ずばっ
2013 / 10 / 21 ( Mon ) なんだか変な夢を見ているなぁ、と思って目覚めた朝。
ゲズゥが別のキャラと仲たがい(笑)をしてガチバトルを繰り広げるみたいな夢でした。 ただし、剣の一振りで大地を裂けさせてたみたいなレベルの戦いでしたけどw シーンの流れ的にはありそうなのに、剣で地面が裂けるとかこの世界観じゃありえねーw と思いながら始まった月曜日。 しっかし今日超寒いです。朝は指のあいた手袋つけてハンドル握らないといけない感じ。 冬の訪れの予感に対してわくわくしながら、重ね着していきました。 友達が昨日、いくつかコートくれたのでこれから披露するのも楽しみです。 週末は満月でしたね創作意欲が沸くぜ ひゃっはー |
あらあらあら
2013 / 10 / 18 ( Fri ) お、出社命令出た。
久しぶりだから変な感じがするw ワクワクしながら着替えたりして。カジュアルウェアに飽きてきてたのだろうか…w 続きはもちろん書いてますよっと。 新章なので多分三回更新分くらい溜まってから載せ始めるかもしれないです。 26などに拍手ありがとうございます。こっそり見てはニヤニヤしてます^^ やっぱし皆こういうエピソードが好きなのか……2828 恋愛タグついてるつってもガチな恋愛モノじゃないので、よくみる要素はあまりないですからね。チッつまらん、とか言って途中で投げ出す人が居てもなんら不思議はないです。 一方で時々練ってる別の話はドロドロの6角関係だったり男の友情に嫉妬する女の子が多発したり色々ごちゃってますがw バトルロワイヤルや蒼穹のファフナーみたいな、戦闘モノなのに主人公たちが学生な所為か彼らの行動原理すべてに「恋」が色濃く出てる話、嫌いじゃないです。大人にもなるとなんだかんだで割り切ってしまいますからね。学生なのに色恋と大義の間を彷徨ってる感じの城平京作品も好きです。 まあ、余談が多かったですが、今後ともよろしくお願いします(*'-'*)ノ <まとめ? |
第二章 あとがき
2013 / 10 / 13 ( Sun ) |
26 あとがき
2013 / 10 / 12 ( Sat ) お、わ、つ、た…OTL
見たか! 奇跡の 六日連続更新!!! 新記録じゃないですか? ですか? こんな血迷ったことに挑戦しなければ、ストック溜めてゆっくり三週間かけて更新、もできただろうに。 まあ仕事行かなくていいのが大きいですが(笑) 物語の盛り上がりと勢いを汲むためにも、トランス状態に入って書きまくりました。読者様も盛り上がるかなと思って連続でうpってみました。 では続きは読み終わった人向け。 |
26.k.
2013 / 10 / 12 ( Sat ) 「架け橋は下ろしてある。正門から帰りたまえ」
「……それは助かる」 「お互い様だ。私はこれから囚われた奴隷たちを解放し、この城を正して見せる。やることは多い」 そうか、と答えてゲズゥは一歩歩き出す。 「助けて下さってありがとうございました。再び会う日があれば、その時はまた歌を聴いて下さいますか?」 すれ違いざまに、ミスリアが設計士に話しかけた。 「ああ、その時は私からも頼む。……二人とも、達者でな」 設計士が一瞬だけ笑った。 ゲズゥは頷きを返し、次には走り出していた。 廊下を進み、城の中心の巨大な階段を降りて架け橋へ出るまでの道のりを、邪魔をする人間は誰一人現れなかった。設計士が手を回したのだろう。 幅広い架け橋を走り抜けるのにも大して時間がかからなかった。来た時の苦労と比べると、いっそ笑いたくなる。 橋の向こう側に着いてゲズゥは一旦歩を緩めた。進むべき方向を確認する為と、単に休みたいからだ。 どこからか梟の鳴き声が聴こえる。 「寒いか」 夜風が肌を冷やす時期になりつつある。一応訊いて置いた。 「いいえ。上着が温かいです」 ミスリアはゲズゥの首からぶら下げられたままのペンダントを、左手に取った。空いた右手でゲズゥの左鎖骨にそっと触れ、そこから、微かな聖気の波が広がった。 「どうしてわざわざ……こんな苦労をしてまで、助けて下さったんですか?」 囁きは夜の静寂を僅かに震えさせた。 「理由に如何ほどの意味がある」 「意味ならあります。私が、貴方を理解したいからです」 闇の中では、見つめ上げてくる瞳から感情を読み取るのは難しい。きっと真剣な眼差しだと想像した。 返答を自分の内から掬い上げるまでに、数秒かかった。 「シャスヴォルを抜けた後、お前を殺して行方をくらますのは簡単だった。そうすればしがらみ一つ無く生きられた」 「どうしてそうしなかったんですか?」 「……飽きたから」 口に出したのはミスリアと出逢った日から度々気にかかっていた問題の答えだと、何かが心に落ちる手応えを覚えた。 「ただ生きる為だけに生きるのには、疲れた」 村や家族を失った時から、同胞の分まで生きなければならないと、それが己の義務だと無意識に思っていたのかもしれない。 従兄との約束を淡々と進めながらも自分自身はどう在りたいのか、深く考えたことはあっただろうか。 ――いや、無い。一日、また一日、「死なずに済んだ」日々を連ねていただけだ。自ら、未来に何かを望んだりはしなかった。 「貴方は本当は、機会さえあれば真っ当に生きたいと願っているのではありませんか」 「――――」 俄かに息が詰まった。 その願いが形になりつつあると自覚したのは何時だったろうか。この少女がそれに気付いたのは、何時だ――? 「一緒に、その道を探しませんか」 澄んだ声がそう囁きかけた途端、言葉では表せない衝撃を受けた。 こてん、とミスリアはその小さな頭をゲズゥの肩にのせた。柔らかい髪からは汗と埃と、微かな花の香りがした。 ゲズゥは是とも否とも答えられず、無言で再び走り出した。 その間ミスリアは黙り込んで、微動だにしない。眠っているのかと思えば、時折見上げられている気配はあった。 数分の沈黙が続く中。あることを言い出そうかどうか、悶々と迷った。 「……ミスリア」 「はい」 「頼みがある」 視線を宙に彷徨わせ、続きを言うまでに数秒かける。何度か口を開いて、不発に終わり、深呼吸だけをした。 「遠回りをさせることになるが――」 「構いませんよ」 返ってきたのは即答だった。 「ゲズゥにとって、そこまで悩むような大切なことなら、私は力になりたいです」 「…………悪い」 「こういう時は、謝罪よりも、嬉しい言葉がありますよ」 それが何であるのか少し考えて、思い当った。 「ああ――…………ありがとう」 「はい。私の方こそ、助けて下さってありがとうございます」 あの寝室で再会して以来、初めて安堵したかのように、ミスリアの小さな身体から緊張がほぐれた。 |
26.j.
2013 / 10 / 11 ( Fri ) こういう時にかけるべき言葉が浮かばなかった。 これが別の人間なら「無事で良かった」か「大丈夫?」を筆頭に、労わる言葉が出てくるだろうに、ゲズゥといえば「やっと見つけた」か「殺してはいないから安心しろ」のどれかを言いそうになっている。「……存外、そういう格好も似合うな」 結局舌から転げ落ちたのは、ろくでもない感想だった。 無駄にだだっ広い寝室の中の無駄にだだっ広いベッドの上で、少女は瞬いた。余程気が抜けているのか、乱れた髪や衣服や姿勢を直そうとしない。 「行くぞ」 ゲズゥとしてはもう一分たりともこんな埃臭い城にいたくなかった。いつもやるようにミスリアを抱き抱えようと手を伸ばす。 ところが、ミスリアは小動物並の素早さで距離を取った。 恐怖に彩られた両目で伸ばされた手を凝視している。ゲズゥもまた、血に穢れた無骨な右手を凝視して、納得した。そうか、今だけは、全世界の男を敵と認識しているのかもしれない。 ヒビの入った割れ物に似ている、と何故かそう感じた。ぞんざいに扱えば簡単に割れる、儚くて脆い少女。 まだ羽織っていた借り物の上着を脱いで、ミスリアに被せるように投げつけた。この布で阻めば触れているという意識は減るはず。うまく被せられたはいいが、サイズが大きすぎて体の輪郭が埋もれ、波打つ栗色の髪だけがはみ出した。 数秒経って、ミスリアがのろのろとベッドから下りた。ゲズゥはその傍らに歩み寄り、剣で手枷を断ち切ってやった。 「待って下さい……私の他にも助けていただきたい女の子が二人……」 「不可能だ」 「え」 「物理的に、三人も抱えてここを出るなど、俺には不可能だ。諦めろ」 それでなくとも疲労や怪我で機動力は落ちている。ミスリアも察したのか、悔しそうに下唇を噛んだ。 「反乱を起こしそうな人間が居る。女たちも解放してもらえる日が来るだろう。でなければ、時機を見極めて乗じて逃げるって手もある」 「でも、私と同い年か年下に見えました。そこまでできるでしょうか」 「歳は関係ない。お前だって、それぐらいやる気だったんじゃないのか」 「……ええ、でも、私はそんな人間が居ると、反乱の兆候に気付けませんでした。一人ではどうにもできなかったかもしれません」 上着の下から小さい手が出て、フードを引き下ろした。その下からミスリアの悲しげな顔が現れる。 「そうだとしても、お前は己を助けられる人間を選び、探しだして、得た。その成果は確かにお前の力によるものだ」 「それは、ご自分のことですか……?」 か細い問いかけに、ゲズゥは答えなかった。 「……貴方がそう思うのなら、私はきっと貴方が守り続ける価値を見出せる人間であるべきなのでしょう」 「そういう解釈をするところは嫌いじゃない」 本心からそう言った。すると、始終暗い表情を浮かべていたミスリアが、驚いた顔の後、微かに微笑んだ。 気が付けばゲズゥは自然と手を差し伸べていた。今度はちゃんと、掌に温もりが重なった。 「侵入者め! ここか! ウペティギ様、ご無事ですか!?」 ドタバタと弓兵が二人寝室に走り込んできた。 「逃がさんぞ!」 より扉に近い方の一人が矢を番え、もう一人は短剣を抜いている。腕の中のミスリアが、緊張に身体を強張らせるのがわかった。 「まあ、待て」 低い声がそう命令したと同時に、矢を番えた兵士が、生唾を飲み込んだ。 「その者たちを見逃してもらおう」 弓兵が乱暴に前へと押された。背後に現れた設計士が、兵の後ろ首に斧の先端を押さえつけている。兵士といえど、弓兵の薄い鎧では斧の攻撃を無効化できやしない――。 もう一人の兵士が、短剣を構えたまま、思わぬ展開にオロオロしている。 「貴方にそんな権限があるとでも――?」 「権限など必要ない。私はこの城の正しい在り様を取り戻してみせる。住民の大多数と、ゼテミアン公国の民がそれを望んでいる」 ブラフなのか、それとも実際に民の意思を聞いてあるのか、これから民の声を集めつつ説得する気なのか、第三者に過ぎないゲズゥには判断できなかった。ただ、設計士が既に一切の迷いを捨てたことだけがわかる。 「の、乗っ取るってことですか!? 城主様が黙ってはいませんよ!」 「黙らせればいいだけの話。ほら、ちょうど今意識が無いな、牢に閉じ込める絶好の機会だ」 またドタバタと人が入ってきた。設計士の味方なのか、新たに入り込んできた数人の男は城主の体を引きずって去った。 「抵抗が少なければ手荒な真似はしない。安心してくれ」 兵士たちも拘束され、連れて行かれる。 一人だけ残った設計士が、ゲズゥたちを向き直った。 |
26.i.
2013 / 10 / 10 ( Thu ) 包み込むような柔らかい感触があまりに気持ちよくて、意識が遠のきそうになる。 ふかふかのベッドなんていつぶりだろうか。ここしばらくは、野宿か安宿の硬いベッドばかりを体験していた気がする。「気に入ったか?」 しゃがれた声が真上から降ってきた。 ミスリアは手枷付きでベッドに投げつけられたという現状を思い出して、即座に身を撥ねさせた――が、何か重いモノによって体を押さえつけられた。 それが何であるのかなんて、考えてはいけなかった。人肌の熱も感触も、酒臭い息もくぐもった笑い声も、到底受け入れられるものではない。 両手に枷をはめられていながらもミスリアは無中で身をよじった。圧迫感からなんとか滑り出て、広すぎる程広いベッドの上を、後退した。 「ぐふふ。逃げられるのも、たまらん。逃げ場など無いのだからな」 まさにその通りに、ミスリアの小さな背中は羽毛枕に当たった。もうその後ろにはベッドの背板と壁しかない。 部屋のたった一つの扉の外には相変わらず武装した兵士が控えているだろう。 (やめて、来ないで) 心の中で繰り返し念じても、懇願がどこかに通じる気配は無い。 これから自分に何が起こるのか、実際のところ、ミスリアは把握し切れていない。然るべき知識に乏しいからだ。それでも言い得ぬ拒否感が恐怖と相まって腹の奥底で渦を巻いている。 (たすけて――――!) 知らず、瞳から涙が零れた。 歪に肥えた手が、ミスリアのスカートをめくろうと伸びる。 「いやあっ」 その手を蹴ったのは条件反射だった。けれども震える足ではダメージを与えることはかなわず、しかも両の足首を捉えられてしまった。 「ムダだムダだ。さあ、可愛い声で啼け」 「…………!」 抗いようもない力で強引に股を開かれた瞬間。羞恥ではなく突き刺すような恐怖が全身を支配した。 (たすけて、だれか、おねがい、だれか、) 声が出ないどころではない。 溺れる。そう、溺れているように息が出来ない。 現実から少しでも逃れようと、ミスリアの視線は上へ上へと彷徨った。蝋燭に照らされた天蓋の刺繍が、淡く幻想的で美しい、などとどうでもいい発見をした。 (お姉さま、お母さま、お父さま、カイル、先生方、猊下、イトゥ=エンキさん…………) 自分と縁のあった人間を、誰でもいいから思い浮かべた。 どんな絶望に出遭っても嘆いてはならない、と語った優しい声を思い出した。 「つっ!」 下腹部に冷たく硬く、微かに濡れた何かが触れた。視線を落とすと、ウペティギが、歯を使ってミスリアの下着をスカートごと引きずり下ろそうとしているのが目に入った。 甲高い悲鳴が部屋の空気を切り裂いた。 それが自分の声だったと、意外に声がまだ出るのだと、遅れて気が付く。 (たすけて――) するり、布が脚の柔肌を擦る。 (ゲズゥ――――――――!) 崩れそうな心は、ただ、その名に縋るほかなかった。 いっそショックで失神できればいいのに、不幸なことにミスリアはそういった体質ではなかった。 ただ、目を瞑って恐ろしい時間が過ぎ去るのを待つしかできない。いずれは過ぎ去るのだと、信じるしかできない……。 ――ゴヅッ。 骨が骨を打ったかのような、大きな音がした。 (………え?) 今度はどんな恐ろしいことが起きたのだろうか、とおそるおそる目を開けると。 黒曜石のような右目と白地に金色の斑点が散らばった左目、この世に二つと無いであろう瞳の組み合わせと視線がぶつかった。 二度と会えないと思っていた青年は、相変わらずの無表情で、右膝を城主ウペティギの顔面にめり込ませていた。 どうやらミスリアが目を瞑っていた間に城主はどうしてか振り返り、そこにやってきたゲズゥが膝から跳び蹴りを食らわせたらしい。 肥満体が後ろに倒れかかる。しかしゲズゥは続けざまにその脳天に肘鉄を決め、更に体を翻して、城主を蹴飛ばした。ウペティギは、綺麗なラッグに飾られた床に顔を突っ伏した。 「これで何発か殴ったことになるか」 着地したゲズゥの無感動な呟きが意味するところをミスリアは知らない。それにしても、殴ったのは一発だけで後は蹴ったことになるのではと突っ込んでやりたいけれど、声がまた出なくなっている。 「ぐっ……貴、様……」 「ひっ」 ウペティギがずるずると起き上がったので、ミスリアは悲鳴を漏らした。元々美しいとは言い難い顔は鼻が折れ、血にまみれている。 「堀の罠をどうやって……あれは人間の反応速度ではどうしようもない、はず。まさか――つまりお主は、戦闘種族、なのだな!」 いきなりウペティギの声色が明るくなった。一方、ゲズゥは眉間に皴を寄せたようだった。 「前から一人手元に欲しかったのだ! 今やその希少価値は計り知れない! 速さ自慢の『セェレテ』か? それとも瞬発力を強みとする『クレインカ――」 言い終わることは無かった。ゲズゥの拳が醜い顔にめり込んだからである。城主は今度こそ気絶して倒れた。 そして寝室に奇妙な静寂が訪れた。 (なにこれ……助かった、のかな……) 目の前の光景を飲み込めず、この上なく情けない体勢のまま放心する。 ほどなくして、漆黒の髪と色素の濃い肌が特徴的な青年が、ミスリアを振り返った。 |
26.h.
2013 / 10 / 09 ( Wed ) 会話が途切れ、警鐘の音がより大きく耳に響いた。 衛兵が何処を探して回っているのか不明だが、あろうことかこの部屋には来ない。入っていく所を誰かに見とがめられたのは確かなのに。やはり闇の中の城ともなると、パッと見ただけではどの窓がどの部屋に繋がるのか、瞬時に判断できないものらしい。「果たして自由の無い人生に価値があるのか、私は常々考える」 男は俯き、ぼそりと呟く。対するゲズゥは眉をひそめた。 「お前の悩みは理解できない。お前の手足には枷が無い。十分、自由じゃないのか」 ゲズゥは昔から生き方を制限されたが、それでも自分の足で何処へでも行けたし、いつでも自分で選んで行動してきた。どんなに絶望的な状況でも、確かにそこには選択肢があった。 この男はきっと、幾つもの苦しい選択肢の内、より楽な方を選んできたのだろう。結果、己にそぐわない道を行き、それを「不自由」と錯覚している。 「逆らう勇気と、実践する手段が揃えば、お前の望みは叶うはずだ」 「手段、か。まず何より共に抗ってくれる味方が要るな」 この男は頭の回転が速いらしい。すぐに何かを思い描き始めた。 「何人か、思い当る人間は居るが……恐怖からではなく自主的にウペティギ様についていく人間も大勢いる。そういった性根が腐っている輩は当てにならない」 そのまま男は考え込む仕草をした。もしかしたら、反乱を起こす筋書を日頃から妄想しているのかもしれない。本当に後は、「勇気」だけである。 そして、まるでこの沈黙を狙っていたかのように、廊下から足音や喚声が近付き始めた。 もう悠長に話している暇は無いと察して、ゲズゥは意を決した。 「手を貸せ」 「何を――」 「代わりに城主を何発か殴ってやる。その先はお前が自分で何とかやれ」 「殴っ……いやしかし」 男は思惑うように廊下とゲズゥを交互に見やった。 これはもう戦闘も余儀ないか、とゲズゥは大剣の鞘の留め具に手を伸ばしかけ―― 「羽織れ!」男は自分の上着を手早く脱いでゲズゥに渡した。「フードは深く被って! あとは、これを床に広げて読み解くふりをしていろ!」 大人しく言われた通りにしながら、ゲズゥは納得した。床に膝をついていれば体格も目立たないだろう。 渡された巻物を広げてみると、笑えるぐらいに全く読み解けそうになかった。円や線や三角、それとミミズ腫れみたいな文字がびっしり書かれていて、何かの図案であるのは間違いないが。 「設計士殿! 夜分遅くに申し訳ありません」 ちょうどその時、兵士が三人、部屋に入ってきた。 「何だ、何かあったのか? さっきから警鐘が煩くて仕事にならん」 設計士と呼ばれた男は無機質に応じる。 「すみません。侵入者を追っているのですが、何か心当たりはありませんか?」 「私は何も見ても聴いてもいないが」 キッパリとした返答に、兵士らは落胆に肩を落とした。 「そうですか……おや、そちらの方は? 見慣れませんね」 問いかけに含まれていたのは不審なものを詮索する厳しさではなく、単なる好奇心だった。よほど設計士は信頼されているらしい。 「新しく入った弟子だ。顔を隠しているのは病で膿が酷いからで、今でこそ治っているが、未だに触れると感染する可能性も否めないと言われている」 「えっ。設計士殿、そんな人間を城に招き入れては城主様のお怒りが……」 スラスラと並べられた巧みな嘘を、兵士らは鵜呑みにしている。 「この者は聡明で一生懸命で、必ずや我々の役に立つ。貴重な人材を、低劣な差別で弾き出すのはよせ。ウペティギ様は私が説得する」 「は、はい。すみません。では何かあったら教えてください」 「ああ、早く侵入者を見つけたまえ」 三人の兵士は礼をしてから踵を返し――ふと、三人目だけが立ち止まった。 「お弟子さん、腕に火傷があるようですが、大丈夫ですか……?」 「待て!」 制止の声も空しく、兵士は上半身を捻ってゲズゥのフードを覗き込んだ。 「あれ? 膿なんてありませんよ」 嘘を吐いたことが露見するとわかって、設計士の顔に焦燥が走った。 説明を求めて兵士が振り返る、その隙に。ゲズゥは兵士の後ろ首に強烈な手刀を食らわせた。 直後、何があったのかと思って不思議そうに他二人の兵士が戻ってきた。 「おい――」 奴らが大声を上げるよりも早く、ゲズゥはそれぞれを部屋に引き込んでは一撃で気絶させた。その間、設計士は目を見開いて見守っていた。鮮やかだな、の一言だけを漏らして。 「何処へ行けばいい」 ゲズゥはのびている三人を部屋の隅にさっさと重ねていった。設計士の協力あってか、まだ騒ぎにせずに済みそうである。 「夜宴は早目に切り上げられただろうから、そなたの探す彼女はきっと今……」 目指すべき場所の位置を聞き、ゲズゥは部屋を飛び出した。 健闘を祈っている――そう言った設計士の双眸には、ほとばしる熱意だけが映し出されていた。 |
26.g.
2013 / 10 / 08 ( Tue ) 窓から部屋の中に飛び込むと、埃臭い室内には先客が居た。三十代前後の、身なりの整った男だ。片目しかない眼鏡をかけ、棚の書物の整理でもしていたのか、両腕一杯に巻物を抱えている。 男は僅かに身じろぎしただけで恐怖の感情は見せなかった。代わりにその瞳には他のさまざまな感情が複雑に絡み合って映し出されている。――カラン、カラン、カラン。 責め立てるように警鐘がうるさく鳴り続ける中、二人はなんとなく目を合わせたまま動かなかった。 「あなたが、侵入者か」 しばらくして、落ち着き払った低い声が問うた。いつもなら黙って無視するところだが、男の濃い灰色の瞳に走ったさまざまな感情に興味が沸いてのことか、ゲズゥはつい返事を返した。 「見ての通りだが」 窓から城を訪問する客などどう考えても普通は居ない。 「そうか。尋常ならぬ姿だな……返り血か、怪我か」 男は頷いただけで動じない。むしろ同情しているようだった。 「両方だろうな」 返り血はアリゲーターや魔物のものである。 後者については――思えば、魔物の背に短剣を突き刺して、壁を上らせたのだ。進む方向を操る為には何度か魔物を刺し直す必要があった訳で、その過程で「乗り物」が暴れてゲズゥが怪我を負ったのは必然だった。 城壁に叩きつけられて、左鎖骨まで折った。数々の怪我の中では、これが一番、際立って痛い。立っているのも辛い程に。 「何故? そこまでして……傷を負った時点で諦めて帰ればいいだろう」 静かな声だが、語尾に向けて責めるように語気が強まった。男は腕の中の巻物を長い長方形テーブルの上に下ろしている。 「奪われたから、取り返すだけだ。取り返すまでは、帰らない」 「大切な人が攫われたのか。それは……すまない」 ゲズゥは床に片膝を付いた姿勢で、男をじっと見上げた。この男が謝る理由がよくわからない。 「人間が反応できる速度の限界値に設定してあったはずだがな……」 ブツブツとひとりごちる男もまた、ゲズゥをじっと見下ろしている。その目がなぞる先をなんとなく追ってみた。 「……お前は、あの罠と関係があるのか」 「何故そう思う?」 「罪悪感に満ちた目で、俺の怪我を眺め回している」 そう指摘してやると、男はグッと歯を噛み締めた。 「そうだ。その通りだ。そなたの火傷や骨折や痣も、あの堀の中で骨となった人々も、みな私の設計した罠のせいだ」 男はせき止めていた感情がついに溢れたかのように、言葉を次々と吐き出した。 「私の家は代々、この城に仕えて来た。私は幼少の頃からウペティギ様のお父上の提案の元、たくさんの機械を設計した。その多くは、ゼテミアン公国の民の生活を支える為だったり、帝国に輸出する品物だったりと、誇れる仕事ばかりだった!」 握り拳が力強く壁を殴る。 「それが今はどうだ! 数年前にウペティギ様に代替わりしてからは、くだらない罠を作る毎日……!」 「不満があるなら、本人にぶつけて来ればいいだろう」 男の言っている意味が、激怒する理由が、ゲズゥには見えなかった。 「そんな――できるはずが無い。先祖に顔向けできなくなる」 「…………父親がどうだったとして、その性質を引き継いでいないのなら、血が繋がっていようがただの別人だ。従う理由には足らない」 ゲズゥがそう断言すると、男の口元は少しだけ吊り上がった。 「それは、考えようによっては潔い意見だが。私にはしきたりに抗う意志の強さが足りないのだ」 そう言って、男は力なく頭を振った。肩までの長さの灰茶色の髪が揺れる。 ゆっくり床から腰を上げつつ、ゲズゥは正面の男の言い分を疑問に思った。 強い意志の力なら備わっているように見える。足りないのはおそらく、率先して行動する為の自発力か何かだ。こういう人間は後押しさえあれば走り出せるはずである。 「ところで、そなたが探し求めるのはどの女性だ? そういえば今夜は、初めて見る娘が何人か居たな。修道院で学を修めたと言う珍しい少女もいた。歌が上手で、大きな茶色の瞳が印象的な」 男は最初は少し楽しげに語っていたものの、ふと黙り込んでため息をついた。「このような城に閉じ込められて一生を終えるには、あまりにも惜しい……」 「アイツは、教養があるだけじゃなく、聖女だ」 話の内容を聞く限り、対象がおそらくミスリアであることは想像が付いた。 「聖女!? しかしそれならそうと、ウペティギ様に伝えていれば――」男は自分の言わんとしていたことに自信を失くしたように、途中で言葉を切った。「いや、聖女だと知れば、ますます手放したがらないだろうな。そういう人だ」 |
26.f.
2013 / 10 / 07 ( Mon ) その言葉を噛み締めるミスリアを、再度呼ばわる声があった。城主ウペティギだ。 「まだか?」「は、はいっ。ただいま!」 ミスリアは酒瓶を掴み、早足で貴族たちの元へ戻った。精一杯の作り笑顔で応じ、長椅子の空いた箇所に腰をかけた。すぐ隣の男性に酌をする。 「栗色の! お主、詩を諳(そら)んじられないか」 何度か酌をする内にウペティギから呼びかけがあった。ミスリアは再び笑顔を作って振り返る。 「詩、と言われますと?」 「そうだな。ゼテミアンやディーナジャーヤの物はわからないだろうから、教典からでいいぞ。創世記でも何でも。それくらい学んだであろう?」 「はい。では創世を詠った詩からの小節を……」 よく知った詩であるだけに、ミスリアは余裕を持って諳んじることができた。ついでにその間、周囲をよく観察してみた。 楽師や踊り子はミスリアが詩を諳んじる間もその働きを止めず、音を少し静めているだけである。貴族の男性たちは聞き入る者も居れば酒をあおる者も居たり、各々くつろいで過ごしている。ウペティギなどはうっとりした顔で、酒杯を指の間でくるくるもてあそんでいる。 (……あれ?) 一人だけ虚ろな目で遠くを見る男性を見つけた。ウペティギの右膝に座る女性の更に向こう側で、つまらなそうに片肘ついている。先ほど会った、「設計士」と呼ばれた人だ。 ゲズゥもいつも虚ろな目で遠くを見ていたけれど、それとは違う印象がある。 (諦めているような、呆れているような) 底知れない嫌悪感を押さえ込もうとした結果、虚ろな表情になってしまった――そんな感じがする。 (設計士さんは、無理矢理付き合わされているみたい) そういえば彼が先ほど城主に持ってきた案は、「新しい罠」とは遠く無関係なものだった。なんとなく聞き耳を立てていただけだが、設計士は領民の生活をより豊かにする道具を開発したがっていたようだった。それを頑なに拒んだのは城主やその他の貴族たちであって。彼の抗議を遮っては黙らせるように、酒と宴に縛り付けたのである。 一連のやり取りを聴いたミスリアの中では、設計士の株は上がっていた。 他はともかく、彼は善人である。その事実をどうにか自分の逃亡に有利につなげられないだろうか――。 やがてミスリアの諳んじる詩に終わりが来た。すぐさま観衆から拍手があがる。 「お主、気に入ったぞ! 学があって、礼儀正しく控えめで大人しく、容姿も及第点だ。たまにはお主のような娘も良い。今夜はワシの寝室に来い」 酔いの赤みを帯びたガマガエルに似た顔が、下品な笑みを浮かべた。 「い、いいえ、謹んでご遠慮いたします」 「なに、遠慮するな。ワシは女には優しいぞ」 がははと笑うウペティギの横で、設計士が嫌そうに顔を歪めるのが見えた。 次いで彼はがばっと長椅子から立ち上がる。 「ウペティギ様。私はお先に失礼します」 「何だと? まだ夜は始まったばかりだぞ、座ったらどうだ」 「いいえ。色々と仕事も溜まっておりますので。また今度お誘いください」 それ以上の追及を許さず、設計士は衣を翻して去った。それなりの立場があるのだろうか、出入り口を警備する兵士は僅かにたじろいで、彼を止めることはしない。 「まったくつまらぬ男だ。何かあればすぐ『民の為に』などと抜かしおるし。あの優秀な頭脳がなければ、追い出してもいいところだがな」 設計士が去って数十秒後、ウペティギがそう切り出した。 「そうですよ、ウペティギ様。あんな口うるさい男追い出してしまえばいいでしょう。代わりなんて探せばいくらでも居ますよ」 貴族の客の一人が口を挟む。 「しかし奴の家は代々我が城に仕えて来たからな。何だかんだでワシに逆らえやしない」 「確かにそうですけどねぇ……」 突如、警鐘がカランカランと大きく音を立てた。 浮ついた雰囲気の部屋に一気に緊張感が走る。 廊下から慌しく誰かが駆け込み――その武装した青年に対し、鬱陶しげにウペティギが声をかけた。 「何事ぞ」 「し、侵入者です!」 「侵入者だと? 罠に任せれば大丈夫だろう」 「いいえ、罠が全て突破されて! 若い男が窓から城内に入っていくのを見た者がいます!」 「そんなこと不可能だ! どうやって壁を上ったというのだ? いや、それより見張りはどうした!」 「す、すみません。油断しました」 青年は目を泳がせる。 「もういい! とにかくソイツをひっ捕らえよ!」 「はいっ!」 報告に来た青年が慌ただしく部屋を後にした。 (若い男って、まさか) その言葉にミスリアの鼓動は一度だけ、大きく跳ね上がった。 下手に期待をすれば後でひどくガッカリするかもしれないとわかっていながら、良い方に憶測せずにはいられなかった。 |
恐ろしい
2013 / 10 / 04 ( Fri ) 願えば手に入るなんとやら。
三日遅れではありますが仕事が無期限に休みになりました。正確には……なんて呼ぶんでしょうね、とりあえず有給休暇を当てないと給料の出ない状態です。 さいあーく 金くれよぅ ┏(_д_┏)┓)) これサッサと解決すればいいけど果たしてどうなるやら。 長引いたらめんどくさい…… 別に貯金には余裕があるけど収入が無いと残高が増えないのが悲しいところ。 今年中には届きたい目標数値があったのに! 短期バイトしようかなww 幸い、有給休暇を大して貯めてなかったので(新米だから)そこのロスは少ないですが。他の人かわいそす。 なんてふざけた国だろうと思うこともありますが、なんだかんだでもっとひどいトコなんていくらでもある世の中。 |
UWAAA
2013 / 09 / 30 ( Mon ) 九月全然更新できなかったぉ(しくしく
今日は超絶寝不足で出勤しました。明日お休みになぁれ~(希望 どうも、TomorrowWorld Music Festivalから戻ってきた甲です。 何だろうそれ? ってなりましたらどうぞぐぐってみてくださいませ。全世界からお客さんが来るんだけど私は近くに住んでるので大した苦労もなく行けました。 身もふたもない言い方をすれば、大金払って参加する盛大な現実逃避祭です。友人たちが半年ぐらい楽しみにしてたので付き合いました。 とりあえず感想を言えば 意外と好きな音楽ジャンルを発見できた。 花火すげかった。 火柱もすげかった。(花火より好きかも 踊りすぎて全身いてえ 主に足とか足とか首とか足とか腰とか足とか。 歩きすぎて以下略 でもズボンがゆるくなった気がする。踊るっていい運動だね! どこもかしこもヤニくせえ。次回はゴーグルとマスク(バンダナ)持参で行こう ホテルが超高層ビルでゴージャスでもうDOSHIYOU 昼間暑くて汗ダラダラなのに深夜はさすがに寒いな。 この時期に日焼けしたワロス 酔い潰れて友達に放置されてた人結構いた。かわいそす こんなところかしら? とりあえず外側からの盛大な現実逃避もたまにはいいものですね。私は創作があるので日ごろからいくらでも内側から現実逃避できますけどね。なので現実疲れはあまりしてません。つーか現実人生が楽しいってのも大きいけど(笑 でも三日間メールもネットもしなかったってのは久しぶりで不思議でした。 今日は机でうつらうつらしたかったのに大量にメールたまってるし仕事も頼まれてあーでもなーこーでもない。がんばるぞ~~~ OTL |
行き場の無いネタ その2
2013 / 09 / 26 ( Thu ) ある時、気が付いたら洞窟にいた。 真っ暗闇、冷やりとした空気、足元には水溜り。「す、すげえ! どこだよここ! なあ久哉(ひさや)、これって巷で流行ってる異世界トリップとか言うやつじゃねーの!」 少年は隣の親友の肩を叩いて叫んだ。 声がこだまして返ってくるのを聴いて、ますます彼は興奮する。 「流行ってるって何だよ。まだそうと決め付けるには早い、拓真」 親友は怪訝そうに答えた。 「何でだよ? 気が付けば全然知らないとこに居たんだぜ? 異世界じゃないならタイムスリップ? 秘密結社のテレポート装置!?」 「だから発想がファンタジー過ぎるって。単に頭を打ってリアルな夢見てるかもしれないぜ」 「えー、二人同時に頭打って同じ夢見るのかよ? ありえなくね?」 「同時に何か幻覚見るような煙嗅いだとか、いくらでも可能性はある」 「夢の無いことばっかり言うなよ。まずは探検しようぜ!」 「待て、拓真」 久哉は浮き足立っている親友を、厳しい声で呼び止めた。 「思い出せ。俺たちはここに来る前何をしてたんだ?」 「何って……確か……同級生との賭けで、滝から飛び降りたよな、二人で」 「そら見ろ。死んだんだな、きっと。賭けは俺たちの負けだ」 「怖いこと言うな! 落ちる時にトリップしたんだよ! そうに決まってる!」 「百歩譲ってそうだとして、お前の好きな異世界物の漫画じゃあ、大抵の場合はトリップした直後に襲われてないか。迂闊にうろつくなよ」 「あ」 二人は黙って洞窟の中を見回した。正直、暗くて何も見えない。どこか遠くで水音がする。いかにもいきなり化け物が出てきそうな雰囲気だ。 「で、でもさ……襲われたら、もの○け姫みたいな美人で強い女の子が助けてくれたり……」 「確証も無いのに助けを期待するのはアウトだ。今度こそ死ぬ。ってことで、逃げるぞ!」 「ちょ、久哉! 逃げるって、何処に!?」 「なんか風が向こうから吹いてるっぽい。出口かも」 少年二人は己を待ち受ける運命に向かって、闇の中を走り出す――。 トイレに行った間にこんな超くだらないアイデア沸きました。ほら、最近異世界トリップもの流行ってますからね、私も書くとしたらどんな工夫ができるだろうかって考えちゃって。昔練ったやつとかは、全部どこかで聞いたような話ばかりで没ですね。 まあこの話もどこまでオリジナリティ出せるか不明。メイン二人がコメディ調で周りがどん底のシリアスだとか、そういうの書いてみたい気もしないではないんですが。この後たぶんマウンテンライオンに乗ったヒロインに二人が助けられて、その後久哉がヒロインに刺されて拓真がバーサーカーするとかそういう展開になるでしょう。 あーしかし楽しかったー。まったく新しい話書くのって最近無いだけに。 |
26.e.
2013 / 09 / 25 ( Wed ) (もう、こうなったら仕方ない)
ミスリアは手に持っていた皿をテーブルに下ろして、二人にサッと近付いてしゃがんだ。 褐色肌に黒髪といった色素の濃い少女と、白い肌に黄金色の髪をした少女。全く似ていないところを考えると、二人は姉妹ではなく同じ家で育った奴隷かもしれない。 「なに、するの」 色素の薄い方の子から、震えた声が漏れたようだった。驚いてミスリアは少女の橙色の瞳を見つめた。 「よかった、南の共通語が通じるのね。そっちの彼女、兵士に蹴られて怪我をしたでしょう? 痛くなくなるおまじないをするの」 褐色肌の少女がヒョコヒョコと足を引きずって歩き回る様が、痛々しくてならなかったのだ。何とかしてやりたかった。 「おまじ……? なに?」 「いいから」 説明する時間が勿体ないからと、ミスリアはそのまま手をかざした。 アミュレットを身に着けていなくても聖気を練るのは可能である。日頃から幾度となく展開しているのだから、感覚を思い出して再現すればいい。時たまやっているので、要領はよくわかっている。 一瞬だけ瞑目した。その間に、ミスリアは全神経を集中させた。 聖気の温かさが腕を通る感覚を思い出し、それを掌から通す時の微かなうずきを思い出す。やがて、密度の高い聖なる因子が、対象へと流れゆく。 元々聖なる因子とはそこら中に溢れているものである。それらが神々と聖獣の奇跡によって結晶化した状態を「水晶」と呼ぶ。 聖人や聖女たちはいつも聖気を展開する際、まず水晶を現象の核に据えて、純度の高い聖気を引き出して周囲の因子と共振させる。聖なる因子は引き寄せられ、増殖し、はっきりとした流れを作って対象物へ注がれる。 今回はアミュレットの水晶が無いので、ミスリアは己の内に在る聖気を引き出して核の役割を果たさせた。聖人・聖女という枠の中でもミスリアは内包している聖気の量が多く、だからこそ成せる業である。 しばらくして少女の膝周りから、腫れが引いた。 「え? どうやったの?」 「すごい。あたたかいよ、いたくないよ」 二人の少女がそれぞれ感嘆の声を上げる。 慌ててミスリアは口元に指を当てた。急な大声を出した所為で注目されたらたまらない。 が、既に遅かった。 「おい! そこの三人、何をしている! 早くおかわりを運ばんか」 案の定、兵士から怒声が飛んできた。 「おおう、そうだぞ。もっと近う寄れ」 しゃがれた声。城主ウペティギから直々に呼ばれている。 (傍で相手をしなきゃならないの? あの媚びたお姉さんたちみたいに) 嫌悪感が腹からぞわぞわと上がってくる。 (だめ、笑わなきゃ。変な顔で振り向いてはだめ。楽しいことを考えよう……) ミスリアは必死で自身にそう言い聞かせた。すると、一つの記憶が何故か色濃く脳裏にチラついた。楽しいと言えるかどうかはわからない。 まだナキロスに居た頃の話―― 「もし教皇猊下にお会いできたら、訊いてみたいことがございました」 「何です? 聖女ミスリア。遠慮なくお訊きなさい」 「どうして、私の案を、許可して下さったんですか」 ミスリアの質問に対し猊下は顎に手を当てて、ふむ、と頷いた。詳しい説明を言わずとも、この方には伝わったらしい。 「そのことですか。強いて言うなれば……面白そうだったから、でしょうか。あんな特殊な人と知り合える機会なんてそうそうありませんよ。人生何事も経験です」 「ほ、本当にそんな理由で……?」 「ええ。我々人間が生きている間に経験できることはあまりにも少ない。だからこそ他人に出会い、触れ合い、話を聞いて、彼らを通して経験するのですよ。人と関わることは、即ち世界を広げることそのものです」 そう言って、猊下は目を細めて穏やかに笑った。 「よく覚えておきなさい。彼は貴女の人生にとってプラスとなるかもしれませんし、マイナスとなるかもしれません。けれどそのどちらであっても、それは貴女がた二人の間にのみ生じる縁(えにし)。何があっても、特別な経験であると受け入れ、できる限り学ぶことです。どんな絶望に出遭っても、嘆いてはなりませんよ」 ――この旅の何もかもが、特別な経験――。 |
26.d.
2013 / 09 / 24 ( Tue ) 鉄串の罠よりも発動するのが速い。とはいえこちらの罠も岩に重みを乗せた所為で発動した。試しに、ゲズゥは高く跳び上がってみた。 すると炎の威力が心なしか弱まったように見えたが、それでも、容易に飛び越えられる高さにはならなかった。一度発動するとしばらくは解除されない設定なのかもしれない。実に驚くべき技術力である。そして、驚くべき技術力の無駄遣いである。 精密な機械を編み出せるのなら、その力を生産的な用途に応用するか、せめて戦場を制圧できる兵器を創るぐらいをすればいいだろうに。己の城を守る為に使っているのを見ると、どうにも城主は臆病な性格に感じられた。罠が多ければ多い程、城主が外出をしない閉鎖的な生活を送っているとも推測できる……。 そんなことよりも今は、至近距離からの高熱に応じて滲み出る汗が、シャツを濡らしていく。時間が惜しい。ゲズゥはもう一度跳び上がってみた。 炎を消す術が無いのなら、無理矢理にでも突破するしかない。崖上の町で買ったこのブーツも多少は耐熱性があるだろう。そのまま次の岩めがけて跳んだ――形からして今度は鉄串の罠が来るはずだ。 着地しても、何も起こらなかった。誤作動だろうか、音もせず、罠も発動しなかった。理由はわからないがこの岩は安全なのだろう。 ゲズゥはこの機会を利用してズボンに水をかけた。炎の檻を強行突破した際に点火していたからだ。火が移ったのがズボンだけだったのは、運が良かったとしか言えない。何度か水をかけるうちに火はおさまり、しかし皮膚には軽い火傷が残った。 突然、背筋がざわついた。 反射的にゲズゥは全身を硬直させる。 縦長の瞳孔を含んだ黄ばんだ双眸が、闇の中に何組も浮かんでいる。それだけなら良かったが、それらが急速に迫って来ている。アリゲーターは、その巨体からは想像つかないような速さで動く。 ――戦うか、逃げるか―― ゲズゥは素早く背中の方へと左手を伸ばした。パチン、と背負っていた剣の鞘の留め具を外す。留め具が外れると、大剣を収める二枚合わせの鞘が、バネを使った仕掛けによってパカリと開いた。 そして右手で柄を握り、剣を抜いて構える。それとほぼ同時に、黒い塊が一つ、こちらに向かって突進して来た。 水飛沫が四方に跳ねた。 ゲズゥは無心に剣を振り落した。すんでの所で襲い掛かるアリゲーターを一刀両断し、かくして水飛沫に大量の血飛沫が混じる。そのさなかに立つゲズゥは勿論、濃厚な血の臭いを浴びた。 またしても命を落としたのが己ではなく獣の方で良かった。が、そう何度も巧くことが運ぶはずがない。しかも血の臭いでアリゲーターたちは興奮し出している。ゲズゥは残る岩の道を急いで渡った。 それから更に何度も罠に翻弄され、獣の顎をかわし、数分後には城の外壁に辿り着いた。既にその頃には全身に打撲や火傷を負っている。全くもって面倒臭い堀だ。帰りは何とか架け橋の下ろし方を探すべきだろう。 石造りの壁に歩み寄り、思わずそこに左手を付いた。 視線だけ先に壁を上らせると、見張りの兵士らしい人影が幾つか見える。皆、どこかだらけた姿勢である。これならすぐに矢で射殺される予感はしないし、或いは発見されずに壁を上れるかもしれない。 問題は、壁を上る手段が無い点ではあるが。 今更ながら、あの曲刀を国境に置いて行くんじゃなかった、とゲズゥは舌打ちした。 「ケタケタケタケタケタ」 歯を鳴らす音と笑い声が混じったみたいな変な音が頭上からしたかと思えば、何とも形容しがたい腐臭が鼻孔に届いた。 思えば、堀の罠にかかって死んだ人間は少なくないだろう。それらが魔物と化しても何ら不思議はない。 随分と長い夜になりそうだ、とゲズゥは疲労を蓄積しつつある身体に対して苦笑した。 ところが件の魔物の姿を両目で捉えると、意外な作戦を思い付いた。 アリゲーターなどよりも遥かに巨大な化け物が、ずるずると外壁を伝って降りてきている。蛇のようにも見えるが、所々、不自然な位置に左右非対称に人間の手足が生えている。 決して俊敏な動きとは言えない。 こいつは利用できる――そう確信して、ゲズゥは返り血のこびりついた手で剣を構え直した。 _______ 「大丈夫。大丈夫だから、そんなに怖がらないで。じっとしてるだけでいいの」 ミスリアは怯える小さな少女たちに精一杯優しく声をかけたものの、通じた自信は無かった。反応が無いと見ると、今度は北の共通語でもう一度語り掛けた。それでも二人は身を寄せ合うだけで何も応えない。 (困ったわ。この子たちずっと一言も話さないし、周りの会話もわかってる風でも無いから、言葉がわからないって可能性も) 奴隷だからなのか、まだ幼すぎて共通語を習う機会を与えられなかったからなのか。怯えて声が出ないだけかもしれないけれど、いずれにせよ通じ合うことは明らかに難しい。 (助けてあげたいのに。今しかチャンスが……) 宴も進んで貴族の男性たちはかなり酔ってきている。音楽や話し声で部屋全体の騒々しさが上がり、兵士の注意も散漫になって来ている今の内。ミスリアは城主に差し出す食べ物皿のおかわりを盛る振りをして、隙を見て少女たちに近付いていた。 |