03.h.
2012 / 01 / 01 ( Sun ) 安穏とした旅にならないのはわかっていたけど、いきなり逃亡生活に入るとは流石に思ってなかった。
何が悲しくて、会って一日も経ってない異性に背負われながら、深夜に野外を逃げ回らねばならないんだろう。 人生経験が浅いミスリアの想像力は、ここまで及ばなかった。 ゲズゥの行動や判断に抵抗を感じてはいる。でも、どれも生き延びるためだと頭で理解できる以上、感情でそれを拒むのは間違っている気がする。ミスリアは、社会的に自立した一人前の「聖女」になりたかった。世間の目にはまだ「少女」にしか写らない。だからこそ感情を押し殺し、やるべきことをやれるように鋭意努力中だ。 自分にとってもまだ自分は「子供」でしかないのだから。 それに比べ、次々と襲い掛かる怒涛の展開に眉一つ動かさずに冷静に対応するゲズゥは、素直に凄いと思う。 彼からは戸惑いのようなものがほとんど感じられない。そうやっていつも生き延びるための最短の道を選んできたのだろうか。それとも何も感じない鋼鉄の心臓なのだろうか。 死ぬはずだった日から、切替の早さがまた凄い。 今回は脱獄を試みた形跡が一切無いらしいので、生きる気力が低下していたはずなのに、数時間でこの立ち直りよう。 彼の心の動きに大変興味がある。けど、訊く勇気が足りないので推し量るしかない。 もやもやと考え事をしているうちに、ゲズゥは淡々と走り続けている。周りの景色が目に留まらないくらい速い。もう彼の底なしの体力に関してはいちいち突っ込んで考えないことにした。調書を読むだけでは知りえなかったことに、今は感謝する。 あの一体以来、魔物には遭遇していない。 どこからか慟哭が聴こえる度に、ミスリアは胸が痛んだ。教団で修行を積んだ頃にアレらの性質を十分学んでいた。実践訓練などで浄化したことも多くあった。それでも魔物を浄化したあとは、何度やっても慣れないような、奥深い空虚が残る。 そして今、眠くなってきている。 (いい歳して、おんぶされた状況で眠くなるなんて) 夜が更けてきたし、連日の疲れもたたってるとはいえ、恥ずかしい話だ。 ただ、ゲズゥの背中は妙に心地よかった。子供の頃を少し思い出すような。同時に、それとはまた別なこそばゆさを感じる。何故かはわからない。 睡魔に投降する前に、せめて言おうと思っていたことがあった。ちょうど、ゲズゥが一息ついて立ち止まっている。 「さっき消えられた時は、置いていかれたのかと思いました」 暖かい背中にコテンと頭をつけて、言った。 夜盗が現れた時のことだ。見捨てられたと思った瞬間の絶望がまだ消えない。 言ってどうなるわけでもないけど、これだけは呑み込めなかった。 二人の関係はまだ、会ったばかりの他人なのは事実である。でも今後は運命共同体のようにならざるを得ない。身代わりになって死んで欲しいなんて欠片も思ってないけど、旅の供として一緒に困難を乗り越えていかなければならないだろう。 その上でやたら仲良くする必要は無いにしろ、利害ではなく協力関係でありたい。少なくとも、どっちかがどっちかを見捨てるなんてもってのほかだ。結果論でいえば今回は違ったけど。 ゲズゥが「引き受ける」と言ったからにはそういう解釈をしてくれるのだと思い込んだ。 思い込みは思い込みでしかなく、結局は話し合うべき点だと改めて思った。 「…………別に俺はそんな半端なことはしない」 少しだけ頭を振り返って、ゲズゥが応えた。 どういう意味で言っているのかさっぱり聞き取れなかった。 もっと話がしたいのに、意識が遠のいてきて返事ができない。 「寝てろ」 低く響く声が耳にきもちいい。 安心して目を閉じ、ミスリアはそのまま深い眠りに落ちた。 |
--無題--
今日は最初から読ませて頂きました。 まだまだ読んでいる最中ですので、 あまり大したコメントはできませんが…。 初登場時のミスリアとその後のギャップで 健気な少女だな~と考えたり、 唯一の生き残りであるグズゥの孤独は 一体どれほどのものかと疑問に思ったり…。 後、スケールが大きい割には (良い意味で)登場人物が少なくて とても読みやすくてありがたいです(・ω・* あまり関係のない話になりますが、 私ベルセルクやジョジョなどと言った 人物の思考や戦闘の戦術などの描写が リアルな漫画が好きでして。 ですから、私は現実に近づける為には エログロは無くてはならないと考えます。 露骨に強調したのは嫌いですけどね。 あまりこちらに足を運べる時間はないですが、 続きを楽しみにしております(^^*
by: sun * 2012/01/26 17:59 * URL [ 編集] | page top↑
--恐縮です…! --
最初から読んでくださったのですか あわわわ ミスリアちゃんは初期設定ではもっといつも猫かぶっているような子(ゲズゥと二人の時でも)だったんですが、自然と今の形になっていました。健気という言葉はよく当てはまってますね^^ ゲズゥさんの心の中は普段は目の前のこと以外シャットアウトしてるので、私にもまだまだブラックホールです……特に、「一族」のことは意図的に封じている感がありますね。どうやって今の彼に至ったのか今後明かされることでしょう。 人物や地名が一斉に多く出て読者が混乱するのはファンタジー小説によくある失敗だと私は考えてます。徐々に慣らすように、本当に名前が必要な人だけ名前をつけるように気をつけます。読みやすく感じていただけてよかった(゚▽゚*) 「キャラの目線」から物語を語るスタイルをとっているので、主人公が興味ない人間の名前を作者が出しても仕方ないといいますか……。 さらには、ある種の「二人しかいない世界」を演出したいのがひとつの理由です。 ベルセルクよんでない(o_ _)o ジョジョはいつか読破したいと思ってるんですがいかんせん既刊が多いのでなかなか手が出せないんです…w 私もリアルな世界観にエログロは必須と考えてます。ただ、主人公が気持ち悪がって目を逸らせば相応の描写だけで留まるでしょう。 今のところ逃亡ばっかりで(笑)凝った戦闘シーンは書けてないんですが、色々試行錯誤しながら精進します! お時間ある時にまたいつでも遊びに来てくださいね(・∀・) |
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