もうちょっと_orz
2012 / 05 / 16 ( Wed ) この頃停滞しててごめんなさい(´・ω・`)
リアル生活も色々なのですが なんていうか今の場面の会話やらやり取りが難しいというか…w 謎解きってほどでもないけど、明かすとこですからね。 説明の順序とか、誰が何を言うのか何をやっていたのかとか、整理するのが… 私の頭じゃ… (逃)… それはそうと、王子。 彼の話題が最初に挙がったとき、いずれ登場させようか悩みました。 王族とかに全然スポットの当たらない、平民庶民の物語(?)のはずですから・・・ それがシューリマの「殿下の前に投げ出したら喜ぶだろうな~」な台詞(05の最後らへん)からヒントを得て、こういう形に仕上がりました。最初、外見も性格も全然決まらなくて困りましたけども。今では気に入ってます。彼の今後再登場する確率は7割以上です。 では→ いつも来訪&拍手その他ありがとうございます。サイトのほうも拍手ありがとうございます! |
12.g
2012 / 05 / 12 ( Sat )
「よう。悪いな、オレは喧嘩はともかく武術はからっきしなんで隠れさせてもらった。ま、もしさっきの奴らが動くようなら出てくるつもりだったんだ、ホントだぜ」
にしし、と役人が歯を見せて笑う。
「どうも。度々お世話になりますね」
役人の姿を認めた聖人が、畏まって礼をした。
「それはお互い様さ。無事で良かった」
役人が礼を返す。
ゲズゥはオルトの方を向き直った。ミョレンの第三王子は腕を組んで馬に寄りかかった状態で、かすかに口元を釣りあがらせている。傍らでは、既に剣を収めた女騎士が警戒した面持ちで控えている。いつでもまた剣を抜けるように柄に片手を置いて。
「オルトファキテ殿下」
今度は自国の王子に向かって、役人が最高級の敬礼をした。
姿勢を正してオルトが簡略式の礼を返す。どうやら立場が上の者が、下の者を認めたという挨拶になるらしい。
「私に書状を送った役人はお前か」
「確かにこのルセナンが殿下に一連の事件をまとめた書状をお送りしました。提案し、書いたのはこちらの方です」
ゲズゥたちと並んだ役人が、隣の聖人を手のひらで指した。
「ほう」
「神父アーヴォス・デューセの甥、聖人カイルサィート・デューセ氏です」
役人が聖人の紹介をする。ついでにミスリアをも紹介している。
「ああ、神父の名は書状にあったな。林の方の教会の主だったか」
役人の話を丁寧に聞き、書状にもしっかりと目を通したとわかるオルトの姿勢は、傍から見れば真摯である。国境付近の小さな町にまで気を回す、或いは賢君とも錯覚できる。
「甥は、何やら面倒な目に遭ったようだな」
オルトは聖人を頭から爪先までじろじろと見た。
ミスリアに大体治されているので目立った外傷は残らないが、破けた服、泥水や血の汚れなどはどうしようもない。元の服の色が真っ白であったがためにこれは目立つ。
「恐れ入ります」
聖人は爽やかに笑って礼をした。事情を細かく説明する気が無いのは明らかだ。オルトも特に追究しない。
「それで? 何故、告訴などの手続きを踏まず、私に直接連絡を取った? 私は王でもなければ王太子でもない、ただの第三王子だ。直訴や王国裁判とも繋がらない」
オルトは聖人を真っ直ぐ見据えて言う。
「正常に機能しなくなった国だからこそ、正当な手続きでは不足に思えたからです。彼女――シューリマ・セェレテは貴方の信者だそうですので、もしかしたら貴方なら難なく止められると思いました」
一呼吸置いてから、聖人は揺るぎない口調で応じた。
信者という表現に対して、オルトは「違いない」と言って喉を鳴らして笑った。女騎士が聖人を睨むが、主君が見ているからか口出しをしない。
オルトを殿下などと呼ばず貴方と呼んだのにはどういう意図があったのか、ゲズゥにはわからない。聖人はミョレンの国民でないから敬称で呼ばなくてもどうということはないが。
「私がシューリマを庇う可能性は考えたのか?」
「考慮はしましたけど、僕は先王が貴方がたに出した『条件』を小耳に挟みまして。噂に過ぎませんけれど、賭けてみる気になりました」
話題に上がった「条件」は次代の王を決める基準か何かのことだろうと思う。
聖人の言葉に、オルトは口元を右側だけ上に釣り上がらせて笑った。しかし次の瞬間、真剣そうな表情に替わった。
「よかろう。その読み通りに動いてやる。コイツは騎士の位を剥奪され、牢に入れられるか最悪処刑されることとなる」
しばしの沈黙が続いた。
「殿下……!?」
主が冗談で言っていないと遅れて理解して、女騎士が声を裏返した。
「黙れ。お前、国境の警備はどうした?」
女騎士の動揺も構い無しに、オルトが責めるように問う。声を荒げない代わりに、目元がいくらか険しい。
「……兵士を配備しています」
女は目に見えて怯んだ。
「隊を置いて、統率する長が持ち場を離れてどうする。頭を使おうとしないのは、お前の悪い癖だな」
「申し開きもございません」
ついさっきまで自信満々だった女が今では泣きそうになっている。
「私には使えない駒など不要だ」
普段から見下したような藍色の瞳が、今は本当に相手を見下ろしている。昔と同じ鋭い目線に更に拍車がかかり、不遜を許さないものとなっている。
――なるほど、過去に知っていたあの男を王族にするとこうなるのか。
否、おそらくはこれが本来の態度で、あの頃のオルトは制御していたのだろう。
「……と、この通りコイツは頭脳の面が割と弱い。巧妙な計画を立てられる人種では無いぞ」
不意に視線を外し、オルトは再び聖人に話しかけた。
「それは……共犯者、が」
何故か聖人が急に口ごもる。表情が一転して暗い。
「ならばちょうどこちらに向かって歩いて来ている奴がそうか?」
後方からゆったりとした、静かな足音。オルトに言われ、一同がその方を向いた。
人物が影から人の姿へとはっきりしてくる。
「神父様?」
距離を縮めようと一歩踏み出したのは、無意識のことだろう。半ば反射的に、ゲズゥはミスリアの肩を掴んだ。
「ミスリア」
驚いて、彼女は体を震わせた。
「近づくな。その男の顔をよく見ろ」
戸惑いを隠せぬ様子で、ミスリアが歩み寄る男を見上げた。
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オリキャラのあんなこんなバトン
2012 / 05 / 11 ( Fri )
バトンを横取りしてきました うふ
オリキャラの地味にいたね・あったねを今一度探すバトンです。
今から上げる文に当てはまる我が子がいたらそのキャラの名前を、いなかったら×を。
一次創作用、若干ファンタジー向けです。
自分の全ワールドだと埒が明かないので「ミスリア」からのみで答えます。
◆まずは外見編◆
●入れ墨・タトゥーをしているキャラ
○ まだ描写が出てませんがキャラが出ています
●ピアスをしているキャラ
○ 描写まだですが、オルトがしています。
あと多分ゲズゥも過去にしていました<現在は塞がっている
●体の一部が生身じゃないキャラ
× いません。今後出るかは未定。義手義足。
●動物のような耳・尻尾があるキャラ
× いません。今後も出ません。
●髪型が普通じゃありえないキャラ
× ありえる髪型しか出していないかとw あ、でも縦ロールキャラが欲しい(
●五体不満足キャラ
○ 未登場ですがいます
●オッドアイのキャラ
○ ゲズゥ
●女装(男装)しているキャラ
× いません。今後出るかは未定。
●現実世界にいても違和感無いファッションのキャラ
○ ミスリア、カイル、アーヴォス あたり。日本だと浮きますがw
ゲズゥの服も多分割と違和感無い…?
●逆に違和感ありありなファッションのキャラ
○ シューリマ とか。現代世界に鎧はないわ。あと未登場の人たち
◆次は中身編ですよ◆
●多重人格キャラ
× いません。今後出るかは未定。
●オカマ(オナベ)キャラ
× いません。今後出るかは未定。
●実は今の姿が本当の姿じゃ無いキャラ
△ アルシュント大陸に変身能力とか存在しません。
正体(中身)を偽る人は出ます…よ? あと変装?
●既婚者キャラ
○ ルセナン
●長寿種族キャラ
× 長寿種族はいませんが長寿キャラは…
●処女・童貞喪失済みキャラ(結婚しているか否かに関わらず)
○ 笑 ゲズゥとかオルト辺りが 童貞って何それ聞いたこと無いな系。
未登場含めてほか多数
●楽器演奏出来るキャラ
○ 描写はまだ出てませんが教団の人間はほぼ全員楽器演奏を学んでいます。
あとオルトも多分色々嗜んでいます、王子として。
●病気持ちキャラ
× あれは病気というより障害…? いません。今後出るかは未定。
よくよく考えてみれば聖気を使える主人公の周りに病気持ちがいるとは考えにくい…
●記憶喪失キャラ
× いません。今後出るかは未定。
●一番自分に近いキャラ
性格的に近いのはもちろん主人公二人です。
つーかあんままともな性格の人出てない気がしてきた! <助けてカイルさん
たとえばこういうところが似ています。
ゲズゥ - 呼ばれても話しかけられてもなかなか返事をしない(ごめんなさい)、
人の顔を覚えられない、味の濃い食べ物が苦手、珈琲はブラックが好き、
瞑想や筋トレをする、木登りが好き(最近はしてませんけどね)
ミスリア - すぐ吃驚するところ、読書が好き、強がり、正直者、小心者
次に回す人を五人ほど!
フリーでお願いします。
以上です。
ありがとうございました!
上記の内容で一番多く当てはまった既存のキャラは、まさかのオルト王子w と、げっさん。
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エムブロ!バトン倉庫
http://mblg.tv/btn/view?id=55284
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誤字、脱字、勘違い表現
2012 / 05 / 08 ( Tue ) 本編を書き進める指に脂が乗っている時に、流れを途切れさせる記事ですいません┏(_д_┏)┓))
この頃よくオンライン小説界を浮遊している甲です。 皆アマチュア(私も勿論)なのはわかっているんですが……文章はともかく、誤字脱字が多すぎるのはどうなの!! って思いましたよ。せっかく内容が面白くてのめりこんで読んでるのに、あまりに多いと興をそがれるというか。読書という魔法から醒めるというか。 「頑張っているので許してください」って言って、毎回読者の方に指摘していただいているのを見ると、本当に頑張っているの( ╹◡╹ )? ってなるw ちなみに私は「ミスリア」の文章は粘着質に何度も読み返して、キレイにしてから投稿をするようになるべく努めています。協力者とかにも指摘してもらっています。同じ漢字を変換している時としていない時とかがあると、それはたまに意図的にやっていたり(?)。 あとは勘違いで間違って使っている表現が無いように、自信の無い言い回しは必ず調べてから使っています。 今回、「貯蔵庫」と「保管庫」に自信が無かったんですが、意外と貯蔵庫で大丈夫だったと発覚しました。9で保管庫と言ってたけど11から貯蔵庫になったのは私の記憶違いです(もともと貯蔵庫にしたかったけど保管庫の方が正しいのかと思っていたらうっかり貯蔵庫に戻った gdgd)。統一しようか悩みます。もはや別にいいんじゃないかと思っています。 12もうちょっとで終わりそうです。気合入れたいところですが! リアル生活が(ノД`)・゜・。 |
12.f.
2012 / 05 / 06 ( Sun )
王族の知人など居ただろうか。
名を馴れ馴れしく呼ばれたからには記憶を探ってみた。顔は見えないしそもそも他人の顔など覚えられないゲズゥなので声を頼りに思い出そうと試みる。
一分ぐらい頑張っても思い当たらない。その間、場は静まり返っていた。
「お知り合いですか……?」
ミスリアが遠慮がちに訊ねる。
「…………」
知ってる知らないと言い切るにも、思い出せないのである。
「この私を見忘れたとは薄情な男だ」
男は馬から飛び降りた。わざとらしい優雅さは無く、極めて自然な、流れるような動作だった。どこかで見覚えた気はする。
「お前に馬術を教えてやったと言うのに」
若干芝居がかった口調で、男は残念そうに嘆いた。
そのひとことで、何かが脳裏で閃いた。
「…………オルト……?」
が、やはり他人の名前を覚えるのは苦手ゆえ、自信に欠ける。
「いかにも。私がオルトファキテ・キューナ・サスティワ、ミョレン王国第三王位継承者だ」
思い当たった人物で正解だったようだ。男は黒に近い濃い茶色の前髪を片手でかき上げて微笑した。
顔の造りだけだとおそらく世間一般の目からは美丈夫と呼ぶには一歩及ばない。だが褐色肌の第三王子を包む空気の凄みが、見下したような藍色の双眸が、他者の注目を惹いてやまないだろう。だからこそ顔を隠すのかもしれない。
「お前、ミョレンの王子だったのか」
ゲズゥはほんの僅かに驚いていた。昔は知らずに接していたのだから。
「だったのさ」
「なるほど」
ふーん、とこの上なく興味無さそうにゲズゥは相槌を打った。衝撃も感心も無い。一方で多少の警戒が生まれたが、それを相手に気取られたくない。
ゲズゥの知るオルトという人物は、常に己の力で築き上げたものだけで勝負に出られるような男だった。たとえば生まれ持った財を徒(いたずら)に貪るような無能な王族とは違う。ならばオルトの性質に王族という強力な背景を加えたら?
「かつて私はお前に裏切られて大敗し、結果として居場所を失った。お前にしてみれば最初から味方でいたつもりは毛頭無かったのだろうがな。そんな敗者など、記憶には残らないか?」
馬にもたれかかり、何気ない調子で過去を語るオルトの様子は懐かしむようで、いっそ楽しそうである。
「そんなことしたの?」
聖人の爽やかな声が、好奇心に似た何かを帯びている。
「知らん」
無機質に、ゲズゥは答えた。
実際はよく覚えている。今、その話に移ってもこじれそうなだけだと判断してのことだ。
変わっていないならば――オルトは許していると見せかけて、何食わぬ顔で闇討ちをしかけて来る男だ。
そんな考えを見透かしたように一層深い笑みを浮かべ、次いでオルトは足元で跪いている女に声をかけた。
「シューリマ。そいつらを下がらせろ」
「はっ、ただいま」
素直に主の命令に従い、女騎士はまだ何の動きも見せていないゴロツキの連中を潔く引かせた。
ゲズゥは背後のミスリアと聖人を一瞥し、とりあえずは乱闘にならずに済んでよかったと思った。二人は歩み寄り、ゲズゥと並んで立った。
「それにしてもどうしてこのタイミングでこんな所に第三王子様が?」
お互いにしか聴こえない音量で、ミスリアが疑問を口にした。ゲズゥとオルトの関係に関する疑問は保留らしい。
「オレが呼んだのさ」
建物の柱の傍から体格のいい男が姿を現した。殺気が無かったので放置していた気配だ。
「ルセさん!」
嬉しそうにミスリアが呼びかける。
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12.e.
2012 / 05 / 05 ( Sat )
思考が回りきらなくて呆然と門を見上げていた。ゲズゥの姿はもうそこから離れて視野の外に行っている。ただ、戦闘になったことは音だけでも十分に伝わって来る。座り込んでいる場合ではない。
「すみません、大丈夫ですか?」
立ち上がって、ミスリアは下敷きにしてしまった友人に声をかける。
「平気。君軽いしね」
カイルは何とも無さそうに笑って身を起こし、階上へと顔を向けた。
「やり方は乱暴だったけど、助かったよ。僕らは丸腰だし。何気にあの人、強いんだよね」
「それって……」
険しくなったカイルの視線の先を、ミスリアも意識した。
「行こう」
_______
黒い鎧に身を包んだ騎士風の女の攻撃の一つ一つを、ゲズゥは大剣で残らず受け流した。幸いか他には人の気配が無い。
以前遭遇した時は一方的に刺されて終わったので外見の特徴などまったく印象に残らなかったが、今回は明るい昼間の路地にて相対している。
女にしてはやや骨格がごつい騎士は身軽な足取りで動き回り、長い金髪をまとめた三つ編みをなびかせている。
「くくっ、また会ったな、『天下の大罪人』。あの者らではお前の相手にならなかったか?」
口元を斜めに吊り上げて女は低く笑った。濁った声だった。
多分下水道に降りてきた連中のことだろう。ゲズゥは何も答えなかった。
女は突いたり刺したりするのに特化した形の、細長い剣を巧みに操っている。それを薙ぎ払うタイプの大剣で相手にするのは些か効率が悪い。かといってナイフで相手をするのも難しい。
不意に女が立ち止まった。次にどう出るのか予感がした。
砂利が踏みしめられる音。
跳んで間合いを詰めてきた女を、ゲズゥは避けることを選んだ。すれ違う瞬間、健康的ともいえる小麦色の顔が近かった。
一重まぶたで、目じりに向けて細くなるヘーゼル色の瞳には、純粋な快楽が彩られていた。
このような戦いを心から愉しむタイプの連中には今までに何度か会ってきている。今回もこれといった感想を抱かなかった。
以前、自分がこの女に刺されて倒されたことに対しても、ゲズゥは何の屈辱も逆恨みも感じなかった。過去の敗因は知れている。ならば今の危機を握りつぶすのが最も重要である。戦いながら少しずつ移動し、路地から通りに出た。
この女は力こそゲズゥに敵わないが、速さは同等かそれ以上である。加えて、騎士らしく動きが洗練されているのが厄介だ。
「ちょうど面白くなってきたというのに、邪魔をするなよ?」
攻撃を続けながら、女は喉を鳴らして笑っている。
「それは貴女が邪魔をせざるをえないような行動を取るから仕方ないでしょう」
背後から返事を返したのは、地下から上がってきた聖人だった。口調の柔らかさとは裏腹に、普段よりか声音が怒りを帯びている。
「あの商社の雇い主は貴女ですね、セェレテ卿」
質問ではなく断言だった。内容も要点だけの短いものだが、通じた。
「だったらどうした? 貴様らに関係ないだろう。それともラサヴァの町に感情移入でもしたのか、聖人デューセよ」
女は空いた手のひらを大げさに翻した。言いがかりだ、などととぼける気は無いらしい。
「人として非道過ぎる行いです! 関係が無くても見過ごせません」
聖人の背から、ミスリアが更に非難した。
しかし人道を説いてもおそらくこの女には無意味だとゲズゥにはわかっていた。こういう輩には心に決まった何かがあって、それの為なら後は総てどうでもいいのである。身に覚えのある話だからこそよく解る。
「さすが聖女様は可愛いことを言ってくれる。そうさ、今この場でお前ら三人をまとめて揉み消しても寝覚めが良いぐらいに、私は非道だ」
女は高笑いをして、指を鳴らす。柱や樽の陰などに隠れていた気配が姿を現した。ゴロツキという形容が最適な連中で、数は十人。聖人に加勢させてもまだ面倒そうな数だった。ミスリアが唾を飲み込むのを聴いた。
「私はこの町で遊んでいた。実験、とでも言えばいいのか? うまく行けば成果を殿下へ献上しようと思っている」
女騎士は剣を構えなおした。殿下とやらが、この女の心に決まった何かなのだろう。
ゲズゥは腰に提げていた短剣を鞘ごと掴んで、背後の聖人へ投げた。何も無いよりはいいだろう。そうして彼もまた剣を構えなおす。体はそのままに、目だけを動かして、状況を細かく把握した。この女を切り伏せた後は、どういう順番でゴロツキとやり合うか検討しなければならない。
まだ誰も動き出さないこの場面で、さてどうしたものかと考えていたら。
前方から、蹄の音が響いた。
こげ茶色の巨躯が人を乗せて駆け寄る。
その馬は高く跳躍した。女騎士の頭上をも超えるほどに。
そうして今にも剣と剣をぶつけ合うはずだったゲズゥと女騎士の間に着地し、文字通り割って入ってきた。馬の長い尾がバサッと音を立てて揺れる。
かろうじて、紺色のマントに包まれているのが男だというのがわかるくらいで、鞍上の人物の顔はここからよく見えない。長い前髪も原因の内である。
女騎士が素早く跪いた。ということは、これが例の殿下か。ゴロツキらは戸惑いながら、何人かがやはり跪いている。
「シューリマ……お前は相変わらず、妙な事ばかりしているそうだな」
声は普通の青年のものだが、爽やかさや潔さよりも企みを含んでいた。あまり王子らしいとは言い難い。いや、何が王子らしいのかなど基準がゲズゥに解るわけでもない。
「殿下! 私は――」
頭を深く下げたまま女は何か弁明をしようと口を開き、けれども男が遮った。
「その話は後でいい」
男は馬の向きをこちらへと変えた。馬の熱い吐息を感じる。
「久しいな、ゲズゥ。一、二年ぶりか? お前はあまり変わっていないようだが」
未だ顔の見えない男の口元が釣り上がった。
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12.d.
2012 / 05 / 02 ( Wed )
自分でも驚くほどに心中は凪いでいた。恐怖や焦りが無いのは、しがみつかなければならないものを多く持っていないからだろうか。
それでもやりたいこと、やらねばならないことならあった。目的を果たすまでは死ねない。
「僕はね、本当は正義感が特別強いわけじゃないんだ。目の前で許しがたい行為が繰り広げられていようと、保身のために見て見ぬふりぐらいできるよ。辛いけど、できる」
「突拍子もなくどうしたんですか?」
ミスリアは縄を解こうとせっせと働く手を止めたかと思えば、また動かした。
「それでも助けたいと想う心がある内は、体の方が勝手に動いてしまうのかもしれないね。ごめん。独り言だと思って流して」
カイルサィートは小さく笑ってごまかした。
ちょうど手首を縛っていた縄が解けたので、自由になった腕をゆっくり動かしてみる。
「私にはよくわかりませんけど、カイルは優しいです」
それが彼女なりの励ましなのだろう。
「ありがとう」
ミスリアが差し伸べた手を、カイルサィートは迷わず取った。しばらく使われなかった筋肉を徐々に慣らし、腰を浮かせた。が、そのまま椅子に座り込んだ。三度目の挑戦でやっとうまく立ち上がれた、と思ったら、何かが足に触れた感覚があった。
「きゃっ」
いつの間にか溝鼠が二人の足首辺りに噛り付こうとしている。血の臭いに惹かれたのだろう。そういえば朦朧とした意識の合間にも、噛まれていた記憶がある。今はすっかりミスリアの聖気によってほぼ治っているが。
いきなりナイフが飛んで来た。即座に鼠たちは煩く逃げ惑う。
いつの間にか戻ってきていたゲズゥが、地面に刺さったナイフを拾った。「当たらないな」みたいなことを呟いている。いなくなってから一分も経っていない。水色のシャツにところどころついている赤い跡が彼自身のではなく返り血であるのは、訊かなくても察しがつく。
「溝鼠は焼いても不味い。調味して煮るしかない」
ナイフを懐に収めながら、ゲズゥはそんなことを口にした。
「食べたことあるんだね」
つい苦笑を返した。
「溝のは雑食だから不味いんだろう。屋根裏に住んでる鼠の方がましだ」
「覚えておくよ。でも食には気を付けないと病気になるよ? まぁ、『菌』とか『病原体』ってのは割と最近に発表された概念だから知らないかもしれないけど、食中毒なら聞いたことあるでしょ?」
腐った食べ物は勿論、「汚い」食べ物を胃に収めてはならないのは常識だ。溝鼠といえば汚い動物の筆頭ともいえよう。
カイルサィートの言葉に対して、ゲズゥは首を鳴らした後、軽く頷きを返した。それらのやり取りをやはり苦笑しながらミスリアが隣から見守っていたが、ふと表情が硬くなった。
「それでカイル、これですが……」
ミスリアが取り出した紙束に関しては、見なくても内容を熟知している。カイルサィートはそれを受け取ると、移動しながら話を続けようと提案した。
_______
三人は一列になって、来た道を逆に辿っている。闇の濃さは先刻と少しも変わらない。けれども一度経験した道となると、最初に通った時のような得体の知れないものに対する不安を抱かないのだから不思議である。もともとは闇そのものではなく未知への恐怖だったのかもかもしれない。
「この人たちは」
ゲズゥに倒された敵を踏み越え、燭台を持ったカイルが開口した。
「とある商社の関係者でね。詳細を省くけど、彼らが提供していた食材に病原体が紛れ込んでいたんだ。地価貯蔵庫から少し取ってきて、確認した」
それは色々なソースや漬物に使われる材料で、容易には足のつかない手口だった。ここら辺の調査は、「疫学」といった、近年のうちに世に現れた学問を用いたのだという。相変わらずカイルは博識だ、とミスリアはこっそり感心した。
「ルセさんはカイルになら犯人や動機の心当たりがあると言っていました。本当ですか?」
「そうだね。まぁ、普通に理に沿って考えただけなんだけど」
「なら利を得た人間か」
しんがりを歩くゲズゥの低い声が、ミスリアの背後からした。何気に話を聞いていたらしい。
「でも疫病なんて、儲かる要素があるとすれば薬を売る人間や医者の方……ですよね?」
その通り、と言ってカイルが後ろを一度だけ振り返った。
「この商社の人たちは雇われただけ。誰に、が一番の問題だけど、首謀者は別にいる。薬売りがどうなのかまでは知らないけど……」
自覚があるのか無いのか、カイルはどんどん歩くペースを速めている。ミスリアも必死に足を速めた。予想としては、後ろのゲズゥは息が上がることなく余裕で付いてきているはずだ。少なくとも、荒い息遣いなどが聴こえない。
「ミスリアは『ヒーローシンドローム』って知ってる?」
地上へ通じる出入り口から漏れる薄明かりが見えてきた頃、カイルが足を止めた。
「いいえ」
息を整えてから返事をした。
「……簡単に言うと、英雄になりたい願望のあまりに自ら事件を起こすことかな。予め解決法も知っているとか、助けに入るタイミングを見計らったりしてあたかもヒーローであるかのように演じるんだよ」
つまりは、注目を快感に思う心理、または名誉欲。
「そんな理由のために四人死んだんですか……」
「人間が欲に突き動かされるのは当たり前だ」
ミスリアがため息をつくと、ゲズゥがサラッと断言した。有無を言わせない口調だったからか、何も言い返せなかった。
「あれ?」
出入り口への階段の二段目を片足で踏んで、何故かカイルが中途半端に止まっている。
「どうしたんですか? ここから出るんですよね?」
「う~ん、いや、困ったな。実はここの出入り口は普段鍵がかかってるんだけど」
「そうなんですか?」
だとすると鍵を持っていない限りは使えない。貯蔵庫まで戻らなければならないと思って、ミスリアは肩を落とした。
「……それが、開けっ放しなんだよね」
「え?」
ミスリアは顔を上げた。
確かに、門が開いている。先ほど通りかかった時は閉まっていたように見えた。
「さっきの彼らが閉め忘れたのでは?」
「うーん?」
何か引っかかっているらしく、カイルは尚も眉根を寄せていたが、結局踏み出した。ミスリアも続く。
カイルが門をくぐるまさにその数瞬前。
ミスリアは少しだけ後ろを振り返った。上らず、階下でゲズゥが何かの気配を探るように静止している。
突如彼は飛び上がり、それぞれの手にミスリアとカイルを掴んで投げ飛ばした。
(ちょ、何!? 危な――)
階下で重なる形に着地した。カイルが下敷きになっているのでそれほど痛くは無かったけれど。
階上から、金属と金属のぶつかり合う音がする。
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おしらせ
2012 / 05 / 01 ( Tue ) お知らせでございます(・∀・)
ブログのフライング1000HIT祝いに、えびにウェブデザインを提供していただきましたー ってなわけでフライング1000HITお祝いに、移転・改装した我がサイト「七ツ海」をどうぞw URL: nanatsukai.lv9.org 過去のサイト(これは三代目にになりますね)を見たことある人なら、なかなかデザイン的に大胆なリフォームであったことにお気づきになられることでしょう……。 昔の作品を公開すべきか悩んだ結果、一部載せていこうと思います。レッツ恥SARASHI☆ ど~~~しても書き直したい小説もあるので、そこはもしかしたら古いほうの公開を控えるかもしれません。 余白の無い「ミスリア」も載せていきます。ブログのファン(?)はそっちでまとめ読みするのもアリかもしれません。勿論お好みでどうぞん*^ヮ^)♪ 微細な修正はしていきますが、加筆をするかどうかは未定です。 更新ペースはあくまでブログの方が優先になる予定。 共によろしくお願いします┏(_д_┏)┓)) |
100記事記念
2012 / 04 / 28 ( Sat )
100記事達成おめでとう私!
早いのか遅いのかわからんw ←注:ブログ初心者
始めた頃に比べて更新ペースが落ちてしまってるのが悔しいですが、めげずに書き続けます。
あと900HIT超えありがとうございます(号泣
ではここからは私に代わって子供たちがおしゃべりします。
みっすん、げっさん、カイルたん おいでー
ミ 「はい! 皆様、いつもご贔屓にありがとうございます」(ぺこり)
カ 「ありがとうございます。本当、早いものだね。ネットの片隅に潜んでいただけのブログに、じわじわ読者様も増えてきたし。アクセス数0が何日も続いてた頃が懐かしいね」
ゲ 「……」 (興味なさそうに遠くを見ている)
ミ 「え、えーとじゃあ何からお話しすればいいんでしょうか……?」
カ 「んー、そうだね。そういえば何か作者がアンケートいつかやりたいって言ってるけど? まだまだ先になるかな?」
ミ 「それは楽しそうですね」
カ 「まぁそれにはアンケートに入れる質問とか考えないといけないね。なにぶん真面目で大雑把な性格だからね、作者は。たとえば僕なんて、適当に練って登場させただけなのに気がつけばこんなに出番が増えちゃって。でも出したからには本気で生い立ちとか考えてるし」
ミ 「そうなんですか……? さすが裏事情にも詳しいですね」
カ 「ははは。実際に作中に登場する予定の古参(?)メインキャラの中では、まだ君ら二人しか出てないみたいだよ。先は長いね。大丈夫かなぁ」
ミ 「(こそっ)そ、そういうことを言うと作者が落ち込むので控えましょう……。って、カイルはメインキャラでは?」
カ 「今のポジションはともかく、作者の頭の中ではかなりの新参者らしい。それこそ書きながら沸いたって」
ゲ 「…………意外に、そういうのの方が物語と深く関わり出すものだ」
カ 「かもしれないねー(笑)」
ミ 「この頃の展開ではそんな感じですね」
カ 「活躍度で比べるなら、君らにはまだ及ばないけど。作者はサブキャラの印象とかの方が気になるみたいね」
ミ 「それは確かに私も気になります」
ゲ 「!」 (急に身構える)
カ 「どうしたの?」
ミ 「あそこからこっちに向かって手を振っているのって、ゲズゥのご両親ですよね? あれ?」 (きょろきょろ)
カ 「彼、もういないよ。全速力で走り去ったけど」
ミ 「はい??」
カ 「お父さんが苦手とか?(笑)」
ミ 「そんなことがあるんでしょうか……?」
カ 「あ。そろそろ帰って来いって作者が手招きしてるよ。ってわけで、おしまいにしようか」
ミ 「そうですね。とにかくありがとうございます! いつも遊びに来てくださる方も、たまにふらっといらっしゃるだけの方も、今後もよろしくお願いします」(ぺこり)
カ 「なんかグダグダとどうしようもない対談でしたけども、またお会いしましょう!」
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いざしゃべらせてみると、笑えるくらいカイルたんのペースw
彼はホント動かしやすくていいです。思い付きだったけど、登場させてよかった……超使える子……。
アンケートを取るとしたら読者様の年齢・性別・好きなキャラ・その他質問などが特に気になりますねー。
むにゃむにゃ(^~^)
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12.c.
2012 / 04 / 27 ( Fri )
「よかった――」
ミスリアの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。安堵のあまりにか顔をくしゃくしゃに歪め、次いで抱きついてきた。
カイルサィートは己に覆い被さる温もりにどうしてか驚いていた。そういえば抱き締められるというのはこういうものだったな、と再発見した気分だ。軽く抱き合うことは普段から挨拶代わりによくやっているが、抱き締められる圧力とは比べ物にならない。
素直に心地良い。
「心配、かけたね」
なんとか囁いた。当然、抱き締め返してやりたいところである。しかし両手が椅子の後ろにて縛られているので不可能だ。
身体の治療に専念するあまりにその辺りに気を配る余裕が残らなかったのだろう。ミスリアらしい。
彼女の後ろに突っ立っているゲズゥが、拘束を解いたらどうた、みたいなことを指摘したそうに目を動かした――ように見えた。といっても目を動かしただけでは背を向けている本人に伝わらない。
ゲズゥは口を開きかけて、急に目を見開いた。カイルサィートにもすぐにその原因がわかった。
物音がしたのである。複数の、靴の音と話し声と、衣擦れともいえるような音などが近づきつつある。
ミスリアも音のする方を振り返った。
「こんな場所に来る人といえば、清掃員や整備員でなければ、まともな人間……なわけないですよね?」
震える声でミスリアは呟いた。
「まともでなければただの物好きだ、気にするな。三十秒もあれば終わる」
ゲズゥはそう言って、燭台をミスリアの足元近くに置き、来た道を逆戻りし始めた。
「終わる……?」
ミスリアは尚も不安そうな顔をしている。
それでもずっと、聖気は発動されたままだ。おかげで痛みもだるさも大分楽になってきている。
何度か深呼吸を繰り返してから、カイルサィートは幾分か回復した喉から発話した。
「味方でないのは間違いないし、彼に任せればいいよ。狭いから大剣は使えないだろうけど」
「あ、はい、カイルがそう言うなら」
でも殺しちゃだめですよ! の言葉だけ、ミスリアはゲズゥの背中へ投げかけた。
「それで、具合はどうですか?」
ぱっと明るい笑顔になって、ミスリアが訊ねた。
「随分よくなったよ、ありがとう。もういいんじゃない? 聖気を閉じて」
同じくらいに明るい笑顔を浮かべて、カイルサィートは応じた。力とは常に温存するものである故、閉じた方がいいと進言した。
意図を汲み取り、ミスリアは忽ち言われた通りにした。
金色の淡い光がフッと消える瞬間、ミスリアの細く白い左の前腕に包帯が巻かれているという、不自然なものを目で捉えた。
「腕、怪我してるの?」
「これですか」
どういうわけかミスリアが一瞬ぴくりと怯んだ風に見えた。たとえるなら、悪いことをして隠していたのを、親に見つかって問い詰められる寸前の子供を彷彿とさせる。
「……えーと、魔物に噛まれ、ました……」
歯切れの悪い返事を返しながら、視線をさ迷わせている。彼女が嘘をつけない性分であることは重々承知しているから、ありのままの意味で受け取った。魔物にやられたのは事実だろう。
「ああ、もしかして『忌み地』に行ったのかな」
「すみません! 浄化はできたんですが……その、勝手な真似をして……神父様やカイルのお仕事でしたのに独断で……」
俯き、消え入るように言う少女に、カイルサィートはなるべく優しく声をかけた。
「謝らないで。浄化できたならそれに越したことは無いから。訊いて欲しくないなら別に訊かないよ?」
危険の方へと突っ走った点は確かに叱るべきかもしれないが、自分にできなかったことを成し遂げたのだから、むしろ賞賛に値する結果だ。元よりミスリアは、カイルサィートよりも遥かに優れた実力を有している。
「縄ほどいてくれたら、治してあげる」
「このくらい平気です! 後でお願いしますね」
そう言ってミスリアは椅子の後ろに回り込んだ。
奥の闇の方から、叫び声が上がる。
(ドンパチが始まったか……さて、ゲズゥ・スディルは素手でもメチャクチャに強いんだろうなぁ)
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12.b.
2012 / 04 / 26 ( Thu )
彼は何度か蹴る素振りをして鼠を散らせた。
ミスリアは思わず去り行く鼠の後姿を目で追い、ふと、前方の薄っすらとした明かりに気が付いた。上から差し込んでいるらしいところから、出入り口か排水溝があると予想が付く。
案の定、近付いてみたらそこには地上への出入り口があった。階段を十段上った先の小さな門が、外界との隔たりだ。雨の日であったならば、街中の水が流れ落ちてきただろう。
扉を構築する鉄格子の大きな隙間から差し込む陽光を浴びて、そういえば地上では昼間だったことを思い出した。この近辺なら蝋燭の明かりが無くても充分に明るい。
「地価貯蔵庫へ戻らなくても、ここから出られますね。ルセさんは不審がるかもしれませんけど……」
一緒に来たはずの人間が忽然と消えてしまったら、それが普通の反応だろう。
「そうだな」
ゲズゥは何を思ったのか、唐突に燭台をミスリアの手から取り上げて、先を歩き出した。こっちがもたもたし過ぎたからしびれを切らしたのだろうか。
数分歩いたら、また闇に包まれた。こういう時は炎という発明が実に有難い。
ミスリアは少ない明かりを頼って足元にばかり注意を払っていたため、ゲズゥが立ち止まったのを知らずに衝突した。
「きゃっ」
顔面を彼の背中か腰辺りに思いっきりぶつけた。
鼻の頭をこすり、どうしたんですかと問いかけて、言い終わらなかった。
蝋燭の炎に照らされた、下水道の汚水の流れを塞き止めるモノを、目の当たりにしたからである。
小さな山みたく積み重なり、蠢く茶色の集合体。鳴き声からそれが多数の溝鼠だとわかった。吐き気を誘う腐臭に、ミスリアは反射的に袖で鼻と口を覆った。口の中にいつの間にか広がっていた苦味をゴクリと飲み込む。
あの山の下で、何かが今まさに鼠に食べ尽くされんとしているのだろう。人間と同じ大きさの死体が鼠たちの隙間からのぞく。
死体を見下ろすゲズゥの表情に、何ら変化は表れなかった。彼はそれを一瞥した後すぐに目を離し、燭台を前へと掲げて進んだ。
「それよりお前が探してたのは、あっちだろう」
低く冷静な声に促されて、ミスリアは恐る恐るゲズゥに続いた。
下水道はここらで枝分かれするらしい。分け目の前に、椅子に縛り付けられた人影があった。
接近して視認しなくてもわかる。
「カイル!」
夢中で駆け寄った。
何度か呼んでも揺すっても反応が無いので、首の脈を確かめた。脈は弱々しいけれど、間違いなく生きている。それ以上考える前に、ミスリアは聖気を展開した。
(なんてひどい……)
カイルの肌に触れて感じた体温の低さに、ぞっとした。一体どれほどの時間、この状態で居たのだろう。全身に血の乾いたあとが見られる。骨も折られているようだ。
特定の怪我を集中的に完治させるよりも、ミスリアは全体を治すことにした。
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暖かい金色の光が俄かに瞼の裏に広がった。
また夢が始まるかと思ったが、どこか違和感を覚えた。
(天へと続く道に辿り着いたのかな?)
そのようなことをのんびり考えた。天へ、神々へと続く道に辿り着くということは即ち肉体の死を経たことを意味する。
もしも自分が死んだというのなら、この上なく残念なことだが、仕方ない。
(でも多分違う……「あの時」と違う)
この光は天から降りてきていない。もっと間近な距離から届いている。それも大いなる神々の届け物ではなく、もっと身近な存在が発している光。
ああそうか、とその正体に思い至った途端、意識が浮上する感覚に引っ張られた。
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開いた目が霞んでいる上に、辺りがやたら暗い。
間近に人が居るのはわかる。しかしその姿が見えない。
此処は一体どこで、自分は何をしていたのか。頭が痛くて思い出せない。
夢の世界で何かわかったのに、目を開いた所為で向こうに置いてきたような気はする。
(そんな風に感じたのは、何度目だろう)
短い間に何度かあったと思う。それが、少しだけ悔しいような惜しいような。
「大丈夫ですか?」
可憐な少女の声に、カイルサィートは咄嗟に訊き返した。
「リィラ……?」
「!」
少女が息を呑む気配がした。
そこでようやっと、目がはっきりしてきた。驚きに塗られた大きな茶色の瞳を、どうして妹と間違えられただろうか。
「……ミスリア、」
来てくれると思ったよ有難う、と言葉を続けたかったのに、乾いた喉には名を呼ぶだけが精一杯だった。なので、とりあえず顔中の筋肉を駆使して笑ってみようと試みたが、これがまた痛くて断念した。
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12.a.
2012 / 04 / 23 ( Mon )
独りで眠る夜を怖がった頃もあった。
それまではいつも誰かと一緒だったし、よほど曇っている夜でなければ窓から明かりが入り込んでいた。
屋内の純粋な闇には、屋外のそれとは違った恐ろしさがあった。
ドアの隙間から毒蛇が入り込むわけが無いのに、結界に守られた地域に魔物が現れるはずも無いのに、目を閉じれば寝てるうちに襲われて二度と目覚めないのだと、どうしてか思い込んでいた。
闇を凝視するうちに、怪物の輪郭が目に映る夜もあった。もちろんそれは錯覚だったが、子供の瞳には錯覚の方が真実に見えた。怪物は自分にしか見えないモノで、大人を呼んでも気のせいだよとあしらわれると思った。そんな時は悲鳴をあげないように、シーツを噛み締めて気が済むまで強く目を瞑った。
ミスリア・ノイラートは九歳くらいの歳で親元を離れ、ヴィールヴ=ハイス教団系統の修道院に移り住んだのである。当時のルームメイトは彼女なりの都合があり、ミスリアより一月遅れて宿舎に入ったゆえ、それまでミスリアは独りで夜に耐え続けた。
(他の子たちだって怖かったはずよね)
独りで眠る夜は誰にだって寂しくて恐ろしいもののはず。そうに違いない、と小さく頷く。
実質的な危険でいうなら、今の暗闇の方が過去のそれを遥かに上回る。
ミスリアは隣のゲズゥ・スディルを仰ぎ見た。背が高くて細身の筋肉質な青年は、燭台を壁から持ち上げてミスリアに差し出している。その表情には、恐怖が欠片も表れていない。
幼少時になら、彼も闇を恐ろしいと思ったりしたのだろうか。七歳で身寄りを一切失ったというゲズゥは、どうやって眠りについていたのだろう。いつか聞いてみたい。
考えを顔に出したのかもしれない。こちらが呆然と見つめていたら、怪訝そうにゲズゥは目を細めた。ミスリアは目を一度逸らしてから、燭台を受け取った。
「明かりを持つ方が先を歩くんですよね?」
確認のために訊く。
「嫌か」
「いいえ」
先を歩く不安を感じる一方で、ゲズゥに背中側を守ってもらえる方が安心できる。明かりに触れているというのも、いくらか心休まった。頭を横に振って、ミスリアは通路の方へと踏み出した。
最初に歩いている内は、何も無かった。まるで地中から土を抉り取ってそのままトンネルにしたかのようであった。空気は冷たく湿っている。虫が過ぎる音を除いて、鼠の鳴き声一つしない静けさがあった。
ふいにゲズゥがしゃがんだことに気づき、ミスリアも立ち止まって肩から頭を巡らせた。
彼は地面についている僅かな血の跡を確認していた。
「……この量からだと、重い傷とは思えないな」
「そう、ですか」
ミスリアはそっと息を吐いた。怪我をしているのが誰であっても、とりあえずは朗報である。友人カイルサィート・デューセであるなら、尚更だった。
二人は再び歩き出し、通常より二倍速いペースで歩を進めている内に水音が耳に入り、そしてトンネルと交差する通路へと出た。こちらは最初のトンネルより広く、大人が五人程度横に並んでいられるほどの横幅がある。
石造りの壁と地面、通路の真ん中を流れる濁水。これが下水道の一部と考えて、間違い無さそうだ。臭いを嗅がずに済むように、鼻から息をするのをやめて口からだけ呼吸した。
「ここからはどう進めばいいんでしょう?」
当面の選択は右か左に曲がるかである。どちらも同じような闇しか見えない。ミスリアは燭台の蝋の残り分を確かめ、もってあと一時間と推測した。
「下流」
ゲズゥが一言呟いた。
大抵の下水道は川などと合流するように造られている。川を通じて、汚水が海へと流れ出る仕様だ。下水道を下流へ進めば進むほど川に出る地点へ近付く。
「では右ですね」
どうして下流がいいのか、ミスリアはいちいち問い質さなかった。自分に優れた考えが無いからこそ訊ねたのである。
そうして進んでいたら、鼠に遭遇した。何匹かが足元を忙しなく走り回っている。ミスリアは長いブーツを履いているので大して気にならないが、ゲズゥはサンダルだ。噛まれる可能性はある。
盗み見るように振り返ったが、ゲズゥは至って平静だった。
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ぼそり
2012 / 04 / 19 ( Thu ) 皆様、知ってました?
「ラサヴァ」って左手だけで打てるんですよ! 超楽! ちなみにミスリアに登場する地名はほとんどを検索にかけてまったくの同名がこの世に存在しないことをまず確認しています。 それはそうと800HIT超えありがとうございます! 1000に向けてちょっとだけ企んでいたり……ホントちょっとだけですよー 拍手お礼も新しいアイデアはあるのですが、本編の内容とのタイミングを考えるとまだ出さない方がよさげ? なので別のネタを考えます。 え、執筆? まだ練っていて書けてませんががが |
設定画2
2012 / 04 / 18 ( Wed )
深夜の遊び心。ラフ(NOT完成)。
シューリマ (お茶の間ではシュークリームさんとか言われてますが) を描いていただきました。
クリックで大きく
服を着てないなんてえろいよねけしからんよね。私としては鼻の形や目の感じが気に入ってます。
試作段階で私のほうからは「もっと邪悪な感じに!」とか「これじゃあ可愛すぎる!」みたいなやたらめんどくさい注文が出ていましたけど ひゃっはー
「君の提案する髪型はめんどくさいんだよ」みたいなことも言われましたけど懲りてません。縦ロールの子を出す機会を伺っています。
ちなみに作中は主人公特権でみっすんだけ髪型を時々変えています(だって女の子だもんね!)。ほかの子たちはおそらく滅多に変えません。
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11.h.
2012 / 04 / 17 ( Tue )
「ええ、確かに聖人デューセは数日前にいらしていますね」
虫眼鏡を用いて、貯蔵庫の管理人が記録を調べている。顔の皺や頭髪の薄さから思うに、初老ぐらいの、小さい男だ。
「彼が何をしに来ていたのか覚えてませんかね?」
その管理人の机に肩肘ついて、役人が訊いた。机越しに相対する二人の男の体型の違いが面白い。
「えーと……特定の食材の仕入れについて聞きたがっていましたよ。最後に入荷したのが何時だとか、どの業者からだったからかとか。目録を確認していたと思います」
「何の食材です?」
「さて、記憶に残っていませんな……」
「そこを何とか思い出して下さいよ」
役人と管理人のやり取りは尚も続いている。ふとゲズゥは傍らのミスリアを見下ろした。返ってきた茶色の眼差しが不安に翳っている。ゲズゥはなんとなく肩をすくめた。
ここはいわゆる倉庫、食物を保管する施設の中だった。この中の何処かの床に地下貯蔵庫へと続くたった一つの入り口があるはず。
右目だけを動かして、ゲズゥは周囲を見渡した。日持ちしやすい食品や粉末が棚に天井まで積み上げられている。さりげなく一歩下がって、隣の通路を確かめる。踏み台がある以外に注意に値する点は無い。更に下がって、次の通路を見やった。
一番奥の棚に梯子がかけてある。もっと手前へと視線を移した。
するとそこの床には開けっ放しの四角い戸があった。使われたばかりで閉め忘れられたのだろう。
倉庫の外には五人もの番人が警備をしていたというのに、皮肉にも、倉庫の中は管理人以外ほぼ無人状態だった。或いは普段はもっと従業員がいるのかもしれないが、そんなことより今日は誰も居ないというのが重要である。
管理人はまだ役人と話し込んでいる。こちらの動きにまで気を配っていない。
ゲズゥは元の位置に戻り、ミスリアに耳打ちした。
「戸が開いてる。行くなら今だ」
驚いたのか、ミスリアは一度肩を震わせた。迷っているような表情をしている。
「悠長に構えていていいのか」
「……いいえ。行きましょう」
すぐさま二人で戸へ向かった。地下へ続く古い階段を踏んだ時の音が気がかりだったが、気付かれた様子は無い。
長い下り階段の先にあるのは地に空いた穴。地上の新月の夜よりも、どこまでも濃い闇だった。
ついに階段が途切れ、土を踏みしめることになった。湿った臭いが絡みつく。ここまで来れば闇の中へ進むだけである。
「暗いですね」
背中辺りの裾が引っ張られるのを感じた。怖がる少女の声だ。
「そういうものだ」
躊躇なくゲズゥは一歩踏み出した。
倉庫から漏れる光を頼りに壁を求めて歩き、ポケットから火打石を取り出す。壁の燭台に火を灯した途端、視界が明るくなり、ミスリアが張っていた気を緩める気配を感じた。目を慣らすために数秒じっとしていたら、ガサガサと紙が取り出される音が背後から聴こえた。
「カイルの見取り図では左、奥の隅っこ辺りが丸で囲まれてます。何かあるのでしょう」
従って、件の位置を調べることになった。
が、いざ近づいて見ると、その隅の棚にはきれいさっぱり何もない。
ゲズゥはしゃがみ、指先を地面にそっと触れた。土の冷たさをなぞる。
「窪みがある。箱か器か何か置かれていたんじゃないのか」
「ここにもともとあった物がなくなっているってことですか?」
ミスリアは顎に手を当てている。
「では持ち去った人間が……?」
ブツブツと何かを声に出して考えているようだが、気に留めないで置く。
立ち上がった瞬間、ゲズゥの鼻がよく知った臭いを捉えた。
つい、顔をしかめる。
「どうしました?」
表情の変化に目ざとく気付いたミスリアが訊ねる。
「……血の臭い」
その返答に、ミスリアが息を呑んだ。
実際は血に混じって他にも汚臭がするが、そこまでは口に出さないことにした。
臭気を辿ったら、反対側の入り口から右奥の隅に行き着いた。棚にはみっちりと品物が詰め込まれている。地面の血のあとが目に入った。数滴といった具合だ。
ゲズゥは棚を両手で掴み、丸ごと前へ引き出して、横へどかせた。
「通路……」
ついてきたミスリアが呟いた。
棚の後ろから現れたのは狭い筒状の通路である。自分の場合は多少かがんでいないと歩きにくいほどに天井も低い。
「おそらく下水道へ繋がっている」
下水道といえば死体を隠す格好の場所だ、とは言わないでおく。
どうする? と目だけで問うた。
ミスリアは唇を噛み締めて俯き、しばらく黙り込んでいた。
その間にゲズゥは頭に巻いていた包帯を解き、左目を解放した。片目だけだとどうしても距離感が掴みにくい。
「進みます」
やがて、重々しい返事があった。
「わかった」
最善の選択だ。聖人がまだ生きている可能性がある以上、本気で救うつもりならば、立ち止まるのはただ愚かだった。
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