21.e.
2013 / 03 / 22 ( Fri ) 支えを失った次の瞬間、膝が折れ曲がり、体が前に倒れ掛かる。どうにかしようという気力が無いからか、ミスリアは転ぶ心の準備をした。 ところが、素早く脇下に差し込まれた手によって体が引き上げられ、宙に浮いた。 「ありがとうございます」 毎度のように助けてくれたゲズゥに礼を言いつつ、ミスリアはまだぶらついている自分の両足に目を留め、状況を客観的に見てみた。 (子供を抱き上げる動作と同じ……何で?) 彼にとっては癖みたいなものだろうか、それとも。 「小さいお子さんの扱いに慣れていたりしませんか?」 ミスリアが訊ねるとゲズゥは驚いた顔になり、次には表情を翳らせ、予想外の反応を返した。 それを、近くでイトゥ=エンキが面白そうに観察している。 「……昔の話だ」 ゲズゥはそれ以上告げずにミスリアを下ろした。ミスリアは小さく、はい、とだけ答えた。「昔」が彼が故郷に居た頃ぐらい昔の話なら、気分を悪くして当然だ。 思い出させて、申し訳ないことをした。 それから何度か試して、ミスリアは自分の足で立つ事ができた。 そして三人は、樹海をどう進もうか話し合った。 「ただ歩き回ってもしょうがないってのはわかってるよな? 嬢ちゃんなら何か抜け道知ってるかなって期待してんだけど」 イトゥ=エンキにそう言われ、ミスリアは頷いて松の木が入り乱れる樹海の一歩手前まで歩いた。地図に添えられていた記述を思い出しながら、語る。 「かつて大陸の数多の信仰を聖獣信仰に統一した人物、ラニヴィア・ハイス=マギン……彼女は、ヴィールヴ=ハイス教団を興した直後に巡礼の旅に出ました。聖獣の息吹がかかったと伝えられている数々の地を巡り、『聖地』と定めて守り続ける為に。岸壁の上の聖地にも、ラニヴィア様はかつて訪れていたのです」 ミスリアは肌身離さず身に付けているアミュレットを取り出し、親指と人差し指の間に握った。銀細工のペンダントは今まで服の下で胸元に触れていたため、温かい。 「この樹海は百年前でもいわくつきで、容易に通れなかったそうです。何度挑んでも迷ってしまうため、彼女は道を示す物を残していきました。濃い瘴気の中でも見失わない道しるべを」 教え通りに、ミスリアは呪文を唱える。 アミュレットに取り付けられている二つの紫水晶から淡い光が伸び、それはまるで何かを探るように空を彷徨った。 「光を追います」 三人は樹海の中へ踏み入れた。瞬間、重い空気に撫でられるような感覚があった。まとわりついてくる空気は熱いのに何故か寒気がした。 更に外が明るかったのに対し、樹海の中は薄暗い。絡まり合った木々が光を遮っているからか、それとも瘴気のせいかは知れない。 そんな中、弱々しい光を追い続けると、やがて大きな樹の前に立った。 「何だ? 樹の根元が光ってる」 イトゥ=エンキが指差した。その先に、親指の爪ほどの大きさの光の粒がある。 「ラニヴィア様が埋め込んだ水晶です」 ミスリアが近付くと、アミュレットも樹の根元の水晶も一層強い輝きを放った。 PR |
21.d.
2013 / 03 / 13 ( Wed ) 聞き間違いだろうな、と考えてミスリアは首を傾げた。 何せ、山の中で出会った日から今までを顧みても、彼は健康そうだった。足の速さや体力や腕っぷしの強さまで、むしろ並の人間より優れて見えた。 「そこ、クサヘビ」 「おお? ホントだ」 ゲズゥの短い忠告を受けて、イトゥ=エンキは斜め後ろへ跳んだ。この身のこなしでは、なかなか幼少の頃に病弱だったと想像が付かない。 「嬢ちゃん、その顔は信じてねーな? 医者に何度も診断されたかんな。内臓が弱くてさ、成長期を乗り越えられたら健康な大人になれる可能性は充分あるって言われてたけど、それまでは一人じゃ生活できなかった」 と、彼は陽気に続ける。 「そんな……」 「でもまぁ、楽しそうに世話してくれる家族がずっと居たし。不幸自慢はココじゃないぜ」 「ふ、不幸自慢?」 一瞬調子を落としかけたミスリアの声音が、今度は語尾に向けて跳ね上がった。 「そ。そいつに負けないくらい悲惨な人生送ってきたから」 イトゥ=エンキはわざとらしくウィンクを送った。 それまで無口無表情を保っていたゲズゥが、応じるように横を振り向いた。二人は、数秒ほど無言で目を合わせる。 「……なるほど。笑い話にして、そうやって乗り越えていくのか、お前は」 ゲズゥの声には感心に似た響きが混じっていた。 「さー?」 意味深な笑みを残して、イトゥ=エンキは更に速度を上げて先を走った。 ミスリアたちは、それからは言葉を交わさなかった。 _______ (禍々しい……) 巨大な松の木が乱れ入る光景に呆気に取られていたミスリアは、やがてその感想にたどり着いた。 流石は曰くつきの樹海と形容されるだけあって、これまで通ってきた森とは何かが本質的に違う。そう思うのは五感で感じ取れる情報を通してではなく、霊的な直感からだ。心なしか寒気もする。 (本来、松ってもっと離れて生えているものじゃなかったかしら) 目の前の木々は、互いに寄り添い合うように幹が傾いでいる物や、枝同士が絡まっている箇所が多い。 「イトゥ=エンキさん、よくこの中に入ろうと思えましたね……」 苦笑交じりにそう言った。 「オレもそう思うぜ。山上から見えるけど、ここだけ瘴気に侵されてるみたいに色が濃いんだ。長い間眺めてるとなんか背筋がぞわっとする」 彼は肩をすくめて見せた。 「……山脈を越えた先の町に、聖地とやらがあると言っていたな。この向こうか」 ミスリアを下ろしながら、ゲズゥが訊ねた。彼の両目は樹海の先を見通そうとしているかのように細められていた。 「はい、よく覚えていますね。『岩壁の上の教会』の絵画では岩壁と川と教会だけが描かれているのがほとんどで、崖の上には教会しかないようにイメージされる方も多いそうですが、実際はすぐ近くに町があるはずです」 自分の足で立つのが数日ぶりだからか、ミスリアは足元がふらついた。咄嗟にゲズゥの腕を掴んで支えにし、嫌がられるだろうかとすぐに不安を覚えた。しかしゲズゥを見上げても、彼は見守るだけで手を貸そうとも振りほどこうともしない。 (なら、別にいいのかな) 少しずつバランス感覚を取り戻してから、ミスリアはゆっくり手を離した。 |
また性懲りもなくアンケートですん
2013 / 03 / 12 ( Tue ) 更新遅れててすみません。ちまちま書いてますよー
さて今回は増やしてほしい要素を探ろうかと思いまして。 長編であるためかすぐいろんなこと詰め込みたくなるんですが、やりすぎて次回作書く時ネタが尽きてたら笑えない…。 左パネルからどうぞ! よろしく! です! |
21.c.
2013 / 03 / 08 ( Fri ) 「その方は、今はどちらに?」 辺りを見回しても、話題に上った人物の姿がない。 「順調に進んでんならぼちぼち家に着いてんじゃないかな」 ゲズゥと並んで歩くイトゥ=エンキが口を挟んだ。 「無事にご自宅へ戻れたのでしょうか」 「さあなー。でも嬢ちゃんはできるだけのことしたんだ。後は坊ちゃん自身の問題だろ」 「……はい」 口で同意はするが、本音では、突き放した言い方だと思った。 (でもこの二人にしてみれば、きっと私の方がおかしいんだ) 今のミスリアたちには見ず知らずの他人の世話を焼く余裕が無いのも事実だった。あったとしても、ゲズゥもイトゥ=エンキも自発的に人助けをしたがらない。利益に繋がらない限りは、他人が苦しむ場面では傍観に徹するだろう。 それを勝手に冷たいと感じるのは、傲慢かもしれない。 「私たちが今ここに居るということは、あの後、うまく交渉できたんですね」 「まあな。ヴィーナ姐さんが気まぐれに味方してくれたのも大きいな。でなきゃお前らが揉み消されたかも。あのオヤジは自分の敗北なんざ何とも思っちゃいないが、外部の人間にそれを見られたのが面倒だと思ったんだろ。まあ、それで敗北した相手を消したら大々的に負けを認めてるってことにもなるけど……」 「そう、ですか。ヴィーナさんが」 ミスリアは何と言えばいいのかわからず、あの妖しく光るサファイア色の双眸を思い出していた。 それはともかく、揉み消す判断が下されなくて良かった――。 「ところで嬢ちゃん、腕に力入る? この布ほどいてやろうか」 イトゥ=エンキが顔を寄せて問いかける。次いで温かい手がミスリアの手首に触れた。 「お願いします」 驚きを隠して、答えた。 「ん」 彼は頷いてから、手を動かした。濃い紫色の布を弄り、瞬く間に結び目を次々とほどいている。 待っている間にミスリアはポツリと漏らした。 「イトゥ=エンキさんは、寂しくないのですか」 ――十五年過ごした場所を離れたのに。 「別に。仲間意識はそれなりにあったけど、最初から部外者のつもりで接してたからなぁ。アイツらだって、オレが居ても居なくても同じだよ」 と、顔を上げずに彼が言った途端、ゲズゥが怪訝そうな顔になった。 「どうしました?」 「……泣きつかれていた。老若男女に」 「あー、あれはー、ほら。その場の熱みたいなもんだから。一日経てば忘れて、元の生活に戻るだろ」 尚も顔を上げずにイトゥ=エンキが軽くあしらった。表情が前髪に隠れて見えない。ゲズゥはもう一度顔をしかめたが、何も発言しない。 「よし、取れたぜ。今度は自力で捕まってるんだな」 「ありがとうございます」 ミスリアは自由になった手首を、そっと撫でおろした。布に縛られていた箇所には薄い痕が残っている。 「さーて、あとちょっとだ。こっから三十分走ればもう樹海に着くぜ」 イトゥ=エンキが親指で指した方向は、坂だ。ミスリアはついでにゲズゥの背後を見やり、そこにそびえ立つ山々を目にした。どうやら寝ていた間に随分進んでいたらしい。山越えがほとんど終わっている。 「捕まっていろ」 「あ、は――」 ミスリアが返事を返し切らない内に、ゲズゥはもう走り出していた。首に手を回すのが間に合わなくて、ミスリアは彼の胸筋辺りでシャツを握った。 (凄まじい瞬発力ね) 荷物などものともしない素早さで「静」の状態から「動」の状態に移ったのである。これから一生鍛えても、ミスリアが同等の身体能力を身に着ける日は来ないように思える。 一方のイトゥ=エンキもゲズゥの右に並んで走っていた。黒髪を後頭部で束ね、上着を着ずに動きやすいシャツ一枚の姿である。 ふとこちらの目線に気付いたイトゥ=エンキが、にっこり笑う。 それをきっかけに、ミスリアは叫んだ。 「イトゥ=エンキさん! 一息ついたら、ご家族の話、聞かせてくださいね!」 彼はにやりと口の端を吊り上げた。 「いいぜ! 樹海の中に入れたらな!」 「楽しみにしています!」 坂の下に、根元から折れた大きな樹が横たわっている。先にゲズゥがそれを飛び越え、数秒遅れてイトゥ=エンキが続いた。再び走り出して間も無く、彼が口を開く。 「オレさー、実は子供の頃は家の外に出られないくらい体が弱かったんだ」 こともなげに告げられた過去の話に、ミスリアは息を呑んだ。 |
山山山
2013 / 03 / 06 ( Wed ) いれかえました。
いつも皆様ご訪問&ご愛読(希望)&拍手ありがとうございます(∩´∀`)∩ とても励みになっています。 さて、私はよくゲズゥのことを「黒ヒョウ」とたとえてますが、正確にはイメージは黒ジャガーです。日本語の響きでなんか黒ジャガーってどうなの的な気分になり、ヒョウにしちゃいました。 でもジャガーはジャングル住まいなので、そこら辺も微妙ですね。アルシュント大陸の南東最先端などは暑いしジャングルに通ずるものもあるのでしょうけど… その範囲自体はあまり広くないと思います。 こういうことばかり考えながら書いている私。(ウィキペディアありがとう |
21.b.
2013 / 03 / 01 ( Fri ) 今しがた交わされた会話の内容も大変気になるが、ミスリアは自分の置かれた状況をまず飲み込もうと努めた。 (木と土の匂いがする。少し空気が湿ってるから、最近、雨が降ったのかしら) おそらく屋外、しかも緑の濃い場所にいるはずである。 他には汗の匂いと頬に触れる熱。髪を撫でる風からは、速く移動していることがうかがえる。 そして、何かを抱き込むような体制で両の手首が縛りつけられていた。拘束する為の縄ではなく、ただの布だ。きっと、眠っていたミスリアが落ちない為の措置。 これらの手がかりを合わせると、やはり運ばれているのは間違いないだろう。 やがて両目の焦点が合って、考えた通りの状況だとわかった。 視線を感じ、ミスリアは頭を左へ巡らせた。右目は黒、左目は白地に金色の斑点に彩られた、左右非対称の瞳がこちらを見つめ下ろしていた。顔が、息が重なるほどに近い。 「んん? 嬢ちゃん、目が覚めたのか?」 「そう見える」 低い声と共に吐息が額にかかって、ミスリアは思わず身震いした。 「おー、良かったな。オハヨー」 リュックを背負ったイトゥ=エンキが飄々と笑った。旅のせいか、髪や服やリュックまで、全体的に汚れて見える。 「……おはようございます」 どうにも動かしづらい舌を懸命に回し、ミスリアは彼に挨拶を返した。 「気分は」 立ち止まったゲズゥが無機質に訊いた。心配や労わりを欠いた、事務的な質問だった。ミスリアは気にせず答えた。 「…………体が、とても重いように感じられますが……。あの、私、どれくらい眠っていましたか?」 涼やかな空気と木々の間から差し込む日差しの角度からして、早朝のようだった。けれども身体の感覚で計れば、もっと長い間動いていない気がする。 「そうだなぁ、えーと」イトゥ=エンキは指を折り曲げつつ数えた。「五日ぐらいだな」 「いっ……!? そんなにですか?」 こめかみを押さえていたミスリアが跳ねるように顔を上げた。 「おうよ。冷水浴びせたり気付け用の薬草焚いたりさー、色々試したけど全っ然起きなかったぜ。一応、脈と呼吸は普通っぽかったから大丈夫そうだと思って。でもこれ以上起きないんだったらどうしようって話してたんだよな」 「そうだったんですか……」 生返事をして、ミスリアはゲズゥの鎖骨辺りに頭を休め、物思いに耽った。 理由ならすぐに思い当たる。 (カイルの言った通り、離れた場所から聖気を送るのは、無茶だったのね) 理論上は可能で、現実にも実現できた。 しかしその都度何日も眠り込むのでは、割に合わない。無防備が過ぎるし、周りに迷惑もかかる。 (例えば大技の直後にゲズゥやお頭さんを治していなかったとしても、反動は大きかったはず) 結局は友人の考え通りに、実用性の低い術なのだろう。 よほどの状況でなければ使えない。それでも、使えると判明しただけでもある意味では収穫だった。 「……お前が助けた男が、礼を言っていた」 いつの間にかまた歩き出していたゲズゥがぼそりと呟いたので、ミスリアは彼を見上げた。 |
〆(・ω・)
2013 / 02 / 27 ( Wed ) 近いうちに久々に拍手お礼を入れ替える予定ー
イトゥ=エンキがパーティに加わるとなんかゲズゥの野生児風味に拍車がかかるような……気のせいか。違和感が減るだけか。都会育ちキャラは出ないのか。そもそも都会なんてあるのか。 ヤモリの串焼きなどを二人でばりぼり食ってる絵が似合うような気がします。そういう無駄な場面をもっといっぱい入れたい気持ちもある! |
おシラセ?
2013 / 02 / 23 ( Sat ) |
21.a.
2013 / 02 / 20 ( Wed ) 高い崖だった。 崖下には深くて流れの速い川が沿い、水は不思議と澄んでいた。 崖上は、まったく人の手が加わっていない伸び放題の草に覆われ――そのどこまでも広がる緑の中に、白い野花が混じっている。 野原の端に一人の女性が佇んでいた。胸の辺りまでもある長い草に包まれ、安らかに微笑んでいる。 彼女が野草の上に止まった大きなキリギリスに手を伸ばすと、虫は遠くへ逃げた。 一瞬残念そうな顔をしてから、女性はくすりと笑った。蜂蜜色の長い髪が風になびいた。それを押さえるように右手を髪に絡める。 「ヨンフェ=ジーディ! いるー?」 ふいに、誰か別の女性の呼ぶ声がした。 「私はここよ。どうしたの?」 蜂蜜色の髪の女性は振り返り、返事をした。 (……え?) 認識が急に広がった。 その瞬間に――ミスリア・ノイラートは、自分がまるで鳥の体に入っているかのように、大地を見下ろし一人の女性を眺めていた事を知った。 (どうして? これは夢……?) だとしても益々鮮明になっていく。野原の香りも、風に草が揺れる音も、二人の話し声も、妙に近く感じられた。 「もう! またここにいた」 後から来た女性が長い草をかき分けながら、ヨンフェ=ジーディに走り寄る。 「ごめん。だって落ち着くの」 遠くて顔がよく見えないのに、彼女の空気が憂いを帯びたのが何故かよくわかった。 「……まだ悩んでるの? 一人になりたかったのね」 「うん、でも気にしないで。元より『聖地』はあんまり近づいちゃいけないんだし、そろそろ戻るわ。何か用事あったんでしょ?」 「そう! そうなのよ、司祭さまが呼んでるわ。準備手伝って欲しいって――」 女性たちの話は尚も続いたが、ミスリアはそれ以上聞かなかった。 (もしかして、私……あの女の人じゃなくてこの場所に同調した……? 聖地だから?) もう一度よく周囲を見回そうとしたけれど、視界がぼやけ出して、できなかった。 (でも確かに崖の上だわ。司祭さまって言ったし、もしかすると後ろに教会があるんじゃ――) しかしそこで思考が途切れ、夢も解けた。 _______ 「ふーん、片手抱きにしたか。てか、お前左利きだったっけ?」 「逆だ。荷物は左に集中的に持って、利き手は空けておきたい」 「確かに利き手の方が何かあった時に咄嗟に使いやすいな」 二人の男性の会話が聴こえる。多分、イトゥ=エンキとゲズゥだ。 ミスリアの両目はまだ形を映さず、下手な絵画みたいに色がたくさん混ざり合って見える。 「ところでさー。お前、天下の大罪人とか言われてっけど。実際会ってみて――ああ、噂が一人歩きした奴の典型かなって思った」 「ある程度は、その通りだろうな」 「オレとしては一番気になるのは、どうやって二回も脱獄したんだってトコだけど」 ミスリアは二人の会話にただ耳を傾けた。身体が異様にだるくて動けない。 何だか揺れている感覚がする、まるで、誰かに運ばれているような。 「お前を捕まえたのってあの国際的な対犯罪組織だろ? 凶悪犯罪者の為だけに、鋼でできた鉄格子の牢獄を開発したって聞いたぜ。お前もそういうの入ったんだろ」 「機を見て看守から鍵を奪った。左目を使って」 「呪いの眼って、使えるモンだったんか」 「滅多に使わん」 「ちょっと羨ましいぜ、オレの紋様にも何か力があったらなー、ってたまに思う。どうやって使うんだ? 何で滅多に使わないんだ?」 「……そこまで説明する気は無い」 「ふむ。まあいっか」 声でしか判断できないけれど、二人はいつの間にか随分打ち解けているようだった。 |
20 あとがき
2013 / 02 / 19 ( Tue ) |
20.i.
2013 / 02 / 17 ( Sun ) 「冗談だって。あんま大声出すなよ。魔物や猛獣が寄ってくるぜー」 けらけら笑いつつエンが鎖を引いた。 「魔物はいいけど、野獣には出遭いたくないなー」 「どうしてです?」 再び地に足を付けてから、五男坊が訊ねた。 その問いに、わかってないなー、と頭を振りながらも、エンは詳しく答えた。 「動物は侵入者を襲う時とそうしない時を判断するから、駆け引きが重要になってくる。仲間や子供が隠れてるとまた色々面倒だし。魔物はどんな時も必ず襲ってくるから対応は『倒す』の一択で、楽だ」 「はあ……楽なんですか……」 五男坊は力なく答えた。 そうだぜー、と静かに笑いながらエンは斜面が切れ落ちる直前まで踏み出た。ポケットに片手を突っ込み、遥か下へ視線を注いだ。 「どうする? オレの記憶してる高さのままだったら、簡単に降りれるもんじゃないぜ。荷物もあるからなー、特にお前」 エンがゲズゥの背中をチラチラ見ながら言った。 旅に必要な物を入れたリュックしか持っていない二人と違って、ゲズゥは荷物が多かった。 剣帯を調整し、大剣が水平になるよう左肩から提げ、右肩には必需品の入ったバッグをかけ、その上でミスリアを背負っている。それぞれ単体ではさほどの重さが無いが、こうやって合わさるとそれなりに足が遅くなる。しかもこの状態で山肌を降りるには、バランスが危うい。 「一直線に進む必要があるのか」 「や、ちょっと北西に回ればもっと斜面が緩やかなとこもあるはずだ。坊ちゃんの家に帰るにしてもそっちのが近いしな」 「送って下さるんですか?」 明るい声で五男坊が訊く。 「まさか。あと半日もすれば道が分かれるぜ。残りの道のりは自分で行け、少なくとも山賊団はもうお前には手を出さねーだろ」 そう答えながらもエンはもう踵を返していた。五男坊が慌ててついていく。 「……はい……。助けて下さってありがとうございました。本当にどう御恩をお返しすればいいものか……」 「オレ何もしてないぜ。お前が本当に礼を言うべきはミスリア嬢ちゃんだし」 「わかってます。でも聖女様は、まだ眠ってます。代わりに伝えて下さいませんか」 「いーけど。せめてゲズゥには言ってやれよ。オレの方が話しやすいからって逃げんなよー」 子供を優しく叱る時の親を思わせる口調で、エンがたしなめた。 「すみません……」申し訳なさそうに答え、五男坊はゲズゥを振り返り、闇の中でもはっきりと怯えた目を向けてきた。「彼が鬼のように強いあの頭領を負かしたって聞いて……ちょっと苦手で……」 「最初あんなに縋ってたじゃねーか。ほら、拷問されてた夜さー」 「うぅ、その時のことは忘れてください!」 五男坊は立ち止まり、ゲズゥを向き直った。一拍置いて、ありがとうございました、と腰を折り曲げて頭を下げた。育ちの良さが垣間見える、丁寧な礼だった。 「伝えておく」 ミスリアに、という意味合いを込めて、ゲズゥは言った。 顔を上げた五男坊の目には未だに怯えがちらついていたが、それでも笑んでいた。 「ところで、坊ちゃんは帰ったらどうする気だ?」 やり取りを見守っていたエンが訊き――途端に、五男坊を取り巻く空気が凍り付いた。 「討伐隊を引き連れようなんて考えてるんならやめとけ。無駄な人死にが出るだけだ。家宝を隠すとか移動させるのも、恨み買いそうだからやめときな」 五男坊は図星をつかれたのか、黙り込んだ。 「だからそんなことより、酷い目に遭わされたっていうアンタのお姉さんを支えてやれ。ま、余計な世話かな、これは」 「余計なお世話ですよ。助けて頂いて感謝していますが、貴方があの山賊団の一員だった事実は残っています」 怒気をはらんだ声色で吐き捨て、五男坊はさっさと先を歩いた。 取り残されたエンが、困ったように頬をかいた。 「痛いとこつくなぁ」 「……あの男には、想像が付かない」 ふとゲズゥが呟いた。 「んー? 生き方を選べない人間が居るってこと? ま、貴族だって、あんまり選べる余地が無いだろうけど。そういうのとは、違うよな」 語尾に向けて、声音が暗くなった。 「ああ。後戻りができないのとは、違う」 「どう後悔したって、選んだ道の結果も、他の道を選ぶ勇気が無かった過去は消えない。後になって、向き合うのも受け入れるのも難しいんだよ」 エンは深くため息をついた。 「ヨン姉の消息がわかったとしても、わからなかったとしても、それからオレはどうすればいいんだろーな」 「……その時になってから考えても遅くないはずだ」 そう答えながら、ゲズゥは歩き出した。 「だな」 相槌を打って、エンも歩き出した。 しばらくして二人は小走りになり、足の長さもあってか、貴族の五男坊にすぐに追いつけた。 三人は月の無い夜を慎重に進んだ。 遠くから、獣の鳴き声が響く。 |
バレンタイン効果
2013 / 02 / 15 ( Fri ) |
ヾ(●ω●)ノ
2013 / 02 / 12 ( Tue ) |
20.h.
2013 / 02 / 09 ( Sat ) 部屋中の視線がアズリの太腿に吸い付いた。蝋燭立てのすぐ隣であるだけに、その白さは一層際立っていた。 彼女の笑顔は、勝ち誇っているようにも見えた。 「まあ、いいじゃないの。ひな鳥が巣立つのを見送る親鳥の要領で、送り出せば?」 「ヴィーナ。口を出すんじゃねぇ」 強気な口調の頭領の方へ、アズリは身を乗り出した。 「見苦しいわよ」 軽蔑の込められた目だった。 「なっ……」 「刺された目を治してもらったでしょ。約束守れないオトコはカッコ悪いわ」 何があっても怯まなそうな大男が、自分より一回りも二回りも小さい女に、冷たい目を向けられただけで萎縮している。 エンが頭領に出した条件は――自分の望みを一つ叶えてくれるなら、負傷した目を治すように聖女に掛け合ってやる、だった。 他の日であれば頭領はそんなものを笑い飛ばしたかもしれない。隻眼になったところで生活はできる。だが、あの時ばかりは事態が切迫していた。 奴は条件を呑んだ。少なくとも、そのように振る舞った――。 「奪って生きるのは正しいことよ。でも、嫌われたくない相手から奪っても、自分が悲しいだけだわ。親子というキレイな思い出のまま、終わりたくないの?」 「おめぇが気にかけてんのは部外者の方だろぉ。何でそこまで肩を持つ?」 苛立った質問に対して、アズリは笑みを返した。 「アナタがイトゥ=エンキを傍に置きたいように、私だってあの子たちが可愛いのよ。アイの形が違うだけ」 「愛、だと――」 「欲張らないで。十五年も居て、しかも反抗期も無かったんでしょう? 充分だわ。それ以上望んでどうするの。子供ってのは、追い詰めたら逆上するものだから。自由にさせるべきよ」 あのゆっくりとした話し方で、アズリは威圧的な言葉を浴びせる。 「そりゃあまあ……おめぇの言うコトもわかるが……」 「姐さん、子供産んだことあるんですか」 耐えかねたように、苦笑交じりにエンが口を挟んだ。 「どっちだと思う?」 ふふ、とアズリは笑う。 いつの間にか、話の流れをアズリが掴んでいた。 「一番可愛いのは自分だけど、お気に入りの玩具にだって、たまには手を貸すわ。ましてや昔なじみだもの、そのよしみで助けてあげたいの」 アズリはゲズゥに向けてウィンクした。次いで、滑り込むように頭領の膝の上に乗った。 ねぇ、と甘い声で囁く。 「――……しょーがねぇなあ」 頭領は、呆れと疲れの混じった深いため息をついた。 その答えを聞いたエンが破顔した。全身の肌に、黒い模様が浮かび広がっている。 _______ 眼前に何か障害が待ち受けているような予感がして、立ち止まった。 踏みしめている草の感触が、サンダルの裏から伝わる。 ゲズゥは足元を注視した。灯火の無い夜の闇では、ほとんど何も見えない。その上、今夜は新月らしい。星明かりもあまり頼りにできない夜だ。 「どした? 敵か?」 すぐ後ろから追いついてきたエンが、小声で問うた。 「気配は無い。ただの勘だ」 しばらく目を凝らしてみたら、数歩先の闇が濃さを増しているように見えてきた。 「ちょっと待て」 エンは今まで通ってきた道を思い返すように、額に指先を当てて唸った。周囲の正確な地図が頭の中に記録されているらしい。 「そうか、此処は――」 「何を立ち止まってるんですか?」 若い男の声がしたと思ったら、その男がゲズゥの横を通り過ぎた。 「あ、こら、貴族の坊ちゃん。だからそっちは」 「ぎゃあっ」 エンの制止の声もむなしく、どこぞの貴族の五男坊とやらは、身体を宙に浮かせた。 じゃらっ、と音がした。奴の腰にエンが鎖を巻き付けて、転落を防いだのである。 「斜面が急に切れ落ちるから気を付けろ、って言おうとしたんだ」 「すみません……ご迷惑おかけします」 「なあ、お前けっこー重いのな。オレ非力なんで、引き上げんの無理かも」 「そ、そんなあ!」 掠れた声での、悲痛な叫びだった。 |
恋愛モノの落とし穴(?)
2013 / 02 / 08 ( Fri ) どうも皆様こんにちわん( ̄▽ ̄)
長いコトゲズゥ視点が続いてますが、私の中ではこの子も十分に主役なので問題ありません。むしろ最近一番書きやすいような気さえしてくる… ところで、これ一応恋愛要素が濃い方の物語、と宣言しているわけですが… 女性(私)が男性(ゲの子)視点から語っているわけですよね。 あずりんの胸が押しあたっている状況とか、太腿が見えているとか、唇とか舌とかそういう場面でですね、男であるから意識しているに決まってるんです。いくら鋼鉄の心臓のげっさんでもね。 だけど、私がそれを書いているわけで…… …… はっずっ! はずいよ! 恥ずかしいよお母さん!(悶) なのでうやむやな感じになってたらそれは100%書き手のせいであって。 まあゲズゥも鈍い方というか明確に「おお、いい胸が腕に当たってるぜ、げへへ」なんて考えが形になるタイプではないのですが。ですが、ね。 何が言いたいのかというと、何だろう! 精進します! |


