03.d.
2011 / 12 / 28 ( Wed )
 逆上して飛び出そうとする同胞を、リーダーが制した。
「待てよ」

「あん? なんすかっ」
 止められた濃い肌色の夜盗は松明を片手に、直剣を片手に持ったまま、リーダーを振り返った。

「よく見ろ、バカ。ソイツ、左目がヘン。『呪いの眼』じゃねーかぁ?」
 リーダーが指を指している。

 ゲズゥは倒した夜盗から曲刀を剥ぎ、右手だけでそれを試すように振り回している。刀は、彼の腕より短い。

 顔をよりよく見るために、濃い肌色の男は松明を目前で振った。
 リーダーが言っていたことを確認し、怯んだ。

「でもそんなん滅びた種族じゃなかったんすか」
「だーかーらぁ、たった一人の生き残りが『天下の大罪人』なんだろっちゅー話」
「げぇっ」

 ミスリアの予想以上にゲズゥは有名人らしくて驚いた。
 でもそんなことより、『呪いの眼』の一族が滅んでいたというのは、初耳だった。もともと情報の少ない種族だ。シャスヴォル国内でなければ知れ渡っていない事実か、公にされていないだけかもしれなかった。

「ウカツに手ぇ出したらコイツらみたいになるぜ」
 リーダーは既に倒されてる仲間たちを指した。

「じゃ、引けってんですか」
 不満そうに濃い肌色の男は言う。

「んなこたぁ言ってねーさ」
 酒臭い男が斧を構えて横に走り出した。
 察したようにもう一人もまっすぐ走り出す。

 リーダー夜盗が一丁の斧をこちらへ投げたように見えた。
 ミスリアは動けずに、迫ってくるそれを目で追っている。

 女の子の顔狙うなんてひどいな……と、その場に不似合いな雑念が沸いた。

 すると物凄い力で腕を掴まれ、横にさらわれた。
 斧は空を切り、しばらく回転しながら飛び続け、低木に刺さった。ドカッ、と低い音がする。

「ほぅら助けた。何でか知らんが天下の大罪人の弱点は嬢ちゃんだってことだ」
 輪を描きながら、リーダーの方はまだ走っている。

 正面を猛進してきた方の夜盗が先に二人にたどり着き、直刀を振り下ろす。
 曲刀でゲズゥが応じる。片手はまだ、ミスリアの腕を掴んだままだ。
 
 状況的には不利だろうに、器用な真似をする。何とかしてあげたいと思ったけど、下手な手助けを試みるより邪魔にならないように努力するのが最善に思えた。

 酒臭い方の夜盗がまた斧を投げようと構えるのが見えた。何か警告の言葉を伝えねばと口を開けた瞬間、

 ――オオオオオオオオオォォン!

 獣の慟哭が響いた。それは猛獣が空虚と悲しみに吼えたようであり、なのにどこか人間的な渇望を彷彿とさせるものがあった。呼応するように、数秒後にまた別の鳴き声。複数いるというのか。

 近い。
 ものすごく。

 立って動き回っていた二人の夜盗も、意識ありながらうずくまっていた二人の夜盗も、完全に注意をそっちに向けた。夜に活動する彼らなら、警戒している存在だ。
「この辺りはいつも数日に一匹しか出ないぐらい少ないはずなのに、何で昨日今日とまた魔物がわんさか出やがるんだ!」

 リーダーが天を仰いで舌打ちする。

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