ほねがたり - c.
2023 / 02 / 07 ( Tue ) 風が止んだ。 登ったばかりなのにもう降りていいのかと問うと、ヲン=フドワは満足げにうなずいた。「探してた空気を見つけられたからなァ。共有してくれ、ネママイア」 「わかったわ」 「待ちたまえ、それは二度手間となろう。土の記憶と合わせて物語を組み上げよう」 「おっ、クヴォニス、オメェ頭良いな」 「だから褒めても何も……いや、ありがとう、と言っておこうか」 早速クヴォニスは地面に片手片膝をついた。この狭間の空間の土を通して、物質界の事象に触れるためだ。 地中に這う生命に連なる、土の精霊を手繰り寄せる。それは彼の手足の先のようであり、吐いたばかりの息のようでもあって、今なお神霊クヴォニスと存在を分かち合うものだ。 彼らの持つ断片をかき集め、右手に集中させる。淡い光が散ってしまわないようにクヴォニスはそっと拳を握ったまま、立ち上がった。 「こちらも準備ができたよ」 手繰り寄せたものたちをネママイアに渡す。ちょうど手のひら同士を重ねる形になった。 同じく、少女のもう片方の手を、ヲン=フドワが取った。青年の腕周りで舞っていた風が、繋がれた手に向かって収束する。 ヒヤシンスの花に似た青みの混じった紫色の髪が、ネママイアの神力を通して微かに振動しだした。それをクヴォニスが視認した途端。 大空に沈んだような錯覚に陥った。 (これを経験するのがひとの身だったなら、さぞ矛盾だらけに感じるのだろうね) 本来「上」にあるはずのものが真横にあったり、「下」にあるはずの何かが己の内側にあったり。 おそらく、気持ち悪いとすら感じるはずだ。五感がぐちゃぐちゃにされて、情報過多に精神が押し潰されかねない。そうならないようにネママイアは力を制御してやったかもしれないが、神霊であるクヴォニスとヲン=フドワにそのような配慮は必要なかった。 やがて断片が物語を構築する。 物質界に生きる人間たちはある日、森の中に――倒れた大樹を見つけた。 ロウレンティア神殿に仕える巫女数人がそれを取り囲んでいる。大樹がいつからそうなったのか誰もわからないらしく、再生できそうな状態なのか諦めて薪にすべきか、皆で論じ合っているらしい。しばらくして、再生はできそうにないということで話がついた。 ところが巫女たちが木を掘り返してみたところ、根本に骨が絡まっていた。 ひとりのものではなかった。ふたりーー或いは。 破片を細かく分け、骨を何度か並べなおしても、できあがった骨格はどれも小ぶりだった。 「赤子と猫……」 |
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