17.a.
2012 / 10 / 14 ( Sun )
**注意喚起?**

えーと、15…18禁? 線引きがよくわかりませんが。
なんかアレな感じなので心してお読みください/(^O^)\
_______

 暗闇の中で、蝋燭が一本だけ点されていた。ひんやりとした湿った空気の中、そこの周りだけ暖かく乾いている。
 そして寝台の上の男女を取り巻く空気には、未だ冷めない熱が残っていた。

 一糸纏わぬ女が伸びをすると、弾みで形のいい乳房が揺れた。
 女は寝台の横に置いてあった杯に手を伸ばし、ラム酒を喉に流し込む。二口ほど飲み込んでから、自分の下敷きになっている若い男をじっくり眺めた。

「……何だ? アズリ」
 怪訝そうに、青年は低い声で呟いた。彼もまた一糸纏わぬ姿である。この暗がりでも、その肌色の濃さがわかる。
 アズリと呼ばれた女は微笑んだ。

 今はヴィーナキラトラを名乗っているが、そのどちらも、彼女の生まれた時に与えられた名では無い。そんな物なら、とうの昔に失っている。
 アズリは杯を置いてから青年の腹筋の上で頬杖ついた。彼女の下ろされた長い髪がくすぐったいのか、彼は僅かに身じろぎした。

「そうねぇ。色々と、訊きたいことはあるけどね。どれも純粋な好奇心からだから、答えたかったらでいいわよ」
「……」
 青年――ゲズゥ・スディルは無表情のまま答えない。昔からそういう性格だったのはわかっているので、アズリは特に気にしない。

「たとえば……」
 言いながら、アズリはゲズゥの右手首を引き寄せた。
「ココ、どうしたのよ」
 手首の内側、そのすぐ下から肘へ向けて数インチを、白い指でなぞった。

「何が」
「それはとぼけてるの?」
 くすりと笑って、アズリは自分の右手首を返して見せた。
 そこには、一輪の淡く青い花の刺青が彫られている。

「アンタもあったでしょう、同じ場所に」
「…………削ぎ落とした」
 当たり前のことのように彼は短く答えた。
「あら。わざわざ痛いことするのね」
 アズリがそう言うと、ゲズゥは合わせていた目線を外した。

(何かに属している、所有されているみたいなカンジが嫌だったのかしら)
 理由に思い至ったアズリは一人納得して頷いた。
 ゲズゥの頬を片手で捉えて無理やり視線を絡み合わせ、アズリはシーツの下で腕を立てた。

「アンタがあんな子を連れ回してるなんて、意外だわ」
「どっちかと言うと、連れ回されてるのは俺の方だがな」
 黒い右目と白地に金色の斑点のついた左目が、至近距離のアズリの顔を映している。正確には、左目の猫の目のような瞳孔と色素の薄い瞳では何も映し出せないが。
 
「余計にありえない。アンタは、間違っても人に従うタイプじゃなかったもの」
 アズリの長い髪がするりと耳の後ろから滑り落ちて、ゲズゥの顔にかかる。
「命を助ける見返りに守って欲しいと、取引を持ちかけられたから乗っただけだ」

「本当にそれだけ? アンタがあの子にくっついてるのって、何かを『与えて』もらっているから……それとも何かに期待しているからでしょう。それが何なのか、興味あるわね」
 こつん、と額を合わせたら、アズリよりも十近く年下の青年は、眉をひそめた。

(そういう拗ねた顔、懐かしいわ)
 十五歳の少年だった彼の記憶が蘇る。半年に一度くらいしか笑わなそうなゲズゥでも、不機嫌な表情なら良く見せたものだった。

「自覚ナシだった? ねぇ、あんな女の子に何を期待してるの」
「煩い」
 そう言ってゲズゥは起き上がり、体勢を入れ替えた。組み敷かれたアズリはくすくすと笑う。

「ところでアンタ、公開処刑にかけられたってね。大陸は広くても人の噂は繋がっているから、それが取りやめられた理由も聞いているわ」
 逞しい肩に腕を回しながら、アズリはお喋りを続けた。
「あんな子が例の聖女だったのね。幼くて驚いたわ」

 無表情に戻ったゲズゥは返事をせず、無言でアズリの太ももに手をかけ、その細い腰を抱き寄せた。

「……ん」
 再び重なり合う熱の感触。思わず声が漏れる。
「ああ――」
 突き上げる快楽に、何の話をしていたのかも忘れかけた。

 もうすぐ絶頂に昇りつめるという時に、何の前触れも無く。
 女の悲鳴が遠くから響いた。
 洞窟であるだけに、よくこだまする。

「魔物でも出たかしら、珍しい」
 アズリはそのように囁いた。

 二度目の悲鳴は、最初のよりも音量は小さく、短かった。
 その音に、今度はゲズゥが動きを止めた。

「どうしたの? 魔物くらい、他の人に任せれば大丈夫よ」
「――今の声」
 彼はどうやら聞く耳を持つ気が無いらしい。寝台に起き上がり、何かを探すように辺りを見回している。

 目当ての物が見つからなかったのか、一度舌打ちをしてから、ゲズゥは立ち上がった。
 アズリが他に何か声をかけるよりも早く、彼は駆け出していた。

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