ほねがたり - b.
2023 / 01 / 18 ( Wed )
 実は、と彼女は手の指を組み合わせてから切り出した。
「ヲン=フドワも呼んであるの」
「なるほど。土と大気の記録を辿るためだね」

 大気と風を操れるヲン=フドワもまた、ロウレンティア神殿に坐す神霊の一柱である。そしてネママイアの霊力は人の精神に働きかけたり未来を垣間見るのに対し、クヴォニスのそれは土と結びつきが深い。
 なんとなく話が見えてきたところで、クヴォニスは席を立った。

「庭に出よう」

 彼が宣言し、ネママイアは頷く。そこに数人の供を連れて、彼らは建物の外へ出た。



 屋外は、風が強かった。髪をゆるくひとつにくくっていたクヴォニスは頭巾を締めてしのげたが、ネママイアのまっすぐでサラサラな髪は視界を妨げるほどに乱れている。

「なんとかしてくださいな、ヲン。あなたの仕業でしょう」

 ここは狭間の空間。天候とは幻、島の日々の天気と連動こそしていても、神霊たちにとっては背景のようなもので、たとえばどんな台風も実害はないに等しい。だからこの風は意図的に起こされているものだと、クヴォニスたちはすぐに思い至った。

「ちょっと待ってくれなァ」

 何故か庭の樹に、青年がひとり、しがみついていた。彼はそのまま太い枝の上までよじ登って腰を落ち着けると、地上の者らに向かって明るく手を振った。たったそれだけの動作から巻き起こった微風は、ひんやりとしている。
 物質界のマスカダイン島がいま、初冬にあることをクヴォニスは思い出した。

「そこでなにをしているのかね」
「己の手足で高く登るコトでしか、出せない脳汁があンだよ」
「のうじる……快楽を感じさせる分泌物のことかしら」
「おう、オメェらもやってみっか?」

 クヴォニスとネママイアは顔を見合わせ、揃って頭を振った。
 ザンネン、と木の上の青年は軽やかに笑って、秋風に舞う木の葉のようにふわりと地に降り立った。人の姿をしていながらまるで重量を感じさせない身のこなしはいつものことである。


みじかめ。
あけましておめでとうございます!!!(遅い

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