夢と現の境
2012 / 11 / 29 ( Thu ) なんか今朝すっげー夢見ました^p^
自分が「二日以内に死ぬ」と宣言され、その瞬間に備えて身の回りの準備をするという話でした。 あまり現実味の無い世界観だった気がします。 二日経てば私の生命力が尽きるという設定だったような。 もしかしたら誰かの為に死ぬとかそういう話だったかもしれない…。 死んだ後自分の意識がどうなるのかわからなくて、その瞬間はひたすら不安でした。まあ、死んだ=起きた瞬間でしたけどね。 朝の4時なんたらって時間でその後また寝たけどひどく浅い眠りで。 だっるっ。 仕事だーるーいー おそらく明日も更新します。 |
18.d.
2012 / 11 / 29 ( Thu )
(十五年…………あ、もしかして) |
18.c.
2012 / 11 / 27 ( Tue ) 誰もが黙然と見守る中。ふわりと、甘い香りが舞った。
ヴィーナが頭領の正面に回ったのだ。不敵に腕を組み、半透明の長い袖を風になびかせながら、自分の倍ある体格の男をしっかり見上げている。 「不公平も何も、表社会の人間が付ける通り名なんて無意味に等しいわ。それより、こんな狭いところでやり合うより後でちゃんと決闘すればいいんじゃない?」 ねっとり絡みつくような甘い声を発する彼女の表情を敢えて形容するなら――妖しげ、だった。 「そうだな――」 怒るのかと思いきや、頭領は同意を示した。 「ええ。それにアナタの為に宴の準備がしてあるのよ」 「おお! お前は相変わらず気が利くな」 ちょうど腹も減っていたことだし、と彼は続けた。 頭領はまたしても笑い出し、そうしてあっさりと、緊迫した場面が今度こそ終わった。 (簡単に主導権を握った彼女が、本当は一番の大物なのかも) ミスリアには到底真似できない。あのまま一人で相対してたなら怖気付いて逃げ出していたかもしれない。 未だに平常運転に戻らない心臓をそっと撫でる。 「よし、皆飲んで食うぞ! 客も一緒だ! イトゥ=エンキ、案内してやれ」 「はーい」 闘技場のギャラリーは頭領とヴィーナの後に次々と席を立ち始めていた。お祭り騒ぎが好きなのだろう、わかりやすい興味の移り変わりだ。 背後のイトゥ=エンキはミスリアの肩を離すと、今度はゲズゥの腕を指で突付いた。 「皆単純っつーかさ、頭の方にばっか気を取られてたから忘れてるみたいだけどさ。お前、スッゲー跳躍力な。あと、嬢ちゃんに対してけっこー過保護?」 「そんなことありませんよ」 過保護という表現に対し、苦笑い交じりにミスリアが抗議した。 「あるだろ。まー、なんも考えないで飛び出したって印象も強いか」 ゲズゥは無言で首を鳴らしている。会話に入って来る素振りは特に見せていない。 「嬢ちゃん生きてる? 頭はあんなカンジに空気読まないっつーか好き勝手やる人種だから。姐さんとはお似合いなもんだよ」 「は、あ。熊を素手で倒せそうな方だと思いました……」 失礼とは思いながらもうっかり口を滑らせてしまった。 「年に何度か一人で狩りに行ってるらしいぜ。流石に素手は無いけど」 「本当に!?」 熊など並大抵の人間が一人で倒せるような猛獣では決して無いはずだ。しかも彼らは知能の低い魔物と違って賢い。 「ほんと。その内どっかで無茶して死ぬんじゃないかなー、とオレは踏んでる」 「え……」 けろっと言ったように聴こえたのに、何気なく瞥見したイトゥ=エンキの端整な横顔は、ふざけていなかった。 それが何を意味するのか、知り合って間もないミスリアには推し量れない。どうしてか、今の言葉に含まれていたのが心配ではなくもっと複雑な感情のように思える。 人々の波に倣ってミスリアたちも歩き出した。ミスリアとイトゥ=エンキが並び、その二歩ほど後ろをゲズゥが歩く。彼は何か思案に暮れているのか、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。 バルコニーを降り、闘技場を去って、一同は洞窟の迷宮へと潜り込んだ。急な暗がりと壁の灯りに目が慣れるまで、ミスリアは何度か目を瞬かせた。 「……イトゥ=エンキさん」 ぽつりと、ミスリアは前へ視線をやったまま呼びかけた。こんな立ち入ったことを訊いていいのか迷うけれど、思い切ることにした。 「ん?」 「貴方は、お頭さんのことをどう思っているんですか」 小声で言いながら、目を合わせた。紫色の瞳が少し驚いたように見開かれた。 「どうって言ってもな、大岩みたいなおっさん? 初対面はオレもビビッて腰抜けたよー」 求めていたのと方向性の違う答えが返ってきて、ミスリアは呆気に取られた。しかも悪びれずに普通の大きさの声を使っている。 「それは……何だか想像が付きません」 「ところが事実なんだよ」 穏やかに笑う彼を見上げて、ミスリアは不思議に思った。 この人の取り乱している姿が想像できない。 「いつ頃のお話ですか?」 ミスリアが訊ねると、イトゥ=エンキは顎に手を当てた。 「そりゃー、十五年前だな」 最近聞いたような、馴染みのある数字だった。 |
果たして…
2012 / 11 / 25 ( Sun ) 昨晩、友人たちがまさに一触即発で喧嘩始めるとこでした。
見知らぬ男が因縁つけてきたのが原因なのですが、その原因を作ったのが友人だったので、こちらが一方的に言い負かすこともできず。 言い合っていた友達も原因がこっちにあるとは気付かずにひたすら怒鳴っていたわけで。 何でしょうね、感情的な人間ほど厄介なものはない。 二人が喧嘩になれば私はどうしたでしょうね。 問題は周りに大勢の人間が居て、白人マイノリティな私たちがおそらく簡単に「敵」に祭り上げられたであろうことか。全員がモブになって私たちを駆除しにかかったら、間違いなく正しい判断は逃げることだろうけど。何せこっちは男二人で女三人。しかも常連の店だから迷惑かけたくないし。やりあうにしても場が悪い。 半端な素人なら、よりアグレッシブな人間に簡単に負けるだろう。 体格差もあるだろうし、私にできることなど或いはなかったかもしれない。 ボトル割って武器にしたら逮捕沙汰間違いないしなー 逮捕だけはダメだわー 異国の地でそんなことになったら今後の私の社会人としての人生に影響が…いや祖国で逮捕されるよりましなのか? わからん(苦笑 でも達人だったならば、冷静な人間の方に分がある、と言うのが私の持論ですが、果たして現実ではどうなっただろうか。 最終的には何も怒らず後ろ指差されながらも歩き去りましたけど、もし喧嘩になってたら? まあ場の流れを読んでいたと思うけど。 周りが止めに入るわけがない文化の中で、私は問題の中心人物を締め上げようとしただろうか? 怯えて逃げはしないだろうけど、他の女子の盾になろうとしたとか? そもそも声を張り上げるのが嫌いな私、しかも現地の言語(仏語ではない)もさっぱりだから言い合いでも負けるし。 無言で蹴る? 果たして… |
18.b.
2012 / 11 / 21 ( Wed ) 大男の喉から発せられた声が、大気を震わせた。
知らない言語だった。 きっと誰何(すいか)している、答えなきゃ、と思うのに声が出ない。 静謐な宵闇の重圧に耐えかねて、ミスリアはお腹回りに巻き付いているゲズゥの腕をそっと握り――ふわっと身体が浮いたと思えば、ゲズゥと立ち位置が入れ代わっていた。 男は眉を吊り上げ、腰に提げた戦斧に手を触れた。 「私が迎えたお客さんよ」 涼やかな声で南の共通語を話したのはすぐ近くでくつろいでいる絶世の美女である。 「ほ、う。そういうことか」 顎の髭を撫でつつ、男は言語を切り替えた。 「道理でな。こんな人形みたいな娘などウチには居ないと思った」 男がそう言ったの同時に威圧感がいくらか和らいだ。 「可愛いでしょう」 「ああ。儂に幼女趣味は無いが、その線の輩に高く売れそうな上玉だな」 ヴィーナに歩み寄り、男は慣れた手付きで彼女を抱き寄せた。同じ慣れた様子でヴィーナが男の首に絡み付く。前にも見たような濃厚な抱擁だった。 (じゃあこの人が「頭」なのね) 頭髪を短く剃っているが、髭と眉毛は薄茶色またはダーティ・ブロンドと言えるような色が主で、所々白が混じっている。 山賊団の頭領は、見る者を圧倒する外見をしていた。 ただでさえ長身のゲズゥより更に頭一つ分身長が高く、熊の一匹や二匹くらい素手で倒せそうな雰囲気である。盛り上がった上腕の筋肉なんてミスリアの腰より分厚いかもしれない。 「お前ら、面白いことしてるな!」 声を張り上げ、彼は身体を揺らしながら笑った。それに続いて闘技場の空気が変わり、皆が一斉に騒ぎ出した。状況からして、きっと頭への挨拶の言葉を並べている。 「頭、お疲れー」 いつの間にバルコニーに上がっていたイトゥ=エンキが、片手をポケットに突っ込んだまま手を振る。 「おう、イトゥ=エンキ。もっとこっちに来て顔をよく見せろ」 「いつ見ても同じ顔ですよ」 「そう冷たいコトを言うな」 片腕でヴィーナの細い肩を抱き、空いた手で手招きしている。呼ばれたイトゥ=エンキは数歩歩み寄ったと思えば、それ以上距離を縮めずにミスリアたちの横で立ち止まった。 「そいつぁ何だ? 呪いの眼の一族なんてまだ居たんだな」 頭領が未だに臨戦態勢を解かないゲズゥに対して顎をしゃくった。 「居たんです。『天下の大罪人』って覚えてます?」 のんびり答えたのはイトゥ=エンキ。周りの他の人間も会話に割って入りたそうなのに、遠慮しているのか黙ったままだ。 「青臭いガキのくせに生意気な通り名が定着したヤツだな! 思い出したぞ。強いか?」 「そーですねー、残念ながらオレじゃあソイツの本気を引き出す事は無理でしたよ」 イトゥ=エンキは目を細めて笑った。 (どっちも手加減してた様には見えなかったけど) 踏み込みが甘かった、などとミスリアにはわからないようなレベルのやり取りがあったのだろうか。それとも彼が嘘をついているのだろうか。 意図が読めなくて、ミスリアは首を傾げた。 「どれ」 巨体が動いた。同時に、ミスリアは横へ突き飛ばされた。 「きゃあ」 「――おっと」 イトゥ=エンキに肩を受け止められ、ミスリアは思わず目を瞑った。次いでバルコニーが揺れた。 「大した瞬発力じゃねぇか」 次に目を開いた時、戦斧が地に突き刺さっているのが見えた。地面には小さくひびが入っている。頭領は不気味な笑みを浮かべながら、斧を抜いた。 「……」 ゲズゥは、攻撃を仕掛けてきた頭領の斜め後ろに移動していた。 「いやね、男は。すぐ力比べしたがるんだから」 ころころ笑うのはヴィーナだけだった。他の人間は頭領が発する殺気に当てられて、青ざめている。 頭領は腰に提げていた斧以外にも、背中に長い戦斧をもう一挺備えている。 「まったく、生意気な話だぁな。犯した罪の重さも数も儂らの方が上だ。てめぇばっか有名んなって、不公平よなぁ」 声や仕草は確かに笑っているのに、頭領の目は全然笑っていない。 |
らくがき天国3
2012 / 11 / 17 ( Sat ) |
18.a.
2012 / 11 / 15 ( Thu ) 背後から迫り来る脅威に反応して、首周りの肌が粟立った。
すかさず身を屈め、ゲズゥ・スディルはその拳の威力を味わわずに済んだ。 地面に右手を付けてそのまま蹴りを組み込んだ宙返りを展開した。 対する男は両腕を交差させて堅くガードした。 口元が少し釣り上がった以外に反応を見せない、冷静な対処だった。どんな表情を浮かべていても、男の左頬の複雑な紋様が冴えるので不思議である。 ――模様の男。やはり最初に見積もった通り、かなりやる方だ。 ゲズゥは久方ぶりに沸き起こる高揚感に自分でも驚いていた。 日没頃、山頂に建てられた闘技場の中心で、誰の邪魔も無く一対一の戦闘を繰り広げている。 人気が無い訳ではない。 円の形をなぞる客席にはまばらに人が座している。急遽始まった試合の割には見物人が多い方だろう。人が一番固まっている箇所では賭け事が盛り上っているに違いない。 一番高くて見やすいバルコニー席には、足を組んでワインを飲みながら観戦するアズリの横で、ミスリアが所在無さげにちょこんと座っていた。 アズリに派手な服を着せられたためか、ミスリアに絡んでくる輩は増えたようである。 だからと言ってそれらに害は無さそうなので今は気にしない。 模様の男が拳の連打を繰り出した。それをどれも際どい所でかわしながら、ゲズゥは反撃を仕掛ける瞬間を伺う。 発端は、向こうからの一言だった。 ――頭が帰るまで暇だし、ちょっと組み合わないか。 良い機会だと思った。 純粋な興味の他に、ゲズゥは山賊団の中で一目置かれているらしいこの男の実力を測ろうと考えた。 模様の男の強さは、軸の安定から来ている。足腰の鍛錬は勿論のこと、幾度となく拳を打ち出して得る強さだ。体格はゲズゥと多少似ているが、腕力と技術では奴の方が僅かに上回っている。 直刀を含んだ武器類を扱える上に、素手でのこの実力。この分なら頭領にも期待できる。アズリの男の好みを思えば、どうせ頭領はとてつもなく強いのだろう。 期待する一方で懸念もある。敵が強ければ強いほど、山脈から無事に逃げられる確率が減るからだ。 相手が立ち止まった刹那。 それが奴からの誘いであると知りながら、ゲズゥは素早くローキックを放った。模様の男はまた巧く防御し、逆に間合いを詰めた。 掌底を叩き込まれる一瞬前に、ゲズゥは男のみずおちを肘で打った。 「ぐっ……!」 男は呻きを漏らした。が、倒れるどころか、びくともしない。 体を回転させて、ゲズゥは男の背中に回った。 体重はおそらくこちらに分がある。投げ技ならば決まる可能性が大きい―― 模様の男の次の行動は意外だった。こちらの手を弾き、距離を取ったのである。 防御がしっかりしていて攻撃に溺れない、慎重なスタイルだと思った。 不意打ちや先手を狙うのが多い賊にしては、このやり方は珍しい。不意打ちは裏を返せば失敗した時のリスクが大きいものだと、熟知した者のやり方だ。 性急さが無くて落ち着いた性質は少しだけオルトを思い出させた。ただしこの男のそれは生来のものというより、意思で昂ぶりを制御している印象を受ける。 「……あ」 不意に、向かい合った相手から気の抜けた声が発せられた。 模様の男の視線が上へずれた。何かを見つけて瞠目し、緊張を解いている。 ゲズゥが次の瞬間に走り出したのは何の根拠も無い、直感に基づいての行動だった。 助走を付け、流れる動作で宙を高く跳んだ。己の全身の筋肉と瞬発力の総てを駆使して跳んだ。 目指していた場所には届かなかった。仕方なく、着地点から目標を抱きすくめた。 _______ 全身を真っ先に駆け巡ったのが恐怖だったのか畏怖だったのか或いはただの驚愕だったのか、ミスリア・ノイラートには確認する術が無い。 岩のような存在感を漂わせる巨漢に見下ろされてかろうじて平然としていられたのは、背中とお腹周りに感じた、知った感触のおかげだと思う。 何故彼がそこに居るのかはわからないけれど、おそらく自分が闘技場の中心から背を向けた間にどうやってか移動してきたのだろう。 珍しく上がった息に伴って、ゲズゥの胸板も通常より速いリズムで呼吸を繰り返している。 背中越しにぼんやりそんな発見をしたミスリアは、口を開いた。 「こんばんは」 目前の巨漢からの返答は無かった。ちょうど影がかかっていて顔も見えない。 男は数秒或いは数分の間、ミスリアを見下ろしていたように思えた。 さっきまで闘技場を賑わせていた歓声がいつの間にか止んでいる。己を抱きすくめる青年の呼吸音しか聴こえない。 |
聖女について考察
2012 / 11 / 14 ( Wed ) 最近小説投稿サイト「小説家になろう」を浮遊してた時に、ふと思い立って「聖女」をキーワード検索してみました。
ほう、世の中の書き手さんは聖女という題材にこういうことを求めてるのか……と、ある意味参考?になりましたよ。 まったく誰の得にもならないけど「ミスリア」に当てはめて考えてみます。 とりあえずピックアップする点
1) ココでの「聖女」というコンセプトは色々練りこんでいますが元は「世のために旅する特別な女性」というのが核でした。 お そらくは以前の余談記事でも書いた、影響を受けた作品のひとつ「聖女さま、参る!」が発端です。確かあの話の中では (注: 途中の一話分とあらすじしか読んでないので全貌は知りません) 聖女というのは組織によって祭り上げられた存在というか役職で、本人たちは修道な どしていなかったと思います。 ミスリアでの聖女もまた、生まれつき運命の印が出たとかそういう流れではなく人の力でなれるものに設定して います。ただし人の力のみでなれるものではなく、12の最後で説明しているようにある程度の素質が必須です。数年に渡る修行もします。大陸を見渡しても数 が少ないのはつまりそういうことです(合計何人~は考え中)。 ここでいう「奇跡の力」は条件が揃ってこそ発動できるもので、また、魔法のような多彩なバリエーションはありません。普通よりちょっと多めに術を扱えるのは世俗を捨てて修行した人間の中でも上位の数人のみです。 2) これは今後出てくるテーマですが、ミスリアの世界でも聖人・聖女への規制は多く存在します。ただし自分の意思でそれになる以上は塔の中に閉じ込められる・一生慰問するだけの人生に終わる、なんて結果はありません。辞退することも不可能ではありません。 特に聖獣を蘇らせるという目的があるため、彼らは外を自由に動けます。外的要因はあることにはあるのですが、ミスリアは自発的に聖女になって旅をしているため「召喚された」タイプの主人公とはいろいろ違います(と私は自負している)。 3) 何も聖女に限らずファンタジー界なら王族・貴族にも護衛はつきます。ミスリアの場合、護衛がかなり重要な役割を占めています。ここら辺はFF10の影響などが強く出ているでしょう。 関係だけでなくゲズゥ自身が物語を引っ張っているため、彼が居なかったらまったく違う物語になっていたというか(笑)。たとえばカイルみたいな性格の人が護衛だったら爽やかで穏やかな旅に……うん、キャラクターの性質って大事ですね。<ここでもミスリアが自分で選んだというのがポイントです。 4) 転生という概念の無い世界なので前世ネタはなし。 萌えというか聖女を汚そうぜ~なノリは今後出るかもしれませんが決してメインではありません。 男が女になる~ BL~ などそういうのも見かけましたがこの小説とは無関係な要素ばかりです。 まあなんか色々延々と語っちゃいましたが、今後とも聖女ミスリアをよろしくお願いします^p^ |
17.h.
2012 / 11 / 12 ( Mon ) するりと、暖かい髪が首筋に触れる。くすぐったさに、ミスリアは身じろぎした。
すぐに背後からくすくすと笑い声が聴こえた。 「くすぐったかったかしら。ねえ、若さっていいわねぇ、少しぐらい手入れを怠っても髪の毛がこんなに柔らかくてサラサラなんだもの」 艶やかな女性の声がすぐ近くにある。 (若さって……そういう貴女はおいくつなんですか……) とは、口に出して問うことができない。 食事も済んで、何故かミスリアはヴィーナに髪を梳かしてもらっていた。勿論言いだしっぺはヴィーナである。食堂にいきなり現れてはミスリアを自室へ連れて来たのだった。広い部屋には灯かりがいくつも灯されていて、洞窟の中であるとはまったく感じられない。 そこでヴィーナは着せ替え人形にするように服を選び、次々とミスリアに着せた。ようやく、白地に真紅の花柄とフリルの付いたドレスに落ち着いたかと思えば、今度は鏡台の前に座らせて髪を梳き始めた。 馬の体毛を用いた高価なブラシが、ミスリアの栗色のウェーブがかった髪を通る。 その間、ミスリアは黙りこくっていた。 「生き別れた妹を思い出すわー」 うきうきとヴィーナが言った。 「妹さんはどうされたんですか?」 「あら? 適当に言っただけなんだけど、信じちゃったの?」 「はい?」 「いないわよー、妹なんて」 またくすくす笑う声がする。 (何でそんなこと) 一体何のために適当に嘘をつくのだろう。理由があろうともなかろうとも、からかわれているのは確かだ。ミスリアはわけがわからず、イライラしてきた。数時間も着せ替えに付き合ったストレスも溜まっている。しかし断れない性格のミスリアと強引なヴィーナとでは、覆せない結果である。 「ねえ」 「今度は何ですか」 いつになくキツイ口調になってしまい、ミスリアははっとした。謝るべきか検討するも、ヴィーナは気にしていないようだった。 「赤いチューリップに合わせて赤いカチューシャ。これを付けたら出来上がり」 フリルのついたカチューシャを渡された拍子に、ヴィーナのあの不思議な香りが微かに鼻に届いた。 ミスリアは言われたままにカチューシャをつけ、改めて鏡の中の自分の姿を確かめた。 すると自分でもどう反応すればいいのかわからないくらい可愛いらしい少女が写っていた。 着飾り、下ろした髪を綺麗に整えるだけで普段と全然違う印象をかもし出している。こういった柄や色は滅多に着ないので新鮮だった。 初めて味わう浮遊感に戸惑いつつも、ミスリアはお礼を伝えた。 「いいわよ、その服あげる。元の持ち主が着れなくなっちゃって。でもあんまり可愛いから取って置いたのよ。似合う靴が揃ってなくて残念だけど」 そう言って、ヴィーナはミスリアの肩を掴み、自分に向けるようにくるりと回転させた。 サファイア色の瞳が満足そうに輝いていた。 「ありがとうございます。でも、私には勿体無いので謹んで遠慮します」 もらった所で今後使い道が無さそうな服である。それでも、一応深々とお礼をした。それについては、ヴィーナは何も言わなかった。 「ねえ」 「はい?」 「私とゲズゥがどういう関係だったか、気になる?」 彼女は首を傾げて、ゆっくり訊ねた。刹那、彼女の両耳の大きなイヤリングが光を反射した。 ミスリアはその場で固まった。 「気になるでしょう」 「そ、それは……」 気にならないわけが無い。唐突に訊くものだから、取り繕う余裕が無くて困る。 「知りたかったら、教えてあげてもいいわよ」 ヴィーナはにっこり笑って見せた。優位に立つ者の話し方だった。 それからの沈黙がやけに重い。 鏡台の上に置かれた蝋燭の炎が揺らめいた。広い部屋で二人きりである事実を何故か急に意識してしまう。 「知りたいです」 ついには搾り出すような声で、ミスリアはお願いした。ゲズゥに聞いても答えてはくれないだろう。 人の過去を聞くことに後ろめたさはある。それでも、知りたい願望の方が圧倒的に強かった。或いはこんな風に追い立てられるように訊かれたのでなければ、「知りたくない」と答えられたかもしれない。 「――男と女の関係」 ふくよかな唇が囁いた。 (やっぱり) 予想内の返答に、ミスリアは膝の上で手を握り合わせる。 「……でもそこに愛は無かったわ」 淡々と言って、ヴィーナは簪を唇の間に銜えた。次いで空いた両手で長い紺色の巻き毛を一つにまとめ、簪を挿した。 ミスリアは彼女の次の言葉を待ちながら、鏡を見ていないのに器用だな、と思った。 「アナタにはまだ、意味がわからないかしら」 「……そう、ですね」 「あの子は恋と勘違いしてた時期もあったみたいだけど……」 ヴィーナは懐かしむように目を細めた。 (あれ? 何だかものすごく意外な単語を聞いたような) 返すべき反応がわからなくてミスリアは何も言わずに居る。 「あとは、本人に訊いてみるといいわ」 ふわっと微笑んで、ヴィーナは部屋の出入り口へ向き直った。ミスリアもそれに合わせて視線を右へずらした。 入り口の左右に、それぞれゲズゥとイトゥ=エンキが佇んでいた。二人とも気配が消えているのに、ヴィーナは良く気付いたものである。 「何を訊いてみるって?」 面白そうに訊ねたのはイトゥ=エンキだ。耳から上の髪の毛を後頭部で束ねている。 「なぁに、立ち聞きしてたんじゃないの?」 「生憎とオレは地獄耳じゃないんで。コッチは聴こえたかも」 彼は親指で向かいのゲズゥを指した。 「……」 ゲズゥは無言無表情を崩さなかった。 「まあ、私はどちらでも構わないわ」 そう言ってヴィーナはミスリアの手を引き、入り口まで近付いた。 「はは。嬢ちゃん、そういう格好もカワイイな」 「ありがとうございます」 ドレスを広げる礼を返した。 「それで? 私に何か用があったの? それともミスリアちゃんの方?」 「両方かな。頭から通達が来ましたよ。今晩の夜には戻るそうです」 「そうなの。それは色んな意味で楽しみね」 ヴィーナは二人の男の間を通って通路へ出た。身体にぴったりとしたドレスによって、後姿の曲線が目立つ。いっそ羨ましいほど綺麗なくびれである。 「そういうことだから、心の準備でもしとくんだな」 ミスリアを振り返ったイトゥ=エンキの顔には、意味深な微笑が浮かんでいた。 すぐに彼はヴィーナの後を追った。 残されたミスリアはゲズゥをチラッと見上げた。 左右非対称の両目が、じっと見つめ返す。 やがて彼は瞑目し、溜息を吐いた。 「……アズリが言うほど当時の俺は勘違いしていなかったが、アイツをがむしゃらに求めた根本にあったモノは支配欲とでも形容した方が的確だな」 「しはいよく……?」 「どの道アイツは俺を選ばなかった。ただの暇つぶしのつもりだったんだろう」 そう言って歩き出した青年の背中には、哀愁も何も漂っていなかった。 以前言った通り、再会してもしなくてもどうでも良いほどに未練が残っていないのかもしれない。 ミスリアは頭を振った。 恋だの欲だの、自分にとっては全く未知の世界である。考えれば考えるだけ頭が痛くなっていく。 そんなことより生死のかかった問題から焦点を当てていこう。 拳を握り締め、ミスリアはそう心に決めた。 |
せいぞん
2012 / 11 / 12 ( Mon ) どうも最近体調崩しまくっててまぁ。 なかなか執筆に手が付かなかったのですがー (ついに観念して薬のんだ
多分今日中に更新すると思います。 なんか色々散りばめる回で派手なシーンの少ない17でしたが次からは……どうだろう。 行き当たりばったりですひゃっはー
でも最後までの大体の構成はできてますよ! ホント! |
17.g.
2012 / 11 / 07 ( Wed ) 「どうして貴方がそれを?」
ミスリアは慎重に訊き返した。 「どうして教会の存在を知っているかって? それともどうして場所を知りたがっているかって?」 「……では後者で」 「探してるモノがあるんだよ。見つかるとはもう思っちゃいねーが、手がかりはそこだけなんだ。嬢ちゃんが聖職者なら知ってるかもと思ったけど、当たったな」 紫色の瞳が悲しげに揺れている。何か深い事情があるのは明白だった。ミスリアはどう答えるべきか迷った。 アルシュント大陸が如何に広くとも、岸壁の上の教会は一軒しか存在しないはずだった。 その岸壁から東は深い樹海に覆われており、それも予め道を知っていなければ確実に迷うような場所である。なんでも、下手に踏み入れれば数分で眩暈に襲われては気絶するという、いわくつきの樹海だ。 逆に岸壁側から登るのもほぼ不可能とされている。 教会が建つにはやや不自然な地。しかしそれには勿論理由がある――。 イトゥ=エンキはテーブルに肘を付き、ミスリアに顔を近づけて、耳打ちした。 「オレをそこへ連れてってくれないか」 吐息が耳たぶにかかり、ミスリアは微かに身震いした。ハスキーボイスが妙に近い。 「できません。『訊きたい事』はそれだけですか?」 距離のせいか、つい囁くように返事をしてしまった。 「頼む」 「……すみません」 彼の切なげな表情に、ミスリアは動揺せざるを得なかった。それでも、是とは答えられない。 何故ならば、岸壁の上の教会が聖地に建っているからだ。皮肉にもそこが目指すべき最初の巡礼地でもあった。 聖地に賊を連れて行くことが叶うとは思えない。むしろ、聖女の護衛を務めるゲズゥですら敷地内に入れないかもしれない。 「本当は、自分の足で行ってみようと試した事もあった。でも樹海が阻む。どうあっても進められねーんだ」 「そうまでして何を探してらっしゃるんですか? 何を、ではなく、誰を、と訊ねるべきでしょうか」 「生きてるか死んでるか知りたいだけなんだよ。生きてるなら、元気かどうか確かめたい。十五年経ったけど、どうにも諦められないんだ。これって変だと思うか?」 ミスリアが口を開くより先に、頭上から低い声が降りかかった。 「変だなんてことは無い」 そう呟いたゲズゥがミスリアの隣に座った。鳥の揚げ物の串を三本、右手に持っている。 「何だ、盗み聞きか」 必死な表情がすっかり消えたイトゥ=エンキは怒っている風でもなく、のんびりとした口調だった。 「気にするな」 無機質な返事。バリバリと串の肉を一本分食べ切ってから、ゲズゥはまた喋った。 「家族の安否を諦められないのは当然だ」 ゲズゥはどうやら、イトゥ=エンキが家族を探しているらしいと文脈から拾ったようである。「気にするな」は盗み聞きの話ではなくさっきの「変だと思うか?」の質問に対して言っていたのかもしれない。 「……オレはお前と同じだよ、『呪いの眼の一族』。ウチの一族は駆逐こそされなかったが、紋様が美しいからって理由なだけで愛玩奴隷として求められ、利用され、飽きられたら捨てられた。そうして発狂し、果ては身を投げた同胞は多く居た」 何を思ったのか、イトゥ=エンキは愁いを帯びた声で壮絶な事実を語り出した。 「または、紋様の中に重大な魔術やら秘密やらが潜んでいると思い込んだ人間に監禁されたり、研究対象にされたり。そんな特殊な機能も意味も何も無いってんのに、悲惨なもんだよ」 「ああ。人間は醜い」 ゲズゥは二本目の鳥肉を食みつつ、あっさり賛同した。 何とも居心地悪い話題である。少数民族としての二人の会話に、一般人のミスリアが入っていくことはできない。 食堂では明るい話し声が飛び交っている。ここのテーブルだけ、切り離された空間みたいだった。 ミスリアは空になったお椀を指先で押し退けたり、そっと回したりして玩んだ。 「そういう訳だから、後生だ」 イトゥ=エンキは再びミスリアと目を合わせて懇願した。人目があるからなのか、手を合わせるまではしていない。そうでなければ土下座でもしそうな雰囲気である。 「ダメです。貴方を信用できませんから」 ここは一つ直球で応えることにした。 「じゃあ、これから信用に値する人間だってアピールするから、大丈夫だと判断した暁にはオレの頼みを聞いてくれるか」 「そ、そんなこと私の一存では……代わりに問い合わせることならできると思いますが」 ミスリアは口ごもった。あまりに真摯に頼むものだから、つい承諾しそうになってしまう。 (敷地まで入れなくても付いてくるくらいなら……) 後は教会に入ってミスリアがその人のことを訊ねればいい。そこまで譲歩してもいいと考え始めている。 「――最後に見たのは泣き顔だった」 ぽつり、彼は呟いた。伏目がちにテーブルに視線を放っているように見えるけれど、焦点がそこに合っていない。 「楽しい思い出も沢山あるけどな、この十五年間、一番思い出すのは最後に見た顔なんだよ。殴られた痕であちこち腫れてて。何があっても生きろと、泣きながらオレに言い聞かせた」 どれほどの苦しみであったのか、本人でなければわからない。 それでも話を断片的に聞いただけでもミスリアの胸は鋭く痛んだ。 「わかりました。では、貴方が信用できる人間とわかり次第、必ず連れて行くと約束します。イトゥ=エンキさん」 そう言葉をかけてやるのが精一杯だった。 |
17.f.
2012 / 11 / 05 ( Mon )
思えば、ゲズゥもまた肩書きとどこか噛み合わない性格をしている。 |
17.e.
2012 / 10 / 30 ( Tue )
夢と現の境を再び飛び越えた瞬間、目に映ったのは同じ端整な青年の顔だった。 |
キュウリのように
2012 / 10 / 30 ( Tue ) まったく本編とは関係の無い話ですが、昨夜職場の友達に
You're as cool as a cucumber と言われた。褒め言葉? らしい? 慣用句で調べれば出てきますが、「非常に冷静で、ナーバスでも感情的でもない」という意味だそうです。 私が…? いやまあぶち切れたりする時はするけど、基本は必要以上に感情的になるのは私の美学に反すると言うか… ほう…そう見えるのね… まあ基本的に喋るより聞くに徹するタイプだったり。 焦らずに物事を判断するよねー と言われた。ま、まあ、そうありたいと思ってるよ(照 本編は今日中に更新すると思いまー |
17.d.
2012 / 10 / 29 ( Mon ) 「他の奴らには黙っててやるから、そのかわり、訊きたいことがあんだよ。別に今晩答えてくれなくてもいいからさ」
低くなっていた声が、元通りに戻っている。心なしか笑っているようにすら思える。 無害そうで、実際はほぼ逃げ場の無い提案だった。 ミスリアが魔物を呼んだにせよ呼ばなかったにせよ、この男がこんな考えに辿り着いた以上はそれだけで波紋を広げるには十分である。味方が誰一人として居ない状況で、言いがかりを否定する力は皆無だ。 しかも、請け負ったところでこの男が口約束を守る保証も無い。 ミスリアはようやく、ゲズゥの後ろから踏み出した。 「……いいでしょう。私に答がわかる問いであれば、ですが」 少女の貼り付けられた笑顔を見て、本当に魔物を呼んだのだな、とゲズゥは察した。 「わかるだろ多分。じゃ、部屋はここだ。厠はあっち」 男は右を指差した。 「明日にでもまた話そうぜ……えーと、ミスリア嬢ちゃん」 ゲズゥに向けては頷くだけで、名を呼ばない。 「……案内ありがとうございました」 性分なのだろう、ミスリアは丁寧に礼を言い、お辞儀までした。模様の男の姿は闇に溶けて消えた。 連れて来られたのは、殺風景な部屋だった。唯一のベッドはミスリアに譲り、床には毛皮のラッグがあるので、ゲズゥは迷わずそっちを選んだ。黄金色の毛皮は、山猫のものだろうか。暖かそうだ。 ミスリアが隅の水瓶をじっと見つめている。何がしたいのかと訊ねたら、寝る前に手を洗いたい、でも重そうで自分では持ち上げられない、と返事を返された。 ゲズゥは屈んで、水瓶を持ち上げた。 「…………お前が魔物を呼んだと言うのは」 人の気配が無いことを確認してから、口を開いた。 傾けた水瓶の口から、水が流れる。 「理論上は可能だと、カイルが教えてくれました。それを試したまでです」 目線を手元から離さず、ミスリアは手を擦り合わせて洗っている。 「あくまで理論上の話で、実践訓練などで教えられるような技ではありません」 そう続けて、どこからか取り出したハンカチで手を拭った。 ゲズゥは水瓶を元に戻した。 ――何故そんなことを? 問い質そうかとも考えたが、ミスリアはこれ以上の会話を拒否するようにベッドに潜り、毛布に包まった。白い毛布からは彼女の髪の栗色だけがはみ出ている。 後で聞き出せば良い。 そう判断し、ゲズゥもラッグの上で眠りに落ちた。 _______ ふと、目を覚ましたら――淀みない暗闇の中で浅い泉に立っていた。膝までの深さである。 肌に水が触れているという曖昧な感覚があるだけで、足元を見下ろしても何も視認できない。 水が冷たいのかどうか、温度の感覚も無い。 訳がわからずに一歩踏み出した。 音がしなかった。 ならばとあることを試してみよう、と閃いた。 左の掌に右手の指で自分の名前を書こうとするも、何度やってもうまくできなかった。 (字が形にならないということは、ここは夢の中なのね) ミスリア・ノイラートは納得した。勿論、字を書いてみれば夢かどうかわかる、というのは友人に教えてもらったマメ知識みたいなものだ。 さて夢だとわかったからにはどうしようか、とのんびり考える。自覚しながらなんて、滅多に見れない類の夢だ。 (好きなものを登場させて楽しもうかしら……) 俄かに視界が明るくなった。両目を手で覆ってやり過ごす。 「お姉さま!?」 手をどけたら、目の前に懐かしい姉の姿があった。 ミスリアと同じ栗色のウェーブ髪と、茶色の瞳。 (夢だから会えているだけ? それともお姉さま、何かを伝えようとしてるの――) 優しく微笑む姉に向かって走り出した。 忽ち、笑顔が曇った。次第にそれは物憂げな表情になり、ついには姉は泣き出した。 「せいじょになってはだめよ」 ミスリアは怯み、立ち止まった。 そして悲鳴を上げた。 姉の額が、音も無く半分に割れたのだ。しかしそれはもう姉ではなく、赤い髪の少女になっていた。空のように青い瞳が恨めしげに睨んでくる。 ミスリアは泣き崩れ、口の中で幾度と無く謝罪の言葉を連ねる。 ――ボタリ。 唐突な音が、しじまに響いた。 指の間から覗き見ると、誰かの首から剣を抜く人影がいた。女性のシルエットに思えた。 どうやら、記憶がごちゃ混ぜになって再現されているらしい。 (この場面は……) 女騎士が隣国の兵隊長を殺した時のものだ。 人影は満足そうに剣に付いた血を眺め、やがて高笑いしだした。 理解できない、むしろ、一生理解したくも無い心情である。 ミスリアは拳を握り締め、唇をかみ締めた。 人影は剣を手放さないまま、振り向いた。 それはいつの間にか、無表情に佇むゲズゥの姿に成り変わっていた。 |