53.f.
2016 / 02 / 23 ( Tue )
 彼らの視線を最後に引き寄せたゲズゥは何も反応しない。
 なんとなくミスリアは傍らの青年、もう一人の護衛を見上げた。こちらに気付き、どうしたのと緑色の瞳が問う。

 なんでもないと頭を振った。
 ジュリノイの四人は彼とも、あの双子とも少し違う。正確に何が違うのかまではわからない。むーっと口元を引き結んだまま、ミスリアは荷物をまとめた。

「邪魔が入っちゃったね。資料から何かわかった?」
 資料とは、過去のニュース記事の模写(コピー)を指している。図書館の係員に頼んで書き写してもらったのだった。
「あまり……。数年前に慰問に訪れた聖女の記録はありましたけど、名前までは残ってません。首都に長居したわけではないようです」

「しょうがないか。次は、連合に行くよね」
「はい」
 近隣の連合同士の情報網なら、ハリドきょうだいのことくらいは探れるのではないかと考えてのことだ。三人は魔物狩り師連合拠点に向かって歩き出した。

「教団の方は、申請が通るまでどのくらいかかるんだろうね」
「わかりません。早くても一月かと」
 姉のカタリアがこの国のどこかから送ったらしい報告書には、すぐに目を通すことはできない。
 聖人・聖女個人からの旅路の報告書は任意で提出されるもので、保管場所である教団本部からは持ち出せないルールとなっている。それも、実際に本部へ足を運んだとしても読めるようにまでには手続きが必要だ。

 人手が足りない教団のことだ。手続きだけで数週間はかかる。
 ひとまずはこの町の教会を伝って閲覧申請を出した。一月半ほど待って本部を訪れれば、ちょうどいい頃合になっているだろう。

_______

「ハリドきょうだい……ハリド? ああ! 知ってるよ」
「本当ですか!?」
 待合室のソファの上で、ミスリアは上体を乗り出した。

 拠点の名簿に二人の名が無かったからと、手当たり次第に訊ねて回って八人目。やっと当たりが出た。
 向かいのソファの男性が思い出すように視線をさまよわせて、腕を組む。
「首都の籍じゃなくて辺鄙な町の話さ」
 なんでも彼は元はその町に住んでいた時期が長かったと言う。

「あそこは魔物出没率の高い町で、それでいつの間にか魔物狩り師が集まってたんだ。懐かしいなぁ。兄貴はぶっきらぼうだけど根はいい奴で、めっぽう強かった。妹さんは女の子なのに構わずにどんどん任務に出てくしさ。どんなに傷だらけになっても、いつ見てもとんでもない美人だったよ」
 男性は瞼を下ろしてうんうんと頷く。

「すごく優秀だったから、聖女さまの護衛に抜擢されたってな。最後に聞いたのはそれだけだよ。あいつらが戻る前に、おれは首都に移住したからどうなったかは知らんな」
「彼らの一行にはもう一人、護衛が居たと思います。ご存知ないでしょうか」
「居たかなぁ。おまえ、おぼえてる?」
 彼は隣に座していた仲間の男性に問いかける。

「居た居た、いっつも機嫌悪そうな奴。なんて名前だったかな。なんか母音で始まって母音で終わってた気がする」

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