11.g.
2012 / 04 / 16 ( Mon )
 そうだとしても、この場合は酒代は自分が払わなければならないのだ。ミスリアは苦笑いを浮かべた。
 そんなミスリアの心の内を感じ取ったように、ルセナンがまた歯を見せて笑った。
 
「聖人カイルさんに免じて、代ならいいぜ」
 彼は琥珀色の液体に満ちたショットグラスをバーカウンターの上に置いた。濃厚なアルコールの臭いが立ち上る。グラスを、ゲズゥが横から手を伸ばして取った。
 
「でも……」
「でもは無しだ。あの人には随分世話になってるしな」
 温かい印象のハスキーボイスがミスリアの言葉を切る。
 カイルにはお世話になっていてもミスリア個人に対してはまだ初対面だから、厚意に値しない気もした。その旨を伝えようと思ったが、口を挟む機会を逃す。
 
「なんていうかな。神父さんが最初連れてきた時は爽やかな兄ちゃんだなぐらいの印象だったが。やれ魔物だ疫病だなんて騒ぎが出てきてさ」
 自分の飲み物をグラスに注ぎながら、ルセナンは口をも動かした。
「役所での対策会議が終わった途端にオレに『腑に落ちない時の顔をしていますね』って声かけてきたんだ。部屋の逆側からよく見てるな、って思ったぜ」
 
「どうしてそんな顔をしていたんですか?」
 ミスリアが訊くと、ルセナンは腕を組んで唸った。
「一口には説明しにくいんだが……」
「なら後に回せ」
 
 小気味いい音を立てて、ショットグラスが再び木製のバーカウンターの上に置かれた。今度は中身がカラだ。
 ゲズゥの無遠慮な発言に対してルセナンは驚きを見せた。一方、ミスリアはそこではっとなった。ルセナンのペースに気を取られていた。
 
「ルセさん。そのカイルなんですが、今どこでどうしているのか存じませんか」
「教会にいるんじゃないのか?」
「いいえ、二日前から姿が見えません」
 ミスリアが事情を端的に話すと、ルセナンは考え込むような顔になった。
 
「そいつは怪しいな……。残念ながらオレにも心当たりは無い。最後に会ったのが先週、聖人さんが病人を癒しに来てた時だからな」
「そうですか……」
「地下貯蔵庫だったら案内できるぜ。今から行くか? 歩きながらお互い情報交換を続けよう」
 
「ではお願いします」
 ミスリアは深々と頭を下げた。カイルがわざわざ見取り図の複製を作るくらい重要な場所だ。何かわかる可能性はある。
 
 ルセナンは革製のベストを羽織り、奥にいるらしい妻に出かけると声をかけ、そうして一行は三人になって店を発った。
 
_______
 
 町の衛生面の管理はオレの仕事の管轄内だからな、と道行きながら役人が言った。どうやら疫病騒ぎは収束へ向かっているらしい。
 役人が聖女ミスリアと会話しているのを、ゲズゥは三歩ほど後ろから観察していた。単に会話に参加するのが面倒だからである。しかし内容は聞いておきたい。
 
「神父アーヴォスさんが上と掛け合うなり聖人さんに治癒を頼んだりしてさ、何だかんだで死人は最初の四人だけだった。罹った人間の数は現時点で二十八人に上っているが」
「発生源は突き止められたのですか?」
 
「いや、まだだ。適切な処方薬が手に入ったため今はそれを病人に届けることが優先されている。けどおかげさまで民は大分安心できた。もうしばらくは、皆必要以上に出歩かないだろうがな」
 教会は別として、と役人が小さく付け加えた。
 どうやらラサヴァの町民は、ことこの件に関しては神父に相当感謝していることもあるからだという。
 
「治療薬があると頼もしいですね」
「それよ」
 役人は人差し指を大げさに振った。
「オレは数年この職に就いてるが、疫病でこんなに早く解決策にたどり着くなんて稀なんだよ。まずは症状をまとめて伝染を食い止め、できれば発生源と病原体の正体を把握して、正しい処方をする。これらはなるべく同時進行だ。たとえ運良く他の段階が早く進んでも、処方薬を必要な分だけ揃えるのは結構大変なんだ」
 
「なるほど、そういうものなんですか」
「ああ。だからあの会議で、既に国府と連絡をつけて薬を充分に取り寄せているって話になった時、腑に落ちなかったんだよ。なのに次の日には本当に騎士団が荷馬車を引いて来るんだもんな」
「荷馬車を引いた騎士に、シューリマ・セェレテ卿はいましたか?」
 途端に声を小さくして、ミスリアが質問した。対する役人は意外そうな表情を浮かべる。
 
「いたぜ。よく知ってるな」
「なんとなく、です……」
「そうか……? まあとにかく、オレは聖人さんと話してる内に、この騒ぎが仕組まれたって結論に至ったわけだ」
 役人も小声になった。ゲズゥは距離を三歩から二歩に縮めて聞き耳を立てている。
 
「犯人やら動機まではオレにはまったく見当付かないが、どうやら聖人さんは心当たりがあったようだな。独自に追うつもりで地下貯蔵庫を調べてたんだと思う。オレは処方薬の方に手を回してたんだがひと段落ついて、あとは病院だけで手が足りるって言い渡されたから休みをもらった。いや、上司に無理やり休めって半ば強制的にな」
「お疲れ様です」
 
「本音を言えば、オレも一緒になって色々嗅ぎ回ってるってバレたから、現場から遠ざけられたんじゃないかとも思う。誰の計らいだか」
 小声で漏らして、役人は苦笑した。
 
 話を聞く限りではかなりありうる話だというのが、ゲズゥの感想だった。
 

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14:42:03 | 小説 | コメント(0) | page top↑
11.f.
2012 / 04 / 14 ( Sat )
「ありがとうございます」
 ミスリアはメモを受け取って役所をあとにした。
 
 外で待っていたゲズゥに簡潔に流れを話し、二人はまた歩き出す。
 三つ角を曲がったすぐそこに湖に面した小さな料理屋があった。
 
「ごめんください」
 店に入ると、眩しさにまず目を細めた。オープンテラスが、高く昇りつつある陽を迎え入れている。まだ少し早いが、昼食の時間に近いといえば近い。
 
 屋内に四角いテーブルが四つ、テラスに三つ、カウンターにスツール六席といった規模の店だった。椅子が全部テーブルの上に置かれている。
 
「悪いな、今日は閉業だ。こっちは掃除とか在庫チェックのために来ただけでな」
 カウンターの後ろから男性が姿を現した。
 
 焦げ茶色の髪を首の後ろで一まとめに結び、口や顎の周りに髭を生やしているため傍目ではもっと年上に見えるが、顔立ちからだと三十路半ばに見える。力仕事に適していそうな体つきで、長い袖を捲り上げている。
 
「いいえ、私たちはお客様ではなく――」
 ミスリアはカウンターに近付いた。
「ん?」
 何かに気付いたように、男性が眉根を寄せた。ドンと音を立てて右腕をカウンターに乗せ、身を乗り出して、ミスリアの顔をじっくり覗き込む。
 
「あ、あの……?」
 気圧されて、ミスリアは仰け反った。男性の灰色の瞳が近い。
 
「……栗色のウェーブ髪で清楚な身なりの少女。かわいいが際立った美少女というほどでもなく、どこにでもいる村娘のような平凡な風貌でありながら内から滲み出る品の良さ、大きな茶色の瞳と白いもっちり肌が特徴。そしておそらく背の高い黒髪の男を連れている……てことはあんたが、聖女ミスリア・ノイラートだな?」
 
「……はい、ミスリア・ノイラートは私です」
 反応に困り、ひとまず笑うことにした。
「おー、やっぱり! 聖人さんに聞いたとおりだな。オレはルセナン、ルセでいい。よろしく、ミスリア嬢ちゃん」
 
 ルセナンは、にかっ、と歯が見えるような人の好い笑顔を見せた。次いで手を差し出し、握手を求めた。ミスリアは素直に握手を返した。分厚い手だったが指は長く、文官でも武官でもやっていけそうだなと思った。
 
「お会いできて嬉しいです、ルセさん」
 正直な気持ちだった。名前からしてまさしく探していた人物である。
「その台詞はそのまま返すぜ。まぁ、座りなよ。そっちの兄ちゃんも、何か飲むかい? 最近は流行病のせいで食べ物が信用できなくてな、仕方なくしばらく閉業してるんだが。酒は水より安心できるだろ?」
 
 そういうものだろうか、と不思議に思いながらも、ミスリアはスツールに腰を下ろした。飲み物に関しては断った。
 
「ウィスキー、ショット」
 それだけ言って、ゲズゥがカウンターに歩み寄ってきた。座らず、近くの柱に背をあずけている。おうよー、と軽く返事をしてルセナンが要望に応じる。
 
(昼間から飲むの……!?)
 ミスリアは激しく疑問に思い、しかし異議を唱えていいものか迷った。目だけで訊ねる。ゲズゥは包帯に隠されていない右目を合わせてきたが、何事でもないかのように視線を外した。
 
(何だか雰囲気的に酒豪っぽいもの、大丈夫……よね……)
 
 きっと飲んでも飲まれないタイプの人間なのだろうと、無理やり納得しておいた。行動や判断力や体調に変化さえ現れなければ、大丈夫。更に言えば、ルセナンがグラスにウィスキーを豪快に注いでいるので、ミョレンの法では昼間からの飲酒は禁止されていないのだろう。
 成人式を経たためミスリアも法では飲めるが、聖女としての戒律では儀式目的以外の酒の類は飲めない決まりである。

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06:04:14 | 小説 | コメント(0) | page top↑
発掘
2012 / 04 / 13 ( Fri )

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別パソのファイル整理してたら出てきた落書き。1月20日のものらしい。

これは絵茶で発生したもので、実際は別に(割と)真面目なデザインやら模様やらの相談事の合間に、えびがサクサクと描き出したという流れです。他にも色々描いてましたが完成したといえるようなのはこれだけ? だったので? 私が保存したという。

みっすんの髪型は厳密にはゆるウェーブで先っぽだけくるくるなのですよ!

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09:40:40 | | コメント(0) | page top↑
11.e.
2012 / 04 / 12 ( Thu )
 とある可能性が脳裏を過ぎった。ミスリアは最初の時系列に戻り、じっくり目を通した。名前と住所の連なりは、病状が確認された日付順に並べられている。三日前の時点で罹った人数は十五人であり、その中で死に至ったのは最初の四人だけである。
 
 更に紙をめくれば、罹った個人の数日間の行動を記した――入った店や行った場所、食べた物や関わった人物など――細かい調査書がどっさりとある。調書の中には多くの情報が解りやすく含まれていた。本当に、誰かに見つけてもらう為に書かれたかのように。
 これらによれば、病が食を通して伝染していることは既に判明しているらしい。あとは発生源を突き止めるだけだったのだろう。ここまでは解る。
 
 一番最後の紙には見取り図のようなものが描かれていた。図のタイトルからして、それがラサヴァの町の地下貯蔵庫であることがわかる。
 紙の隅っこに、黒い色を見つけた。裏側のインクが透けた跡のようだった。紙を裏返すと、小さく一文が書かれていた。ミスリアはその言葉を読み上げた。
 
「――『これは人為的に広められた病である』――」
 
 冷たいものが背筋を撫でたような感覚がした。
 カイルが導き出したこの結論が本当だとしたら、四人以上の人間が死に、十五人以上の人間が病気に苦しんだのが誰かの手によるものだったということになる。
 そして真実をカイルが調べまわっていると、黒幕なる人物にばれたのなら……?
 
「急いだ方がいい」
 背後からゲズゥが淡々と意見を述べた。
「はい。すぐに向かいましょう」
 或いはゲズゥにとってはラサヴァの行く末も、カイルの命さえも、どうでもいいことなのかもしれない。けれども今協力してくれる気になっているのなら、それを最大限に生かすべきだと思う。
 
「まずはカイルの調査に手を貸した人物と会ってみます。その後は地下貯蔵庫へ」
 ミスリアの提案に、ゲズゥは頷いた。
 
_______
 
 町並みをじっくり観察したい欲求を抑制しながら、ミスリアは足早に町の役所へ向かった。その後ろを、少し離れてゲズゥが歩く。彼の容姿や背負っている大剣が目立つのはどうしようもないとして、呪いの眼は包帯で隠している。ミスリアも聖女の衣装ではなく地味なワンピースを着て、髪は右寄りに緩く束ねている。
 
 といっても昼間でありながら誰も外を出歩いていないのでさほど気にすることも無かった。
 
「とりあえずはカイルを探すことを優先しますね。疫病に関してはそうした方が進展しやすいでしょう」
 小声でゲズゥにそう伝えた。
 
 道の交差する地点には必ず看板があるので、すんなり役所へたどり着くことが出来、幸い他の人間と鉢会わずに済んだ。
 赤茶色に塗られた三階建ての建物の中に役所はあった。
 受付にて、ミスリアはとある役人に会いたいと告げた。それはカイルの調書から見つけた名だ。
 
「彼は今日は休みですが」
 受付の机に向かう中年男性が好奇の色を目にちらつかせて応じた。
「ではよろしかったら連絡先か何か教えていただけませんか?」
 にっこり笑って、ミスリアは男性にそう頼んだ。
 
(あまりしつこいと不自然かしら……でも他の役人さんが味方とも限らないし)
 
「そうですね、この時間なら副業の方にいるかと」
 受付の男性は眼鏡をかけると、メモに街中の料理店の名を書き記した。

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14:25:42 | 小説 | コメント(0) | page top↑
なんと!
2012 / 04 / 09 ( Mon )


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4月6日は甲のリアル誕生日でしたよ!

えびがちょっと大人っぽいみーたんを描いてくれました ^p^
髪の毛とか唇が艶っぽいよ ハァハァ <変態


まるで結婚式だ! と思うのは私だけではないはz

今後も乞うご期待ですね

そして皆様ハッピーイースター

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12:16:22 | | コメント(0) | page top↑
11.d.
2012 / 04 / 06 ( Fri )
 さっそく教会の中へ戻っても、手がかりを探すべき場所がすぐには思い当たらなかった。
 もともと居住空間が少なく、私物が置かれるようなスペースは寝室のみにある。探っても、これといって変わりはなかった。
 
 そもそも、何を探せばいいのかすらイメージが掴めない。書置き? 何かの地図? 手がかりがあるという仮定からして外れているかもしれない。
 廊下をうろつきながらミスリアは思考を巡らせた。
 
 どんな些細なことでもいい。違和感を感じたような場面が、何か無かったか。わかっているのは、ラサヴァで病が流行りだしたこと以外に、魔物が頻出していること。それ以上の詳細は聞かされていない。
 
(……それよりも、カイル自身の言葉に何か変なところは無かったかしら)
 彼は出かけた朝、普通に朝食を摂って身なりを整えてから教会を後にした。急いでいた様子もなく、普段通りに落ち着いている風だった。
 その前の日は、典礼があった紫期日。一日のほとんどの間ずっと会っていて、色んな話をした。たとえばゲズゥの罪過や、最初の巡礼地について。
 
(あれ?)
 唐突に足を止めて、書斎の方を意識した。
「本のことで何か言っていたような……」
 ひとりごちて、ミスリアが書斎に入る。
 すぐに、古い本特有の匂いが鼻についた。
 
 カーテンに覆われた窓から暖かい日差しが漏れている。本棚にびっしりと詰められた人類が蓄積した知識の一端を、ミスリアは一歩下がって両目に収めた。
 窓の下に位置する机の、右隣の本棚の一番下の段に、「現代思想」を見つけた。カイルが強く勧めたシリーズである。
 
 確かに、最終巻らしい本があった。ほかの巻と比べて一回り分厚い。ミスリアはしゃがんで、それを手に取った。適当にパラパラとページを捲る。これには新しい本特有の匂いがある。
 ふとまた本棚を見やったら、隣の巻に書かれた「4」が目に入った。
 妙である。ミスリアは手に持っている本を裏返し、背の「6」の数字を認めた。ならば、隣の本は五巻であるべきだ。なのに何度見ても本棚には一から四巻までしかない。
 
『教会の書斎に全六巻揃ってるから暇を見つけて目を通してみるといいよ』
 
 彼はそう言った。ならば足りない一冊に何か意味がありそうだ。
 ミスリアは部屋の入り口を見上げた。例によって静かに出現していたゲズゥに、驚かないふりをした。
 
「五巻を探すのを手伝ってください。これと同じフォレストグリーン色のカバーです」
 立ち上がり、本を指しながら頼んだ。字が読めないというゲズゥでも、数字ぐらいはわかるだろう。彼は無言で応じた。
 
(目線の高い人ってこういう時すごく助かるわ……)
 彼が本棚の上まで見回っている様を眺めて、しみじみとそんなことを思った。
 十分余り、二人は書斎の中をくまなく探した。書斎に本が無いとなると、他にどこにあるというのか。
 
(読みかけて手元に置いたとか?)
 寝室と台所と聖堂はさっき余すところなく見てきたばかりで、どこにも「現代思想」の五巻の姿は無かった。
 
「あ!」
 思い出して、ミスリアは大きく声を上げた。その音に、ゲズゥが怪訝そうに振り返る。
「そういえばカイルは、寝る前に読書をする習慣があったんですよ。消灯時間になると読みかけの本をナイトテーブルの引き出しに入れていたんです。大体そこは祈祷書を収める場所なんですが」
 
 ミスリアたちがこの教会で寝泊りし始めてからは、そんな場面を見ていないのでもうしていないかもしれない。教団に居た頃は、早く就寝したがった同室の他の修道士たちに迷惑がられていたと、本人から聞いたことがある。
 
 寝室には、三台の二段ベッドにそれぞれ挟まれて二台のナイトテーブルがあった。ミスリアは引き出しの中から目当ての本を取り出した。
 紙束がはみ出ている。 
 
 四つ折に折られていた紙束を開くと、一番上にあった紙に見覚えがあるような気がした。
 これは、典礼の朝にカイルが隠したものと似ている。一行の長さや空白が箇条書きのように空いているのが一緒だ。ざっと目を通すと、時系列みたいな、何かの記録のようだった。
 
「何だ?」
 ミスリアの肩越しに見ていたゲズゥが、短く訊ねた。
「……よくわかりません」
 
 次の一枚を見ると、表だった。日付、場所、人の名前、などの項目がある。「食べた物」と「症状」という項目に目が行った。

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07:14:56 | 小説 | コメント(0) | page top↑
充電とか
2012 / 04 / 06 ( Fri )
みょーん^▽^
 
 
(半年)久しぶりに飛行機乗りましたので、何にも(パソコンとか)邪魔されずどっぷり読書をする時間が取れました。
 
現在は高橋克彦先生の「降魔王」を。「蒼夜叉」の続編です。
大昔の怨霊が現代を翻弄するようなノリです。
なんか頭がよくなるような痛くなるような綿密な物語を編むお方で、見習いたいものですね!
 

聖女の本編は続き執筆中です。しばしお待ちを…
 
 
拍手レス。<そのうち専用のカテゴリとか作ろうと企んでます



本編目次 まるまるさん様 -
 
ありがとうございます!!
アニメが流れるなんて羨ましいですね…負けじと描写に励みます…
絵の方はつついてみますね(・▽・)

ところで話し方や顔文字がリアル知り合いと雰囲気が似ているのですがご本人だったりす…る…のかしら…?
勘違いだったらすみません!

またいつでもお越しくださいな(^3^)

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01:51:40 | 余談 | コメント(0) | page top↑
11.c.
2012 / 04 / 04 ( Wed )
(あの人……!)
 見覚えがある上に、カイルが「気をつけたほうがいい」と警告したばかりである。
 
「しかし今はラサヴァの件が先です。彼らに構っている余裕はありません」
 神父アーヴォスが低く言うと、女騎士シューリマ・セェレテは高笑いをした。何故か耳障りな音だった。
「貴様に言われるまでもない。もう夜だ、行くぞ」
 それに対する神父アーヴォスの返事は、木の葉のさざめきによってかき消された。
 
 二人は大股で歩み去っていった。その後姿が見えなくなった頃にようやく、口元が解放された。
 背中に当たる硬い胸板も大変気になるけど、今離れようなどと暴れたら確実に落下する。すぐ後ろの彼と違って、ミスリアにこの高さから落ちて無傷で着地するほどの運動能力は備わっていない。
 
(ラサヴァって確か、湖を囲った町の名前……)
 疫病が流行り出したと懸念されている町。それの改善のために神父アーヴォスたちが向かっているのだろうか?
 どうしても、しっくり来ない。たった今交わされた会話からは、もっと邪(よこしま)な気を感じたからである。
 
 ため息をついた次の瞬間、視界がまた流れた。悲鳴を上げる暇もない。
 ゲズゥはミスリアを抱えて難なく地に足を着けた。
 
「やめておけ」
 彼はミスリアを地に下ろした。
「何をですか?」 
 息を整えてから、ミスリアは訊き返した。
 
「心身が限界の時に思考は働かない。今やるべきは、食って寝ることだけだ」
 ゲズゥはズボンについた葉っぱなどを払い、踵を返した。
「……その通りですね」
 はっきりとそう言われれば、合意せざるを得ない。
 
 心身の疲れを言うならむしろゲズゥの方が今日はヒドイ目に遭っている。当然、顔に出さないだけで、内心がどう乱れているのかは他人にはわからない。
 それでも相変わらず理詰めの言葉には、どこまでも合理的な性格が表れている。こんな人間が居ることにいっそ感心する。自分も、しっかりしなければ。
 
「お夕飯は何か食べたいものありますか?」
 二人は教会に入る。
「リス」
「そ、そんな食材無かったと思います」
「狩ってくる」
 
「また今度そうしてください。今日は別の何かにしましょう……」
 ミスリアは逃亡していた道中をも思い返し、食物のほとんどを自ら育てるのが主流である昨今で、もしかしたら彼は狩りに慣れた側の人間なのかもしれないと思った。
 
_______
 
 二日過ぎても、カイルが帰って来なかった。
 神父アーヴォスは別として、買出しに行っただけのはずのカイルがこうも音沙汰ないのは異常である。
 気を紛らわせようとして、ミスリアは朝早くに庭の花に水を撒いていた。
 
(胸騒ぎがする。ラサヴァで一体、何が起きているというの?)
 関与しないほうがいいとわかっていながらも、友人の身が危険にさらされているなら、放ってはおけない。お世話になりっぱなしで、恩の一つも返せていない。
 
 カラン。
 鉄ジョウロがレンガの上に落ちた。知らず震えていた手から、滑ったらしい。
 拾おうとしてかがんだら、背後に佇むゲズゥの姿を見つけた。この頃よく身に着けている水色のシャツと灰色のズボンという質素な格好で、壁に寄りかかっている。櫛もまだ通されていないであろう黒髪には、寝癖らしきあともある。
 
 ミスリアはジョウロを手にして立ち上がった。ゲズゥの視線を感じたので、目を合わせた。
 
「どうすればいいんでしょうか? 隣町に行くべきですか? 忘れて先へ進むべきですか?」
 答えを求めてではなく、気持ちを整理するために彼女は問いを口にした。
 ゲズゥは二度、瞬いた。黒い右目と、白地に金色の斑点のついた左目が、じっと見つめ返してくる。
 
「――お前が決めろ。それに従う」
 返ってきたのは問いの解答ではなく、気持ちの整理を更に促す言葉だった。
 俯き、唇を強く引き結んで、ミスリアは再び顔を上げた。
 
「カイルを探しに行きます」
 それが答えだった。ゲズゥは腕を組み、頷いた。
 
「策は」
「え? あ、ありませんけど……」
「あの聖人なら、先回りして手がかりを残すくらいしたんじゃないか」
「先回り……自分の身に危険が及ぶと予測して、ですか?」
 彼ならありえそうな話ではある。

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00:49:11 | 小説 | コメント(0) | page top↑
またミニ補足。
2012 / 04 / 01 ( Sun )
我々の知る現世だと騎士に対する敬称の「卿」は名前にしかつかないものだと思いますが、何せフリーダムにやっているのでアルシュント大陸では名前だけじゃなく苗字にもついていいものだと考えてください。

/(^O^)\


拍手レス

>10.j. 桜海老
どくん・・・どくん・・・ きええええ(*゚д゚*)

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01:56:14 | 補足 | コメント(0) | page top↑
11.b.
2012 / 04 / 01 ( Sun )
「結局その剣は、どうしてあんなところにあったんでしょう?」
 林を通り抜けての教会への帰り道、ミスリア・ノイラートは先を歩く背の高い青年に問いかけた。来た時と同じようにして、彼は父親の形見だという曲がった形の大剣を背負っている。
 
「……元々一度は隠してあったんだろう」
 ゲズゥは振り返ることなく淡々と答えた。
 歩きながら、彼は自分の知っていることと推測を話し出した。ミスリアと並んで合わせるまではしなくとも、置いていかないように歩を緩めてくれる。
 
 要約すると――まず、襲撃してきた人間は、村全体が呪われていると思い込んだのか、焼いて無くそうとした。価値のありそうな物も燃やし、残りは押収してどこかに処分した。
 あの剣が残っていたということは、誰かが持っていかれないように隠したということになる。後に死人が魔物として蘇り、何を思ったのかそれを隠し場所から持ち出して柳の下に埋めたのだろう。
 
 襲撃してきたのが誰なのかまでは、知っている風でありながらゲズゥは話さなかった。いつかは話してくださいとお願いしたら、気が向いたら、と返事があった。
 
「お母様は、どんなお方だったんですか?」
 ふと訊ねてみた。
「……」
 立ち止まり、思い出すように、ゲズゥは遠くを見つめる。
 
「……人や行事を仕切るのが得意で、協調性の無い俺はいつも怒られていた」
「しっかりした方でしたのね」
 回想に見た彼女のイメージと一致している。
 
「一族に生まれたことを誇りに思え、負い目を感じるな、と。決して他人に軽んじられるな、とも教えられた」
 再び前を向いて、ゲズゥは付け加えた。
 
 ――屈してはだめ。降ってはだめ。貴方の主は、貴方だけなのだから。自分の生きる道は自分で決めなさい。
 
 母親との少ない思い出の中、そんな言葉をかけてもらったことがあったらしい。
 
(カッコいいお母様だわ……)
 自分の母が穏やかな気質であるためか、新鮮に思えた。
 
「あの、『呪いの眼』の呪いって本当は何なんですか?」
 ついでに、前々から気になっていた疑問を試しにきいてみることにした。
 それから一分ほどの間があり、草を踏みしめる音だけが妙に大きく聴こえた。
 
「………………言いたくない」
 無機質な声だった。
 はい、とだけ呟いて、それきり、ミスリアは何も言わなかった。
 
_______
 
 教会へと続く土手道が見えてきた頃、空が暗くなっていた。ここまで来れば後は教会の結界の中に入るだけなので、魔物に遭遇する心配は無い。
 
 一階建ての建物には白に統一された外装と、紺色の屋根。尖塔の天辺に、教団の象徴である形が象られている。
 教会の玄関の前に人影が二つあった。片方を認識して、ミスリアは手を振ろうとした。
 
「神父さ――むぐっ!?」
 いきなり口を覆われ、腰をさらわれた。
 視界がめまぐるしく移り変わり、気がつけば二つの人影を見下ろせるような場所に移動している。ギリギリ、彼らの会話を拾えそうな距離だった。目線と同じ高さに屋根がある。
 
(教会の後ろ横……樹の上?)
 背中に押し当たる熱、腰に回った腕と、口を覆う手を照らし合わせれば、どう考えてもゲズゥの仕業である。どうやってミスリアを抱えて樹の上に跳び登れたのかまでは、考えても仕方ないだろう。
 
「よく見ろ」
 彼は耳打ちでそう言った。
 変に意識しないように、この状況のことを何とか頭の奥に追いやり、ミスリアは言われた通りにした。気持ちを落ち着けて目を凝らし、耳を澄ませた。
 
「――か、聴こえたような……」
 濁った声は、どちらかといえば多分女性のものだった。角度が悪くてここからでは見えにくい。
「動物か何かでしょう」
 こちらは神父アーヴォス。首だけを後ろに捻って、辺りを見回している。
 
「ならいいが。よもや『天下の大罪人』が潜んでいるなんてことはあるまいな」
「さて……彼らは午後からどこかへ出かけたようですが。忌み地の封印に異変を感じましたので、そちらに行っているのでしょう」
 
「くくっ、潜んでいても構わんぞ。捕らえて、殿下の前に投げ出してやるだけだ。私はあんなゴミクズなど怖くない」
「それもいいですね、セェレテ卿」
 神父アーヴォスが一歩下がり、身体の向きを変えたので、こちらからは話し相手の姿が見えるようになった。
 
 黒い鎧を身に纏い、金髪を三つ編みにまとめた若い女だった。

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01:46:41 | 小説 | コメント(0) | page top↑
11.a.
2012 / 03 / 29 ( Thu )
 ナイトテーブルの時計を見上げたら意外に遅い時刻であることを知った。読みかけの本にしおりを挟み、分厚いその本をベッドスタンドの引き出しの中へとしまう。蝋燭の火を吹き消し、少年が毛布の中へ潜り込んだ、ちょうどその時。
 
 寝室の戸がノックされた。
 どうぞ、と返事を返す前に、戸がキィっと音を立てて開けられた。この家の中でそんな真似をする人物は限られている。
 
「お兄ちゃん、起きてる?」
 戸の後ろから十歳の少女が姿を現した。
「今寝るとこだったよ。どうしたの、リィラ」
 部屋の窓は大きな縦長の長方形であり、満月の夜だからか部屋の中は明るい。月光に照らされ、自分にどことなく似た妹の顔がよく見える。琥珀色の双眸が潤んでいた。
 
「あのね、そっち行ってもいい?」
 大きな枕と兎のぬいぐるみを両腕に抱き、リィラはしおらしい様子で訊ねる。何を言わんとしているのか、兄にはすぐにわかった。
「いいけど、もしかしてまた一緒に寝ようって言うの」
 呆れつつも、彼は優しい声で請け負った。
 
「だって」
 妹は頭を何度か横に振った。おかっぱ頭に切り揃えられた蜂蜜色の髪が、サラサラと揺れる。
「パパとママもいなくて、怖いの」
 
 まだ誰かに甘えていなければならない年頃の少女は、不安そうに抗議した。それに対して、少年は手を差し伸べた。おいで、と小さく声をかける。
 妹は小走りで駆け寄ってきた。桃色の子供用ナイトガウンがふわふわ翻る。
 
「大丈夫だよ。僕がいるし、父上も母上もお仕事が忙しいから、あんまり帰って来れないけど。僕らのこといつも心配してくれているよ」
 毛布の中に潜り込んだ妹をそっと抱き寄せ、安心させるように彼は言った。
 
「ほんと?」
「ほんと。リィラの一番怖いモノと戦う、大事なお仕事だからね」
「うん。そうだね。ありがと、お兄ちゃん」
 リィラは、自分と兄との間に挟まれていた兎のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
 
(まったく甘えん坊だな……もうすぐ僕は教団に入るってのに、こんなんで大丈夫かな……)
 そうなれば母は今よりももっと家に居てくれる予定なので、まぁ大丈夫だろう、と少年は自分で自分に言い聞かせた。
 
「ねぇお兄ちゃん、いつか魔物のいない世界になるかなぁ」
「……魔物の居ない世界ね……今はわからないけど、きっといつかはね」
 それを手に入れるのがどれほど大変なことなのか、まだ修道士になってもいない少年には把握できない。根拠の無い話だとしても、リィラのためなら気休めを言っても構わなかった。
 
 その後、妹はものの数秒で眠りについた。
 
_______
 
 あれから幾月も過ぎた頃。
 ヴィールヴ=ハイス教団付属の修道院の一角の回廊にて、同期の修道士見習いたちと談笑していた時に、少年はその報を聞いた。それは、嫌味なくらいに晴れ渡った日のことだった。
 
「大変だ! とにかく大変なんだよ!」
 別の同期生が、青ざめながらバタバタとけたたましく近づいてくる。他の誰でもなく少年の前で足を止め、膝に手をついて息を整えている。
 何事かと思って少年は言葉を待った。が、同期の口が語ったのは少年の想像を絶する恐ろしい訃報だった。
 
「君のお母さんと妹さんが、先日魔物に――」
 
 殺された。
 
 あまりに残酷な単語の組み合わせを耳にして、当時の少年は全身を固まらせ長い間身動き一つ取らなかったと、大分後になってから誰かから伝え聞くことになる。
 
_______
 
 ――ぴちょん。
 まるきりの暗闇の中で目を覚ました。懐かしい夢を見たのが、斬新に残っている。
 
 ――ぴちょん。ぴちょん。
 何処かから水音がする。同時に、夢の余韻が消えうせる。頭や感覚が段々はっきりしてきた。
 さるぐつわを口に押し込まれ、両手両足首を拘束され、青年は椅子に座した姿勢のまま縛りつけられている。いつからこうなのかはわからないが、とにかく全身が軋みをあげているので決して短い間ではないだろう。他にも何かされているとしても、暗くて見えないのでわからない。
 
 此処が何処であるかはまだ判然としない。
 青年はそういった現実的な思考よりも、夢の中で視た記憶を思い起こすことを選んだ。もう一度夢の世界に降り立とうと試しに目を閉じたが、急な痛みによって意識が冴えた。どうやら、至る所を殴られたり蹴られたりしていたようである。
 
(リィラ……君の望んだ魔物の居ない世界は……まだ……)
 痛みに耐えながら、彼は記憶の中の亡き妹に呼びかけた。

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14:06:21 | 小説 | コメント(0) | page top↑
裏話的な。
2012 / 03 / 28 ( Wed )
間違いなく影響を受けた作品をあげてみます。
 
ストーリー、世界観、キャラなど色々。
ジャンルがものっそバラけてますが。
 
どこのどういうとこが似てるのかとかご自由に当ててみてくださいw
 
 
FF10
エレメンタル・ジェレイド
聖女さま、参る!
東京アンダーグラウンド
Xena the Warrior Princess
魔法騎士レイアース
心霊探偵八雲
Drag-on Dragoon
夢幻伝説タカマガハラ
月の王(夢枕獏)
獣の奏者
幻夜(東野圭吾)
相克の森
四方世界の王
時空異邦人KYOKO
氷の魔物の物語
神風怪盗ジャンヌ
X(漫画・CLAMP)
 
 
 
もしかしたら影響を受けたかもしれない作品(うろ覚え)。
 
アルスラーン戦記
幕末機関説いろはにほへと
天空のエスカフローネ
天上天下(大暮維人)
あまつき
進撃の巨人
スパイラル ~推理の絆~
屍鬼
屍姫
カウス=ルー大陸史シリーズ(響野夏菜)
 
 
 
ミスリアxゲズゥ のコンビは、多分イメージが先立って出来上がったのだと思います。
それがどこから沸いたのかははっきりとは思い出せませんが…
こういうの → 「女の子を片手に持って残った手で剣を振り回す男」
 
ほかには「立場がぜんぜん違う、価値観が違う二人が分かり合っていく感じ」など、
「やり直す機会を与えられた重罪人」などありました。
 
いつから大小コンビになったのかは、ぜんぜん覚えてませんw
 
あとゲズゥの名前もなぞです。気がつけばそんな名前だった…
巷では「げすさん」とか「げっさん」って呼ばれているけど気にしない…
ミスリアのキャラの名前は全部思いつきです。由来とかほぼ無いです。
国籍に合わせて統一性を出そうともしてません。
 
ただし主人公の名前だけミスリルから思いついた気がします^^
カイル&アーおじ様の苗字はもしかしたら知り合いの名前に影響を受けたのかも?
ドゥーセット→デューセ ?
 

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23:38:32 | 余談 | コメント(0) | page top↑
10 あとがき
2012 / 03 / 27 ( Tue )
こんつわ(◕‿◕)


10やっと終わった━━━(゚∀゚)━━━!!!!
もうなんていうか長くてごめんなさい(スライディング土下座

600、700HIT超え有難うございます。緊張してきました(((;゜д゜)))ガクブル
ついでに拍手入れ替えました。毎回の如くしょうもない話です。

いつも拍手有難うございます! ニヤニヤしながら確認してますよ(・∀・) 


拍手レス。

>10.h. 桜海老様
とんでもないフライングですね( ╹◡╹ )!


ではこっからはちょっと語る(?)ので10j まで完読した方向けになります。
続きからどうぞー

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13:44:01 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
10.j.
2012 / 03 / 27 ( Tue )
 核の魔物につられてか、他の魍魎も一斉に浄化した。銀色の粒が周囲に満ち、黒い柳の樹がそれらに照らされる。摩訶不思議だった。
 全身から力が抜けて、ミスリアは濡れた地面にへたり込んだ。長いため息をつく。
 少し離れた場所で、ゲズゥは直立不動で、空を見上げている。
 
 ミスリアも空を見上げた。すると灰色の雲がぐにゃりと歪み、渦巻いた――ように見えた。渦は一点に集結し、その一点がミスリアの足元にポトッと落ちる。拾い上げた。
 それは、手のひらにちょうど収まる大きさの透き通った石だった。心地良い重さと冷たさが手のひらから伝わる。ミスリアにとっては覚えのある物だ。
 
「この青水晶を使って封印していたのですね……。核の魔物がいなくなれば、自動的に解けるような仕掛けにして」
 ミスリアが呟くと、ゲズゥは振り返った。決して急がない足取りで、彼は近づいてくる。
「こんな高等な術を扱える人間は、教団の中でも限られています」
 ゲズゥは何も言わずにただ水晶に視線を注いだ。やがて飽きたように視線を外し、褪せた野原に仰向けになって寝転がった。
 
「つかれた」
 彼は短く吐き出した。きっとその一言に、多くの感想が凝縮されている。色々なことに対しての「疲れた」であろう。
「はい。お疲れ様です」
 ミスリアは水晶を懐へと大切にしまった。それが終わるとゲズゥの方へ這って近寄る。
 
 怪我をしていない方の自分の右手をかざして、ミスリアは聖気を展開した。全部の傷を治すほどの気力は残っていないが、治さないと絶対に悪化しそうな箇所をせめて集中的に治癒したい。
 ゲズゥは空を眺めるだけで大人しくしている。治癒が終わるまでの数分の間、二人は言葉を交わさなかった。
 
(この人は……)
 彼のふくらはぎの傷を治しながら、ミスリアは物思いに耽る。
(恐ろしい罪をたくさん重ねてきたけど……でも私には一つだけ、わかったことがある)
 チラッと、一瞬だけ彼の顔を盗み見た。涙の乾いた跡が薄っすらある。
 
(ゲズゥ・スディルこと「天下の大罪人」には、人の心が、紛れもなく有るわ)
 たとえその心が他人に向けられない種のものだとしても、少なくとも家族に対して、親愛の情を抱いている。それを発見できただけでも、どうしてか、ミスリアは安心できた。
 
 治癒を終えて、聖気を閉じた。その時を待っていたかのように、ゲズゥが起き上がる。ミスリアの真正面で胡坐をかいた。
 彼はミスリアの左腕をじっと見ている。先ほど噛まれたので、牙の痕から血が出ていた。皮膚も酸に焼かれて赤い。
 痛みは麻痺してきたので気にならないけれど、失血で頭がくらくらする。
 
「お前は治さないのか」
「それが、実は自分で自分を治せないんです。後でカイルに頼みます」
 腕を裏返したりして傷口をよく見てみたら、予想以上にグロテスクで、顔をしかめる。変な臭いもする。応急処置ぐらいするべきだと思った。
 
 指の腹に、ふいに温もりが触れた。吃驚して、反応が遅れる。
 ゲズゥはミスリアの手を握り、引き寄せては、前腕辺りを凝視した。勿論、その間も無表情でいる。
 
「放っておけば化膿する」
「は、はい、わかっています」
 ミスリアがそう返事をすると、ゲズゥはポケットから包帯を取り出した。剣に巻いていた包帯だ。手際よく、彼はミスリアの腕の手当てをし始めた。
 
「お上手ですね」
「慣れているだけだ」
 自分の傷の手当てで慣れているのだろうか。そういえば最初に会った時、傷跡だらけだったのを覚えている。
 
 包帯の感触が、なんだかくすぐったい。ミスリアはなんとなく気恥ずかしくなり、空の方へ視線を投げた。
 雲間からのぞく六色の弧に、思わず感嘆した。
 
「綺麗な虹です」
 ゲズゥにも見てもらいたくて、そう口にした。彼は顔を上げた。
 
 雨上がりの空から雲が次第に身を引き、それによって出来た隙間から見事な虹が伸びる。太陽が地平に潜りそうで潜らない、そんな時刻だからか、空は若干赤みがかっている。空はいつ見ても美しく、飽きないものなのだと改めて得心した。
 衝動的に、ミスリアは語りだした。
 
「……朝、最初に外に出た時に、冷えた空気を一息吸い込むでしょう? その瞬間、肺を通して体中に、たとえようのない感覚が広がるんです」
 ゲズゥは左右非対称の目を静かにミスリアに向けた。こう近距離で見つめられると何故だか緊張する。ミスリアは早口にならないように注意した。
 
「命を吹き込まれたような……とても言いようのない大切な何かを与えられたような……」
 巧い言葉が思いつかなくて、口ごもった。
「どうしてでしょう」
 独り言のように話し続ける。ゲズゥはというと包帯を巻き終わって、端と端を結んでいる。
 
「何だか、生きてて良かったって思うんです。この世界を経験できて、良かったって。自分を取り巻く何もかもに、ただただ感謝したくなるんです――」
 風が音を立てて吹き抜けたので、最後の方は多分かき消された。後に残った沈黙に、はっとなって、ミスリアは頬を赤らめた。
 おかしなことを言ってしまったと後悔する。咄嗟に俯いた。
 
「だからこそ、生きているっていうのは、それだけで手放しがたいんだろう」
 低い声で彼は意外な言葉を返してきた。あたかもミスリアの言い分に共感を持ったようである。
 どんな生き物だって、生きていれば死にたくないと願うのは当然だと、そう言っている風に聞こえた。
 
 ミスリアは相槌を打とうとして、結局黙り込んだ。
 食事をし、己が生き延びる選択をする限り、別の何かが犠牲になっているということで、それでも皆生きたいと切望するのは間違っていないのだ。ならば相克の末に残るものが、正しいのか。よくわからない。
 
 摂理は単純なものではなく、また別の機会に熟考したい問題だった。
 
 ふとミスリアは、手当てが終わったのに手がまだ掴まれたままだと気付いた。
 ゲズゥの無骨な手は温かくて力強くて、包まれている自分の指先からふわふわとした落ち着かなさが全身を伝う。
 
(そろそろ放して下さいって言ったら変かな……どうなの……?)
 
「なるほど、生身だな」
「はい??」
 何を言われたのかわからなくて、ミスリアは返答に困った。
_______
 
 人間かどうか疑うこともあれど、少女はたった今、普通の一般人と同じに怪我をして血を流したのである。
 ゲズゥは触れた手からその事実を確かめ、また、聖女の質量や熱をも確かめていた。自分が強く握るだけで、小さな白い手の中の骨は残らず潰れるだろう。少女の見た目通りの脆さを感じ取れる。
 
 それにしても、まったくどうでもいいことだが、滑らかな肌だと思った。自分のが厚くて硬くてザラついているから、余計にそう感じる。
 
「――――好きか嫌いかと問われれば、どちらかというと俺はお前が嫌いだが」
 ゲズゥはそのように発話した。
「うっ……それは、なんか、今まですみません……?」
 切り出し方からして決別を言い渡されると思ったのか、聖女は暗い声と表情で応じた。目を伏せ、長い栗色の睫毛を瞬かせる。
 
 別にこちらとしてはそんな予定は無かった。
 あまり深く考えずに、聖女の手を握り締めた。聖女は茶色の瞳を一層大きく見開いた。
 
「聖女、………………ミスリア。お前が母の魂を解放した恩を、今後忘れたりしない」
 その名を呼ぶのが初めてだったからか、音の羅列は舌に馴染まず、妙な感じがした。
 
 聖女ミスリアはまずきょとんとした。
 ゲズゥの言葉の意味を飲み込むまでの間が過ぎると、今度は会釈した。弾みで栗色のポニーテールが揺れる。
 
「どういたしまして」
 ミスリアはふわっと柔らかく微笑んだ。
 強く、手を握り返しながら。

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09:00:49 | 小説 | コメント(0) | page top↑
10.i.
2012 / 03 / 26 ( Mon )
 蜘蛛の魔物は腕一本を使って聖女の白くて小さい手を引き剥がそうとするが、よほど強く抱きついているのか、聖女の手はびくともしない。
 
「――彼こそ、貴女がずっと探していた人です! 帰ってきたんですよ! もう待たなくていいんです……!」
 聖女が泣き叫んだ。無駄なあがきに思えたが、あろうことか、魔物はまるで聞き入るように直立した。おかげで組み伏せられていたゲズゥは少しだけ息がしやすくなる。
 
「昨日は、懐かしいにおいがするって、そう言ったじゃないですか。思い出して下さい」
 ゆっくりと、そしてはっきりと聖女は言葉を紡いだ。魔物は首を回転させて、視線の先を聖女の顔に定めた。
「彼の左目を見て、仲間と呼んだのでしょう?」
 
 聖女にそう言われて、魔物は再び首の向きを変えた。首を不自然に伸ばし、ゲズゥに顔を近づける。気味悪く変形していた魔物の顔が元の美しく若い娘の顔に戻っている。
 魔物はこちらをまじまじと見つめてはにおいを嗅いだ。考え込むように眉根を寄せている。
 
「思い出しましたか?」
 魔物は返事をしたがっているかのように血に塗れた唇を動かした。
 が、声を出すことは無かった。
 
 唐突に、魔物が聖女の手首を引き寄せた。気を緩めてしまったのか、今度はあっさりと聖女の手が魔物の腰付近から離れた。
 少女の柔らかそうな肉付きの前腕に、異形のモノの牙が食い込む。
 
 聖女が悲鳴を上げた一瞬のうちに、ゲズゥは上体を起こしてすっと立ち上がり、腕を魔物の首に絡めた。片手を後頭部に当て、片手をうなじに当てる。第三者からすれば、愛しい者を抱き寄せる動作に見えたことだろう。手に触れた肌には何の熱も通っていなかった。
 
「……許せ」
 ゲズゥの静かな声に、魔物はぴくっと痙攣した。
「もっと早く戻っていれば気づいてやれた」
 魔物が顎の力を抜いて、聖女の手を解放する。
 
「弱かったから、二度と手に入らないものを求めたら、自分が壊れると思ったから、長い間逃げていた」
 奥に封じ込んでいた本心を吐露するのは、非常に疲れる。一言漏らす度に、ゲズゥは息を吸い込んだ。
 母の黒い両目が潤んだので、通じていることを知った。
 
「あの時一緒に居なくて、自分だけ運良く逃れて……罪悪感もある」
 ごめん、と小声で謝罪した。
 緑色の涙を流す母の瞳はいつしか正気を取り戻していた。

「待っててくれて――ありがとう」
 指でその涙を拭ってあげた時に初めて、自分の頬をも伝う温かさに気付いた。
 涙を流すなどあまりに久しくて、どういう感覚だったか忘れていた。
 
「もう十分だ。もう、楽になって、眠ればいい」
「ア……」
 魔物は何か言おうとして、急に呻いた。苦しげな表情になる。
「いけません! お母様の自我がまた埋もれます!」
 聖女が再度魔物の腹にきつく抱きついた。
 
 ゲズゥは一度目を閉じた。
 所詮は魔物は死人でしかないのに、何故話し合おうなどと聖女が考えるのか、今ならわかる気がした。
 せめて無に帰す前に何かしてやれたのだと、心だけでも救ってあげられたのだと、生きる側が感じたいからだ。そうしなければ、残された方がいたたまれない。
 
 死した者は地に還るべきであり、魔物という存在は異形でしかない。
 頭では、その事実を冷静に理解していた。後は、別れを受け入れるだけだった。
 目を開け、ゲズゥは魔物の首に両手を添え、力を込めた。
 
「――――やれ!」
 聖女に向けてたった一言を叫んだ。
 魔物が苦しそうにもがくが、ゲズゥは更に強くその首を絞めた。
 ゲズゥを見上げて聖女は頷き、聖気を展開した。
 
 音はしなかった。むしろ、静寂が広がったような感覚があった。周囲に漂っていた瘴気まで清まったようだった。
 魔物の青白いゆらめきと聖女の発する金色の光が交じり合う。
 
 象牙色の腕や脚、次に白髪が、順に銀色の粒子と化した。肌の表面中に浮かんでいた人面が安らかそうな表情に変わると、ひとつずつが鎮まり、消える。
 気付けば魔物は微笑みを浮かべていた。
 ゲズゥを真っ直ぐ見つめる黒曜石に似た瞳は、穏やかだった。
 
 ――大きく、なったのね――
 
 
 驚いて、手を放した。
 彼女は口を動かしていなかった。声は直接頭の中に響いているようだ。背後の聖女にも一度微笑みかけてから、ゲズゥを見上げた。
 
 ――逢えて嬉しいわ。生きててくれてありがとう。あんたはちゃんと長生きしなさいね――
 
 
 至福の喜びを見つけたみたいな顔をして、母は天へと消えていった。

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