11.e.
2012 / 04 / 12 ( Thu )
とある可能性が脳裏を過ぎった。ミスリアは最初の時系列に戻り、じっくり目を通した。名前と住所の連なりは、病状が確認された日付順に並べられている。三日前の時点で罹った人数は十五人であり、その中で死に至ったのは最初の四人だけである。
更に紙をめくれば、罹った個人の数日間の行動を記した――入った店や行った場所、食べた物や関わった人物など――細かい調査書がどっさりとある。調書の中には多くの情報が解りやすく含まれていた。本当に、誰かに見つけてもらう為に書かれたかのように。
これらによれば、病が食を通して伝染していることは既に判明しているらしい。あとは発生源を突き止めるだけだったのだろう。ここまでは解る。
一番最後の紙には見取り図のようなものが描かれていた。図のタイトルからして、それがラサヴァの町の地下貯蔵庫であることがわかる。
紙の隅っこに、黒い色を見つけた。裏側のインクが透けた跡のようだった。紙を裏返すと、小さく一文が書かれていた。ミスリアはその言葉を読み上げた。
「――『これは人為的に広められた病である』――」
冷たいものが背筋を撫でたような感覚がした。
カイルが導き出したこの結論が本当だとしたら、四人以上の人間が死に、十五人以上の人間が病気に苦しんだのが誰かの手によるものだったということになる。
そして真実をカイルが調べまわっていると、黒幕なる人物にばれたのなら……?
「急いだ方がいい」
背後からゲズゥが淡々と意見を述べた。
「はい。すぐに向かいましょう」
或いはゲズゥにとってはラサヴァの行く末も、カイルの命さえも、どうでもいいことなのかもしれない。けれども今協力してくれる気になっているのなら、それを最大限に生かすべきだと思う。
「まずはカイルの調査に手を貸した人物と会ってみます。その後は地下貯蔵庫へ」
ミスリアの提案に、ゲズゥは頷いた。
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町並みをじっくり観察したい欲求を抑制しながら、ミスリアは足早に町の役所へ向かった。その後ろを、少し離れてゲズゥが歩く。彼の容姿や背負っている大剣が目立つのはどうしようもないとして、呪いの眼は包帯で隠している。ミスリアも聖女の衣装ではなく地味なワンピースを着て、髪は右寄りに緩く束ねている。
といっても昼間でありながら誰も外を出歩いていないのでさほど気にすることも無かった。
「とりあえずはカイルを探すことを優先しますね。疫病に関してはそうした方が進展しやすいでしょう」
小声でゲズゥにそう伝えた。
道の交差する地点には必ず看板があるので、すんなり役所へたどり着くことが出来、幸い他の人間と鉢会わずに済んだ。
赤茶色に塗られた三階建ての建物の中に役所はあった。
受付にて、ミスリアはとある役人に会いたいと告げた。それはカイルの調書から見つけた名だ。
「彼は今日は休みですが」
受付の机に向かう中年男性が好奇の色を目にちらつかせて応じた。
「ではよろしかったら連絡先か何か教えていただけませんか?」
にっこり笑って、ミスリアは男性にそう頼んだ。
(あまりしつこいと不自然かしら……でも他の役人さんが味方とも限らないし)
「そうですね、この時間なら副業の方にいるかと」
受付の男性は眼鏡をかけると、メモに街中の料理店の名を書き記した。
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