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2015 / 10 / 27 ( Tue ) 「転落死したとの話でしたけど、密かにわたくしは生き長らえたと思っていましたよ。ジェルーゾの方も近くに居るのかしら」
質問を完全に無視して、ナラッサナが話を進める。 「ルゾ? いるいる。なに、オイラたち死んだことになってんのー? やったね、うまくごまかせたって感じ」 「浅はかな真似を! お前たちの母は、我が子を喪った悲しみで床に臥せ、朦朧と弱りながら亡くなったと言うのに」 苛立たしげなジェスチャーを交えて、ナラッサナがなじる。それをまるで気に留めないようにジェルーチはあっけらかんと答えた。 「ふーん。そんくらいでダメになるなんて、弱いんだなぁ」 「恩知らずな子たちね。それだけ愛されていたのですよ」 「なーにが恩知らずだ。親ってヤツは恩着せがましーんだよ。別に産んでくれなんて頼んでねーし。こんな、男か女かもわかんないような半端モンにさー」 静聴する王子の脳裏を、半陰陽(インターセックス)という言葉が過ぎった。察するに、元々里では肩身の狭いを想いをしていた子供が、里を離反した大人にホイホイとついていったのか。あまり想像に難くない話だった。 「戯言もほどほどになさい。まあいいわ、ここで言い合っても時間の無駄。お前はそこをどいてくれれば良いのですよ」 ナラッサナを始め、覆面の集団が武器を構えて少年ににじり寄った。 「やぁだね。オイラがどいたら、女たち逃がす気なんだろ。ダメダメ、苦労して集めたんだから」 ジェルーチは頭の後ろで腕を組んで、ゆっくり頭を振った。 「どうせ、逃がしたって無駄じゃん?」 ――無駄? 少年の言動が引っかかる。王子は集団からそっと離れ、誰にも気付かれずに牢を調べる道を探した。 ――何が無駄なのか、確かめねばなるまい。 ジェルーチやナラッサナの死角に滑り込み、陰に身を引っ込める。陰伝いに進んで、忍び足で牢に近付いた。カビに覆われた鉄格子に触れないように注意して、中を覗き込む。 牢の中の女たちの様子が異常なのは、近付きながらもわかった。恐怖に心を失って泣き崩れる者、何故か格子に頭をぶつける者、地面にのた打ち回る者。 幾人かは、腹が歪に膨らんでいる。それだけでなく、焦点の合わない目で口や耳から泡を吹く者も居た。漂う異臭に関しては言及するまでも無かった。こころなしか、空気が重い気もする。 (捕えた女を孕ませるという話だったが、たとえ「混じり物」に生殖能力があったとしても、受け取る側が無事で済むとは限らなかったな) さしづめ研究所の方に居るのは産み落とされた異形の成れの果てか。ここまでやっておいて、ただの色好きが子だくさんを目指しているというわけでは無いだろう。 (ゆくゆくは軍事目的で兵力を量産するか) そう予測したのは、勘からだった。しかしこれが正解なのだろうなと、彼には自信があった。 「無駄なものですか! お前を退けて、娘たちを返していただきます!」 ナラッサナの叫びを合図に、連中が一斉に攻撃を仕掛けた。 「別にオイラを倒せても、無駄だけど? だってさー、成功例はオイラとルゾだけだけど、失敗作ならいーっぱい、他にも居るんだぜ? あ、さらったんじゃなくて、自分の意思でついてきた奴らだかんな!」 話の展開上、同時進行の場面が多いのでひさしぶりに視点がコロコロしてます。 もしどうしても読みにくいと感じられましたら、拍手・コメントの方にて「調子に乗ってんじゃねーよ!」とご一報ください。改善を検討しますw |
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