【キャラ絵】おさななじみって扱いにくい
2014 / 05 / 11 ( Sun ) |
32.d.
2014 / 05 / 08 ( Thu ) 青白くゆらめく魚の大群が夜空に浮かび上がっている。正体は、空を飛ぶべきではない、魚の形をしただけの人を喰らう化け物だ。 リーデンはおぞましい光景を討伐隊前列の右翼から見上げた。どこからか攻撃の合図たる声が聴こえたので、間髪入れずに動き出す。 狙いを定めてから手首を捻らせるまでの間(ま)は誰よりも短い――と自負したい所だが、同じ右翼からナイフを投げるエンリオも、なかなかに速い。 (しかも僕よりも狙うのが巧いかも) うじゃうじゃ居る敵の大群の中から標的を選び、眉間を正確に貫いている。ちなみにリーデンが狙ったのはあの間抜け面の顎下辺り。狙いは的中し、そのまま仰角四十五度に頭部が削がれる。 「替われ!」 前列の戦闘員が魔物たちに飛び道具を浴びせた直後、後列から号令が上がった。それには素直に従い、一列目が今度は二列目になる。 スリングショットや弓矢などの武器が再装弾されるまでの時間を、他の者たちで稼ぐということだ。 武器の性質上、装弾のラグなどリーデンとは無縁だった。加えて彼は両利きなので、片手で攻撃を繰り出す間にも空いた手は次のチャクラムを指の間に挟むことができる。しかもベルトにかけている鉄の輪の数はゆうに五十を超えていて、回収に手間取る必要も無い。 今は一応混乱を避ける為に、本来のペースよりも手数を減らして周りと攻撃のタイミングを合わせてはいるが。 (三、四列でも組んでも良かったけど。飛び道具を浴びせる波が続けざまな方が効果的なのに……人数的に幅が足りなくなるか) 待機中にそんなことを考えた。 魚どもが一直線に襲ってくるならまだしも、奴らは広い範囲をデタラメに飛んでいる。 偶然か運悪くか、今晩集っている人員の中では飛び道具を扱う人間よりも接近戦に長けた人間の方が多かった。 この人材のバランスでなんとか一体でも多く倒すことを念頭に置いて、フォーメーションを決めたのだろう。 (あと、敵の進軍にも中距離攻撃が出て来る可能性アリ、だっけ) リーデンは宵闇の中で薄く光る異形の群れを凝視した。 攻撃された魚たちはギャーギャー鳴きながら身をよじる。第一波で撃ち落とされなかった個体が目に見えて膨らんでいった。 次に、魚たちはビュッと唾液のようなものを吐き出した。 その間、唾液を打ち出す時の魚たちは進行が止まっている。 ――聞いていた通りの現象だ。 作戦が実行される当日までに、何度か下見に来た人間が居る。あらかじめ得た情報が皆に伝えられたため、準備は万全だった。 接近戦派の人たちが盾や得物を駆使しておそらく毒性の唾液を退ける。唾液攻撃がおさまった頃には装弾も終わり、前後の列がまた入れ替わった。それらを何度か繰り返す内に、大群はすっかり数が減って形を成さなくなっていた。進行を許してしまった分は剣や槍や斧などによって戦士たちが豪快に片付けている。 (はぐれモノも居るけどね) 片目を瞑って休ませ、リーデンは右目だけで非戦闘員エリアの方を向いた。 聖人・聖女たちが特別魔物に的にされやすいという話は兄から聞かされている。案の定、結界に守られた高嶺の花を目指して魚たちが見えない壁に挑んでいる。 同じ箇所をあまりに何度もぶつけられば結界が綻びることもあるのだろう。司教やレティカが緊張した面持ちで身構えている。ミスリアだけが落ち着いた眼差しで見守っていた。 (数は多くても一体ずつは大したことないし) リーデンは両目を開けて、次に起きた一連の出来事を観察した。 小さな穴をこじ開けようとしている魚たちの前に、大きな人影が立った。 T字型の杖の先端が地面に突き刺さる。 右の杖と脚に体重を預けたゲズゥは左脇下の杖を地に引きずった。 それが地から抜けた瞬間、振り上がる速さが一気に加速し――結界越しに数匹の魔物に強烈な衝撃を見舞わせた。問題はそうしてあっさりと解決した。 やがて、黒い生地の装束と赤い帯そして頭皮にぴったりくっついた丸い帽子を身に着けた初老の男、司教が声を張り上げた。 「聖女レティカが落ちた魔物の浄化に回ります、手の空いた者はサポートして下さい! 怪我をされた方々は、聖女ミスリアの元へ!」 次に敵の大群が押し寄せるまでの時間を有効に使って、体勢を立て直す手筈である。全員が忙しなく動き回った。 リーデンは怪我をしていなければ、レティカのサポートをしたいとも思わない。なので人の集中している範囲から離れ、兄に「話しかけ」ることにした。 ――君の経験上、今の内にやった方がいいこととかって何か思いつく? よく夜に出歩くリーデンは何度も魔物退治を経験しているが、あまり細かいことはわからない。適当に切り刻んでいただけで、「浄化」という対処法についてもさっき初めて聞いたくらいだ。 返事が来るかは定かではない。気にせずにリーデンはのんびり歩いた。 ――根源を見に行け。あの猿みたいな男も連れて行くと良い。 返事があった。 根源とは河のことだろうか。猿みたいな男とは誰を差しているのかと少し考えて、ああ、とリーデンは答えに至った。 弓兵が一撃繰り出す間にエンリオやリーデンは二・三発飛ばしてるみたいなペースでしょうか。弓の方がとぶ距離は長いでしょうけど…… |
32.c.
2014 / 05 / 04 ( Sun ) 「記録に無いだけかも。古すぎたとか」
「古い事件でしたら今になって魔物の数が増えるのはどうしてでしょう」 解せないと言った具合にミスリアが首を傾げている。 「そんなの君らにわからないのに僕にわかるわけないし。外的要因があるんじゃない」 「……構いませんわ。教団が正式に助勢して下さらなくても、わたくしたちがおりますもの。町民たちの不安の芽を摘んで差し上げましょう。聖職者とはその為に存在しているのですもの」 連日大勢の聴衆の前に立って演説をしてきた癖だろうか、レティカは声に力を込めて言い張った。彼女がぐっと拳を握ったのを、リーデンは見逃さなかった。 「サムイ。意気込むのはいいんだけど、そういう台詞からは無理してる感がヒシヒシと伝わるね」 目を細めてそう言うと、聖女レティカはその場で凍り付いた。 近くに来ていた彼女の護衛二人がそれぞれ身を乗り出した。たまたま、より近くに居たのがレイという名前の大柄な女の方だ。 「貴様、レティカ様を愚弄するか」 リーデンの顔めがけていかにも重そうなロングソードをスラリと薙いできた。 「するかも何も、もうしちゃったよ。あは」 彼は剣を素手で掴む。左手の親指・人差し指・小指にそれぞれつけている指輪が、ちょうど刃に当たってるので手を切ることはない。 「遠慮を知らない物言い、協調性に問題あり」 レイはただでさえ強面な顔を更に険しくしながら、大きな声で告げた。不穏な空気に気付いて司教とそれを取り巻く人間が注目を向けてくる。なるほどこうやって退ける気か、とリーデンはニヤニヤと口元を吊り上げる。 「大丈夫、戦闘が始まったら協調性を出すよ」 「何が大丈夫なものか」 レイは尚も抗議したが、それを制したのがエンリオという小柄な男の方だった。 「作戦に支障が出なければそれでいいんですよ」 女の方が先に怒りを見せたからか、エンリオの方は冷静さを取り戻していた。確か、最初に会った時に魔物退治に誘ったのもコイツだった。 「しかし、レティカ様を……」 二人の内で実直な性格で忠誠心が強いのはレイの方か、とリーデンは評した。 エンリオは「大したことない」とでも言いたげに手を振っている。それを合図と受け取った司教とその他の魔物狩り師の視線がリーデンから外れる。 「貴方にはレティカ様の言葉が虚栄に聴こえたんですか?」 「どちらかと言えば思い込もうとしてる感じかな。聖女とはこうあるべきだと考えてそうふるまっているだけで、本当に自分にその道が合ってるのかわからず、自分の実力を自分ですら信じられていない」 思ったままに、エンリオの問いに答えた。それは今のやり取りだけでなく、これまでの彼女の言動やミスリアに聞いた話も取り入れての考えだ。 「かもしれませんね。過度に失敗を恐れているのもその所為でしょう」 エンリオは深く頷いた。彼は所在無さげに佇むミスリアとも丁寧に目を合わせて話す。 「構いませんよ、それでも。思い込もうとしているだけでも、ボクらはレティカ様の人生観が好きなんです。それに殉じてもいいくらい」 乳白色の瞳は真摯な光を灯していた。 「……私はエンリオほど難しく考えていない。レティカ様にはご恩があるからついていくと決めているまでだ」 剣を引いたレイが呟く。 「まあそういうのも良いんじゃない」 リーデンは生返事を返した。レティカのことは思いついたから指摘しただけであって、別に他人の在り様にそれほど興味がある訳ではない。 主人たる聖女が半端な気持ちでも、従者たちに迷いが無いのなら三人組はそれはそれでうまく機能するのだろう。 聖女レティカは潤んだ瞳で、護衛たちに感謝の意と自身の不甲斐なさに対する謝罪を述べている。護衛たちの方は、気にしなくていい、一緒に居られるだけで光栄だ、みたいな語句を並べてなだめる。絆の強さが再確認される感動的な場面――になるのだろうか。 (さて、なんか他にも訊いてみたいことがあった気がするけど、もういいや) 面倒臭くなって、リーデンは自分の持ち場に戻ろうと決めた。夕焼けの空は開始時間が近いことを示している。 踵を返して歩き出す。するとふと少女の呟きが聴こえた。 「自分の力を自分で信じられない……ですか」 「ん?」 「あ、なんでもありません」 振り返りざまに訊き返すも、ミスリアは頭を振るだけでそれ以上は何も言わない。 その後ろに佇むゲズゥは、まるで聞き耳を立てて一部始終に注意していたかのように、己の護衛すべき対象をじっと見つめていた。 |
32.b.
2014 / 05 / 03 ( Sat ) 「そっちの聖女さんもおいでよ」
と、笑って声をかけてみた。 二人の聖女が歩み寄る。人の群れはいつの間にか司教を囲むことに決めたらしく、聖女たちを追わなかった。 「ねえ、僕を怖がってるのはどうして?」 目を合わせようとしないレティカに軽い調子で訊ねると、彼女は視線をきょろきょろさせた。彫りの深い顔が僅かに紅潮し、白い手は首の横で束ねられた青銅色の髪を撫でている。ミスリアはともかく、この女性に目を逸らされるようなことをした覚えはない。 「……ありのままに答えても?」 「どうぞどうぞ。傷ついたりしないから」 微笑で先を促すリーデンは、勿論ちゃんと、己の顔立ちの破壊力を理解していた。だからといってそれに執着があるわけではなく、使い方を心得ているだけである。 美しさとは武器であり権力だ。使う為に存在するものである。が、たとえ使えなくなっても武器が一つ減るだけなので、彼は美貌を維持する為に右往左往しようとは思わないし、顔に傷を負ったとしても嘆いたりはしない。 レティカの碧眼がリーデンを上目づかいに見上げる。そしてすぐにまた顔を逸らした。 「見た目の輝かしさと相反して、貴方の周りの空気が……渦巻いていると言いましょうか、ねっとりしていると言いましょうか……あまり見ていると吐き気を催しますの」 「周りの空気?」 思わず訊き返す。するとレティカは自分が生まれつき人の周りの空気が色がついて見えるという話をした。 「じゃあ人の業が見ただけでわかるってワケだね。業っていうか生き様か」 「え、ええまあ、簡単に言えばそうですわね」 「あははは。ごめんねー、業が深くて。じゃあ無理にこっち見て話さなくてもいいよ。にしても、その能力欲しいな。悪質な人間が一目でわかるってのは良いね、前もって対策練れるから」 リーデンは自分のことは思いっきり棚に上げて、ころころ笑いながら率直な意見を口にした。レティカは気まずそうに唇を噛んでいる。 「それでリーデンさん、ご用件は何でしょう?」苦笑交じりにミスリアが訊ねた。 「ああ、そうだったね。ズバリ、土地が『忌み地』判定をされる為の条件って何なの」 質問に面食らったようにミスリアが目をぱちくりさせた。一度レティカと目を合わせてから、答える。 「確か……何か惨事が起きた明確な過去と、常に漂う大量の瘴気と、後は昼夜構わず魔物が闊歩してる状態、でしょうか」 「なんか大きな事件があった場所じゃないとダメってこと?」 「そうなりますね」 「もう一つありましたわ、確か。忌み地と判定して封鎖するには範囲が一定の面積以下でなければなりませんの」 レティカが横合いから付け加えた。 「ふうん? 何で」 「広大すぎると対応しづらく、教団にとっては管理対象外になるからだと思いますわ」 「それは私は知りませんでした。ではユリャン山脈の西にある樹海が浄化されていないのはそういう理由からなのでしょうか」 何かを思い起こすようにミスリアは視線を彷徨わせている。そうかもしれませんわね、とレティカが相槌を打った。 「この場所はどうなの?」 リーデンは手をかざして河の向こう岸まで見通してみた。確かに広いが、教団に対応できない程なのかと問われれば否と答えるだろう。 「司教様に聞きましたけれど、忌み地となる原因が記録に無いそうですわ」 |
32.a.
2014 / 05 / 01 ( Thu ) 一度の魔物討伐に六十人もの人員が駆り出されるのは珍しい、それは間違いなかった。 あるセオリーによれば、安全性を重視した配置をするには以下の対比が最適だという――魔物狩り師一人に対して魔物は三体まで、と。六十人の内の全員が魔物狩り師というわけではないが、仮にそうだとしてセオリーに則って計算するならば、今この場に居る人間だけで最多で百八十体の魔物の相手ができるということになる。 それだけの数の魔物が一箇所に集まっているのはありえないのではないか。そこまでの状況であれば教団から「忌み地」と断定されて封印されるはずではないか。 百八十よりも少ない数が相手だとしても、大人数の方が安全だという考え方には、穴がある。 集団として統率の取れた動きが維持できるのか。人員同士で実力にムラが出るかもしれない。それを巧く補い合えるようにバランスを取った配置をするか、より弱い者を前線から一歩引かせるか、考慮すべき問題が人数と共に増える。 何より、どんな討伐隊も全滅に遭って戻らない……その噂が本当なら? 人数が多くても全員死ぬのが決定事項なら、小隊に捨て身の攻撃をさせ、敵の数を徐々に削ることを優先すればいいのではないか。少ない犠牲を払ってより確実な解決法を選ぶべきではないか? 己の思考回路が弾き出した疑問を聖女たちにこっそり持って行こうと思って、リーデン・ユラス・クレインカティはゆっくり歩き出した。 薄い茜色に染まりつつある世界の下。討伐隊は戦陣を組み立てたり指示の確認をしたりで忙しい。 フォーメーションはシンプルで、たとえるならA字型になっている。魔物狩り師たちが二列を組んで矢印のように攻め込み、後ろに並ぶ非戦闘員、つまり聖職者たちを同時に守ることになる。 非戦闘員は夜になれば司教の簡易結界によって囲まれるので魔物狩り師の働きが無くともある程度は安全だ。 リーデンはその中で杖に寄りかかって佇む兄を瞥見した。今日は非戦闘員に徹するらしい。脚の怪我に関しては昨夜さんざん問い詰めたが、結局口を割らせることはできなかった。 次に、彼から数歩離れた位置に立つ小さな聖女の姿を認めた。 そんな荷物は無かったはずなのにどこから仕入れたのか、聖女は足首まで届く白い服を何重にも着込んでいる。ウェーブがかった栗色の髪はレースに縁取られた半透明のヴェールに隠れ、あどけなさの残る顔は慈愛と自信に溢れていた。不安を相談しに来た魔物狩り師の女性たちを励ましているらしい。三十路に届きそうな年齢の女どもが揃って十四歳の子供に群がる様は何やら可笑しかった。 聖女ミスリア・ノイラートは、興味深い人間である。 兄のゲズゥが彼女を気に入っている、または特別視しているらしいことは噴水広場で会った時にすぐに気が付いた。 ゲズゥが口数少ないのは他人と意思疎通することに意義を見出さないからだ。そのため必要最低限にしか喋らないし、よく舌の回る人間、中でも女子供の相手をするのがやたら面倒に感じるらしい。 そうでありながらミスリアを突き放していないのは何故か。リーデンにとっては少々面白くない話ではあるが、それ以上に純粋に興味がある――兄が心を許しているというこの少女に。 リーデンは結界が張られる予定の範囲の端に立って、目当ての人間を手招きした。 「聖女さん、ちょっといい?」 初対面ではかわいい名前だねと褒めた割には「聖女さん」で呼び方が定着しているし、おそらくミスリアの名を呼ぶ日は一生来ないだろう。 「何でしょう、リーデンさん」 聖女ミスリアは微笑んで答えた。リーデンに対して嫌悪や恐怖を抱いていたとしてもうまく隠している。 この場に居るもう一人の聖女、レティカ・アンディアがミスリアの隣で怯んだのが目に入った。こちらも同じように人の輪に囲まれている。士気を高めるのも彼女らの務めなのだろう。 |
いただきもの絵・聖女ミスリア
2014 / 04 / 30 ( Wed ) 小説家になろうでいつもお世話になってますつまようじ様から素敵なミスリア絵をいただきました!
自由に持ってってとのことなのでこちらにも公開しちゃいます。 <クリックで大きく> 構図や色合いに 聖女! って雰囲気がバリバリ出てますね。聖気の黄金の光。 睫毛とかヴェールとかかわいいよ(*´Д`) ミスリアもやっぱ詰襟の方がいいのかもしれないと新しい発見をしましたよ。今度また衣装について細部まで考え直すことにします。 つまようじ様ありがとうございました! |
拍手御礼ログ 11~15
2014 / 04 / 29 ( Tue ) はやい。
最初のログをつくった頃は500HITありがとうございますとか言ってたのに、今となっては5000HITありがとうございますですよ。私もあっという間にBB…(禁句)になるのかな。 まあ後悔は無いからいいのだけど! 1万なんか行ったら記念に何かしないといけないですよね<DOUSHIYOU 続きは拍手御礼ログになります。 |
ちょっと酸素不足だぜ
2014 / 04 / 29 ( Tue ) ふへー( ・ρ・)
職場に赤十字が現れたので数年ぶりに献血ってきました。 かれこれアフリカから舞い戻ってきて一年以上経ってるので… まあどの道私はマラリアにかかってないはずなんですが。 さすがにしばらく行ってないだけあって、あと健康な生活(?)を送っているだけあって、ヘモグロビン数値は必要最低値を大幅にオーバー。血管が太く血行もよく(多分水分補給も十分に)、10分程度で容量マックス。隣の女性は私がご褒美のクッキー食べ終わった後もまだ頑張ってました^^; その後の経過も特に問題なし。ちょっとくらっとするかな程度。 大学生時代に献血センターまで自転車で行って帰りに息切れしたのが面白い思い出(バカ あと一度、帰りに丘登ったせいかその晩は貧血気味だったことも(バカ? そんな私は、これまでの人生で失神したことがないという。 健康自慢でした。 赤十字がまた私の電話番号を手に入れたので、二月後には声かかりそうだな…w さて、たった今廊下を歩いただけで息が上がったという珍しい状態の私も、深呼吸してれば治るでしょう。 |
31あとがき+拍手返信04‐19
2014 / 04 / 28 ( Mon ) 今回は1記事に詰め込むには長いな! と思いつつ区切るのもなんか微妙だったのでそのままにしました。
これを書いてる私、焼酎うまうましてました。いやぁ、日本のアルコールって濃いのにエレガントですよね。 >> 拍手返信 みかん様 << いえいえ、適当にスルーだなんて……折をみつけて返信することにします。 この猫は子供の頃からこんなノリなのに(「だいすき!」「……知ってる」) いつか誰かへ愛情ダダ漏れにする日が来るのだろうか! 期待せよ!? 拍手&コメントありがとうございますヾ(。◕∀◕)ノ♫♬ では続きのあとがきは読み終わった人へ★ |
31.g.
2014 / 04 / 28 ( Mon ) 三人は広い場所に出て河に面していた。 河の横幅は広がり、両岸の草原に視界を妨げる物がほとんどない。イマリナ=タユスの領域を出ているため、人や民家の姿も無かった。右を向けば、昨夜世話になったあの滝も遠目に見える。東の空では太陽が一日の勤めを終えて地平線に眠ろうとしていた。 「町民は以前から気味悪がってあまりこの辺に近付かないんで、放っておいても害は無いだろうと連合も軽く見てたんですが。今月に入ってから不安がる声が増えてるって司教様が気付いて、対策を立てようって連合に問題提示をしたそうです。ボクらも同時期にこの町に来たんですぐに相談を受けてます」 「では聖女レティカが辺境を掃討しようと選んだのは……」 「そーゆーことです。一月近く、毎晩のように頑張ったからやっとちょっと数が減って範囲も狭まったかなー、って思います。でも一番ヤバい中心地はまだノータッチです」 この地点がそうだとエンリオは補足した。 「連合もついに手が空いたのか、ようやく大人数を率いての連携が実りそうです」 それを聞いてゲズゥは納得した。大人数を率いるにしても狭い場所では身動き取れないが、この広大さであれば問題ないだろう。 「私たちも参加するんですか?」 「お願いします。昨日誘った時点に予定していたのとはちょっと違いますけど」 「そうですね……」 二人の会話に、ゲズゥは何気なく耳を傾けていた。 大変だな、と他人事のような感想しか沸かない。 そういえばリーデンも連れて行く約束だった。予定変更に関しては、大人数での魔物討伐など、アレは面白がるかもしれない。 「でもそんな深刻な戦局に怪我人を連れて行くのは憚られます」 「本人はどうなんです?」 二人の視線が杖に寄りかかって立つゲズゥに集中した。 医者の腕が良かったからか傷はすっかり回復に向かっているが、当分は安静にしていなければならない。 数秒考えて、答えた。 「自分とミスリアの身ぐらいは、片足でも護れる。俺は攻勢には出ない。戦力になってやれないが、聖女の力は貴重だろう」 「ごもっともです。聖女ミスリアが加わるだけでも皆にとってかなり有利に働きます」 「大袈裟ですよ」 「いえいえ、聖気ってのは重宝すべき奇跡の力ですから」 エンリオは自分とちょっとしか身長の違わないミスリアに向けて一礼した。小さな聖女は照れ臭そうに笑う。 「さて、少し見回って来ます」宣言してから、エンリオはポケットからラクダ色の紙をパイプ状に巻いた代物を取り出した。「吸ってもいいですか?」 「あ、どうぞ」 ミスリアはそれだけ言うと、同じく辺りを見回るように歩き出した。 火打石の音が弾く。エンリオはすうっと一息吸い込んでは吐き、こちらを振り向いた。 「貴方も要ります?」 「断る」 臭いからして、一般的に普及している煙草とは異なる草であることは明らかだ。 聞いた話に寄るとそれは長期に渡って使用すると心臓などの機能を低下させ、即ち運動能力の低下に繋がる代物だった。ゲズゥにとって麻薬類は嗜むものであって多用するものではなかった。運動能力に影響が出たら面倒だからだ。 「そーですか。いやぁ、ボクは吸わないと、護衛の仕事中に起きたヤなこととか思い出してやってらんないんですよね。慣れませんね、死は」 重い台詞を吐き捨ててエンリオは煙をばら撒きつつうろうろし出した。河の水を掬って観察したり、足元を確かめたり、その辺の岩をどかしてみたり。 ミスリアも似たようなことをしている。 手持ち無沙汰のゲズゥはただ日没を眺めた。何故だか宵闇の訪れと共に、背筋が疼くような感覚がする。場所の所為だろうか。 ふと、別の方法で情報を得ようと考えて、彼は左眼を使うことにした。 まだミスリアには説明していないが、視界の共有だけでなく、血縁関係の強い相手とは意思の伝達ができるという便利な機能が付いている。ただし離れている方が同調が起こりやすい視界の共有とは真逆に、距離が近くなければ通じにくい。現在の距離でギリギリ有効範囲だろう。 ――河の「分岐点」近くに魔物が多発してる話を知ってるか。 返答はすぐには返らなかった。普段から、一方的にどちらかが話しかけて終わる場合が多い。しかもリーデンから「話しかけられる」ことはあってもゲズゥがこうやって呼びかけるのは珍しい。いつも応えない仕返しとして無視されても仕方がない。 それでなくともさっきの出かけた際の別れが穏便ではなかった。 だが一分ほどして、応答があった。 ――知ってるケド、それが何? ――明日魔物討伐に行く場所だ。今下見に来てる。大人数で討伐隊を組むらしい。 また、間があった。 ――ふーん、それはそれは。ていうかそこ、噂話が酷いよ? ――噂話? ――誰が赴いてもどんな大人数の隊も全滅するんだってさ。よく新しい討伐隊を組もうなんて気になるねぇ。 ゲズゥはしばらく考え込んだ。噂が本当だとするなら、連合が腰を上げたがらないのもうなずける。 ――他人事みたく言ってるが、お前も明日行くんだろう。 ――そうだねー、楽しみだねー。 楽しそうな弟に対して、ゲズゥは無意識に眉をしかめる。 ――ねえ、そんなことより、兄さんさっきなんか怪我してない? 気付かれないように遮断したつもりだが、向こうに漏れていたらしい。怒気を孕んだ問いをゲズゥは無視することに決めた。通信はそこで終了する。 「ミスリア!」 いつの間にか大分遠くに行っていた少女を呼び止める。 彼女は弾けるように顔を上げた。 「引き上げる」 夜になれば面倒なことになるのは間違いない。今の状態では満足に立ち回れないし、危険である。 察したミスリアはゲズゥの傍へと駆け戻る。 「ボクはもうちょっと見て行きます。敵さんが出てきたら颯爽と逃げるのでご心配なく」 エンリオはひらひらと手を振った。ミスリアも手を振って挨拶を返す。 猿も顔負けなあの機動力と脚力があれば心配するまでも無いだろう。ゲズゥは杖を繰ってサッサと帰り道を歩み始めた。 |
31.f.
2014 / 04 / 27 ( Sun ) 「……お前こそ」
別にゲズゥの「肩書」を知っていて言っているのではないのだろう、そう直感した。 「ボクは人間を手にかけたのは護衛になってからが初めてです。殺す以外のアレコレならしてましたけどね」 片手を胸に当て、片手をしなやかに翻して、エンリオはパフォーマーみたいな一礼をしてみせた。そして何を思ったのか、一歩近付いてひそひそと話した。 「同じ人殺しでも、『罪人』と兵士や騎士の違いって何だと思います? 罪人には、代わりに背負ってくれる人が居ないんですよ。自分の罪は全部自分の責任、死ぬまで一生、向き合って生きるしかできない。いいえ、死んでも逃れられないのかもしれない。何せ魔物は――」 ゲズゥは話を聴きつつも裾が引っ張られるのを感じた。視線を向けなくとも、ミスリアの仕業だろうとわかった。 「この話は不要でしたか。知ってますよね。とにかく『摂理』はともかく、社会の目は背負ってくれる人が居るのと居ないのとでは全然違ってきますし、気の持ちようも変わるんです」 エンリオは一歩後ろに下がった。その表情は建物の影に隠れてよく見えない。 昔、似たようなことを言われた覚えがある。かつて多くを教えてくれたあの男だ。 ――大義名分を口実に戦という状況下で千や万の位に達する数の命を奪っても、大量虐殺を罪に問われないどころか、吟遊詩人の歌の中で永遠に美化されて語られ続ける人物もいるという。何故、己や身近な人間のために一人二人殺したくらいで罪人になる? くだらん正義さえ唱えれば非道も正当化される人の世というのは、実に理不尽だ。だが、そんな世の中でも、我々の生き方が間違っているとは思わない―― 「白昼堂々となんつー話をしてるんだって感じですね。今のはレティカ様には内緒にしてください」 ゲズゥたちは相槌を打たなかった。ただ、この男は生きづらい世の中に揉まれ慣れていそうだ、と脳内に記しておいた。 「レティカ様と言えば……いけない、油を売ってる場合じゃなかった」 「何かご予定があるのですね」 「下見をしなきゃならないんです。そうそう、もしお暇でしたら、ボクの用事に付き合ってもらえませんか? 他の人も居た方が色んなことに気が付くでしょうし。貴女がたにも無関係ではありませんよ、明日討伐に行きますからね」 「では下見と言うのは討伐予定の場所へ?」 ミスリアが問いかけた。 「そうです、際どい時間帯に行くのがポイントです。詳細の説明は歩きがてらで」 一度、ミスリアが気遣うような眼差しでこちらを見上げる。ゲズゥは小さく頷きを返した。 「決まりですね。じゃああっちへ向かいます」 エンリオは北西の空を指差して言った。 _______ 曰く、イマリナ=タユスという町は二つの河と縁があるらしい。正確には片方が本流でもう片方はそちらから分岐する派川であり、分岐点は町よりもずっと北に位置しているという。 より広く大きい本流は街の東側に接している方の河で、町が河沿いの都と称される所以である。 派川の方は北西の野田を通り抜け、所によっては狭くなったり浅くなったりと舟を通すのに不向きで、小川と呼べる規模に該当する。昨晩はよくわかっていなかったが、魔物退治しに行ったのは本流ではなく派川の方だった。 最近まさにこの周辺で魔物が多く目撃されているらしい。 本日の目的の場所は昨日行った河のほとりに近い位置、その更に上流を辿った辺りにあった。 魔物が最も多く出現する場所は分岐点の手前だそうで、近頃は範囲がどんどん上流に、つまり北に伸びている――もしもそうやって分岐点にまで至れば、今度は本流の方に伝って南へ被害が広がるのではないかと危惧されているそうだ。 流れに逆らって魔物たちの出没領域広がっているのか、そこまでは定かではない。水流に乗って南行する可能性がどれほどなのか、そこもやはり定かではない。なので魔物狩り師たちにとっては優先順位の低い問題として扱われていたらしい。 「討伐隊の結成……ですか?」 「そうなんです。ボクらも今朝、町の魔物狩り師連合から協力要請を受けました」 |
31.e.
2014 / 04 / 24 ( Thu ) 人の好い笑顔をちょうど囲う長さの前髪が、右から左へと重量を感じさせない具合にふわふわ流れていて、後ろ髪は細く短い三つ編みにまとまっている。小柄な体型と童顔な顔つきの男は指の開いた手袋を着用し、身軽な動きの妨げにならない程度に、程よい装備を身に着けていた。 他人の姿かたちを記憶できないゲズゥでも流石に昨日の今日で覚えている。例の聖女の護衛の男だ。なんて名前だったか――「エンリオさん!」 ミスリアが驚き交じりに応じた。 「はい! 今日は雨があがってて良い天気ですね。夕方の参拝ですか?」 「いいえ。通りを歩いていたらこちらの教会の屋根が見えて、気になって寄ってみたんです。大聖堂(カテドラル)……司教座聖堂があるとは知りませんでした。この町に着いてからはまだご挨拶に伺う機会もなかったので」 「そうだったんですかー」次にエンリオという男は乳白色の瞳をこちらに向けた。「何故杖を? 大丈夫ですか」 そいつにしてみれば好奇心と一緒に手が伸びたのだろう。 「触るな」 怪我に触れられる前にゲズゥは一言で制した。 「あ、はい。すいません、軽率でしたね」 エンリオはパッと身を引いて両手を挙げた。表情からして気を悪くした様子は無い。 「貧血キツくありません?」 「医者の所で寝てきた」 と、ゲズゥは答える。 見かねたミスリアが更に付け足した。 「複雑な事情が絡んでいるのでできればあまり訊かないでいただけると助かります」 「わかりました、訊きません」 「ところでエンリオさん。お一人ですか?」 他の二人は一緒ではないのかと、ミスリアが周囲に目を走らせている。 訊ねられたエンリオは大聖堂の方を振り返った。視線が順番に、柵、前庭――最後に開け放たれた正面玄関へと巡っていく。 「レティカ様は中ですよ。何でも、この町では毎晩、日暮れと共に祭壇の水晶に祈るのが慣わしだそうで」 「そういう町があるのは聞いてましたけど……イマリナ=タユスに水晶を祀る祭壇があったのですね」 「はい。中庭(コートヤード)を突っ切った先にあるそうです。ま、ボクはどうせ入れないんで今はレイだけがお供してますけどね」 「入れない?」 「身元が不確かな人間は奥の祭壇に近付けさせてもらえないんですよ。レイは父親の代で落ちぶれちゃいましたけどあれでも騎士の家の出ですからね。ボクは孤児でしたし『穢れ』もあるんで司教様がうるさいんですよ」 やれやれ、とエンリオは頭を振りながら肩を竦める。 「そちらの護衛の方も入れないんじゃないですか? 人を殺したことがあるんでしょ? それも五人や十人なんてかわいいものじゃない」 |
拍手コメ返信 04-17
2014 / 04 / 19 ( Sat ) みかん様
むぐふふふ( ̄ー ̄) 取り乱す要素が…!? このあたりの心理描写は凄く神経をすり減らしたので何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。 なんていうか みんなー 大型ネコがデレたよー(・∀・) って呼びかけたくなっていますが気のせいです! |
31.d.
2014 / 04 / 19 ( Sat ) 昔から自分は人よりも感情表現が希薄だというのは周りからの言動でわかっていた。心が空っぽと思われても仕方がない。 唐突に、ミスリアが両目をかっ開いた。 あまりに唐突だったのでゲズゥは疑問符を放ちながら身じろぎした。 「…………笑いました」 「は?」 「今、一瞬だけ貴方の顔の筋肉が笑顔をつくったように見えたんです」 「そうなのか」 「そうですよ」真剣だった眼差しに楽しそうな煌めきが灯った。いつの間にか涙も止まっている。「あの、もっとよく見たいので、できればもう一回笑って下さいませんか」 「……………………」 「いえ、言ってみただけです。すみません」 少女は目を逸らしてどこか恥ずかしそうに笑う。 「リーデンさんのことは、私にはよくわかりません。あの少年との因縁もどうすればいいのか、簡単に答えが出るような問題ではないでしょう。私はお力になれるかわかりませんけど、でも今日はゲズゥが一杯お話してくれただけでもすごく嬉しいです」 「そうか」 「はい」 再び目が合った。 素直だな、とゲズゥはミスリアに聴こえないように囁いた。 いつだったか、罪人の魂を救済できると証明したくて助けたのか、みたいに責めたことがあった。だが今となっては、知っている限りのミスリアの性質と照らし合わせて考えると、そんな傲慢な意図は感じ取れない。 日頃からやっているように――顔も知らない、どこかで破滅に向かって生きている人間の話を聞いて――心を広げたのだろう。そう考えると納得が行く。 もしも気が向けば、その内訊いてみようと思う。 魂が救済されなくとも何かしらの救いを既に得ているのではないか――。 そんな考えが芽生えかけるも、痛覚が発する荒波に流されて、形を成すことなく消える。 「行くか」 ゲズゥは右手でミスリアの肩を軽くぽんと叩いた。 「は、はい」 左手に巻きついていた温もりは今度こそ離れた。しかも少女は何故かこちらに背中を向けてしまった。 名残惜しいような心持ちで、ゲズゥは己の左手を一瞥した。 _______ ミスリアと旅をするまでは教会とはほぼ縁の無い人生を送っていた。 そのせいかはわからないが、この巨大な建物をうまく形容する語彙をゲズゥは持っていなかった。 「空をそのままお城にしたみたいな……昔、絵本にもこういうの載ってるのを見ました」 ため息交じりにミスリアが感想を漏らす。 宗教施設を城と呼ぶのはいかがなものか。しかし規模だけで言えば城と呼んでもいい気がする。色合いは蒼穹か藍色か、透き通るような深い存在感を醸し出していた。「神秘的」の言葉が似合いそうである。 目の前の教会は、ただでさえ色彩に欠かないこの町の中でも、異質に見えた。 「教団本部の建物はもっと大きいんですけど……綺麗さではどっちも……」 と、尚も感嘆を表すミスリアを横目に、ゲズゥは別のことに意識を向けた。 視界の端で、近くの建物の屋根の上を走る人間をみつけたのである。しかもこちらに向かって駆け寄ったかと思えば、屋根から身軽に跳び下り、宙で二回転して着地する。猿を連想させる動きだ。 「こんにちはー! 奇遇ですね」 男は片手を挙げ、馴れ馴れしく声をかけてきた。 |
31.c.
2014 / 04 / 17 ( Thu ) あれほどまでに好き勝手に他人を害しながら、全く邪魔されない人間などそうそう居ないだろう。イマリナ=タユスを拠点とした裕福な商人の元に嫁いでからは悪化したようで、女の外面の良さに磨きがかかればかかるほど裏では非行が積み重なった。しかも、主に少数民族や貧窮の者を追いつめる類の悪事だ。 経歴から態度まで、鬱陶しいと感じない点の方が少なかった。だがゲズゥはその程度で取り乱すような性分ではない。報いは相応に――怨みを方程式に当てはめるように、それまで葬ってきた仇たちにしたように、淡々とすら呼べる手つきで女に惨たらしい最期を迎えさせようとした―― 最中に、存在だけは聞き知っていた、その女の養子が現れた。夫の亡くなった知り合いの子供か何か、そんな縁だった気がするが、とにかく邪魔だからと気絶させて横にどけようと動いた。 子供は抵抗した。養母を助けようと死に物狂いで暴れ叫んだ。 二人の間を飛び交う言葉を聴いて、次第にゲズゥの胸の奥では「羨ましい」を通り越した憤りが渦を巻いて嵐を生み出した。 「……俺がリーデンにしてやれなかったことを、あの女は養子にできていた」 重々しく呟く。事細かに思い出せば、やはり黒い感情も一緒になって蘇る。 ミスリアは言を挟まず、真剣な面差しで続きを待った。 「夫のみならずあの女の身近な人間は全員が闇に生きていた。なのに共に暮らしていながら、子供の瞳は無垢だった」 今でさえ、子供は親の身の潔白を信じている。或いは一生信じたままで、復讐心さえ乗り越えられれば親の生きた道を辿ることなく真っ当に成長するだろうか。 女が養子に向けて怒鳴った「お前はこっちに来るんじゃない!」という警告の真意をゲズゥは瞬時に読み取っていた。 一緒に暮らしていながらも汚れた世界から一線を画し、己の本性を隠しながらも子供を守り抜こうとしていたのだ。 それは自分が弟に与えてやりたかった、理想の具現化だった。 否、一緒に居られなくてもいいから、なんとしても闇から守ってやりたいと思っていた。 拾ってくれた老夫婦は二人も子供を育てるのは無理だと断じた。選ぶならば、無愛想で不気味な兄ではなく、愛らしい弟の方を育てたいと。 ゲズゥは異を唱えなかった。せめてリーデンだけでも平穏な暮らしができるなら、と考えて潔く身を引いた。 離れることになってもいいから普通に幸せに生きて欲しかった。毎日腹一杯、温かい食事を食べて欲しかった。そして、一族との終わらない悪夢から解放されて欲しかった。 結局願いは叶わなかったが。 ――冷静に考えれば、あの女と比べても仕方ないことぐらいわかっている。 離れようと判断をした時のゲズゥは僅か八・九歳程度で、しかも地位や収入源も無ければ頼れる知り合いすらいない、人間一人を庇護できるような状況ではなかった。 そもそも、思い描いていた理想は都合が良すぎた。同じ屋根の下に住んでいながら世界を住み分けようなどできるはずが無かった。だからこそそれを成し遂げた女が余計に腹立たしく思えたわけだが。 わかっていた。 だが、無垢な子供の瞳に映る己の姿に不覚にも驚いたのだ。穢れた自分を睨む子供に弟を重ねてしまったかもしれない。ひどく惨めな気分になり、頭が混乱した。 激昂した、かもしれない。 一時の激情の所為か実はその辺りはよく覚えていなかった。女の息の根が止まったのを確認した後は速やかに惨劇の場を去って、養子がどんな様子でいたのかなんて見向きもしなかった。 思えばこうしているのは罪滅ぼしではなく、自身の無力さを呪っての自傷なのだろう。気が済むまで血を流したいのは、自分の方だ。 ――たった一人を守れなかった悔しさを紛らわせようとして。 ぽつぽつと語り終えたゲズゥは、その時になってやっと傍らの少女に目の焦点を当てた。瞬く度に大粒の涙が次々と溢れる程、ミスリアの瞳は濡れている。 「何故泣く」 「貴方が、泣かないからです……!」 わけがわからない返答に、ゲズゥは無言で眉を吊り上げた。ぽたぽたと涙が手の甲に落ちている。 「でも、ちょっとだけ、安心しました」 ミスリアは目元を左手の袖で拭いながら続けた。 「私はずっと、ゲズゥが感情に乏しいとか何かが人として欠落してるとか、実は心の中が空っぽだったらどうしようって、思ったりしたんです。でも違うんですね。何の変哲も無い石を裏返せばその下にたくさんの虫が生きているとわかるように、空虚に見えても、心の奥では色々な想いが蠢いていたんですね」 「……正直だな」 「す、すみません。空っぽだとか虫だとか、ふ、不快にさせてしまいましたか?」 露骨に怯む少女が、何故だか段々と可笑しく見える。 「いや、わかりやすい例えだった」 |