15.d.
2012 / 09 / 03 ( Mon )
「ところで聖女様」
「は、はい。何でしょう」
 ツェレネに話しかけられ、ミスリアは視線を移した。
「デザートは、何が食べたいですか!?」
 青く澄んだ瞳がぐいっと近づいて来る。それがとてつもなく重要な問題であるかのように、彼女は興奮している。

「え、えーと」
 ミスリアは自分よりも背の高い美少女に気圧されていた。
 間近で見るツェレネは羨ましいくらいに可愛い。顔のパーツは形もバランスもよく、小顔で輪郭は柔らかい。鮮やかな赤い髪が色白の肌に冴え、長い睫毛まで綺麗な赤だ。

「たとえばパイとブレッドプディングのどちらがいいでしょう」
「で、ではブレッドプディングでお願いします」
「はい、すぐできますからね!」
 満面の笑顔でツェレネは請け負い、足軽に台所へ向かった。ミスリアが食器の片付けや洗い物を手伝おうとすると、客人は何もしなくて良いと家主は言う。

 そう言われれば仕方ないので、ミスリアは玄関先に出た。そこのベンチ型ブランコにそっと腰掛ける。ぎぃい、と木製ベンチの軋む音が響いた。
 昼間よりも空は晴れ、星の煌きが見えつつある。湿気が多いのか、ベンチがどことなくべた付いている気がする。
 薄闇の中には四角い家と、道を行き交う人間の姿があった。

(魔物は現れていないようだけど……)
 胸騒ぎはおさまらない。やはり長老の次男に問い質した方が良かったのだろうか。何故、魔物狩り師が一人も居ないのかを。
 ミスリアはブランコの鎖に手をかけ、ゆったりとベンチを揺らした。キィ、キィ、と鎖の軋む音がする。

 右を見上げれば、ゲズゥがいつの間にか隣に来ていた。
 彼は手に持った皿一杯の食べ物をみるみるうちに食べ尽くしていった。
 何だか緊張感が無い――そう思った途端、目が合った。

「羨ましそうに、あの娘を見ていたな」
 静かに彼は言った。食べ終わった皿を地面に置いている。
 その言葉に、ミスリアの心が揺れる。

 「そんなことありません」と否定するべきか、「よくわかりましたね」と肯定するべきか。
 嘘のつけないミスリアは、諦めて頷いた。
 さて、ツェレネの何が一番羨ましいのか絞ると――あの容姿も、家族も、確かに羨ましいけれど。

「……夢、を追っているのが素敵だなぁと思います。眩しいくらいに」
 同じように静かな声で、ミスリアは本心を語った。
「…………」
 ゲズゥの黒い右目は探るように細められている。こちらとしても何故か目を逸らせない。

(そう思う私が変なの?)
 ミスリアには夢と言えるような夢は無い。顔を輝かせて他人に話せるような、そんなモノは。
 今の自分を形成しているのは美しい未来への期待などではなく、たった一つの果たさねばならない目標だ。使命と呼んでいいのかすらわからない。当然、果たした後のことも考えていない。

 しばらく、二人は無言で見詰め合った。
 ふと、ゲズゥは何かに気付いたように目を見開き、頭を巡らせた。
 思わずその視線の先を辿ると、そこには人影があった。足音が静かだったせいか、存在に気付けなかった。

「こんばんは」
 人影は軽く会釈をした。声変わりを経ても、まだ少年っぽさの残る声だ。
「こんばんは」
 ミスリアはベンチに座ったまま、礼を返した。

 少年は通り過ぎるのかと思いきや、どういうわけか彼は一直線に歩み寄ってくる。
 玄関の灯りに映し出された顔はゲズゥよりも年下の十七か十八くらいに見える。長袖のシャツに革のベストを着ている。
 彼もまた、広場では会わなかった人間だ。

「確か、旅の聖女さんっすよね。自分はトリスティオと言います」
 少年はもう一度会釈した。肩には弓を、背には矢筒を持っている。
 平均的な成人男性より背が低く、多分ツェレネと同じか少し高いくらいだろう。
「はい。ミスリア・ノイラートと申します」
 ブランコから降りて、ミスリアはスカートを広げる礼をした。

「彼は私の護衛を務めるスディル氏です」
 ゲズゥをも紹介し、ミスリアは振り返った。
 するとゲズゥは無表情に、トリスティオと名乗った少年を眺めている。

(何か興味を引くものを見つけたのかしら?)

「……なるほど、よろしくっす」
 一方でトリスティオは食い入るようにゲズゥを見上げている。
「なんか、メチャクチャ強そうっすね」
 独り言とも感想とも言えないような呟きを漏らした。ゲズゥの体格を見ているのか、装備を見ているのか、それとも雰囲気からそう感じているのかは判断できない。

「そうですね」
 うまい返し方が思い付かないので、ミスリアは無難に笑って答える。
「トリスティオさんはこの家に何か御用があるのですか? 皆、中に居ますけど」
「あー、いえ。巡回のついでに顔見せようかなーと思ってただけっす」

「巡回ですか?」
 何か重要なことを聞いたような気がして、ミスリアは訊き返した。答えが聞ける前に、玄関の扉が開いた。
「デザートできましたよ! せっかくですし外で食べますか――って、トリス、やっほー!」
 エプロン姿のツェレネは、トリスティオの姿を認めるなり空いた手をぶんぶんと振った。

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01:30:01 | 小説 | コメント(0) | page top↑
本編100記事達成記念
2012 / 08 / 28 ( Tue )
あれまぁ 近いとはわかってたのにいつの間に。

今日気付いてたった今思い立ったという、超即席書き下ろし番外編ですw

何でか拾い食いのこと考えてたこの頃。 それをネタに掌編書きたかったのでここに載せちゃいます。
ちょっと伏せてる部分もありますがいつか何のことだったのかわかるでしょうw


あー それにしても 足の指が謎の虫(姿を見てない)に刺されてめっちゃくちゃ痛かゆい~~
腫れすぎて怖いわ せめて血を抜こうと思ったけど指の関節辺りだから難しくてw

う~~~~

二度とサンダルなど履くものかぁああ



↓続きからどうぞ↓

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05:50:04 | 余談 | コメント(0) | page top↑
15.c.
2012 / 08 / 26 ( Sun )
「神話ですか……。今でこそヴィールヴ=ハイス教団が大陸の唯一の宗教集団と広く認識されていますが、その昔はもっと様々な信仰があったそうですよ。それぞれの団体が崇拝する神の名の下、大勢の人々が争い合うほどに」
 口元にかすかな笑みを浮かべて、ミスリアがそう語った。多少は気が紛れているらしい。

「ところが百年前にとある人物によって統一されて――」
「すみません」
 ふいに戸がノックされ、話はそこで切り上げられた。

「お夕飯できましたので良かったらどうぞお召し上がりください」
 言われてみれば、何かの煮物の濃厚な香りがここまで届いている。
「有難うございます。今行きますね」
 そうして赤毛の少女が誘うままに、ゲズゥとミスリアはダイニングルームへ向かった。

_______

 階段を降りる途中で、ミスリアは思わず立ち止まった。
 さっきからずっと胸の奥がざわついている気がしてならない。

「何だ」
 背後から聴こえてきた低い声は普段よりもいくらか低くなっている。流石、気付くのが早い。
「魔物って神出鬼没で一見何もないところから構築されるだけあって、気配を前もって察知するのは難しいんです」
「……いるのか」
 ゲズゥはその前振りからミスリアの言いたいことを読み取った。

「わかりません。でも胸騒ぎがします」
 ミスリアは服の下のアミュレットを知らず握り締めていた。
「おそらくこの集落に魔物狩り師はいない」
 淡々と告げる彼を、弾かれたように振り返る。前髪に隠れていない方の黒い瞳と目が合った。

 どうしてそんなことがわかるんですか? と訊ねようとして、結局その言葉は飲み込んだ。広場の中心に居たミスリアには人間観察をする余裕は無かった。しかしゲズゥが歩き回っていたのは知っている。

 魔物狩り師というのはぱっと見ただけですぐにそれとわかる。彼らは常に武器を持ち歩き、特に夜が近付くと獣のように鋭い目線で周囲を巡回する。いつどこに現れるか知れない化け物が相手である以上、そうしなければ遅れをとるからだ。その反面、道行く普通の人間には見向きもしない。

 見れば、ゲズゥも部屋では下ろしていたはずの剣をいつの間にか再び背負い、腰に短剣を携帯している。

(準備がよくて守られる身としては頼もしいけど、敵に回したらどうなるかなんて、それは考えない方がいいかな……)
 背筋が冷たい手で撫でられたような錯覚を覚え、頭を横に振った。
(そんなことより魔物狩り師がいないとなると……この集落に結界は張られてないし、今までどうやって魔物を退けていたというの)
 黙々とそんなことを考えながら、食事の席に辿り着いた。

 ちょうど長老の次男夫婦が帰ってきていた。二人とも日に焼けて泥に汚れている。彼らは先ほどは広場に居なかったのか、ミスリアにとっては見知らぬ顔だ。俗に言う濃い顔立ちではあるけど、娘と同じくはにかむ時に笑窪が出来て、とても好感を持てる。三人揃って、瞳が空のように青い。
 互いに軽い挨拶を交わした。ミスリアらの事情なら誰かから伝え聞いたというらしく、詳しい説明は省けた。

「お父さん、お母さん、お疲れ様です」
 長老の孫娘が微笑みながらコップに水を注ぎ、それを両親にそれぞれ差し出す。
「ありがとう、ツェレネ。助かるわぁ」
 二人はコップを受け取って一気に飲み干した。

「私だって畑仕事くらい手伝うのに」
「何言ってるんだ。お前は町の学校に行くんだろーが、できるだけ勉強してた方がいい」
「……うん。そうだね!」
 短いやり取りを娘と交わした後、二人は着替えに行った。

「さあ! 遠慮なくお召し上がりください。お父さんたちを待たなくていいですからね!」
 ツェレネと呼ばれた少女はくるりと振り返った。真っ直ぐな赤い髪がふわっと広がり、ついつい見取れてしまう。
「ではお言葉に甘えて」
 ミスリアは椅子を引いて座った。
 四角いテーブルに並べられたご馳走が食欲をそそる。パンとチーズ、野菜炒めに鶏肉の煮物。これなら旅の道中に食べていた保存食の味を忘れられそうだ。

「あ、あの……スディル、さん? どうぞ席へ」
 ダイニングルームの片隅に立つゲズゥへ、ツェレネが声をかける。ミスリアと一緒に降りてきたはいいが、食事の席に着く気配がまったく無い。
 ちなみに身元が集落の人間に知られると面倒そうだからと、ゲズゥのことは苗字だけで紹介しておいた。
「一人分残しておけば彼は後でいただくと思いますから、今はお気になさらないでください」
 微笑みながらミスリアが代わりに答えた。ゲズゥが他人と一緒に座って食事を摂りたがらないのにいつの間にか慣れてしまっていたので、他の人がそれをおかしいと思うだろうことを失念していた。

「そうですか……?」
「ところでツェレネさん、町の学校に行かれるんですか?」
 やたら残念そうな眼差しをした少女に、ミスリアは違う話を振ってみた。すぐに彼女は我に返り、ミスリアの皿を盛り始める。
「おかしいですよね、いい歳して」

「え? そんなことありませんよ――――と、野菜はそのくらいで十分です、有難うございます」
 ミスリアは食べ物の盛られた皿を受け取った。
「まだその資金が貯まってないんです、あとちょっとってところで。私、先生になってここで学校を開くのが夢なんですよ」
 ツェレネはぱあっと顔を輝かせた。

「十年前くらい前でしょうか、とある旅の研究者様がここの集落にしばらく留まって下さって、字の読み書きや歴史など色々教えてもらったんです。書物も一杯いただいたんですよ! 私もああいう風になりたくて」
「素敵な夢ですね。きっと叶います」
「有難うございます、聖女様! あ、何かいらないご本とかあったら……」
「祈祷書しか持っていませんけど、それで良ければ差し上げましょうか?」

「いいんですか!?」
 両手を合わせて喜ぶ少女を前に、ダメと言うわけが無い。
「はい。私は中身はもう暗記していますので」
 ミスリアは懐から小さな本を取り出し、それをツェレネに渡した。何年か前に暗記してあるものを、形だけ持ち歩いていたのである。

(祈祷書でそこまで喜べるなんて凄いわ……)
 ご飯そっちのけでページを捲っている様子が微笑ましい。
 隅のゲズゥへチラッと視線を巡らせてみたら、彼は腕を組んで目を閉じていた。無関心なのは間違いないが、寝てはいないのだろう。

 ミスリアはパンを千切り、口に運んだ。硬い外側と柔らかい内側の調和がいい。二口目には、煮物の汁を少しつけてから食べた。鶏肉の旨みが染み込んで、想像以上に美味しい。自分も家事はよくやる方だと思うが、彼女の料理の腕はもっと上かもしれない。
 着替え終わったツェレネの両親も戻ると、食卓は更に賑やかになった。食べきれないのに、ミスリアの皿はどんどん盛られていく。

「ツェレネ、お前ももっと食べなさい」
「え~、肉体労働してないのにあんまり食べたら太っちゃうよ」
「年頃の娘が何言ってるんだか。お母さんなんてアンタぐらいの歳じゃあ……」

 ミスリアは微笑んで見守っていた。
 互いを思いやる家族、そして夢見る娘とそれを応援する両親。幸せな家庭とはこういうものなのかな、としみじみ思う。
 確かに昔は自分の家もこうだったはずだけれど、すっかり忘れていた。

(お姉さま)
 唇をぎゅっと噛み締めたのを周りに見られないように、ミスリアは俯いた。
 視線を感じて顔を上げると、黒曜石を思わせる瞳がこちらをじっと見ている。揺らぐ蝋燭の炎が映っていて綺麗だなと思った。

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23:15:07 | 小説 | コメント(0) | page top↑
健康男子じゃないよ
2012 / 08 / 25 ( Sat )
いやー 深夜(私にとっては)の絵茶はこうなった。

服のデザインとかの話をするつもりが脱線して、えびが描きだしたタンクトップルック(私の脳内イメージでのデフォ。ただしまだ作中では買ってない)のゲズゥを私が勝手に弄っていたという。

何をいじったかというとそりゃー筋肉とか鎖骨とか顔のラインの微調整とかそういうのばっかりですよ。
ちゃんと長身で望んだ体型に近付いたので満足ウハウハです。
執筆頑張れちゃうよ!

おやすみ!
 
echat01.PNG
 

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10:22:53 | | コメント(0) | page top↑
15.b.
2012 / 08 / 22 ( Wed )
 自分らしくない考え事などやめて、ゲズゥは足音一つ立てずにその場を離れることにした。
 広場から数えて三軒目の素朴な石造りの家が今夜の宿泊先だ。長老の次男の家だと聞いた。素朴とはいえ集落の数少ない二階建ての家である。
 中に入ると、長老の孫娘が台所で一人忙しなく家事をこなしていた。
 
「ようこそいらっしゃいました」
 ゲズゥを認めて、十代後半ぐらいの歳の少女が振り返った。鮮やかな赤い髪を大きなリボンでまとめ、膝丈のワンピースにエプロンという出で立ちだ。ここの他の娘たちに比べると際立って肌が白い印象がある。
 
「お夕飯でしたらもうすぐ出来上がりますので、くつろいで待っていてくださいね」
 はにかむ少女には返事を返さずに、ゲズゥは二階の客室へ向かった。階段を上り始めたところでまた話しかけられた。
 
「あ、あの! 一晩だけでよろしいんですか? 明日出発と言わずにもう少しのんびりしてからでも……。何もないところですが」
 精一杯おもてなしします、と消え入るような声で孫娘が続けた。
 一応足を止めていたゲズゥは、話がそれだけだとわかってまた動き出した。
「――本当に! ほんとに、ユリャン山脈を越えるつもりなんですか? あそこは危ないんですよ!」
 娘は今度はいきなりわけのわからないことを訴えた。
 
 つもりも何も行路を決めるのはミスリアだ、とゲズゥは割り切っている。彼に主体性が無いという訳では決してない。意見は勿論必要ならば出すが、それでも大抵の決断は委ねる気でいる。この旅はこれで良いと、いつの間にか自分で判断していた。おそらくは命を拾われたあの日に。
 
 やはり答えずに、ゲズゥは部屋の方へ進もうとした。
 その時、タイミングよく玄関が開いた。
 
「山脈の向こうに行かなければなりませんので、仕方ありません。迂回すれば一ヶ月以上は余分にかかります」
 入ってきたミスリアがたしなめるような口調で言う。
「……聖女様。そう……そうですよね。過ぎたことを言ってごめんなさい」
 
「いいえ。お気遣い有難うございます」
 しおらしく謝る孫娘に対して更に、ミスリアは宿や食事など色々と世話になることへの礼を言った。ミスリアの方が孫娘よりも年下だろうに殊勝なものだ。
 二人の少女をよそに、ゲズゥは二階へ上がった。
 
 狭い客室にベッドが一台あって、その他の家具といえば小さな鏡台が一台だけ。窓もまた一つしかなく、ガラスにも網にも覆われていない。壁には燭台がある。
 ゲズゥは背中から剣を下ろしてベッドに背中を預け、床にあぐらをかいた。
 
「お疲れ様です」
 扉が開き、ミスリアが姿を現した。疲れるようなことをしていないのにお疲れと言われるのは変だと思いつつ、
「戻るのが早かったな」
 とゲズゥは返した。
 
 広場のあの様子ではまだまだ働かされそうだと勝手に予想していた。
 他と隔絶された集落であるだけに、住人は最初こそはゲズゥたち余所者をしっかりと警戒していた。ところがミスリアが聖女という身分を明かした途端に歓迎されたのである。聖女・聖人どころか医術に通じた人間すら滅多にお目にかかれない辺境の地だという。
 
「はい。『もう休みたいです』みたいなことを言ったら解放して下さいましたよ。そりゃあ疲れてるだろうしお腹も空いているだろう、って長老様の一声で皆も納得しました」
 ふぅ、とミスリアは声に出してため息をついた。心なしかふらついた足取りでベッドに歩み寄り、腰をかけた。ゲズゥからは腕を伸ばせば簡単に届く距離である。
 
「……血って、どうしてあんな色なんでしょうね。もっとこう、瞼の裏に残らないような無難な色であればいいのに」
「…………」
 例えば人間の体内から淡い水色の液体が漏れるのを想像してみたが、それはそれで気色悪い気がする。そもそも瞼の色に残らない色というのがわからない。
 
 目を擦るミスリアの投げやりな呟きを聞いて、何かに思い当たった。朝のうちに目撃した男が刺し殺される場面、そしてその死体の有様――臭いごと、否応無く脳裏に焼きつく類の映像だ。一日に何度でも思い出すような。
 ゲズゥとてふとした時に思い出すが、そういった場面に既に何も感じなくなって久しい。これでも子供の頃は、生理的な拒否反応やら嫌悪感があった。
 
「血の色が赤なのを理由付ける神話でもありそうだが、知らないのか」
 気を紛らわせられるかもしれないと踏んでくだらないことを訊いてみた。
「あるとしても私は知りません」
 苦笑い交じりにミスリアは答える。

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08:26:17 | 小説 | コメント(0) | page top↑
夏だ! 聖女だ!! ミスリアだ!!!
2012 / 08 / 16 ( Thu )
  

やっほほーい(・∀・) !

えびが一日に三枚の落書きをやっちゃったそうです。
一番右のはちょっと体型が大人になりすぎて似非ミスリア感が出たとか。

水着みっすんかわいいなぁ^p^


本編でも夏ですが、こんな爽やかな過ごし方にならないこと間違いなしww

祭のもお気に入りです。ぼやーっとした感じが。色合いが。
何気に初のツーショット仕様ですよ!(バナーはノーカウント

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08:25:04 | | コメント(0) | page top↑
入れ替えました
2012 / 08 / 16 ( Thu )
どうも~。ここ三日ほどホテルのネットがぶっ飛んでましたw そういうわけで拍手お礼を入れ替えました。 なんていうか、オチのある話が書けるようになりたい…。

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00:58:28 | 余談 | コメント(0) | page top↑
15.a.
2012 / 08 / 12 ( Sun )
 首筋を伝う汗を手の甲で拭った。夏らしい蒸し暑さがきっと夜になってから増すだろう。そういう空気の匂いだった。
 夕暮れ時の虫の声を聴いていると、何かの催眠術をかけられているような気分になる。短い間隔を置いて繰り返される鳴き声は一度意識すればなかなか消えてはくれず、気が付けば頭の中をそれに支配される。

 そろそろ戻ろうと考えて、ゲズゥ・スディルは麓の集落の方へゆっくりと歩き出した。人の出入りが多いのか、はっきりとした道が地面に浮き上がっている。といっても奥深く入るのではなく民家がまだ見下ろせるような距離まで登って、食物を採集する為のものと見受ける。

 ゲズゥは集落の広場へ向かって山を降りた。木製の屋根に覆われたそこはさっきからずっと視界の中に入れたままで、山の上からも広場の様子を観察していた。

 宗教画や石像の聖女のような慈愛に満ちた表情を民衆に向けるミスリアを眺めて、何故だか釈然としなかった。
 彼の目には小柄な少女が愛想を振りまいているようにしか見えないのに、民衆の誰もがまるで神の御前に立ったかのように涙を浮かべて感動している。ミスリアに最も近い位置の老婆が、触れるのもおこがましいとでも思っているのか、白いスカートにおそるおそる手を伸ばしている。
 
 信仰心というものは、よくわからない。
 あの盲目さは果たしてどこから来るものなのか。何かに縋りたいと願っていた人間の前にたまたま現れて手を差し伸べれば、お手頃な信仰対象として認識されるのだろうか?
 いくら崇め立てようと、あれは生身の人間だ。奇跡の力にだっておそらくは限りがある。
 
 人が王を戴くのと似ているのだろうが、違うのは聖女や聖人には血なまぐさい背景が一切無いことだ。
 ゲズゥにしてみれば、宗教という概念は気味の悪い洗脳手段に思える。大衆を操作するために誰かが作り出す物だ。特にどこそこで新しい邪神教が興されたなんて話を聞くと、真っ先にそういう感想が浮かぶ。教団とやらが違うのかは知らない。
 
「ありがとうございます、聖女さま」
「お大事に」
 例によって人の怪我や病気の治癒に勤しむ聖女ミスリアが、柔らかく微笑む。
 ゲズゥは音一つ立てずに、広場の隅に滑り込んだ。
 
 どうにも不可解だ。
 宗教の象徴とも言える立場のこの少女が、人を洗脳したがっているようには見えない。ならばそれが目当てで聖女という職を選んだのではないのだろう。
 
 では、人を「救う」ことこそが唯一の目的か。
 何の迷いも無くそういった生き方を貫けるはずが無いと、ゲズゥは確信していた。純真無垢で居られるのは子供の頃までだ。皆、どこかで人間の不安定さをも併せ持っている。あの司祭がいい例だ。人間は常に善意と愛想を完璧に振りまけるようにはできていない。
 
 もう一つ考えうるのは、ミスリア自身が救われたがっているという可能性だ。宗教に溺れる人間の多くは、他の手段では解決できない悩みを抱えている者だ。
 根拠などどこにも無いが、これが一番しっくり来る。
 
「ヴィールヴ=ハイス教団はなんと素晴らしいのでしょう。山の向こうの輩もこの感覚を知ればいいのに」
 目を潤ませて、集落の長老らしい男が熱弁を振るう。
「そうですね」
 微笑を崩していないが、その一言を発したミスリアの声はどこか冷たかった。周りの他の人間はうんうんと強く頭を上下させるだけで、気付いていないらしい。
 
「この力があれば病も減り、そして聖獣が蘇れば世界から魔物が消えるのでしょう? 苦しみがなくなれば人間は皆幸せになれる。仲良く暮らせる。真の楽園が地上に顕現しますよ!」
 長老に寄り添う息子らしい男がそう言って拳を握った。
「ええ、そうなるよう努めます」
 ミスリアはにっこり笑って頷いた。周囲の人間は感心や励ましの声を連ねる。
 
 知り合ってまだ日が浅いが、今の笑みが本心からではないとゲズゥは直感した。
 
 ああそうか、と何かが腑に落ちる。
 彼女にはあの盲目さが無い。友人だというあの聖人にもだ。二人の何かが「違う」と思っていた原因がこれでわかった。
 二人とも何かから救われたがっているようでありながら、教団の話をしている時はどこか理性的だった。客観しているような、分析しているような、疑り深さが僅かにあった。
 
 まるで、救われたいのに救われるとは本気で信じきれていないような。だからこそ、ミスリアも聖人も周りに布教しようなどとしないのかもしれない。今のミスリアは熱心に神や聖獣を讃える信徒を前にして、ただ穏やかに笑うだけだ。
 信心深さとは別の問題で、教団の教えを総て鵜呑みに出来ない理由があるのだろう。聖気という現象を扱えても、少なくともそれで誰もが幸せになれるとは思っていないようだ。
 
 ならば何故、世界を救う為の旅になど出るのか。何を目指してこの道に人生を捧げたのか。なんとなく、半端な覚悟で旅しているとでもいうのか。
 そこまで考えて、ゲズゥは誰にも聴こえないような吐息を漏らした。

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23:46:14 | 小説 | コメント(0) | page top↑
やっと更新しまっせ
2012 / 08 / 12 ( Sun )
皆様、ご無沙汰(でもないか)!

リアルのゴタゴタとは別に、新章だからかなかなか続きがうまくかけませんでしたが。
なんか…うん。こんな始め方でいいのか…? 不安が拭えませんw
数分・数時間以内に15を載せる予定です。


ところで、読者の皆様はお気づきでしょうが、「ミスリア」は人物視点の三人称で進めています。
(01の冒頭部分だけ神視点)

主にミスリアとゲズゥが中心で、たまに他の人のも入ります。
昔は神視点というか特定の人間に偏りすぎないスタイルだったのですが、数年前からのこだわりでそれはやめました。

なので、あくまで個人の主観で語っています。

主観だらけなので、印象や推測で物事をとらえ、理解しています。
時々間違った認識をしちゃうこともあります。

まぁ、そこら辺の違いは書いている私の技量次第なのであまり主張しても仕方ないのですが(笑
キャラに誤解をさせて進めるより、多分「よくわからない」を引きずる形が多いかも。


そうやって情報の断片を引き合わせて最後には総てがクリアになる物語…かもしれない!

燃えてきた!!!

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20:21:23 | 余談 | コメント(0) | page top↑
さっきのは嘘でした
2012 / 08 / 11 ( Sat )
なんだか非常に意味がわからないのですがパソコンがワイヤレスを探し出しました。
しかしiPodさんは同じネットワークを拾ってもパソのようには繋がれないようです。

ちなみに相性のいいサイトと悪いサイトがあるようで。


何はともあれこれで更新できる!!!

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06:11:00 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
えーとりあえず
2012 / 08 / 11 ( Sat )
コンゴのネットは電話回線にちょっと毛が生えた程度というか

ホテルの部屋までワイヤレスが届かないというか(笑

残念ながら環境整うまではご無沙汰しますね ひゃっはー

職場のネットはネットワーク内は速いけど外部ウェブサイトへはとんでもなく遅いです。

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03:28:02 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
時は満ちた…
2012 / 08 / 05 ( Sun )
いよいよ数時間後に、飛行機に乗り込みますw

Are you excited? とか友達に訊かれても、うーん どうだろー な返事になりますな。

多分ものすごく楽しみにしてるのと同時に、何をイメージすればわからないというか。
不安なのかと訊かれてもそれも違います。
あ、でもフランス語と仕事がうまくできるのかはやや不安w

あとは散々注意事項を叩き込まれたので実行するのみ~ な気分w
実感沸かないなー。

とりあえず荷造りや最後のやるべきことをまとめまっせ!

皆さんよい一週間を!!!



いってきまーす( `・ω・)▄︻┻┳═一BAN★

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22:08:48 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
14&第一章 あとがき
2012 / 08 / 04 ( Sat )
お疲れ様です! いつも訪問あざーす(・∀・)

2000HITがなんか微妙に迫ってきているんですがどうしよう(笑
掌編ネタのリクエスト募集→本編に当たり障りないやつを選んで書く かなヾ(。◕∀◕)ノ♫♬ ?
本編100記事達成も近い!

七月はリアル多忙につき更新がひどく遅れました。やっとここまで書けた……

14最後の二つは本当は一度の更新にするつもりで(夜更かしして)執筆していたんですが、あまりにありえない長さになったので分けました。かといって内容は一度に読んだ方が楽しい(?)気がしたので連続投稿。

これにて第一章・行路を織り成す選択の連なり は終了です。
次から新章になりますが、どこがどう新しいのかときかれてもあばばば/(^O^)\
オーソドックスな起承転結で言えば起と承をもやもやと進んだり戻ったりしている感じでしょうかね。


では続きは14まで完読した方向けー 長いよー


*

*

*

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04:08:47 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
14.j.
2012 / 08 / 03 ( Fri )
 カイルサィートは、言葉の一つ一つに決心をこめた。
 そう、ミスリアと再会した当初は一緒に旅に出ようと提案するつもりだった。自分の方の護衛は道中雇うなりして、共に聖地を巡礼したかった。かつての同期生であり友人である人間と一緒なら心強いし、よりスムーズに旅が出来ることは想像に難くない。
 
 ミスリアは口を不自然に開いたと思えば、数秒後に気付いて閉じた。説明を求めるべきか決めかねているのか、唇を揺らしている。
 
「色々と思うところがあってね。前からだけど、叔父上の教会に来てからもっと」
 訊かれる前に、カイルサィートは自分から説明し始めた。
「聖獣を蘇らせることの重要性は理解している。ただ僕の目指す目標は、それだけではきっと手に入らない」
 忌み地やラサヴァの町での騒ぎと、叔父の成れの果てを思い返す。そして教団関係の人間以外ほとんど誰も知らないという、魔物が発生する原理。
 
 ――本当に、このままでいいのか?
 
「カイルの目標って確か……『魔物に怯えずにすむ世界』でしたよね?」
「よく覚えてるね」
 自然と顔がほころんだ。目標を語り合った日々が大昔のように感じる。
 
「その思うところが何なのかまでは、話してくれないんですよね」
「今はまだ閃きに過ぎないから……時が来たら話すかな。ごめん、約束は出来ない」
 カイルサィートは苦笑いした。
 そもそも今の教皇猊下の指揮下で、教団が聖獣を蘇らせることを最優先しているというのに、この決断は褒められるものではない。
 
「わかりました。ではここでお別れ、ですね」
 俯いたミスリアの様子がいつになく暗い。
「こらこら、そんな顔しないの」
 つい子供をあやすような声色になって、少女の肩を叩いた。
 
 ミスリアは間髪居れずに抱きついて来た。
 まるで今生の別れを惜しむような抱擁に、驚かざるを得まい。行き場の無い両手をさまよわせる。
 やがてカイルサィートはため息混じりに微笑んで、小さな体を抱きしめ返した。
 
「生きていればまた会えるよ」
 優しく告げた。こっちだって感極まらないように必死だ。
「違う」
 それまで馬の手綱を手に持ち、傍観していただけのゲズゥが発話した。無表情に、一言だけ。言わんとしている事は多分伝わった。
 
「訂正するよ。お互いに生きていて、再会したいという心意気と手段・縁・機会があれば、必ずまた会えるよ」
「…………はい」
 くぐもった声は、泣いていない。
 
「旅、頑張ってね。教団を通して手紙を出せば通じるはずだから、たまには書いてみる」
「はい」
 ようやっと離れたミスリアは瞑目している。次に茶色の目が開いた時は、笑っていた。
「私もできれば手紙を書きます。今まで、有難うございます。カイルの進む道がどうであっても私は貴方の味方です」
 
「ありがとう。僕も同じ気持ちだよ」
 そこでカイルは、ミスリアの向こうに立つ黒髪の青年に声をかけた。
「ゲズゥ、君もありがとう。ミスリアをよろしく頼むよ」
 名で呼ぶ約束をしていないので不思議な感じがしたが、気にせず続けた。
 
「君には再会したいという心意気が無いだろうから、これが最後になるかもしれないよ。最後くらい、名前を覚えて欲しいな。できれば呼んでくれても」
 他にも言いたいことはたくさんあるが、口から出ていたのはそんな言葉だった。
「断る」
 素っ気無い返事。ミスリアが目を丸くした。
 カイルサィートはどうしてか、怒りよりも笑いがこみ上げる。
 
「あはは! そういう率直な物言い、結構好きだよ」
「俺はお前は苦手だ」
 やはり無表情にゲズゥが言い切った。
「え。どうして?」
「話し方が知った人間を彷彿とさせる」
「それって僕自身に非が無いんじゃない。その人とはどういう関係?」
「……」
 
 表情に変化は表れなかったが、ゲズゥはそっぽを向いた。どうやら答えたくない質問らしい。
 追究はせずに、カイルサィートは荷物をまとめることに移った。ミスリアには馬を使うよう強く勧められ、やんわり抵抗したものの最終的には折れた。
 馬に飛び乗って、彼はついさっきまで旅の連れであった二人を見下ろし、微笑みかける。
 
「それじゃあ行くけど、二人とも元気で。無茶しないでね」
「はい。カイルこそ!」
 ミスリアは大きく手を振った。彼女の背後に立つゲズゥは腕を組んでいる。
 最後にもう一度笑って、頷いた。
 
 ヤァ! と馬に声をかけて向きを変える。
 前方の青く茂る平原と、美味しそうな綿雲の点在する空を見据えた。遠くから鷹の鳴き声が響き、呼応したかのように暖かい風が吹く。
 聖人カイルサィート・デューセは己の次なる行く先に向かって迷わず駆り出した。

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16:34:12 | 小説 | コメント(0) | page top↑
14.i.
2012 / 08 / 03 ( Fri )
 二人がすぐに振り返る。大雑把な切り出し方なのに随分と食いつきが良いようだ。
 軽く咳払いをした。
 
「亡き先王は戦で散った兄の王位を継いだ人でね。ゆえに短い間だったけど、ミョレンの歴史を顧みれば珍しく賢君だったと思う。聞いた話だとね」
「そうだったんですか」
「そんな国王が病床についた時、腹心である宰相を呼び寄せたんだ。次の王になる人間は、有能な彼に見極めて欲しいと」
 
「それが例の『条件』に繋がると?」
 ミスリアはポニーテールから逃げた髪の一房を耳にかけ直し、訊いた。ラサヴァで、カイルサィートが王子殿下に言った言葉を覚えているのだろう。
 
「そうだね。王冠は宰相が隠し、彼だけが在り処を知っている。そして彼は継承者候補たちに王の遺言を伝えた――『国民に最も支持される人間が王冠を戴く』と」
 カイルサィートは話を続けながらも周囲への注意を緩めなかった。もとより肌の露出が少ないため枝などに引っ掛けられて怪我をする心配は無いが、それでも蜘蛛の巣や大きな虫、そして蛇などを避けたい。
 
「果たして宰相が王の真実を語っているのか、これが彼自身の謀(はかりごと)なのかは僕にはわからないけど。宰相殿には親類縁者が一人も居ないし、本人は国以外の何事にも無関心。彼を強請ったり尋問にかけたりして王冠の在り処を聞き出すことは不可能に近いらしい」
 しかも王冠を託されたからには自分自身が王になりたい、とは決して考えないような誠実な人物だと聞く。
 
「では条件に従うしかないのですね。国民の支持と言っても解釈は多々ありそうです」
「だから手持ちの領地や利益を増やそうとする者もいれば、慈善事業に励む者もいるのかな。シューリマ・セェレテは、オルトファキテ王子の名の下で偽の活躍を積もうと狙ってたんじゃないかな。王子はそういうのをいらなかったみたいだけど」
 
 自国よりも聖獣が欲しいと言った第三王子を思って、カイルサィートは数秒ほど立ち止まった。
 ミョレン国内のイザコザだけならこちらにとっては関係無いのひとことで済ませられるが、聖獣が絡むとなるとそうは行かない。しかし途方も無さ過ぎて警戒する必要があるのか怪しい。教団に報告しても信じてくれない気さえする。
 
 思考を巡らせても答えが出ない問題はひとまず忘れて、カイルサィートは自分が聞いた他の噂を話すことにした。止めていた足を動かす。
 
「現在のミョレン王国で王位継承権を有しているのは、先王の兄弟姉妹が何人か、あとは先王の直系の子が四人。その四人の中で唯一、オルトファキテ王子だけは母親が平民以下の身分で、詳しい経緯は知らないけど、どうやら母親は王子を産んだ一週間後に自害したらしい」
 ミスリアがはっと息を呑む。大分先を歩くゲズゥが、まるで話に興味を持ったように振り返っている。
 
「……とまぁ、王子ははじめから王位継承権を持っていなかったってね。ところが彼は成人してからの数年間、消息を絶った。死んだんじゃないかって噂が出回るほど長い間が過ぎるといきなり城に戻って王と謁見し、その直後に王は第三王子にも継承権を与えると言って譲らなかったそうだよ」
「どうして王様はそんなことを言ったんでしょう。王子殿下の才気を知って考えを改めた……とか?」
 
「その読みはいい線行ってると思うよ」
 勿論、実際の正解は知らない。
 カイルサィートは無言で藪を払う長身の青年の、後ろ頭をじっと見つめた。
 
(おそらく、彼らが出会ったのは王子が城から失踪していた数年の間)
 王子のそれまでの人格とそれからの人格に如何ほどの差異があるのか、知ってみたいような知りたくないような、微妙な意欲が沸く。
 少なくともその数年がどんなだったか、訊ねてみればゲズゥ・スディルは答えるだろうか。
 
(またの機会があれば訊くかな)
 たとえその機会がいつ訪れるのか、想像がつかなくても。
 そろそろ時間切れである。
 
 岩壁に挟まれてた道が、視界が、急に開けた。
 前方では少々の平野の先に、濃い緑色に覆われた低い山が連なる。山々の麓には畑と民家が並んでいる。
 ミスリアが情景に感嘆の声を上げた。
 
「何だか大陸のこの辺りは地形がめまぐるしく変わりますね。綺麗です」
「南西へ行くとただの平地の方が珍しいね」
 カイルサィートは右隣に目配せした。
 数歩先で道がちょうど別れている。民家に近づきすぎない距離から、平地を進められる。
 
「僕はここから北へ行くよ」
 笑ってそう伝えたら、ミスリアが落胆に表情を曇らせた。鞍上からおもむろに降りて、彼女はカイルサィートの正面に立った。
「ちょっと残念です。できればもっと一緒に旅をしたかった……」
 
「それは僕も最初はそう提案したかったけどね」
「と言いますと?」
 小柄な少女が首を傾げた。ウェーブのかかった栗色の髪が風になびく。
「考えが変わったと言うのかな。僕は聖獣を蘇らせる旅には出ないよ」

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