41.b.
2015 / 03 / 06 ( Fri )
「どっちと言われましても、一緒では」
「きっと今は一緒にいるんでしょうね。そういう意味で訊いたんじゃないわ」
「はい?」
 質問の意味がわからずにミスリアは首を傾げた。

「だって……ねえ。ミスリアちゃんって、あの黒い方――ゲズゥ、だったかしら。アイツが視界からいなくなってしばらくすると、不安そうにきょろきょろするじゃない」
「え、ええ? そうですか?」
 身に覚えの無い話を持ち出されて、ミスリアは当惑した。

「そうよ」
 腰に片手を当て、ティナは口の端を吊り上げて肯定した。
「護衛なんですし……傍に居ないと落ち着かないんですよ」
 何故だか頬が火照っている。言い訳がましかっただろうか。

「そういうんじゃなくて、もっと寂しそうな感じよ。あ、勿論アイツ限定でね」
「……う」
 ミスリアは返答に詰まった。寂しがっていると思われるのは心外だけれども、否定するのも何か違う気がした。開き直ってその通りだとでも言えたら良いのに。

「慣れ、みたいなものですよ。毎日のように一緒だと、逆にいないと落ち着かないみたいな……」
 早口で更に言い訳を展開した。実際のところ、自分が何を焦っているのかよくわからない。そう考えると、もっと焦りが募る。本当にこれは身に覚えのない話だろうか、と内心で疑問が浮かんだ。
 ティナは目を細めてニヤッと笑った。

「じゃあ質問を変えてみましょうか。たとえばアイツらがいきなり何も言わずに姿を消したら?」
 ミスリアは目線を泳がせながら質問の内容を吟味した。
「傷付く……と思います。多分、寂しくも思うでしょうけど……」
「じゃあ、消えたのがゲズゥ一人だったら?」
「やっぱり傷付くかと……。実際、旅を始めた頃には置いて行かれたと思い込んだことがありました」
 期待していた答えと違ったのだろうか、ティナは大袈裟に片方の肩を落とした。

「もっとよく想像してみてよ。二度と会えないのよ? サイアク、嫌われたのかもしれないのよ」
 主旨が伝わらんとでも言いたげに、彼女は両手をやたらと振り回している。
「えっと……悲しくなって、しばらく落ち込むとは思います」
「うんまあ、そういう反応で良いんだろうけどね……ああダメだこりゃ、まだ早すぎるのかしら」
「むしろ既に『どちらかと言えば嫌いだ』みたいなこと言われてます」
 ――そのやり取りがあったのは、大分昔のような気もするけれど。

「最ッ低。今度代わりに首を絞めてあげるわね」
 ティナは頬をひくひくさせて言った。
「?」
 結局何を訴えられているのか話が見えないまま、ミスリアは小首を傾げる。
 ティナは諦めたように後片付けを締めくくり、廊下に出た。後ろに続きながら、言われた通りにもっとよく想像してみる。

 一つ、思い出す事件がある。ゼテミアン公国内の城で目を覚ました時の記憶だ。あの城の中で、奴隷として一生を終えるかもしれないと危惧したら――

(あれ?)
 ズキリ、と得体の知れない小さな痛みが胸を突いた。
 その時はなんて考えただろうか。
(水を汲んでくる、って)
 そのような日常的な会話を交わしたが最後、それが今生の別れになると思って――あの不思議な左右非対称の瞳を二度と見ることができないと思って――。

 泣きそうな心持ちになっている自分に、ハッとした。実際は涙が出るわけでもなく、心の奥深い所から気力を吸い取られるような、虚無感があった。
 この感情は一体何だと言うのか。

「でもね」
 前を歩くティナがふと足を止めたので、ミスリアは物思いから掬い上げられた。
「あの二人はミスリアちゃんのこと、すごく大切に想ってる感じがする。特にあのゲズゥって奴、アイツが初めてあたしに斬りかかってきた時の気迫、数日経った今でもたまに思い出して背筋が寒くなるわ」

「すみません」
「ミスリアちゃんが謝るトコじゃないわ。それだけ、大事にされてるってことなんじゃないの」
「そんな風に言われると、何だか……こそばゆいですね」



等身大(?)女の子キャラはよく喋ってくれていいですね。新鮮。

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