使は小声になり、潜入する為の作戦を綴った。


 ――兄弟を嫌うのに深い理由は要らない。
 自分よりもよくできた姉妹を少なからず妬みながら育ってきたセリカには、その言葉の意味が身に染みてよくわかっていた。しかし嫌う感情だけでは、相手を死に至らしめるまでに行動するには至らない。
 その二つの事項は容易に結びつかないはずである。いわば、憎しみの進展が必要なのだと思われる。

 ではハティル公子の、弟を害したいという感情のふり幅はどこにあるのか。少なくともアダレムが生きている限り、それが希望になる。
 しかもアダレムはまだ柔軟な年頃だ、命まで奪わずとも如何様にも誘導・洗脳できうる。ハティルは、ただ一人の弟を飼い殺しにするつもりかもしれない。

(本人を誘導できても、背後にいるはずの母親や親族はどうだろ。アダレムとハティルは母親が同じだから、いざとなったら母親はどっちに味方するかしら)
 人望がどうと言うには二人の公子はまだ幼い。逆に、傀儡化できそうな公子を担ぎ上げるのが妥当と考えられる。
(まあいいわ。誰が立ちはだかっても、あたしはやるべきことをやるだけよ)
 セリカは密使の方を向き直った。互いに、一分の隙も無い黒衣に身を包んでいる。

「殿下が門を通る隙を狙って、潜入します。私に続いてくださいませ」
 彼女の手にある道具はゼテミアンでは見たことのない類の物だ。武具、なのだろうか。腕にはめる何かのからくりのようで、先端に大きな三つ又のフックが付いている。
 その道具と長い縄を持って彼女はすたすたと急勾配の方へ歩いた。大木に縄の端を縛り付け、残りを空いた腕で抱える。これらで防壁に至るまでの「橋」を架けるのだそうな。
 後はエランが門番と話し込む頃合いを見計らうだけだ。その間に密使の横に立って、セリカは口を開いた。

「ところで、呼び名が無いとやりづらいわ」
「では私のことは、ハリャ、と。あとこちらをお持ちください」
 無機質に言ってハリャは腕の仕掛けを解放した。フックが空を切り、遥か遠くの壁の縁に引っかかる。
 かしゃん、とからくりが大きな音を立てた。かと思えば、ハリャは地を蹴っていた。

 振り子の要領で彼女は山と防壁の間を見事に超えて見せた。
 だが油断はできない。
 セリカは視力が良い方だ。運悪く屋上通路を通りがかった兵士が気付いて駆け寄り、ぶら下がる彼女を蹴り落とそうとしているのが見える。

 弓に矢を番えつつ、自分に射抜ける最長距離を思い浮かべる。正直ちゃんと届くのか、ちゃんと狙えるのか、ここからでは怪しい。
 弓弦の張力を全身で感じる。手が微かに震えている――当然だ、人を狙うのだから。
 束の間、瞑目した。

 再びハリャの危機を視界に入れ時には、セリカは賭けに出る為の覚悟を決めていた。
 狙い、放つ。矢が僅かな風切り音を背負って飛ぶ。
 余韻に震えながら息を止めていた。警備兵が仰け反り、倒れるのを見届けるまで。

 次に、人を殺したかもしれないという事実に怯え、狼狽した。
 そんなセリカの葛藤などお構いなしにハリャは壁をサッサと登りきる。手頃な突起を見つけて縄を縛り付けると、こちらに向かって手招きしてきた。

 戦々恐々と例の縄を見下ろした。
 太くて頑丈そうだった。セリカ一人の体重くらい、支えるに足るかもしれない。
 そして先ほど「お持ちください」と渡されたのは曲がった小さな鉄塊。両腕に嵌めて使うものだと、ハリャに教えられた。
 心の中で神々と聖獣に短い祈りを捧げ、大きく息を吸い込む。

(こんなこと! 絶対! 二度としないからね!)
 風が衣服を激しくはためかせる。手足がひどく重い。
 落ちる。落ちる、そのことを意識したくなくて目を閉じたら余計に気分が悪くなり、空を仰ぐことにした。疎らに煌き始めている星々の輝きが慰めだった。

 ――味わった恐怖は度を越えすぎていて、状況を楽しむ余裕も無くて、後に思い出したり語ったりしたくないようなものだった。

 転がり込むようにして着地した。打った後ろ首をさすりながら、セリカはなんとか起き上がった。
 ハリャがひとりで数人倒したのだろう、そこには既に戦闘の痕跡があった。セリカが射た者含め、皆ぼそぼそと呻いている。誰も殺していなかったことに、こっそりと胸を撫で下ろした。

「こちらです!」
 彼女が先導する方へ続く。二人でしばらく通路を進み、塔へ入り、階段を駆け上がった。カビの臭いがどんどん濃くなる。
(生きていてよ。無事でいて、お願い!)
 果たして、最悪の結末を撥ね退けられるかは知れないが。

 アダレムはエランが怖いと言った。だから彼を迎えに行く役目は、セリカが請け負うことになった。
 息も切れ切れに、セリカは思い浮かべる――リスを追いかけていた天真爛漫な幼子のことを。
 ただ一心に、あの元気な在り様が保たれていることを願った。





Ziplineを嗜む系プリンセスw 鉄塊は手首っていうか腕を支える良心的な仕掛けなので脱臼しません(ファンタジー)でもしょせん次の日は全身筋肉痛。

ついに恋愛らしい恋愛に踏み出しました二人ですが、そこですかさず水を差すのが作者です。

九話は一応ここで終わりのつもりです。いきなり気が変わって構成いじりたくならない限りw
十話からは多分視点がくるくるします。乗り物酔いにご注意ください。

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12:55:14 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
拍手御礼ログ 16~20
2017 / 09 / 07 ( Thu )
間が空きすぎ問題。(滝汗


ものすごく久しぶりに拍手お礼を替えたいと思ったのよ。
そういうことなのよ。

あ、黒赤9話は多分あと残り1、2記事で終わるんじゃないかなって思ってる。もしかしたらgが異様に長くてそのまま終わるという可能性もw


では続きはログになります。



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03:15:34 | 余談 | コメント(0) | page top↑
九 - f.
2017 / 09 / 06 ( Wed )
 腹の決まった者に向けて「行かないで」とも「連れてって」とも、ねだってはいけない。
 足を引っ張りたいわけではないのだ。それでは、共に歩む伴侶たりえないだろう。
 人々が遠ざかる。送ってくれるという密使の女性は離れた位置の木陰にいつの間にか身を潜めていて、セリカはその場に取り残されたように立ち尽くした。

 言葉にできない、悶々とした想いを持て余している。急に頭を覆う布が暑苦しく感じられた。乱暴に脱いで、手癖で髪を解いて結い直す。
 己の長い髪すら煩わしく思えてくる。それゆえか、ひとり戻ってきた青年が不満そうな顔をしているのを見て、セリカは彼が何を考えているのかすぐにはわからなかった。

「そんな風に引っ張ったら傷む」
「構わないわよ、傷んだら切ればいいし」
「そう言ってやるな」
 なんとエランはどこからともなく大きめの櫛を取り出した。そんなもん持ち歩いてるの、と訊ねている間に背後に立たれた。

「髪、触っても」
「いいわ」
 こちらが答えるが早く、軽やかな音が頭蓋に響いた。木製の櫛だ。くせだらけのセリカの髪を優しく梳く感触は心地良く、絡まった箇所を解く手付きは手慣れている。
 ――あのリューキネ公女と比べたら毛が太く扱いづらいだろうに。

「持ち歩いているというより、道中で買った」
 今頃になって質問の答えが落ちてきた。
「髪短いのに櫛なんて使うんだ」
「使わない」
「え」
 間があった。一方、セリカは首筋をくすぐる感覚に身震いしないように必死だった。

「お前の為に買った」
「そうなんですか……ありがとう……?」
 またモヤモヤとした感情が胸の奥で渦巻く。嬉しいのに喜べない、その原因は知れているのに。
 伝えなきゃと思えば思うほど、息が苦しくなる。

「って、ちょっと。編んでませんか」
 気が付かない内に、梳く感覚が何か違うものになっていた。
「ついでだ」さすがに彼は手慣れている。三つ編み一本を作り上げると今度はそれをくるりと巻いてまとめ上げ、仕上げに櫛を挿して固定した。「これなら動きやすいだろう」
 満足そうに笑んでいるエランに、セリカは苦笑交じりに礼を言った。それから深呼吸する。

「じゃ、気を付けて。また後で、ね」
 後でどこで合流するかは、実は定まっていない。
 次があるのかわからないという誰かとの別れに、こうも後ろ髪を引かれる想いをしたのは初めてだ。望めば腕が届くようなこの距離に、空気感に、浸るようにしてセリカは青灰色の瞳を見つめた。

「ああ。お前の方こそ気を付けてくれ」
 絡まった眼差しは、ほどなくして切れた。
 裾がたなびく。足音がする。数歩と歩き出した背中に、セリカは衝動的に呼びかけた。
 振り返った顔には、これといった感情が映し出されていなかった。

「あ、あのね! あたし、嬉しかったよ」
 つっかえそうになる言葉を頑張って押し出した。
 宵闇の中、無表情に僅かな驚きが射しこむのが見える。
「あんたがあたしの運命で――うれしい」
 その想いを口にした時、胸の中でたとえようのない温かさが広がった。次いで微笑んだのも、きっと衝動だった。

 ――伝わって欲しいのはこれだ。
 巻き込んだと、彼は思わずにいられないのだろう。巻き込まれて、嫌な感情が全くなかったとセリカには断言できない。
 けれどもそれを凌駕する何かがある。困難に一緒に立ち向かうことに、充足感のようなものが伴うのだ。他の誰でもない、この人の戦いに。果てまで付き合いたいと、今なら言い切れる。

 瞬間、より深い驚きが青年の面差しを埋め尽くした。
 かと思ったら、セリカの視界の中で布が動き、影が近付いた。
 両肩を圧迫する力にハッとなる。抱き締められたのだと気付いて、呆気に取られたこと、数秒。

「あまりそういうことを言うな。離れがたくなる」
 耳元で囁いた声は掠れていて熱っぽい。つられて熱に浮かされそうだ。
「……反省します」
 寂しいのは自分だけじゃなかった、エランも何かを我慢していたのだ、と思い知った途端に肩の力が抜けた。セリカに同等の腕力は無いが、負けじと強く抱き締め返す。自然と瞼が下りた。
 これ以上にないくらいに相手を近くに感じられる――

 ――これ以上は、ないのか?
 脳裏に奇妙な疑問が沸き起こったのと「もっと触れても」の問いが耳朶に届いたのは、ほぼ同時だった。
 セリカは自身がどう答えたのかを知らない。喋る為の器官が動いて何かを答えたらしいのは、わかる。

 唇を閉じる寸前、そこに柔らかく温もりが重なるのを感じた。




ほぼ二年ぶりって具合に拍手お礼を更新しました。
何故こんなに間が空いたのかはもはや謎です。

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23:59:38 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
九 - e.
2017 / 09 / 04 ( Mon )
 何を、と問おうとして、途中で考え直す。なんとなく心当たりがあった。

「怖いの?」
「……ひとりの人間が全てを捨ててまで寄り添う甲斐が、自分にあるとは思えない」
「それを決めるのは、あたしだからね」
 エランから「結論」を言い渡された朝の記憶がまだ新しい。それは結論であり、申し込みだった。

 ――ゼテミアン公国第二公女、セリカラーサ・エイラクス姫。私がこれから歩もうとしている先に、希望があるのか破滅が待つのかは知れない。私の持ち札はあまりに少ない。与えてやれるものは何も無いし、幸せにしてみせるとも約束できない。
 ――それでも共に歩んではくれないだろうか。泥の中を這うような人生でも、お前が居てくれるなら、耐えられそうだ。

「手かして」
 ありったけの威圧を込めて右の手の平を差し出した。エランは躊躇いがちに応じた。
 重なる手の温かさに、ほっとした――時にそれはどんな不安や恐怖をも忘れさせ、時にごく平凡な風景をも輝かせる。セリカは被り物の下で頬を緩めた。
「なんにもないって、そればっかり……正直すぎよ。ま、好きだけどね。そうやってかっこつけないとこも」
 指を絡めて、握る。捕まえた青年の指はまず強張った。次第に解れて、握り返してくる。

「あたしの気持ちは変わらないわ。後悔なんて、しない」
「…………」
「あ、今笑ったでしょ。見えなくて残念だわ」
 目尻の雰囲気が柔らかくなったのは確かである。
「こんな顔で良ければ後でいくらでも見せてやる。飽きるまでな」
 答えた声はいかにも可笑しそうだ。これから一生付き合うのに、飽きたら困るなあ――とセリカがポツリと漏らせば、エランは声に出して笑った。

________

 ムゥダ=ヴァハナに連なる裏山にて夜を迎える。
 セリカは手頃な樹木に片手をついて支えとし、これより向かう先を眺め下ろした。曇り空のため、日が暮れ切っていなくても辺りがやたら暗く感じられる。

 都を守る強固そうな防壁は、思いのほか高くなさそうだ。角の物見やぐらにのみ明かりが灯っていて、壁際の通路は基本的に暗い。巡回する衛兵の装備や数を遠目に確認した。

「片手で数えられる程度しか居ないわよ」
 振り返らずに、背後から現れた気配に向けて話しかける。
「ああ。ほとんど矢狭間(アローループ)が設置されていない。こちら側から攻め入られる可能性が極めて低いと認識されているからだ」(アローループまたはスリット=外敵に矢を射る為の隙間)

 セリカの隣に並んで、青年はそう付け加えた。
 全て想定した通りだ。都の裏手の山は険しく、遠回りとなったが、その代わり虚を突くことが叶う。エランはこの山を抜けた経験が何度もあるらしく、最も効率良く進む道を熟知していたのである。
 第五公子は変装をやめて、以前の様相に戻っている。ターバンから垂らした布で顔の右半分を覆い、動きやすそうな服装に着替えていた。

 ――別れて行動する刻限が迫っている。
 そのことを思うと、セリカは落ち着かない。気を紛らわせたくて肩にかけた弓を指先で撫でたりした。
「人を射たことはあるか」
 ふいにエランが問いかけた。
「ない、と思う」
「そうか。これからもそうであれば、いいな」
「うん……」
 労わるような優しい声にたまらなくなり、目頭に涙が滲んだ。

 怖い。けれどそれ以上に、離れるのが嫌だった。別れたらそれが最後になるのではないか――。
 ほどなくして暗い視界の端に一層黒いものが浮かび上がった。「彼女」はいつぞやのようにエランの前に跪いて、報告をする。大公、ハティル公子、それにアダレム公子についてわかったことを。
「アストファン公子に動きが見られませんが、監視に気付いて敢えてそうしているようにも解釈できます」
「……わかった。監視の目をかいくぐられるかもしれないのは気がかりだが、仕方ない」
 エランは頷いて、踵を返す。イルッシオに借りた兵の方へ足を運び、支度をするように呼びかけた。

「お供いたしましょうか」
 密使の申し出をエランは即座に断った。
「いや、必要ない。ハティルが父上の『見舞い』に行っているというなら、私がそこに向かうのも便宜上は問題ない。それよりお前は、セリカ公女を送ってくれ」
「承知しました」
 黒づくめの女性がこちらに向いて頭を下げる。

 セリカの胸の内に焦燥感が沸いた。ここ数日ですっかり見慣れてしまっていた横顔が、もはやこちらを見向きしない。
 深い青の耳飾が揺れるのを目で追った。「待って」の一言が、喉でつっかえる。

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九 - d.
2017 / 09 / 01 ( Fri )
 先にイルッシオが両手で長剣を振るう。
 セリカは本能的に後退った。
 あれは刃物としては鈍い分類で、敵に叩き付けるようにして切るのが主流だ。軽装備のエランにまともに当たったら、骨折はまず免れない。

「やめてよ!? ああもう、お兄さんのバカ! 脳筋!」
 停止を呼びかける悲鳴、むなしく。セリカの目前で火花が散った。
(熱っ……!)
 頬に、刹那的な熱が弾ける。それとひどく耳障りな音が響いている。
 鉄と鉄が擦れる音だ。
 左手に持ったナイフを長剣の側面に滑らせながら、エランがイルッシオの懐に飛び込む。

(左手?)
 セリカが疑問に思った一瞬の内に、黒い衣がしなった。それは鞭のように甲冑の騎士の両腕に巻き付き、動きを封じる。剣先が地に突き刺さった。
 すぐに布を手放して、エランは左足でイルッシオの腕を踏み台にし、右膝で顎下を蹴り上げた。衝撃音と共に、土埃が舞う。
(何今の!? すごっ! 超かっこいい!)
 不謹慎ながらセリカは興奮した。弟の実力を知っている姉としては、イルッシオがこんなに早く倒されるのを見るのは新鮮である。

「あの体勢から飛び蹴りって、やりますね。隻眼も身長も体格も不利だとわかってて他で補うとか、潔くていいっすね」
 と、イルッシオがのんびりと称賛する。立ち上がろうとする彼に、エランは手を貸した。
「まぐれです。膂力も体力もあなたに敵わないと踏んで、早々に奇策に出させていただきました。十回勝負すれば、九回はそちらが勝つでしょう」
「ご謙遜を、義兄(あに)上。今の一回が全てだったんすよ」
 二人は何食わぬ顔で向かい合う。始まりと同じくらい唐突に、終わってしまった。

「あんたって右利きな気がしてたんだけど」
 ふと思い出して、セリカは先ほどの疑問をエランに指摘した。
「生来そうだ。片目になってから不便で、左もある程度使えるようにした」
「へえ。努力家ね――……じゃなくて、もう決着でいいわけ?」
 どうも二人ともこういったことの勝敗にこだわらない性分らしい。セリカの問いに、イルッシオは肩を竦めた。次に、エランが口を開く。

「ひとつ訊ねても」
「何すかね、義兄上」
「あなたの一行には武装した兵が何人いるのでしょうか」
「重装備の騎兵が八人、練度は上の下ってとこですかね。何故?」
「貸していただけないだろうかと」
 イルッシオはゆっくりと瞬きだけを返した。セリカも、何言ってるの、と視線でエランに訴えかける。

「ルシャンフはともかく、私は公都に兵を置いていない。宰相の手助けにどれほど期待できるかわからない現状、選択肢は多く持った方が賢明だ」
 と、エランはこちらを見て答えた。
「浅慮じゃないっすか。他国の人間だからと言って、貴殿のお家騒動に手を染めていないって言い切れないでしょう。俺が敵と手を結んでたらどうするんです」

「はて、姉の無事を確かめる為だけに馬を急がせた公子が、そんなことをしますか。あなた方にとっての『きょうだい』は、私の知るそれとは性質が違うように感じます」
「そうでしょーね」イルッシオは首を左右に巡らせて、バキボキと鳴らした。「でも他国の兵を引き連れて都に入るのは外聞悪そうですよ」
「落ちるほどの評判を持ってません」
 今度はエランが肩を竦める。イルッシオは値踏みするように目を細めた。

「アウグロン兄上はかわいい妹姫が妙な輩に誑かされたと心配で気が気じゃないみたいですが、俺は人を見る目はあるつもりっす。姉上は、誑かされるようなお人じゃない。貴殿を随分と信頼しているようだ」
 そう言って彼は右の籠手(ガントレット)を脱ぎ、指笛を吹いた。二分ほど経つと、複数の馬蹄の音が響いた。

「てことで、いいですよ。貸します」
「待ってイルッシオ、あんた自身は護衛どうするのよ」
「大丈夫ですよ。他に練度・上の上の精鋭が二人居ますんで」
 彼は親指で背後を差した。なるほど、指笛の呼びかけに応じた騎兵の数は先ほど聞いた「八人」ではなく、十人だ。

 そうだった、この男はこういうしたたかさを持ち合わせているのだった。最初からこの人数を連れて来たのにも、意図があったかもしれない。
 話はあっという間にまとまり、別れの挨拶に移った。

「ご安心ください、姉上。父上たちは何も知らないままです。うまくごまかしますから」
「お兄さんによろしくね」
「はい。身の回りが落ち着いたら、ぜひ二人で挨拶に来てくださいよ。バルバも兄上も待ってます」

「必ず行きます。ありがとうございました」
 と、エランが深く礼をした。
 去りゆく三騎と一羽を見送った後に、セリカは大きく息を吐いた。すると隣の青年から気遣わしげな視線を受けた。

「目まぐるしくてちょっとついていけない。行き当たりばったりだわ……」
「臨機応変と言ってくれ」
「そうね。エランってリーダーとしては混乱の時代をうまく乗り切りそうだけど、平穏には向かないかもね」
「大公やってみたら? なんて言ったら、怒るぞ」

「言わない言わない」
 否定に手を振る。エランは黒い布を頭から被り直し、目だけをこちらに向けた。青灰色の瞳に、深刻そうな光が宿っている。

「気が変わったか」
「え?」
 訊き返すと、いつになく弱気な声で彼は「後悔しているか」と囁いた。




長髪美形=悪 に続き、 弟=曲者 という謎公式まで…。ち、違うもん、イルッシオはリーデンとは違うもん(;'∀')

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23:08:48 | 黒赤 | コメント(0) | page top↑
九 - c.
2017 / 08 / 29 ( Tue )
 他に何て言ってやればいいのかわからない。気を揉んでいる間に、エランが口火を切った。

「顔の傷痕がどうやってできたか、聞きたいか」
 不意打ちだ。セリカはどもって答える。
「き、そりゃ教えてくれるなら、もちろん知りたい……けど、あ、後の方がいいんじゃないかしら。移動が先決よね?」
 言い終わってから、急かしているように聞こえただろうかと気がかりになった。

「それもそうだな」
 ところがエランはあっさり同意した。ほっと胸を撫で下ろして、セリカも支度にかかる。
 もっと休んでいたいと駄々をこねる馬を宥め、まさに騎乗しようと鐙(あぶみ)に足をかけた瞬間。また、鳥の鳴き声が響いた。

 無視して出発できれば良かったのだが、エランの首は既に声のした方を向いていた。渋々とセリカも同じ方向に注目する。
 隼に猛追するのは、コンパクトな外観の白馬と、甲冑姿の騎手。その男は真っすぐにこちらを目指して駆ける。

 馬蹄が土を散らすさまをぼんやりと見つめ、どうしたものかと一考する。ここまで迫られてはもう選択肢が限られている。
 ある程度の距離を開けたまま、男が馬を降りた。その時を待っていたかのように、隼が彼の腕に華麗に降り立つ。

「ご婦人方。お訊ねしたいことがあるんですが」
 男は会釈し、毅然とした態度で問いかけて来た。無意識にセリカはエランの背中側の裾を掴んだ。
(エランが答えたらご婦人じゃないってばれる)
 敵意が無いとの表れだろう、男は鉄兜を脱いで見せた。

 そこに、しばらく目にしていない類の顔立ちが現れた。四角い輪郭と太めの首、白い肌と色素の薄い唇。全体的に彫りの深い印象で、眉骨がやや吊り上がって見える。短く整えられた濃い茶色の髪は、巻き毛よりもくせ毛という表現が似合う。
 ヘーゼルに彩られた目は直線を繋いだみたいな角ばった形で、そう、ちょうどセリカ自身のそれと雰囲気が似ている。

「イルッシオ」
 しまった、と口元に手をやった時には遅かった。名を呼ばれた青年は複雑そうに目を眇める。
「面白い格好ですね、姉上」
「うっ、うるさいわね。これにはランディヴァ湖よりも深い理由があるの。それより何であんたがいるのよ、オクタヴィオが飛んでたからお兄さんが来たかと思ったじゃない」

 身内だとわかった途端に互いに口調が崩れた。
 ちなみにセリカに指をさされたオクタヴィオは、くりっと鳥類特有の動きで首を傾げてから、我関せずといった具合に嘴で羽を整えている。

「まさか。アウグロン兄上はご多忙の身っすよ、だから代わりに俺が迎えに来たんじゃねーですか」
「あんたひとりで?」
「他は離れた場所で待たせてるっす。ぞろぞろ大人数を連れて現れたら、姉上は話も聞かずに逃げ出すでしょ」
「さすが我が弟、よくわかってるじゃないの」

「姉上は我が強いですから、大抵の使者には聞き耳持たずに追い返してしまうからと、わざわざこの俺が出向いたわけです。愛されてるっすねー。兄上も人使いが荒いですよ。これじゃあいつまで経っても、遊んで暮らす夢が実現できない」
「またそんなこと言って……お兄さんにパシられるの楽しいくせに」
「楽しくなんてねーです、よっと」
 イルッシオはふうとため息をついて、腕から隼を飛び立たせた。彼の視線が残る黒づくめの人物に流れる。

「『迎えに来た』……?」
 呟きながら、その者は被り物を脱いだ。明らかになった面貌は、考え込んでいるように深刻だ。
「あ、エラン、帰るわけじゃないから」
 反射的にセリカは弁明を試みる。

「『エラン』? では、貴殿が姉上の」
 イルッシオがその名に鋭く反応を示した。あろうことか、腰の鉄剣をスラリと鞘から抜いて構えたのである。
「ちょっとイルッシオ!? どういうつもり!」
「バルバティアが帰国しまして」
 剣先がエランの顎下に触れた。セリカは、ひゅっと心臓が縮まる想いがした。
 当のエランは瞬きひとつせずに冷ややかに応じる。

「侍女殿は、何と?」
「バルバの話はどうも要領が得られなくて……それは置いといて。要するに、我が国の大公世子は頭より筋肉でものを考える傾向にありましてですね。姉上が体を張ってでも傍に居たかった御仁を――そうするに値する人間かどうか、見極めて来いと俺に命じたわけです」
「…………わかりやすくて何より」
 気が付けばエランまで、あの曲がったナイフを抜き放っていた。

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