43.d.
2015 / 05 / 20 ( Wed )
 信じなければならなかった。助けを信じ続ける心の強さを持たなければ、自分は一年近くの間何も進歩していないことになる。
(きっと来てくれる。きっと)
 暗示のように何度も心の中で繰り返した。陰の中から伸びてくる無骨な手を見つめながらも、絶えず繰り返した。

「ちょっと、白昼堂々と何してんのよ。ホンット男ってクズばっかり!」
 救いの光は背後から射した。
 若い女性の声が響いたと同時に、旋風が巻き起こる。ミスリアを羽交い絞めにしていた腕からは力が抜け、傍まで迫っていた他の二人も突き飛ばされた。おかげで体勢を崩し、地に尻餅ついた。

「ふう。怪我は無い?」
 聞き覚えのある優しい声。バッと顔を上げて相手の顔を確かめた途端に、全身に安堵の波が広がった。
「ティナさん! ありがとうございます。本当に、何とお礼を言えばいいか」
「礼には及ばないわ。ゲスい声が聴こえたから寄ってみただけ」
 清々しい笑みを浮かべ、彼女は手を差し伸べてきた。有り難く手を取って立ち上がる。

「でもティナさんが来て下さらなかったらどうなっていたことか……」
 もう一度想像しそうになって、ミスリアは己を抱き締めた。
「別に大丈夫だったんじゃないかしら」
 緊張感の無い様子でティナが首を傾げる。その拍子で、いつの間にか肩まで伸びていたふわふわの金髪が揺れた。

 どうしてそんなことが言えるの――疑問に思ったのも束の間、一度は蹴り倒された人攫いらしき男性たちが起き上がる姿が目の端に入った。

「テ、メェ。よくも」 
 真っ先に起き上がった一人の男が懐からナイフを取り出して、ティナの背中めがけて振り上げている。
「危ない!」
 ミスリアの警告の声に彼女は動じない。せいぜい煩そうに振り返る程度だ。

 ナイフが空気以外の何かを切ることは無かった。
 大きな黒い塊が空から降ってきたからだ。ミスリアの視界の中でそれが人間、更に青年の姿として認識された時点で、既に彼は攻勢に出ていた。曲者の方は何が起きたのかわからずに踏みとどまる。そうしてできた隙に――

 ゴゾッ、となんとも言えない音を立てて、青年は曲者の顔面を掴んで近くの壁にめり込ませた。元々緩くなっていたのか、衝撃を受けた箇所を中心に、レンガがポロポロと崩れ落ちる。

「ほらね。大丈夫だったでしょう?」
 得意げに話している間にも、ティナは別の者に跳び蹴りを食らわせていた。
「は、はい」
 ミスリアは呆然と見守るしかできない。気が付けば役人を呼んで一件落着し、路地裏から普通の街道に戻っていた。

「ありがとうございます」
 落ち着けたところで、ゲズゥに軽く頭を下げてお礼を言った。信じていた通りに助けに来てくれた護衛に。
「あつい」
 彼は一言だけ答えて上着を脱いだ。

(ゲズゥにとっては全然大したことしたをつもりは無いんだろうけど……私は、また助けられた)
 複雑な想いが絡まる中、ミスリアは苦笑した。

「よくここがわかりましたね」
「……向かい側の建物の屋上から人混みを探っていた。お前が立ち止まったのが見えて、追った」
「そうだったんですね……やはり上に居ましたか」
 不思議な気分である。上に居るかなと思って立ち止まったために攫われそうになり、なのにそのおかげで助かったわけでもある。と言っても、助けに来てくれたのは彼だけではなかった。

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22:56:38 | 小説 | コメント(0) | page top↑
43.c.
2015 / 05 / 14 ( Thu )
(女でなければなんだと思ってたんだろう)
 いくら捻っても頭の中から答えが出てくることは無い。諦めてゲズゥの後ろについて行った。
 建物の間からかかる日差しが心地良い。それどころか少し暑いくらいだった。毛糸のショールを脱いで左腕にかけたら、ちょうど横の露天商から声がかかってきた。

「お嬢さん、ショールならこっちの春仕様はいらないかね」
 振り返ると、商人の中年女性がにこにこと自身の売り物が広げられたテーブルや洋服掛けのラックを指した。ラックに掛かるスカーフやショールはミスリアが冬の間にずっと愛用していた物よりも薄い生地を使っていて、模様や色使いが華やかである。

「綺麗ですね」
 つい手を伸ばしてじっくり見つめてしまう。柔らかくて薄くて、かぎ針編みによる縁取りが実に丁寧だ。一体何の毛糸で編んでいるのだろうか。少なくとも羊毛ではないのはわかった。さすがは大帝国の首都、目新しい品物がそこら中に溢れている。

「まだ春にはちょいとばかし早いけど、今なら安くするよ~」
「春着に替えるにはまだ早いですね」
「この薄紅と紅色の花模様なんてどうだい。お嬢さんに合うと思うね」
 女性はラックから一枚のショールを取ってミスリアの肩にかけた。そして近くの姿見を指差した。「ほら、言った通りさ。よく似合ってる」

「本当ですか?」
 清潔で身だしなみがちゃんとしていれば十分。と、服装にあまり固執しないミスリアも段々と口車に乗せられて来たのか、鏡に映る自分にいつもと違う高揚を覚えた。栗色の髪と溶け合うように交わる薄紅。瞬く度に、己の茶色の瞳が花模様の紅色と呼び合っているように感じるのは何故だろう。

「うんうん。少女が女性に花開く年頃には、ちょうどいいじゃないか」
「え、そんな、花開くだなんて……」
 頭に血が昇るのを感じた。きっと先程ゲズゥがよくわからないことを言ったから――

(そういえば)
 急に彼の存在を意識し出して、ミスリアは周囲を見回した。しかしそれらしい人影は何処にも無い。
「ん? 誰かさがしてるのかい」
「はい、一緒に歩いてた人を」

「おや。お嬢さん連れが居たのかい? あたしが声かけた時は一人しか見なかったよ」
「……――すみません! ありがとうございました!」
 後一歩で買いそうになっていた品物を手早く脱いで商人に返し、ミスリアはその場から離れた。背後から呼び止める声がするも、構わずに走る。

(嘘、何処ではぐれたの)
 木陰のベンチから移動した時はまだ一緒だったのに。よりによって何故いつも人の多い場所でこうなるのか。
(ううん、人の多い場所だからこそ見失う可能性も上がる訳だけれど)
 ミスリアは立ち止まった。闇雲に捜しても仕方がない気がしてきたからだ。

 なんとなく道なりに進んだは良いが、来た道を戻ったかもしれないし、よく考えたら「上」を捜した方が早いと思った。思い立ったからには首を仰がせた。街道に並ぶ店の屋根上、ベランダ、近くの木の枝などに視線を走らせる。
 その間、イマリナ=タユスでの一件を思い出していた。あの時ゲズゥは自分を捜しに来るであろう少年にわざと見つかる為に、高い水道橋を登ったのだった。

「んっ」
 突如、後ろから口周りを布か何かで押さえられた。物凄い力で後ろへ引っ張られ、日の当たらない路地裏へと引きずられる。
 何が起きているのか頭では薄ぼんやりと理解していたが、実感は遅れてついて来た。人攫い? だとするなら、その目的は?

「ずいぶんと無防備じゃねぇか。なあ」
 欲望に満ちた、ぞっとする声音だ。しかも頭にかかる息はやたら熱くて湿っていた。
「ほんとだぜ。都でぼけっとしてたら喰われっぞ? なまじ人が多いから、毎日一人二人消えてもだーれも気付いちゃくれねえ」
 陰の中からも二人、汚れ切った風貌の男性が現れた。

「なあ、どうすんだよ」
 彼らが北の共通語で何かを熱く論じ出したのが聴こえた。
 また前の女みたいに何処かに閉じ込めて長く飼おう。いや、少し可愛がってから高く買ってくれそうな店に売ろう。いっそ、帝都は規則が多過ぎるから他国に奴隷として流そう。

 全てのやり取りをまるで遠い世界の出来事のようにミスリアには感じられた。耳の奥で大波が流れるみたいな音がして話し声がうまく聴き取れない。
(ああ、そうか。この音は加速した心拍を反映してるんだ。頭の中を流れる血の音かな)

 自分をどうするかの会話を耳に入れながらも、これからどうなるのかを懸命に想像してみた。
 今以上に恐ろしい局面に追いやられたことは過去に何度もあった。それでも、この瞬間にも溢れる涙を止められない――。




 教訓:歩く時は前を見ましょう。

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03:51:02 | 小説 | コメント(0) | page top↑
フラフープ
2015 / 05 / 13 ( Wed )
のしすぎで腹筋が抗議してきますが

職場の社員健康イベントでフラフープし放題だったので、調子に乗って同時に2,3個とかやってました。どれくらい長くやってられるかも試してました。そんな最中、記事用のカメラが行き交う…一体いかほどの恥ずかしいビデオが会社のサイトに載るのか? それを知る者は誰も居ない…


さすがに腹がひきつりそうです!

でも上司にめっちゃ褒められたので気にしない! 贅肉もなくなるといいな!



本編更新は今日か明日を目指します。

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01:43:45 | 余談 | コメント(0) | page top↑
リレー表紙風絵・完成 +追記
2015 / 05 / 09 ( Sat )


よいものをいただいた…! 二段構えの変身!
(ラフ)→ナルハシ様(線画)→つまようじ様(彩色)


何気にナルハシさんがゲズゥとミスリアの全身絵を描いてくださったのは今回が初めてですね。少女、かわいい、ネ…<○><○>

布や小物のなんと丁寧なことか。あと髪の描き方の形? いいですね。私もこういうの描けるようになりたいですー。

そして彩色された絵ですが、しっかりダークファンタジー感が出ていてもう…燃えますなあああ
この空…こういうのが見たかった!!! 

こうしていると三人の髪の色がいい幅出してますね。しかもつまようじ様はご丁寧に服の模様とか金属にも光入れてて…(感涙

お二人とも、本当に愛を感じましたごちそうさまでした。


これは内容的に三章の表紙ですかね。そのうち他の章の表紙案も考えようかな…二章はアズリとイトゥ=エンキとか? 四章はカイル(とティナ)? 五章はもちろん、ゲズゥとミスリアの割といちゃいちゃしてる構図ですよね? (ハードル高)


とにかく、すばらしすぎてリアル友にも自慢したいくらいです。さすがに白い目で見られるだろうなと思って相方のみに留めておきますw でもロックスクリーンに入れましたからね、げへへ… しあわせ



追記:

ナルハシ様からも着色バージョンいただきました!
いかん、なんか半年分の幸運使い果たしたみたいな気分になってきた。

黒ばっかり減らしてすみません!! でも格別においしいです!
拡大して眺めると、二人の呪いの眼まで表現されてて素晴らしいです。みっすんのおめめも素晴らしい。

しかし私は、八雲が漫画化されてから女性キャラはバッグを持たせるべきだと気付いた神永先生と同じように、ひとつ重大なことに気付いた。

げっさん、絶対常に肩こってるよね^^… 誰か揉んでやって…^^



そして最後にこちらのイラストいただきました。
かわいいwww イトゥ=エンキのノーテンキ面とゲズゥの何も考えてない顔が最高過ぎますw

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23:32:26 | | コメント(0) | page top↑
拍手おれい入れ替えてます
2015 / 05 / 09 ( Sat )
最後に替えたのが一月って…ひでえ

今日はもっと本編とか書きたかったのにイマイチのらなかったので別のネタに浮気。
推敲が甘いので後日ちゃんと直すと思います。

つーか通信教育の宿題が~~ 仕事のメールも見たいけど見るのが怖いよ~


これからゴミ出しとお散歩して気分転換でもしますか。

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04:44:03 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
43.b.
2015 / 05 / 07 ( Thu )
「食べている最中に声をかけるべきではなかったですね、すみません」
「…………どういう意味で訊いている」
 訊ね返してゲズゥは串の欠片を路頭に吐き捨てた。吐いた唾に血の朱色が混じっているのが見えて、ミスリアは近くのベンチに座るよう促す。ベンチは長さの半分ほどに木陰がかかっていて、彼は自らそちらの方を選んで座った。

 ミスリアの身長だと――こうして座らせでもしないと、稀に見るこの長身の青年の顔には届きにくいのである。
 それから傍らに立ち、手をかざして聖気を展開した。

「えっと、そうですね、家族とか仲間への愛情じゃなくて……恋愛、の意味合いでです」
 使い慣れない単語に言いよどむ。気恥ずかしさに微かに身じろぎしてしまう。その弾みで、かざしていた右手の小指の爪先がゲズゥの頬をかすった。
 何とも言えない刹那の感触。吃驚して手を引くと、後を追うように黒い眼差しが素早く動いた。

 黒曜石を思わせる瞳はその表面に晴れ渡った青空を映していて、綺麗だ。つい見入ってしまって動けない。なんとか呪縛を逃れたくて俯いた。
 彼が次に喉から声を発した時、ミスリアの目線の先は喉仏から顎を上り、最後に口元へと伝った。

「別段、興味は無い」
 口元を見ていた所為だろうか。発せられた低い声が、いつもと違う質感を伴っていたように感じられたのは。
 一拍遅れて我に返る。
「あ、そ、そうですか。くだらないことを訊いてしまいましたね。すみません」
 必要以上に落ち着きなく答えると、あろうことか青年は言葉の応酬を続けた。

「お前はあるのか。興味」
「え。恋にですか?」
 頷きが返る。

(恋愛、かぁ……)
 一気にさまざまな思考が脳内を巡った。まだ故郷の島に住んでいた頃に、同年代の友達や姉と、誰が誰の嫁になるのが一番お似合いかを想像して遊んだこと。修道女課程を修めていた日々の中、隠れて夜更かしして恋愛小説を読んでいた同室の子。ミスリアは教団に入った時点でそういった話題への関心は薄かったけれど、いつからか、全く自分とは無関係だと思うようになっていた。

 聖人聖女はその役職に就いている限り、異性と関係を持つことはできない。と言ってもそれは永続的な話ではなく、カイルの父親のように役職を返上して伴侶を得ることは可能だ。
 それでも少なくとも聖獣を蘇らせる旅が終わるまでは恋とは無縁に生きるだろう、とミスリアは受け入れている。

 見聞も経験も足りない分、それがどういうものなのかはほとんどイメージが無い。例えば周りに恋の花が咲いていたとしても、きっと気付けない。
 いつか未来で自分が恋をしている様子を色々と想像をしてみるも、うまく浮かばなくて悶々とした。相手はどんな人になるだろうか。相手……?

「なるほど」
 突然、ゲズゥが言った。
「な、何に納得したんですか」
 物思いを遮られた驚きに肩が跳ねた。

「反応が『女』だな」
 続く言葉を聞いても、彼が何に得心がいったのかは不明なままだった。どうやらこちらの表情や挙動の細かい変化を観察していたらしいが、そこから一体何を見出したのか。
「確かに私の性別は『女』ですけど、それは周知の事実で、改めて確認するようなことではないかと……?」

「そういう意味じゃ、ない」
「ではどういう意味なんです?」
 首を傾げて問う。
「自分で考えるといい」
 心なしか楽しそうに答えて、ゲズゥは立ち上がった。



なんだこれ。書いてて私がドキドキしただと……………………………… 歹ヒのう
くそう、喉仏萌え!

ミスリア本編に全文検索かけてみたら、なんとこれまでに「恋愛」の単語が登場したのは1回だけであったΣ( ̄□ ̄lll)<22、イトゥ=エンキ視点のところ。「恋」だけなら13回。これからはもっと出る…よ?

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01:50:18 | 小説 | コメント(0) | page top↑
43.a.
2015 / 05 / 05 ( Tue )
 ――何が目的だったのか、だと?
 愚か者どもめが。私が大臣の座などに執心しているとでも思ったのか。そんなものは目的ではなく、手段に過ぎない。
 私はただあの男を貶めてやりたかった。

 ――誰を?
 知れたことを。奴に決まっているだろう! 私の最愛の妻をたぶらかし孕ませておきながら、何食わぬ顔で今日も玉座に座しているあの男だ!
 私は……奴の腹心を一人ずつ封じてやる予定だった。

 ――失脚に追い込む?
 生易しい。恐慌状態に陥れて、折を見てかどわかすつもりだった。弱みの一つ二つ作って再び世に放つのさ。だからあの女を使った。あれは良くできた駒だ。昔から、私が望めばその通りに動ける、実に優秀な女よ。
 最初は老害の空いた席に私が滑り込むはずだった。そこから更に一人ずつ手中に収め、最後には帝王に与(くみ)する人間を一人とて残さずに掃く予定……だが貴様らの所為で総てが台無しだ!

 ――王子?
 あの薄汚い小僧か。幸い奴は中途半端に帝王にも我が妻にもあまり似なかったが、どうにも腹を痛めて産んだ妻は愛着を持ってしまったようでな。遠目に眺めるだけでいいからとせがむものだから、屋敷に置いてやったのよ。憎きあの男の倅(せがれ)なぞ、私は絶対に目に入れないように生活していたがな。

 そんな妻は得体の知れない病で逝ってしまった。聖人連中にも治せなかった、心の病だったと言われている。妻の心が乱れたのはやはりあの男と小僧が原因であろう。最期には我らの嫡男の顔を忘れるまでに病んでしまっていた。ほら、わかるだろう? 私が何もせずにこれまでのように、帝王に仕える貴族のままでいられるはずが無かろう?

 妻が他界したからには小僧の方は殺して楽にしてやろうとも思ったが、そうすると魔物になって我が血族を呪うかもしれないと聞く。ならば仕方ない。
 ふん。思えばあの時、あの女ともども見逃して何年も生かしてやったのに、恩を仇で返す餓鬼どもだ。

 まあいい。好きにしろ。露見した以上、私は抵抗などせんぞ。
 なに、家が没落しようとも我が子たちが自力でどうにかする。甘ったれなぞ一人も私は育てておらんからな。

 ――貴族の伝統? 知らぬわ!
 あんな男含めた腐り果てた王族に仕えるのが命運だなどと、私は認めん! 

 ああ、メディアリッサ、生涯ただ一人の愛しき我が妻。安心しておくれ。たとえ火の中水の中牢獄の中、私は君への愛を貫き証明する。

 帝王なぞ、永遠に赦さぬ。赦すものか――――――

_______

(愛って、なんなんだろう)
 聖女ミスリア・ノイラートは、後になって件の男性の供述を聞かされた。それはあまりに激しかった。考えれば考えるほど、彼の心情がわからない。
 腐り果てたと言えるような王族なのかも、わからない。帝王は後宮では飽き足らず人妻にまで手を出すほど女癖が悪くても、君主としての手腕はそれほど悪くないようだった。帝国と三つの属国は均衡を保ち、国民の生活もおおよそ安定している。

(デイゼルさんのことだって。男性は自分の子供じゃないからってそこまで邪険にするの……? 愛する奥様と一緒に大切するって選択肢は無かったのかしら)
 嫉妬、その辺りの心境はやはりミスリアにはよくわからなかった。妻を赦して相手を赦さないのはわかるとしても、それを理由で誰かを永遠に憎むというのはいかがなものか。正直な感想、とても疲れそうな話である。限られた生の時間を憎悪にばかり費やすのを、勿体ない、と思う。

 それほど激しく燃える怨念の炎を彼はずっと押し隠してきたと言う。
 心を病んで亡くなられた奥様はどう思っていたのか。そもそも病の原因は本当に帝王陛下だったのか。今となっては、真相が明るみに出ることは無いだろう。

 小さな唸り声を上げながら、ミスリアは隣に立つ青年を見上げた。特に予定も無く、今日は二人で街中を買い物などしてぶらぶらしている。
 青年は羊肉の串焼きを片手に持って食べていた。
 こちらの視線に気付いて彼が首を巡らせた頃には、串の肉は最後の一つが口内へと消えようとしていた。

「ゲズゥには、愛する人って、いますか」
 ふと訊ねる。

 ――バキャッ!

「だ、大丈夫ですか!?」
 串を噛み切ってしまったらしい。一瞬、無表情が渋い顔に歪んだ。

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23:14:02 | 小説 | コメント(0) | page top↑
何かの予兆
2015 / 05 / 04 ( Mon )


詳しい経緯はまた後日まとめますが、とりあえずこのラフが人の手を通って表紙絵っぽい何かに仕上がるかもしれないので、期待しています。

色々間違ってるポイントもあるので見つけられた人はほくそ笑んでいてください!



追記:
アイコンっぽく軽く加工した兄弟。

 

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22:35:40 | | コメント(0) | page top↑
頂き物絵・逆立ちリーデン
2015 / 04 / 30 ( Thu )



ポーズの多種多様さに定評のあるナルハシ様からいただいたイラスト。

ナ様:リーデン描きたいけど構図が浮かばなくて
私:逆立ちしか思いつかなんだ


そんなんでも採用して下さるあなた様が大好きだッ


この腹チラ具合も手の美しさもさることながら、ちゃんと重力が表現されている丁寧さ。

鏡の前で逆立ちしたことのある方はご存知でしょうけど、人の頬肉とか(まあ、贅肉)って結構目に見えて重力の餌食になります。ちなみに私の顔は頬骨が濃いのにぶにょんぶにょんなので逆立ちするととんでもなくぶっさいくです。

どうでもいい話ですね!

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21:26:49 | | コメント(0) | page top↑
拍手コメ返信04-29
2015 / 04 / 30 ( Thu )
@ミスリア親衛隊 さま


ゲズゥと照れるが同じ文の内に入っているのが想像できませぬ!

>保護者に存在主張するゲズゥ
 それとなく探ってた感じはありますね。深く考えないで二人のやり取りを観察したかっただけかもしれませんがw ミスリアには敢えて気付かせないで見てたのでしょう。

カイルお兄さんは釘刺す係! あの会話にも表したように、前と違ってガッチリ刺す必要は無いんだな~、と感じ取っているようです。命の危険が無くなって男女の危険(?)に変わったら、今度はどう見守っていいのか若干困りそうですね。ゲズゥの執着には気付いててもこれ以上はあまり介入しないかも。

ティナちゃんの男嫌いは数段構えでして、まだまだ原因は深いです(ていうか、「もぐ」の漢字を初めて知りました)

場合によっては雄犬にも雌犬にも責任はあるはずなんですが、どちらかというと男の方が認知しないで逃げやすいですね。ひどい大人がはびこってるもんです。不倫ダメ、絶対。孤児院の子供たちはそんな無責任の産物であることをコンプレックスにしなくていいような人生を送って欲しいですね。

>宗教団体は胡散臭く俗物的団体に書かれがち
 おお! そこに着目していただけるとは! そうなんですよ、特にライトノベルや漫画作品では高確率で悪の組織みたいになってて残念。ヴィールヴ=ハイス教団は、個人レベルでダメダメな人(そういえば帝都の前任の司教さまは傍観派でした)や悪人が出ても、組織そのものはあくまで民を支えて守る為に存在してます。まあ、対犯罪組織ジュリノイも人類の為に日々頑張ってるんですが、少なくともミスリアたちにとってはあまり良いものではありませんねw


コメントありがとうございました! 43でお会いしましょう。

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00:43:35 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
42 あとがき
2015 / 04 / 29 ( Wed )
私が職場から帰宅してた間にもう42jまで読んだ人がいるとは…さすがだぜ
なんか今日調子悪くてぼーっとしてたらこっくりしてブレーキ放しそうになった…あぶなすぎ。



続きは読み終わった方ドウゾ!


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07:29:14 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
42.j.
2015 / 04 / 29 ( Wed )
「でもこのもじゃもじゃ髪をもう切れないのは、いやよ」
「どうせ成人したら切ってくれないんじゃん」
 デイゼルの巻き毛をわしゃわしゃと乱していたティナの手がぴたりと止まった。そしてそのまま彼女はもの悲しい微笑みをつくった。

「だいじょーぶだって。出発は早いほうがいいっていうけど、そんなすぐおわかれじゃないんだからさ。だからティナ姉、もうわるいことやめて。兄ちゃんたちが助けてくれるよ」
 ティナは長いため息をついてから、司教さまに向き直った。
「信じていいのね」
「約束します。私の持つ全てでお力になります」
「わかった。それじゃあ、アイツのことを話すわ」

 ティナはこちらに向けて短く目配せした。察するに、この先の会話を十三歳の子供に聞かせたくないという心境だ。
 司教さまやミスリアたちが話を聞いているのならそれで十分だろう。カイルサィートはデイゼルの肩に手を触れ、部屋から連れて廊下に出た。

 子供たちが揃って昼寝しているからか、廊下はしんと静まり返っている。二人の衣擦れの音や足音だけがやたらと響いた。
 俯き加減のデイゼルに、ふと思い立って話しかけてみる。

「君が修道者になるなら、いつかどこかで僕のお父さんと会うかもしれないね」
「ふーん。せーじんの兄ちゃんのおとーさんってどんな人なん」
「さあ?」
「なんだそりゃ」
 立ち止まって、鼻をぎゅっと皺くちゃにした顔が見上げてくる。視線を合わせるようにしてカイルサィートは僅かに上体を傾けた。

「顔は似てるんじゃないかな。でも僕の知ってる父さんがまだ残っているのかどうかは、わからない」
「んー、じゃあ兄ちゃんのおぼえてるのはどんなん」
「そうだね。信心深くて、笑顔が温かい人だったよ」――言葉を連ねながらも懐かしさが胸に満ちる――「良き夫で、良き父親で、良い兄だったんだろう。少し優しすぎたかもしれないけど」

 心が優しすぎたがために、現実の重圧に耐え切れずに脆く壊れてしまった。思えばそういったところは、父と叔父はよく似ていたのだろう。今更責めたいと思うことは無いが、それでもたまに思い出しては一抹の寂しさと失望を覚えることはある。
 それに、殻に篭もってしまった父を未だに救ってもやれない己の無力さにも失望する。

「僕はできれば父さんとは似ない方がいいな。君みたいな逞しい男になるよ」
 カイルサィートは視線を廊下の先へと戻して宣言した。
「はあ? もう大人なのに、おれ目指してどーすんだよ。ぎゃくだよ」
「あはは、清々しい正論だ。どうするんだろうね」

「兄ちゃんなに言ってるかわけわかんね。へーんなのー」
 デイゼルは急に小走りになって廊下をドタドタと進んだ。仲間たちの様子を見に行くのだろう。一緒に居られる時間がそう多く残らない、仲間たちの。

(ああ……父さん、叔父上。生きるというのは、ままならないものですね)
 額に片手の指先を押し当てたのはほんの数秒の間だった。この絡まるような想いは、何であるのか。

 少年は気付いているはずだ。大切なものは自分が何もしなくても、どんどん掌から零れていく。
 守る為に敢えて手放して、後悔する日が来ないと良いが――。
 目を覚まし始めた子供たちの声が微かに聴こえる。そこに、悪戯っぽいデイゼルの笑い声が重なる。

(これから先どれほど大きな目的を追おうとも、守るべき宝が何なのか、それだけは見失わずにいよう)
 決意を新たに胸に抱いて、カイルサィートは居間へと踵を返した。

拍手[2回]

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06:41:16 | 小説 | コメント(0) | page top↑
42.i.
2015 / 04 / 28 ( Tue )
「い、いいえ。気を遣わせちゃってあたしの方こそごめんなさい……」
 あまり強く出ない司教さまにティナは毒気を抜かれたのか、あっさり引き下がった。
「お元気そうで良かった。本当にずっと、心配していたのですよ。いきなり消えたものですから」
「……黙って出てったのは悪かったと思ってる。それより、今日は違う用事で来たんでしょう」
 訊ねながらもティナは司教さまの微笑から顔を逸らした。

「そうでしたね。では本題に入りますと、当孤児院を教会の管理下に置かせて下さい。今日はそれをお願いしに来ました」
 さりげない口調で司教さまは言う。窓際で静観していたリーデンが口笛を吹いた。
「なっ――んですって」
 ティナは驚愕に顔をしかめた。

「子供たちの身の安全や秘密の厳守、今後の教育も全て我々が約束します。寄贈者の束縛から解放します代わりに、彼の検挙にご協力下さい」
 司教さまが暖炉の上の肖像画へと視線を走らせるのを見受けて、ティナは頭を振った。

「無理よ。アイツからの解放なんて望めるわけが無い」
「解決の糸口は、そちらのデイゼルさんが持ちかけて下さいました」
「……え? どういうこと」
 ティナの青緑の瞳が隣の少年を向いた。少年は真っ直ぐに視線を合わせる。

「きょーかいに守ってもらえば、みんな今よりもフツーの生活ができるよ」
「他の子たちはそれでどうにかなるかもしれないけど、デイゼル、あなたはっ! あなただけは――」
「しってる」
 少年強い語気で遮った。彼は己の出自だけでなく仲間たちについても熟知しているようだった。

 ここには帝王家に直接血の繋がりを持った彼の他に、帝国有数の貴族や軍人たちと縁深い子供たちもいる。存在をひた隠しにされているデイゼルと違って、他の子供たちは根気良く調べるだけで血筋が明らかになった。

「だからおれ、シュウドウカイに入るよ。セイジンも目指してみたい。そっちは、ソシツってのが無いとダメみたいだけど」
「聖人はともかく、修道会? って何? 知らない」
「修道会ってのはね、いくつかの厳しい誓いを立てた信徒の集まりのことだよ。会員になると簡単には俗世に出られないし、一般人と関わることもほとんどできなくなる」
 ティナが挙げた疑問に対してカイルサィートがそっと説明を呈した。

「でも彼にとっては最善の選択だろう。修道司祭以上か聖人になれば、もう政治的権力者でも容易に手出しができない。たとえ素性や居場所が漏れたとしても、帝王に即位させるのは不可能だし――何の企てにも役立たないのなら、攫ったり暗殺する意味が無いからね」

「…………本当にそれがあんたの望みなの。教会に言いくるめられたとかじゃなくて」
「そーだよ。おれはこれでいいんだ。どっちみち外の世界を好きかってにうろうろできない人生なら、だれかのために使いたい」
「デイゼル、人生は使うものじゃないわ」
「使うもんだよ」

 いつの間にか姿勢を正していた少年は、声色から仕草に至るまでに迷いが無かった。
 思えば彼は幼少の頃は屋敷に閉じ込められ、現在は孤児院から離れられない狭い世界での生活を強いられている。そんな生活から脱したところで、権力争いに巻き込まれてしまう。

 実に過酷な運命であり、だからこそ実に潔い判断だった。この少年はきっと最後まで歪まずに立派な大人になる、そんな予感がした。

「ティナ姉もほかのみんなももう会えないかもしんないけど、おれはこれでいいんだよ」
「修道者になったとしても全く外の世界に出ない、なんてことにはなりませんよ。時折の聖地巡礼や、他の修道院へ赴く場合もあります」
 司教さまがそのように付け加えた。

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23:23:57 | 小説 | コメント(0) | page top↑
42.h.
2015 / 04 / 25 ( Sat )
「護衛だなんだと誘ったのは僕の方なのに、こんなややこしいことになったの、なんだかごめんね」
「いいえ。関われてむしろ良かったと思ってます。そうでなければ友達が苦しんでいることにも、私は気付けなかったでしょうから」
「確かにそうだったかもね」

 それからおやすみの挨拶を交わした後、ミスリアはふわりとスカートをなびかせながら歩み去った。
 扉を閉じる瞬間までも彼女は最後まで気付かずに、通り過ぎた。壁にかかる陰と同化しつつある青年に。

(一体いつこの部屋に入ったのだろうね)
 黒髪の青年ゲズゥ・スディルは武器を背負っていなければ恐ろしく静かに移動する。
(でもそんなことより、興味深いのは……)
 カイルサィートは現在の距離を保ったまま話しかけた。

「君は、最初に会った頃よりもずっと、雰囲気が穏やかになったね。何があったのかとても興味がある」
「訊くまでも無いだろう」
 あまり間を置かずに返事があった。

「そうかな」
「文通していたのならな」
「ああ、そういうこと。確かに文(ふみ)である程度の顛末は知ったけど、本人の口から聞くのとは違うよ」
「…………」

 青年は陰った壁から離れて、蝋燭に照らされている方へと僅かに歩み出た。歩み出てもその瞳や表情や口は、何も語らない。
 カイルサィートには彼の態度は特に気にならなかった。懐かしいとも思う。ゲズゥからはこんな深夜には有り難く感じる、落ち着いた空気が漂っている。

「ミスリアと仲良くしてくれてありがとう」
「……保護者」
 単語一つからは彼が何の意味を込めているのかはわからない。思わず首を傾げた。

 保護者と言えば、確かにミスリアと過ごしていると妹を思い出すこともある。しかしどうあがいても別人は別人である。リィラには二度と会えないし、他人を重ねてミスリアに接するような失礼はしたくない。
 気のかけ方が保護者ぶっていたかな、困ったな、とひとりごちてカイルサィートは小さな笑いを漏らした。

「友人だよ」
「…………」
「あの子が楽しそうにしていると、こっちも嬉しいんだ。これからもできれば健やかに笑っていて欲しい。君もそうではないのかな」

 問われて、青年は特徴的な両目を細めた。瞳の向こう、脳内の中ではどのような思考が展開されているのかは不明である。
 そして彼は何の結論に至ったのかを明かさないまま細めていた目を再びスッと元の大きさに開き、くるりと背を向けて部屋を後にした。

 何も答えない、カイルサィートにはそれ自体が答えのように感じられた。

_______

 帝都ルフナマーリに最近就任した司教さまは、一言で表すならば「目立たない」人物だ。
 身長は平均より低めで年齢相応に恰幅も少し良いくらいの体型で、清潔に整えられた薄茶の短髪や優しげな瞳、笑顔の周りに刻み込まれた皴にしても、あまり際立った特徴は見出せない。というのも、位の高い男性聖職者にはこのような外見をしている者が大勢いるからである。華奢で長髪の教皇猊下が例外なのだ。

 それでもティナという少女にとっては、記憶に残る人物であるらしい。司教さまを孤児院の居間に通してからもずっと、難しそうな顔をして考え込んでいる。
 カイルサィートはミスリアと共に二人の邂逅を数歩下がった位置からしっかりと観察していた。
 ティナの座る長椅子には、頬杖ついたデイゼルの姿もあった。彼もまた考え込んでいるような顔をしている。

「えっと……何? つまりおっちゃんは、おれとティナ姉がであったちょっと前に、ティナ姉にあってる……でいいんだよな?」
「こらデイゼル、おっちゃんとか言わないのよ。この都の司教さまよ」
「あ、そうだった。しきょーさま」
 バツが悪そうに少年は舌をちょろっと出す。司教さまは口や目の周りに皴をつくって笑った。

「ほほ、おっちゃん、で構いませんよ。そうです。まだ私がルフナマーリで司祭をしていた頃、ティナ嬢を教会に招き入れて泊めたことがありました。あれはそう――」
「できればその頃の話はしたくないわ」
 足と両腕を組んで、ティナは昔話を拒絶した。
「ええ、すみません、私の配慮が足りませんでしたね。貴女にとっては、お辛い時期でしたのに」

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08:02:34 | 小説 | コメント(0) | page top↑
なんじゃい
2015 / 04 / 22 ( Wed )
仕事が急に猛烈に忙しくなってきた。

やめてくれwww



あ、42はあと1~3記事ほどで〆る予定です。希望としては2で。
長引かせたくないのだよね!

でも かいるたん わっしょい

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