はじめに読んでください
2030 / 12 / 17 ( Tue ) こんにちは。はじめまして。
甲(きのえ)といいます。色々なところで文字を投稿していますが、我が家はこのブログとこちらのサイトです: <http://nanatsukai.lv9.org> 少しでも楽しんでいただけると幸いです。 現在連載中:ゆみとミズチ、リグレファルナ 完結:聖女ミスリア巡礼紀行、きみの黒土に沃ぐ赤 「目次」カテゴリからそれぞれの作品の目次ページに飛べます。 ******* 代表作(?)「聖女ミスリア巡礼紀行」について。 アクションやら化け物やら組織やらいろいろ出ますが、元は単なる「旅する男女」を書きたくて練った話です。なお、多少の残虐非道な行為・発言または性的描写は含むかもしれませんので、15歳未満の方は閲覧を遠慮してください。 作品内に主張される信念や思想は私の脳から出たものであってもすべてを私が支持しているわけではありません。あくまでフィクションです。 ******* 初めていらっしゃるお客様はまずサイトの方のインターフェイスを試しに見て行ってください。本編は長いので最初はブログよりもサイト(または小説家になろう、カクヨムでも同タイトル同名義で掲載しています)で見た方が読みやすいと思います。ブログで読む方は下の目次記事へどうぞ。 どの記事も大体5分以内で読めるでしょう。 感想はコメント・拍手でも何でもどんと来いです お待ちしてます(・∀・) ではよろしくお願いします! ←検索サイト・ランキングに参加してます。よかったら押してください |
本編目次
2030 / 12 / 17 ( Tue ) 混沌に満ちた架空の大陸を舞台にした長編ダーク・ハイファンタジーです。
[読み返しガイド]
おまけ・番外編
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ゆみとミズチ
2029 / 02 / 15 ( Thu ) タイトルからおわかりかと思いますが、爬虫類要素を含みます。 苦手な方はごめんなさい。 「なくなよ。おいらが、ゆみをまもるから」 どこかで聞いたようなベタな約束を果たしに来たのは、自らを「みずち」だと言い張る謎の少年。 「きみはいつまで居座る気なの」 「ゆみが死ぬまでかなー。だってほっとけねーし」 「……それって、すごく長くない?」 どこにでもいそうな独身OLと、人間の姿かたちを真似た化け物の、【非】日常ファンタジー……? 第一章:みずちという子
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リグレファルナ ~鏡双子の金魚~
2029 / 02 / 14 ( Wed ) |
きみの黒土に沃ぐ赤
2029 / 02 / 13 ( Tue ) (きみのくろつちにそそぐあか)
あとがき 今夜、夫となる男と初めて顔を合わせる。 明後日、結婚式を挙げる。 そのはずだったが、物事は予定通りに進まず―― 波乱に立ち向かうか、安寧に逃げ戻るか。 選択の刻が迫る。 零、きみと求める自由 a b 一、ラピスマトリクスの涙 a b c d e f 二、咲かせる花 a b c d e f g h 三、危険な夜 a b c d e f g h i j 四、予定がない午前 a b c d e f g h 五、約束をつなぐ午後 a b c d e f 五と六の合間 abc 六、決断を迫られ ab c d e f g 七、善意のかがやき a b c d e f g h 八、整理と采配 a b c d e f g h 九、とんぼ返り a b c d e f g 十、渦に呑まれるなかれ a b c d e f g h i j k l m 終、きみと駆けはしる行方 a b c d e f 人物紹介 【これは聖女ミスリア巡礼紀行と世界観が繋がってますが、独立して読める恋愛ファンタジーです。流血沙汰や狂気、死などのダーク要素が出ますので苦手な方はご注意ください】 |
秋ですね
2024 / 09 / 28 ( Sat ) ハリケーンがどこぞの海岸に着陸しても、大雨が降ったってだけで我が家はぴんぴんしてます。ありがとうございます。
突然ですが、ずっと意味もなくためらってた小説家になろうXID発行をしてきたので、これで私はR18小説を投稿できるようになりました。 何を投稿する気かって? それは……書きあがってからの楽しみ……w 人外要素が一切ない、ただの(?)恋愛に挑戦しています。 これはね……楽しいよ! |
4-1. e
2024 / 01 / 16 ( Tue ) * 強烈な夢を見た。内容を断片的にしか覚えていなくても、ただの夢だと自分に何度言い聞かせても、胃の奥に残る嫌な感触は消えなかった。 (遅くまでネット検索してたからかな) 布団にくるまっていても寒さがしみ込んでくる夜は、いまは遠くに行ってしまった居候のことを思い出してしまう。眠りにつけず、スマホを眺めている時間が長くなる。 軽い気持ちで、インドネシアと蛇について調べるべきではなかった。 (ちがう。ナガメが、そういう目に遭うわけじゃないんだから) 半分飲んでしまったアールグレイを片手に取り、もう片方の手でマウスを繰り、ループにして流していた「心を落ち着かせるせせらぎの音」の動画を止めた。マグカップから、すっかり冷めてしまったお茶をすする。誰もいない部屋に帰る気になれなくて、連日、唯美子は職場近くのカフェにとどまっていた。 東南アジアは蛇革の産地だという。 大小さまざまな種類の蛇が、現地民に乱獲されては、残酷な方法で皮を剥がされている――どこかの記事にはそう書かれていた。動物愛護団体も爬虫類にはそこまで関心が無いのか、または蛇革を使ったファッション用品が高く売れるからか、売買を取り締まる厳密な法は無いらしい。 ブログ記事を読み漁っただけだから真偽のほどはわからないが、唯美子の不安を募らせるには十分だった。 ナガメはいつも、肝心なことは教えてくれない。彼が助ける「同胞」とは、ほかの爬虫類なのではないか。そもそも、どういう助けを乞われたのか。 (思い過ごし……全部ぜんぶ、変なこと考えてるわたしが悪いんだ) 大蛇の姿で、知り合いの引っ越しを手伝いに行くだけなのかもしれない。戦いに行くとはひとことも言っていなかったはずだ。 『なるべくはやく帰ってくる』 幼児が単独で旅をしていたら不自然だろうとの唯美子の進言を受け、出かける日は青年の姿になって、ナガメは少しぶっきらぼうに言ったのだった。 帰ってくるという言い回しにとまどって、返事はすぐにできなかった。色々と考えたものの、最終的に「待ってるね」と答えた。自分がどんな顔をしていたのかはわからない。 最初の数日は普通に寂しかった。一週間も経てば少し前の一人暮らしに戻っただけのように感じた。それが二週目に入り、更にもう一週間も経つと、心配し始めるようになった。 何といっても連絡を取る手段が無いのである。織元に連絡してみたりもしたが、彼は何も聞いていないという。 『何故、発つ前の本人に詳細を訊ねなかったのですか?』 『それは……だって……』 『ゆっくり、言語化してみてください。私はそれなりに暇です。ユミコ嬢が己の中の答えを見つけるまでの時間くらいはあります』 ――怖いから。 何も教えてくれないと不満に思う一方で、本当は自分のせいだとわかっていた。踏み込んだ質問をして、干渉しすぎて、それでナガメに嫌な顔のひとつでもされてしまったら。 名前の無いこの関係はきっと、崩れ去ってしまう。 悶々とした気持ちのまま、アパートに戻った。 当たり前のように明かりのついていない部屋に、うっすらと隙間風が吹く。ため息を漏らしつつ壁をまさぐって、電気をつけた。 届いてからまだ一度も使われていない座布団にまず目をやるのが、もはやくせになっている―― が、今日はそこにちょこんと座している何者かの姿があって、唯美子は仰天した。 あけましておめでとうございます!! 今年はいっぱい書きます絶対! |
4-1. d
2023 / 12 / 10 ( Sun ) 「たすけを乞われた」
お互いに話し出すこともなく、帰路について、アパートの扉が閉まったタイミングで、ナガメがぽつりと言った。パーカーのポケットに両手を突っ込み、片足のかかとを使ってもう片足のスニーカーを器用に脱ぎながら。 「助けって、ほかの……『けもの』だっけ? からお願いされたってこと」 人類のことは人類がどうにかすればいいと彼が以前に言っていたのを記憶しているので、助けを求めたのは同類かと推測する。織元を通した依頼からナガメが人間のために動く場合は、しっかり報酬を受け取っているはずだった。 「そ」 彼は居間に入るや否や、スニーカーにしたのと同じ方法で靴下を脱ぎ始めた。 「ナガメは応えるつもりなの」 「ん-、たぶん」 「あんまり気乗りしない感じ?」 少年が質問に答えるまでに、不自然な間があった。その間、唯美子は荷物を置いたり上着を脱いだり、暖房をつけたりした。 「知ってるヤツが……関わり合いになりたくねーけど、ほっといたらめんどくさくなりそう、つーか」 ナガメにしては歯切れの悪い物言いだな、と思いながらも、唯美子は続きを待った。けれども数分ほど経ってもそれ以上は語られず、目があうこともなく、ナガメはちゃぶ台の下に転がり込んでしまった。知り合いに助力するのは普通のことだろうに、渋る事情でもあるのだろうか。 「今晩はレトルトでいいかな」 「んにゃ。水曜だし、もう食わなくていーや」 「あ、お昼もそんなこと言ってたね」 もとより蛇は大きさによって週に何度か、或いは二週間に一度くらいしか食事をとらない生き物だ。昼間の温泉では気を遣って(?)残さず食べてくれたが、当分は満腹なのだろう。 ならば自分の食事を軽く用意するだけで済む。作り置きしてあったおかずと漬物、インスタント味噌汁、あとはご飯だけ炊いて。丼に適当に盛り付けて、テレビをつけようとする。 にゅるりと、ナガメがちゃぶ台の下から出てきた。驚いて、思わず声を上げる。 「急にどうしたの」 「ちょっと遠いんだよな」 助けを求めてる相手の話だと、すぐに気が付いた。唯美子は味噌汁をすする合間に、「どのくらい?」と訊く。テレビは結局、付けないことにした。 「わかんね」 「え?」 「インドネシアかもしれないし、もっと近いかもしれないんだよな。でもたぶん実際は遠い」 「意味がわからないよ」 やたら曖昧な話に首を傾げる。 「場所が幻術で覆われてるってさ。だから、踏み込んで調べてみないとどうしよーもない」 ――胸騒ぎがした。 「調べるって、時間がかかるってことだよね。それこそ、どのくらい?」 「…………」 ナガメの双眸が淡く光った気がした。 「きみがやらなきゃいけない、ううん、きみがやりたいことなんだね」 「そうなるな」 子供の姿と声での大人びたトーンが、いつも以上に含みのあるように聞こえた。口元を手で隠して窓の外を見やる横顔はまるで知らない誰かのもののようで、何故だか泣きたい気持ちにさせる。 これ以上は何も言えないと思い、唯美子は静かにご飯を咀嚼した。 |
4-1. c
2023 / 11 / 01 ( Wed ) そう言って断ったのに、目線を外したのと同時に、右手に指が絡まってきた。ぬるま湯に似た体温だったので、不意打ちだと少し冷たいとすら感じる。 驚いて振り返った。ナガメが舌を出して悪戯っぽく笑っている。彼がよくやる、蛇のように舌をちろちろと動かす風にして。 「なあ。ゆみは、子供ほしいん」 語尾の捻り方が曖昧で、質問なのかすぐにはわからなかった。動揺を悟られまいと視線を逸らす。 「どうだろ。好きだとは思うけど、ほしいかどうかはわからないよ。相手もいないし」 なぜ動揺しているのか自分でもわからなくて、早口に続けた。 「お兄さんがね、家族がいるほうが人生に張り合いが出るみたいなこと言ってたな。あれ、張り合い? 潤いだったかな。わたしはコレって言える生きがいがあるわけでもないし、仕事も生活のためにしてるだけだし、平穏に生きられたらそれでいいかなって」 言っているうちに、思い当たったものがあった。 心の奥底では、厄寄せの性質から、周りに嫌われるのを恐れていたのかもしれない。祖母の術によって記憶を消されていた間も、他人と関わることに消極的だったように思う。 子孫にこの性質は遺伝するだろうか。目にはっきりと見えない、来るかどうかもわからない厄災に怯える日々を、我が子が送らなければならないと思うとやりきれない。 (でも、わたしは) 同年代の誰もが人生設計を進めているのにひとりだけ取り残された気分になる――のが、普通の感覚のはずだった。 のんびりした性格だから、とか、まだ二十代で結婚を焦るには時間があるから、というのは違う気がした。 今までにも増して家庭を持ちたいと強く願わなくなったのは、「死ぬまで一緒にいる」と言ったナニカが、手を繋いでくれているからではないか。寂しくなければ、退屈もしない。 感謝している。話が迷走したけれど、これだけは伝えたいな、と思って立ち止まる。 頭上から細かい振動の音がした。 見上げると、青いトンボが旋回している。 「鉄紺」 ナガメがトンボを呼ばわる声がどこか強張っていて、嫌な予感がした。 青いトンボは主に語り掛けているみたいだが、唯美子にはもちろん聴こえない。 「いつまでに?」 長い沈黙のあと、ナガメが静かに訊き返した。 質問の答えをいつになく真剣な表情で聞いている。やがて右手に触れている指が、びくりと動いた。 「......わかった。今夜中に決めるって返しとけ」 羽音が一瞬大きくなった。主の意図を受け取った僕は、そのまま上昇して遠ざかっていく。 何の話だったのかと訊けずに、唯美子は足元に落ちている枯れ葉をしばらく見つめ続けた。 |
4-1. b
2023 / 10 / 26 ( Thu ) 「わたしは、遠慮するかな」
かつてのナガメとラムが経験したようなスケールの大きい旅は、いくらなんでも無理だ。 そう思う一方で、羨望に似た気持ちがあった。 きっとそれは彼らにとってかけがえのない思い出で、絆だったのだろう。旅でなければ見れなかった互いの一面も、そうして知れたのかもしれない。 誰かと特別な日々を分かち合えるのは素敵なことだ。 (わたしの比較対象は修学旅行とかだよ) 住む世界が違い過ぎる、としみじみ思う。 ナガメは唯美子の返事に「ふーん」以上の感想は無いらしく、大きく欠伸をしただけだった。 遠くで列車の音がする。 冷たい風が耳を撫でた気がして、無意識にマフラーを巻きなおした。 (何百年も生きてきたっていうナガメの中のわたしって、なんなんだろう) 近くにいるのに遠く感じる。するりと唯美子の生活に入り込んできたこの子は、逆に自分にとっての何なのだろう。 少なくとも昔は友達だと思っていた。けれど今は友と定義するには、違和感がある。 また列車の音がした。先ほどよりも近くなっている。 「ちょっと散歩しない?」 このまま帰るのが名残惜しくなって、気が付けばそんな提案をしていた。 「アレ乗らなくていいんか」 「まだ本数あるし、もう少しあとのでもいいよ」 おー、と言って彼はベンチからぴょんと飛び降りた。淡いオレンジ色のパーカーの左右のポケットに手を突っ込んだまま、器用に着地してみせた。 特に行き先があるわけでもなく、ふたりで近くをぶらぶらした。建物の向こうの山を見上げたり、小石を蹴ったりするナガメの少し後ろに、唯美子がついていく形となった。 途中で子連れの家族とすれ違った。母親が、手を繋ぎたがらない女児を叱りつけているのが聞こえる。 「はなしてー! ゆーちゃんもうななさいだもん、自分であるけるよ!」 「何言ってるの、さっき車の方に走っていったくせに。七歳になったからって、不注意なとこは相変わらず」 「ふちゅーいふちゅーいって、ママいっつもおなじことゆー」 「あなたが一回で言うこと聞いてくれたら何回も言わなくて済むんでしょうが――」 ふと、叫び合っていた親子が黙り込んだ。 目が合ってから、ハッとなった。 「す、すみません」 唯美子は急いで頭を下げて、ナガメの背を押した。親子が黙ったのは唯美子とナガメが足を止めて彼らの方を振り返ったからだ。 (なんか背後からの視線が痛い気がするなぁ) こちらが周りにどう見えているか、急に意識する。温泉センターのスタッフには親戚の子を預かったみたいな作り話をしておいたけれど、ぱっと見には親子に見えるだろうか。 「おいらたちも手つないだほーがいいんか?」 「......きみは、危険な方に駆け出したりしない......から、別に必要ないんじゃないかな」 ナガメは温泉には入ってません。 たぶんお湯苦手。 |
4-1. a
2023 / 10 / 22 ( Sun ) 働きづめの日々が続くうちに、あっという間に年が明けていた。そして二月に入ると、上司の方針により何故か有給休暇を使わされた。 (駅が温泉ってやっぱり素敵だな)最近寒いし、休みの日には温泉――我ながら安直な選択だと思う。 ベンチに腰掛けて、ぼうっとプラットホームを眺める。 平日の午後なので全体的に人気《ひとけ》がない。静かに湯に浸かることができたのはもちろん、食事も堪能できたし、帰りのトロッコ列車を待つ間も心は穏やかだ。ここはたまに思い出したように来るけれど、今回もかなりいいリフレッシュになれたと言えよう。 スマートフォンを見下ろせば、ちょうど座布団をショッピングカートに入れる画面だった。座り心地や熱のこもり具合を検討してさんざん悩んだ結果、自分がもともと持っていた平均的な値段のものとよく似た品に落ち着いた。 (いま買えば明後日には届くのね、と) 数回のタップ操作を経て会計を済ませた。そのままスマホを膝の中に休ませることをせず、バッグの中へと戻す。 唯美子の膝を枕にして眠る男児を起こさないように、そっと。 所かまわず寝転がる彼のためを思っての買い物だった。見た目は七歳ほどの子どもだが、正体は数百年以上を生きてきた蛇の変異体である。未だに人間の常識をポロリと忘れてしまうこの居候は、食事を風呂場に持っていくこともあれば、洗濯物の積み上がった籠の中で意味もなく体育座りになることもある。普通にここと決めた場所でくつろいでほしいものだ。 これでも最初の頃に比べると同居の具合は良くなっており、彼なりに徐々に家事を身に着けては手伝ってくれている。 「……やめとけって。その水牛は、くさってて……おまえには、むりだ……」 ちょうどその時、少年がパッと瞼を開いた。 本来の蛇に瞼は無く、気を抜くと彼は目を開けたまま寝たりもする。人間の姿をしている間ではさすがに眼球が乾いてしまうので、何度か起こして諭したくらいだ。 「おはよう、ナガメ。面白い寝言だったね、何の夢を見てたの?」 「おぼえてねー」 「水牛が腐ってるみたいなこと言ってたよ」 少年は起き上がり、寝ぐせのついた黒髪をボサボサと手でほぐした。次第に頭が冴えてきたのか、何かを思い出したような表情をした。 「あー、あれだな。どこだったか、水牛の死体を見つけたんだった。ラムが火を通せば自分でも食えるとか言い出して、おいらが止めた。あいつじゃ腹壊すだろって」 ナガメが友を諭す当時の様子を想像してみて、唯美子はくすりと笑いを漏らした。 「二人でいろんな冒険をしたんだね」 「ゆみも冒険してみるか?」 「……え」 思いがけない質問に、すぐには答えられなかった。 冒険なんて自分には似合わない――。 少し遠出をするだけで落ち着かないし、雑踏の中を歩いているとたまに首の後ろがざわざわするし。電車の乗り継ぎが多すぎるとか、タクシーからホテルにちゃんとたどり着けるのかとか、現代人が抱く程度の悩みですら自分の身に余るのに。 すごい脳内紆余曲折あってやっと書けました。作者も設定とか過去のできごと忘れてるかもしれないので間違ってたらその時はDMでやさしく教えてください(笑) |
ほねがたり - c.
2023 / 02 / 07 ( Tue ) 風が止んだ。 登ったばかりなのにもう降りていいのかと問うと、ヲン=フドワは満足げにうなずいた。「探してた空気を見つけられたからなァ。共有してくれ、ネママイア」 「わかったわ」 「待ちたまえ、それは二度手間となろう。土の記憶と合わせて物語を組み上げよう」 「おっ、クヴォニス、オメェ頭良いな」 「だから褒めても何も……いや、ありがとう、と言っておこうか」 早速クヴォニスは地面に片手片膝をついた。この狭間の空間の土を通して、物質界の事象に触れるためだ。 地中に這う生命に連なる、土の精霊を手繰り寄せる。それは彼の手足の先のようであり、吐いたばかりの息のようでもあって、今なお神霊クヴォニスと存在を分かち合うものだ。 彼らの持つ断片をかき集め、右手に集中させる。淡い光が散ってしまわないようにクヴォニスはそっと拳を握ったまま、立ち上がった。 「こちらも準備ができたよ」 手繰り寄せたものたちをネママイアに渡す。ちょうど手のひら同士を重ねる形になった。 同じく、少女のもう片方の手を、ヲン=フドワが取った。青年の腕周りで舞っていた風が、繋がれた手に向かって収束する。 ヒヤシンスの花に似た青みの混じった紫色の髪が、ネママイアの神力を通して微かに振動しだした。それをクヴォニスが視認した途端。 大空に沈んだような錯覚に陥った。 (これを経験するのがひとの身だったなら、さぞ矛盾だらけに感じるのだろうね) 本来「上」にあるはずのものが真横にあったり、「下」にあるはずの何かが己の内側にあったり。 おそらく、気持ち悪いとすら感じるはずだ。五感がぐちゃぐちゃにされて、情報過多に精神が押し潰されかねない。そうならないようにネママイアは力を制御してやったかもしれないが、神霊であるクヴォニスとヲン=フドワにそのような配慮は必要なかった。 やがて断片が物語を構築する。 物質界に生きる人間たちはある日、森の中に――倒れた大樹を見つけた。 ロウレンティア神殿に仕える巫女数人がそれを取り囲んでいる。大樹がいつからそうなったのか誰もわからないらしく、再生できそうな状態なのか諦めて薪にすべきか、皆で論じ合っているらしい。しばらくして、再生はできそうにないということで話がついた。 ところが巫女たちが木を掘り返してみたところ、根本に骨が絡まっていた。 ひとりのものではなかった。ふたりーー或いは。 破片を細かく分け、骨を何度か並べなおしても、できあがった骨格はどれも小ぶりだった。 「赤子と猫……」 |
ほねがたり - b.
2023 / 01 / 18 ( Wed ) 実は、と彼女は手の指を組み合わせてから切り出した。 「ヲン=フドワも呼んであるの」「なるほど。土と大気の記録を辿るためだね」 大気と風を操れるヲン=フドワもまた、ロウレンティア神殿に坐す神霊の一柱である。そしてネママイアの霊力は人の精神に働きかけたり未来を垣間見るのに対し、クヴォニスのそれは土と結びつきが深い。 なんとなく話が見えてきたところで、クヴォニスは席を立った。 「庭に出よう」 彼が宣言し、ネママイアは頷く。そこに数人の供を連れて、彼らは建物の外へ出た。 * 屋外は、風が強かった。髪をゆるくひとつにくくっていたクヴォニスは頭巾を締めてしのげたが、ネママイアのまっすぐでサラサラな髪は視界を妨げるほどに乱れている。 「なんとかしてくださいな、ヲン。あなたの仕業でしょう」 ここは狭間の空間。天候とは幻、島の日々の天気と連動こそしていても、神霊たちにとっては背景のようなもので、たとえばどんな台風も実害はないに等しい。だからこの風は意図的に起こされているものだと、クヴォニスたちはすぐに思い至った。 「ちょっと待ってくれなァ」 何故か庭の樹に、青年がひとり、しがみついていた。彼はそのまま太い枝の上までよじ登って腰を落ち着けると、地上の者らに向かって明るく手を振った。たったそれだけの動作から巻き起こった微風は、ひんやりとしている。 物質界のマスカダイン島がいま、初冬にあることをクヴォニスは思い出した。 「そこでなにをしているのかね」 「己の手足で高く登るコトでしか、出せない脳汁があンだよ」 「のうじる……快楽を感じさせる分泌物のことかしら」 「おう、オメェらもやってみっか?」 クヴォニスとネママイアは顔を見合わせ、揃って頭を振った。 ザンネン、と木の上の青年は軽やかに笑って、秋風に舞う木の葉のようにふわりと地に降り立った。人の姿をしていながらまるで重量を感じさせない身のこなしはいつものことである。 みじかめ。 あけましておめでとうございます!!!(遅い |
ほねがたり - a.
2022 / 11 / 16 ( Wed ) 誰かが鍵盤を奏でて織りなす緩やかな旋律に、少女の清らかな声音が意図せぬ協和音となっていた。窓の外から時々鳥の鳴き声が混ざるのも心地いい。 長髪の男は訪問者に背を向けたまま、その言葉を聞いていた。内容にちゃんと興味はあるが、手元の作業を終えてから顔を上げるつもりでいる。相手とは仲が良くも悪くもない距離感であるため、目を合わせる必要もない。 男は、現在は神霊クヴォニスという呼び名で通っている。そして訪問者、紫色の長い髪をした一見儚げな少女は、神霊ネママイアという。 彼らは担当する現象こそ違えど、同格の存在であり、同じ神殿を預かる主だった。 「物質界にある方のロウレンティア神殿の裏の森でね、見つかったそうなの。眷属の娘たちが怯えちゃって……」 「ふうん」 折を見て相槌を打つだけの彼に、少女は特に気を悪くする様子もなく、つらつらと話を続けている。音楽的な声には、常にはない深刻そうな響きがあった。 「クヴォニスの精霊《ナトギ》で視てくれないかしら」 神霊クヴォニスは虫メガネを目から離した。手の平にのっていた尾の裂けたトカゲを、そっと卓上に下ろす。 直に会わずとも念じるだけで会話はできるのに、彼女が何故にわざわざロウレンティア神殿のこの区画――岩棚と木の上と滝の中に入り混じった、複雑な構造の建物――にまで足を運んできたのかが、気になっていた。 クヴォニスは部屋の隅で穏やかな音楽を奏していた者に向かって手を振った。神霊クヴォニスの眷属のひとりである男は合図に気づき、旋律を止める。 「……骨と言ったかね」 「ええそう、問題は骨なのだけれど」 「珍しく相談事があるから何かと思えば――我に白骨を見てほしい、とね」 「そう言っているわ」 「ネママイア、いくらあらゆる生命体を分け隔てなく愛する我でも、かつて他人様のものであった有機物は引き取りかねるよ」 「引き取ってほしいわけではないの。弔ってあげたいの」 「まるで人間のようなことを言うね」 「人間だったでしょう、わたしもあなたも」 神霊クヴォニスは、ふう、と口元で遊ばせていた指先に軽くため息を吹きかけた。己を訪ねてきた少女をまじまじと見直す。 ネママイアは見た目こそ儚げな少女のままであるが、神霊となってからなかなかの年月が経っているだけあって、物事に対して遠慮というものがなかった。元の性格はもっと大人しかったらしいが、クヴォニスが彼女と知り合った頃にはすでに、己の考えをはっきり言う、能動的な性質が濃かった。 「詳しい話を聞こう。きみが弔いなんて言葉を使うくらいだから、その骨の持ち主たる人の霊は、さ迷っているのかね」 「クヴォニス、相変わらず察しがよくて助かるわ」 「褒めても何も出ないよ」 |
いま書いているのは
2022 / 09 / 24 ( Sat ) 短編ですが、久しぶりにちゃんと執筆する時間をとってみると、やはりいいものですね。
ご無沙汰しております。 いままでEvernoteで書いてたのを、書きかけのものだけGoogle Keepというメモサービスに移行してます。これは単純に仕事のパソコンからアクセスできるのがKeepだけだから(笑) 机の上は個人パソと仕事パソを両方並べてあるものの、行ったり来たりするのが大変。椅子のアングルを変えるだけ身が入らなかったりするのはすごいですね、人のやる気というのは、なんと儚い……。 まあそんなこんなでだんだん感覚取り戻せたらいいなぁ、と思いつつ。仕事も育児もなんだかんだ忙しいので(白目)無理のないペースでまた創作ワールドに沈む時間を取ろうと思います。いや、足りないのは時間というより体力と気力だけど……ね…… わっしょい(/・ω・)/ |