六 - c.
2017 / 06 / 18 ( Sun ) ――誰がエランの本当の居場所を知っている? 真実は、誰なら教えてくれる? 今すべきことは何だ―― 「バルバ。早急にゼテミアンに戻りなさい」「ひ、姫さま!? 何を!」 「来た時の旅費、まだ余りがあったわよね。全部持っていいわ。なるべく人に見つからずに出て行って……地図も、来た時に使ったものがあるわね」 狼狽する侍女に次々と指示を出す。自分でもぞっとするほどに頭は冷静だった。 「姫様、まさかわたしから大公陛下にお伝えせよとお考えで」 「いいえ。お父さんとお母さんには黙っていて欲しいの。何食わぬ顔であなたはあなたの人生に戻るのよ。この国で何が起きているかはわからないけど、まだ国家間の問題にしちゃいけない気がする。そうなったら、絶対に後戻りできないわ」 「後戻りって何ですか! 仰る意味がわかりません!」 「ごめん、あたしもよくわかんない。でもこの縁談は国の発展の為に必要なことだから、簡単に反故にしちゃいけないと思う。たとえ別の誰かの思惑が妨害しているとしても」 「だからってわたしだけ帰るなんてできません! 姫さまの御身はどうなるんですか!」 なかなかバルバは引き下がらなかった。セリカは深く息を吸って語気を強める。 「バルバティア・デミルス、これは命令です。主を捨てて祖国へ帰りなさい」 「嫌です! 嫌です、姫さま……」 「駄々をこねないで。元々、帰す約束だったじゃない」 困った顔で笑って見せると、ついにバルバは項垂れた。幼馴染との将来を想ったのだろう。 「では太子殿下にだけ相談をしますこと、お許しください」 「お兄さんに? ……いいわ」 それくらいの譲歩はしてやってもいい。そう思って承諾したのだが、一瞬、不穏なイメージが脳裏を過ぎる。セリカの兄は、行き詰まった時は、剣でものを言わせる人だ。妹の危機と知れば軍を動かさずとも一人で乗り込んで来るやも――いや、さすがにそこまではしないだろう。 「姫さまはこれからどうなさるおつもりで?」 「探るわ」 それだけ答えて口をきつく引き結んだ。探すべき対象は人物であったり、「事件の実態」でもある。 もはや一秒たりとも無駄にできない。 共に国境を超えてくれた友人の肩を抱き寄せ、今まで尽くしてくれた礼と別れの挨拶をする。彼女は終始、目を潤ませていた。最後にセリカは強引にバルバの身体の向きを変えた。やや乱暴に背中を押す。 「……幸せになってね」 「姫さまもどうかお気を付けて」 「わかってるわ」 返事をするや否や、セリカも踵を返して歩き出した。心の中に押し寄せる寂しさと不安の波を、短い祈りの言葉を綴ることで紛らわす。 きっとバルバはこちらの急な思考展開についていけなくて、ひどく戸惑っているのだろう。セリカ自身、己の気持ちを整理しきれていない。そんな猶予も、無い。 あの男に情が移ったとも考えられるし、見捨てるのが不義理だとも思っているし――それでいながら、セリカは自分が土壇場でやはり保身に走ってしまう可能性をも否定できずにいる。確信を持てる一点といえば、急がねばならないこと、それだけだ。 怪しまれない程度に小走りになって、宮殿の中を移動した。思い付きのままに足を運ぶ。そして目的地に着くなり警備兵に声をかけた。 「リューキネ公女に取り次いでいただけませんか」 彼らはこちらのただならない様子に驚いたようだったが、それでも申し出を受けてくれた。しばらくして兵士が戻ってきた。 「公女さまがお会いになるそうです。どうぞ」 促されて、セリカは歩を進めた。ここはちょうど昨日の朝にエランとリューキネ公女が談笑していたバルコニーだ。 絨毯に腰を掛けて、優雅な仕草で茶を飲んでいる少女がひとり。 「まあセリカ姉さま、ようこそいらっしゃいました。ご一緒に、一杯いかがかしら」 「いえ、あの」 お茶の誘いを断ろうとして、途中で思い直した。濃い緑色の双眸が威圧的な視線を注いできたからだ。 数秒遅れてその意図を理解した。周りの侍女や警備兵たちに不審がられない為の、公女からの配慮である。 「いただきます。ありがとうございます」 セリカはリューキネと向き合うように、卓の前に腰を下ろした。それから果実の香りが濃厚なお茶を二杯ほどいただき、他愛もない話をした。このような何気ないいつものやり取りが、今日ばかりはもどかしく感じられる。 ようやく公女が人払いをしてくれたところで、間髪入れずにセリカはエランの居場所を訊き出そうとした。 「姉さま……忠告いたしましたわよね。殿方の事情に、姫君が踏み込むべきではないと」 「憶えてるわ。危険は承知の上で、訊いてるの」 向かいの席の美少女は憂いを帯びた表情で遠くを見つめ、そっと息を吐いた。 「わたくし、兄さまたちが本格的に争い合う日が来れば、アスト兄さまの側に立つと前々から決めていましたの」 「…………顔の崇拝者だから?」 敵対宣言をされていると解釈すべきか。セリカは目を細める。 ――これは仮定の話だろうか。それとも公女は既に宮殿内の異変を、兄弟同士の諍いが原因だと、そう突き止めたのだろうか。 「ご恩があるからです。わたくしが自暴自棄になっていた頃に、救ってくださいましたの」リューキネ公女はキッとこちらを睨みつけたが、すぐにまた表情を緩めて嘆息した。「けれど、エラン兄さまにも恩があります」 「じゃあ……あなたの知っていることを話してくれるわね」 「ええ、知っていることであれば。誰がエラン兄さまを隠したのかは存じませんわ。知りたくもありません、巻き込まれたくありませんもの。そうですわね――エラン兄さまでしたらきっと、地下にいらっしゃいますわ」 地下、とセリカは思わず呆然となってオウム返しにした。 「普通は誰も近付かない場所に『それ』を建てるでしょう。実際に都のすぐ外にあります。でもこの宮殿の敷地内にも、ありますのよ。特殊な理由で公にできなかったりしますから」 リューキネは、主語を省いた意味深な言を並べ立てる。 「すぐに兄さまをどうこうするには、時間が足りなかったのでしょう。思い立ってから行動に出てまだ一日と経っていないはずです。地下で間違いありませんわ」 返信@ナルハシさん スマホでしたか! 当初ミスリアをガラケーで読まれていませんでしたっけ? 懐かしい…w 私もたまにスマホからブログの表示を確認したりするんですが(そしてやはり呪われる)、基本的にブログのレイアウトはデフォルトなのですよね。いえまあ、レイアウトで広告が消えるのかは謎ですが… 2011年頃はPCテンプレしかいじれなかったんで、数年後にスマホテンプレができてからも放置状態…一度くらいはいじってみた方がいいですよねw 呪いよ、なくなーれー! |
|