28.i.
2014 / 01 / 21 ( Tue ) 作戦がうまく行ったことに安堵し、ミスリアは僅かに気を抜いたのか、急に寒さに震えた。 ――しまった、と思っても時既に遅し。展開してあった聖気はフッと消え、ミスリアは地面に崩れた。 (もう一度同じことを繰り返すには時間がかかるけど……) 周囲を見回し、その必要が無いことを確認する。 あれだけ無数に居た敵の数がすっかり減っている。立ち上がり、フードを被り直してから、ミスリアは残った魔物を全て浄化していった。 振り向けばレティカ達の方もあらかた片付いているようだった。 「素晴らしい機転でしたわ、聖女ミスリア。あのような力の使い方、まるで秘術です」 「いいえ。そちらこそ、見事な連携でした」 「それくらい当然ですわ」 そう答えるレティカの声はどこか嬉しそうだった。 「――あああああッ! アレ!」 突然の叫びに、ミスリアは肩を跳ねあがらせた。 「今度は何ですか、エンリオ。敵でしたら騒がずに倒してくださいな」 「違いますレティカ様! 上流!」 エンリオは河が流れて来る方角を指差した。 「上流が何です? 何も不審な物は見当たりませんわよ」 ちょうどエンリオが指す方向は樹や岩などの視界を遮る障害物が無かった。雨の中目を凝らせば遠くまで見える、はずである。 「ずーっと先の、川底が急に切れ落ちて滝になってるトコですよ! 倒れた樹に子供がしがみついてます! 今にも落ちそうです!」 「ええ!?」 今度はミスリアが大声を出した。自分には何も見えないけれど、エンリオがそう言い張る以上は無視できない。 「助けなければ!」 何故こんな時にそんな所に子供が居るのか、考えるよりも行動が先だ。ミスリアは上流に向かって走り出した。 「レティカ様、ボクたちも――」 「いいえ」 制止の声は聴く者が思わず怯むほど厳しかった。ミスリアも無意識に足を止める。 「許しませんわエンリオ、レイも。昼間に視察に来た時を覚えていますでしょう? あの辺りの河岸に足場はありません。流れも速く、樹が河の中に倒れたと言うのなら、助けるのは困難です。私一人ならまだしも、進んで貴方たちの命を危険に晒す訳には行きません」 「そんなの、レティカ様一人で行かせるなんてもっとダメです!」 エンリオは抗議した。 「貴方たちの命は私が背負っているのです。軽率な真似はできませんわ」 「でも、行ってみれば案外いい方法が見つかるかも……」 「なりません。苦しいでしょうけど、堪えて」 二人の言い合いは尚も続いた。 護衛の命を背負っているのは自分だという唐突な自覚に戸惑い、ミスリアは逡巡した。それはとても今更な気がしないでも無いけれど。どうすればいいのか決められないまま、黒衣の青年を見上げた。 「くだらない」 ゲズゥは迷いを一蹴する一言を発した。そのままミスリアを片腕で抱き抱え、豪雨に濡れそぼったほとりを走り出した。 言い争う声が背後に遠ざかる。 「どう言う意味ですか?」 「お前に救われなければどのみち俺は死んでいた。後にお前の為に死んだとしても、何かが失われる訳でもない」 わかりそうでわからない理屈に、ミスリアは首を傾げた。 「リーデンさんはそう思うでしょうか」 先刻の彼の苛立った様子を思い出し、訊ねる。 「アレ、は……。恨まれないように逃げるんだな」 どこか投げやりな返答に、ミスリアは頬を膨れた。 「恨まれませんよ。貴方は死にませんから」 「……そうだな。お前は、一人では生きていけない」 「事実だとしても、そんな言い方しなくたっていいじゃないですか」 そう言ってまた頬を膨れさせた。 眼前に、件の滝が迫っている。 エンリオが叫んだ通り、倒れた大樹に十歳未満の男の子がしがみついていた。しかし樹脂を掴む手から力が抜けているのだろう、少年は少しずつずれ落ちているように見えた。このままでは奔流に飲み込まれるのも時間の問題だろう。 どうやって助ければ――ミスリアは視線と思考を必死に巡らせた。 毎度いきなりですがこれで終わりです。 なんか新キャラばっかですいません。 あとがきは今回はなしっす。では29でお会いしませう~ |
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