2-2. a
2018 / 07 / 04 ( Wed )
 巨大なスクリーンに映し出される映像に、誰もが釘付けになっていた。
 この作品のクライマックス、家と職の事情により引き裂かれそうになっている恋人同士が、涙ながらに永遠に心を通じ合わせると誓う場面だ。女性は良家の令嬢で、家人の目を盗んでまで、遠征に発つ男性の見送りに来たのだった。

『泣かないでくれ。君だけを愛している、永遠に愛し続ける! 僕は何も持っていないし、この戦争から必ず生きて帰ると約束できないけれど! 君が例の婚約者と結婚して家庭を築いても構わない、僕は君の幸せをいつまでも願っているよ』
 切なくも激しいピアノ演奏曲がスピーカーから流れ、場面をますます盛り上げる。

『私もよ! アキトさんが無事に帰って来るように毎晩祈ってる! 家の命令には逆らえないの、でもアキトさんさえいれば――全部捨てられるわ!』
『ハルミさん! 君の祈りがきっと僕を守ってくれる!』
 ひしと抱き合う恋人たち。結局男性は戦場から帰ることなく、女性は家の役目を顧みずに自害した。
 最期まで愛を貫いた彼らの、遠く離れたそれぞれの墓前には、同じ色のアジサイが咲く――。


「あー、最高! ベタでもよかったわ、主演俳優の演技がばっちりはまってた感じ。ボロボロ泣いたな、久しぶりに」
 映画館から出て喫茶店の方へ足を向けている最中だ。友人の八乙女真希が、歩きながら伸びをした。
「面白かったね」
 唯美子はひと言のみの相槌を打った。おや、と先を歩く真希が足を止める。
「どうしたゆみこー。テンション低いぞぉ。感動しなかった?」

 温度差に不満を感じているらしい。彼女は眉根を寄せ、唇を尖らせている。
 思わずたじろいだ。
 面白かったのは確かだ。チケット代を払わなかった点を差し置いても、演出や音楽、全体的にいい映画だったと思う。男性が観たら退屈に思いそうなテーマだが、唯美子には普通に楽しめた。
 ただ手放しで褒め讃えるには、シナリオと登場人物に共感できない部分があったのだ。

「家の反対を押し切ったり安定した生活を捨ててまで誰かと一緒に居たいとか、愛のためなら死ねるって感性がちょっと、わたしには遠いかな」
「ぜんぶ情熱《パッション》ゆえでしょ」
「うん、情熱的な恋愛ってのがわたしにはわからないんだ……婚約者さんはいいひとだったし、結婚から始まる恋愛を選んでもよかったんじゃ」

「それはねえ。愛が盲目だからよ。ほかの人じゃダメ! ってなっちゃうくらい好きだったんだよ。ゆみこにはそういう恋、なかった?」
「人を本気で好きなったことはあるよ、あるけど。障害が出てくると諦める選択肢に傾いちゃって、どうしても手に入れたいって押し切るパワーが沸かないや」
 そうやって踏み出すことすらなかった片想いのなんと多かったことか。やはり、「本気」の度合いに不足があったのだろう。

「あんたちょっとぼんやりしてるもんね。前の彼氏も、横恋慕してきた子に譲った形で別れたんでしょ」
「譲ったつもりは……」
 三年前のことをちらと思い返す。彼はあの時、自分と彼女の間で揺れていた。彼らのひどく苦悩した姿を見て、自分さえ身を引けば皆が解放されるのではと思ったのは憶えている。
 それに裏切られたのだと感じた時点で、終わりを予感してしまっていた。己が浮気を一切許せないタイプなのだと、あの時に知った。

(譲ったことになるのかな)
 過去のできごとを延々と分析しても仕方がない。この話題は終わり、と手を振る。
「ふーん。あ! あそこ入ろう。アイス食べたい気分だわ」
 真希が指さした先では、外に立ててある看板に秋パフェが派手に宣伝されていた。

 席に案内される途中、子供連れの家族を通り過ぎた。小さな兄妹が携帯ゲーム機を取り合っている。お兄ちゃんもういっぱい遊んだでしょ! と妹が訴えかけると、親が譲りなさいと叱る。
 外見年齢ではナガメと同じくらいの少年は嫌々従うも、むすっとした顔で「こわすなよ!」とテーブルを叩いた。

 こうしていると気付かされる。そうだ、子供の姿をしていてもあの子は――演じているだけで、子供らしい感情の起伏がない。人の供ではない、ミズチと呼ばれる彼は、たとえば癇癪を起こすことがあるだろうか。まるで想像ができない。
 席に落ち着き、小型リュックを肩から下ろしながら、ふと唯美子はナガメがメモ帳に書き記した名を思い出していた。

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