4.取り戻す男、ゲズゥ - d
2020 / 10 / 18 ( Sun )
 ――町長の出方は、敵がどれほど悪趣味な手を使うかにもよるだろう。
 通常、「言うとおりにすれば愛娘を返す」とでも迫られると考えるが、せっかく人質がふたりもいるのだから、両方とも使おうとするかもしれない。

 たとえば下劣な手で「言う通りにすれば片方を返すが、残る方は殺す」と条件が付くとする。得られる結果は同じだが、後味の悪さが長く尾を引いて町長の後の人生を狂わせかねない。
 その場合、町長はミスリアを町民と思って助けようとするのか、或いは娘のためならば多少の犠牲も致し方ないと見捨てるのか。

 どのような展開になっても、動けるようにしなければなるまい。
 ゲズゥは町長の人柄や評判を一応耳にしているが、だからと言って当てにはしていない。他人の出方に身内の命運を賭けられるほど、安易な人生を歩んでいないのである。
 物思いに耽っていると、ふと「星が明るいな」とロドワンが呟いた。

 つられて夜空を見上げる。言われてみれば空気が澄んで、星々は輝きを増してきたように感じられる。今夜は月がか細い代わりに星がよく冴えるが、かといって地上に降りてしまえば木の葉などの遮蔽物もあって、視界は良好と言えない。

 罠、視界、地上、水源――頭の中でいくつかのキーワードが回っていた。二、三度と瞬いて、塀が無いことをゲズゥは改めて不審がった。
 また秋の夜風がひゅるりと吹いた。裾の長い外套に身を包んでいなければ、手足が動けなくなる程度には寒い。

「堀」
「は?」
 端的に過ぎて、ロドワンに話が通じなかったらしい。
「水の貯められた堀か、落とし穴の類に用心しろ」
「わかった」

 馬蹄の音が近づいてくる。次いで、気を引き締めた。
 本当に言われたとおり単身やってきた町長が、見張りの者に向かって声を張り上げた。

「来てやったぞ! さあシェニーマを返せ!」
「急(せ)くな。ここじゃ寒いだろ、中で茶でも飲んでいけ。雇い主がお前を待っている」
「人を誘拐するような輩と茶なんて飲めるか。早く娘に会わせてもらおう!」
「あ? 調子に乗るなよ。誰が主導権握ってると思ってんだ」

 見張りの者三人のうちふたりが、まだ馬上にいる町長を取り囲んだ。輪郭から判断するに、ふたりとも剣と盾で武装している。離れている三人目は弓矢を備えているようだった。
 緊張感が、ここまで伝わってくる。
 主人の危機に今にも飛び出しそうなロドワンに「迂闊に出るな」と小声で念押ししておく。

 しかしこれはまずい。屋内に入られたら、突入する隙を見極めるのが格段に難しくなる――
 こちらの苦悩を知ってか知らずか、好都合にも町長の方が簡単に折れなかった。娘の無事を確認できないならば今にも踵を返すと主張している。不毛と思われたやり取りが数分続き、やがて敵方の代表たるあの男が出てきた。状況を聞くと、部下に向かって命令した。

「いいだろう。娘を連れてこい」
 事前に話を通したのか、秘密の合図でもあったのか、「どちらの」娘を連れてくればいいか明言されていない。

 ――ここが分かれ目。
 重く軋む、地下へ扉の音を聞きながら、ゲズゥは奥歯を噛みしめた。

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