43.g.
2015 / 05 / 28 ( Thu )
 小さな個体ともなると、被害者が教会に浄化して欲しいと直々に申請しない限りは放置される。

「わかりにくい人だったけど、大好きだったわ。たった一人の肉親なんて、好きになるしかないじゃない」
「はい。お母さまも、ティナさんが大好きだったと思います」
 彼女は一体どこまでわかっているのだろうか。気になりながらも、訊かないことにした。
「その後、五人と居ない葬儀で出会った神父さまは、あたしを教会に泊めてくれた。暖かい食事と新しい服をくれた。ずっとここに暮せばいいよって言ってくれた……その優しさには心底感謝してるわ。感謝していても、受け取ることはできなかった」

 それから、逃げ出して何度目かに行き倒れていた時。
 偶然ティナは斬られそうになっている少年を見かけて、身体にまた力が入ったと言う。理不尽な世界への憤怒で――。
 救い出した少年はどこかおかしかった。妙に落ち着いた雰囲気に、相対するこちらの方が心休まらないような。

 ――ねーちゃん、なんでそんなにしにそーなの。
 ――あんたを助ける為に無い体力使っちゃったからよ。ありがとうって言ってよ。そっちこそ、なに大人しく殺されそうになってるのよ?
 ――だっておれ「いらないこ」だから。うまれてきたのがまちがいだってさ。たすけてくれなくてもよかったよ。
 ――ひどい言われようね。そんなこと言う大人なんて蹴飛ばせばいいのよ。好きで生まれたんじゃないんだ、つってね。もう遅いんだもの、生まれちゃったからには好きに生きればいいんだわ。あたしだって……こんなんでも、好きに生きたいけど、お腹が空いて、もう、無理かな……。
 ――ふーん。じゃあおれがなんかとってきてやるよ。そしたらあんたにとって、「いるこ」になる?
 ――は? とってくるってどういう――ちょっと待っ……話、聞きなさいよ!

 数分としない内に、少年は宣言通りにどこかから食べ物を物色してきた。後になって気付いたことだが、彼は機転の良さや小賢しさに恵まれていたのである。

「デイゼルは図太かったわ。あたしはあの子を助けたんじゃないの、あの子があたしを助けてくれたのよ」
「さすがですね」小さく感想を漏らした。とてもじゃないがミスリアには真似できそうにない。身一つで路頭に立たされたら、どうしようか戸惑っている内に餓死しそうだ。

「あたしや他の子供たちにとって、『いらない子』じゃなかったわ」
 ミスリアは深く頷いた。経緯はどうあれ――デイゼルは、そしてティナは、得難い家族に出逢えたのである。
「どうしてるんだろ? まだ教団本部には着いてないかしら。心細くはないかしら。最後に会った時は笑ってたけど……あの子はね、周りが不安がるからって絶対弱みを見せないの。一人の時は泣いてるかも」

「どうでしょう。私だったら、泣きそうです」
「あたしだってそうよ。あいつ、本当は王子としてもうまくやれたんじゃないかしら。まあ、王位継承権の所有者が一人増えなくたって王宮は今でも十分にドロドロしてるんでしょうけど」

「産みの母親の伴侶がああいう性格で、ある意味では良かったのかもしれませんね。彼はデイゼルさんを排除することばかり考えて、王子の後見人としてのし上がろうとは企まなかったんですから」
 帝王に妻や人生を滅茶苦茶にされた怨みを抑えて、デイゼリヒ王子を傀儡にして帝位につかせることだってできたはずだ。が、当のデイゼルはそうなればもうどう足掻いても穏やかな日々を過ごせない。まだ隔絶されていた方が幸せと言えよう。

「直情的な人だったのね。きっと」
 ふ、と彼女は小さく笑う。
「もうじき春かー。くっらい話はもうこの辺にしましょうか」
 ティナは階段からずれて、近くの芝生にごろんと横になった。

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