38.b.
2014 / 11 / 13 ( Thu )
「そうですね。あの、先に都に入って塔を調べようって予定でしたよね」
 ミスリアがリュックサックのストラップを調整しながら切り出した。早朝から歩き通しているため、ストラップの革が肩に食い込んで痛いのだろう。

「うん、今日は宿を探すだけで終わるかもだけど。ずっと移動してたから久しぶりにゆっくり休みたいでしょ?」
「はい……でも、もしも連日で氷点下になるようでしたら、沼地の方は凍ってしまって危ないのでは?」
「歩き回るのも辿り着くのも困難になるだろうな」
 ミスリアの意見に、ゲズゥが同意を示した。

「それはまあ、一理ある」
 リーデンは歩を緩め、考え込んだ。前もって決めていた、二つの聖地を訪れる順番を変えるべきか否かを。
 頭上では雪を運んできた白い雲が太陽を遮って、あっという間にまた気温が落ち始めている。

(冬は夕暮れが早くて困るね)
 視界の悪さによる行動の制限もさることながら、日が暮れると魔物が出現する。本来ならば際どい時間になる前に、結界に守られた安全地帯に入りたいものだ。

(とはいえ、沼に行くのも早いに越したことはないか)
 町中と違い、外の道は雪が積もっても誰にも手入れされずに埋もれたままになるだろう。周辺が既に凍り付いている可能性だってある。今の内に訪れないと、後日なかなか機会が巡って来ないかもしれない。

「じゃあここは二手に別れよう。荷物があると何かと面倒だろうし、僕とマリちゃんがロバと一緒にこの辺で待ってるよ。君らで行ってきて」
「それがいい」

 青年からは短い返事があった。なのに少女からの返事が無いのを不思議に思って振り返ると、ちょうど彼女はくしゃみを連発していた。五度目にもなると足元がふらついている。それを、ゲズゥが手を背中に添えてさり気なく支えた。
 ミスリアの茶色の瞳が潤んでいる。風邪に気を付けろとの忠告も、或いは手遅れだったのかもしれない。

「すみません。急に眠気が……」
 申し訳なさそうにミスリアは呟いた。それだとペースが遅くなって夜までには戻れないのではないか、無理をしない方がいい、そうリーデンは提案しそうになったが、それには及ばなかった。

 聖女の護衛第一号は無言で手を動かした――ミスリアの背中から荷物を剥がしてリーデンの方へと投げつけ、身軽になった彼女を横抱きにして抱え上げた。片手でサックを受け取り、片手で口元の笑みを隠しながら、リーデンは冷やかし半分の称賛を贈った。

「さすが兄さん、なんか色々不安だったけどもう解決したも同然だよ」
 魔物とやり合う時の肩に担いで走るのに比べ、横抱きはミスリアにとってはいくらか快適そうな運び方である。それにしても、兄がうら若い乙女を抱える姿は何度見ても笑える光景だった。

 ちなみに運ばれる当人は恥ずかしさに頬をほんのり赤らめている。

「場所わかる? 地図持った?」
「はい、持ってます。此処から北西に行けば着けるはずです」
「サッと行って帰ってくる」
 ミスリアとゲズゥはそれぞれ返答した。

「そ。なら、気を付けていってらっしゃーい」
 リーデンは適当に手を振って見送った。二人の姿が再び森の深い緑に吸い込まれて消えるのを見届けた後、道から離れてちょうどいい大樹にロバを繋げた。雪結晶はまだ質量が少なく、木の葉の下に居るだけで凌げる程度だ。

「さて、暇だね。あやとりでもしようか、マリちゃん」
 地面に携帯式絨毯を敷き、リーデンは胡坐をかいた。
『ご主人様、あやとり、へた』
 寄り添うように隣に腰をかけたイマリナが手話で訴えてきた。

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