47.d.
2015 / 08 / 24 ( Mon )
「すみません、自分じゃ見えませんよね。首の後ろから背中にかけて、赤紫色の痣が広がってます。王子の腕を侵していた…………毒、と同じに」
「そうか」
 ミスリアが「毒」と繋げるまでに不自然な間があったが、口は出さないでおいた。

「それにしても本当に禍々しいですね。痛みはありませんか? 王子の腕は、動かせなくなっていましたけど」
「痛みは無い。麻痺しているのか、むしろ何も感じない」
 時間差で効果が出る種類の毒なのかもしれない。もう少し気付くのが遅かったら、肩や腰にまで影響を及ぼして、立てなくなっていただろうか。
 思考を巡らせている間にも、背後から聖気の気配を感じた。

「王子の腕の件、何のことかわかりますか? えっと……『みて』たんですよね」
「視覚的記録はある」
「それはつまりどういうことで……やっぱりあの目玉は……」
 少女が遠慮がちに問う。無理もない。何をどうやって訊けばいいのか、明確なイメージが持てないのだろう。小さく息を吐いて、ゲズゥは答えを告げた。

「左眼が独立した状態で経験する大体の記憶は、曖昧にだが伝わってくる。本体に戻れば、まるで自らが経験したことのように――取り込まれる」
 意外にも、話し始めるまではちゃんとわかりやすく説明できるつもりでいたのに、言っている内に自分でもわけがわからなくなっていた。これでは魔物ばかりをデタラメな存在と言えない。

「ほ、ほんたい? ですか。どうして身体の一部なのに、自立した活動ができるのでしょうか」
 その質問はもっともであった。生き物の部位が勝手に身体を離れて動けるなど、有史以来、なかなか事例の無い現象だろう。
 ゲズゥは遠い昔に聴いた父親の話を回想し、語った。今となっては正確な台詞の再現とは言えず、自分なりの解釈の割合の方が大きい。

 ――我々のこの「呪いの眼」と呼ばれている代物は身体の一部であり、だがしかし全く別の存在だ。二十年もすれば自我が育ち、本体を離れても元に戻ることが可能になる。主(あるじ)と簡単な意思疎通ができる共存意識を持った寄生虫、とでも思えばいい。

「意思疎通……!? 眼球と!?」
「別に会話ができるわけじゃない。単純な命令・信号のやり取りだ」
「他の身体の部位を操るのに比べて、もう一段階の遅れがある感じなんでしょうか。離れても動かせるのは便利そうな気がしますけど……自己の中に別個の意思が混じっているのって、なんだか怖いですね」

「それほど気にならない。多分、コレは意識さえしなければ、『自己』として認識されるものだ」
「ややこしい、ですね」
 背後からの声が心なしか弱々しくなっている。なんとなく振り返ると、少女は眠そうに目を擦っていた。
「おわり、ました――あざ、なんとか消えましたよ……」

 とん。前のめりに倒れたミスリアの額が、背中に当たった。まだ濡れたままの栗色の髪の生温い感触は心地良いとは言えないが、かといってゲズゥは振り払ったりしない。
 もたれかかってきた重みを、反射的に支えようとして背筋に力を入れた。

「眠いなら、寝ればいい。休める時に休むべきだ」
 そういえばミスリアが今日聖気を使ったのは既に三度目なのだと気付き、精神や身体に結構な負担がかかったのではないかと危惧する。



大変お待たせいたしました_OTL

これまで何をしていたのかっていうと全くの初心者にかぎ針編み教えたり、翻訳頼まれてたり、通信教育の宿題してたり(真面目にタヒぬかと思った)、普通に仕事してたり、ジムでマッチョ目指してたり、コミコ読んでたりしてました(おい)。

そのぶん今週は睡眠時間削ってでも超絶執筆週間にしますので、応援のほどよろしくお願いしますッ! 切実に!

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12:01:50 | 小説 | コメント(0) | page top↑
47.c.
2015 / 08 / 19 ( Wed )
 幸いそれらしい候補を見つけるのに大した時間を要さなかった。その頃には雨の勢いもいくらか引き、視界も改善されていた。
 火打ち石を使用するに必要なもう一つの道具も見つかると、ゲズゥは急ぎ足で洞窟に戻った。
 入り口を通る際、壁に肘が当たった――のと同時に、カッと眩い光が辺りを照らす。続いて轟音。

「きゃっ」
 瞬きの間に、少女の白い肌がまなうらに焼き付いた。すかさず目を閉じる。視覚がまた闇に慣れるのを待つ間、感慨もなくゲズゥは残像を眺めた。
「おかえりなさい」
 やがてまた目を開くと、ミスリアがおずおずとこちらを見上げていた。脱ぎ捨てた自らの服は既に水を絞って膝の上で広げている。
 ただでさえ狭い洞窟の中で蹲っていたのは、体温を保つ上では正解だ。

「ああ。そういえば、ケダモノの鳴き声が遠い。外に行っても姿が無かった」
 ゲズゥがそう肩から振り返りつつ応じると、ミスリアも洞窟の外、遠くを見やった。遠ざかったケダモノが何処へ向かったのか想像しているに違いない。
「王子は無事でしょうか」
「あの男に限って、簡単に死にはしない」
 淀みなく答えた。

 少なくとも谷を落ちなかったとすれば、どうとでもなるだろう。元よりオルトは常軌を逸したしぶとさを有していた。案じるだけ時間の無駄に思える。
 そんなことよりもゲズゥは持ち帰った物を地面に下ろした。石の欠片を幾つか、それと、風化したナイフを一本。カチャカチャと小さく音を立てて鋭利な欠片を選び取った。

 欠片を左手に持ち、右手にはナイフを握る。そこから枝と草の山の上でそれらを何度も擦り合わせる地道な作業が始まった。使用材料がどれも湿っているのが難点だ。最終的には切り開いたキノコ類を火口(ほくち)とし、樹皮以下を薪として、なんとか火が点いた。
 途中、何故かうなじの後ろがかゆくなって、引っ掻く為に三度ほど作業を中断することになったが。

「その刃物はどうしたんですか?」
 背後に気配が近付くのを感じる。
「落ちてた。この錆びれ具合、オルトの持ち物とは思えない……となると、この谷底に来た別の誰かのものだ」
 ミスリアがごくりと唾を飲み込むのが聴こえた。

「別の誰か、って、今どうしてらっしゃるのでしょう」
 不安の滲み出る声に、ゲズゥは「さあ」とだけ答えた。推測を並べたところで要らぬ不安を煽ぐことになりそうである。
 以降は沈黙を維持した。火の傍でミスリアと同じように衣類をかき集めて水を絞り、膝の上に広げる。

 しばらくして、とん、と背中に微弱な衝撃があった。あくまで身を隠そうとしている少女が、背中合わせに座ったのだろう。これもまた現状で体温を保つ上では正解と言える。
 触れ合った肌から伝わる温もりを、ゲズゥは無言で受け入れた。

 弱まる雨の音と火花の弾ける音以外には静かだった。
 一度は冷えきった身体が徐々に温まるにつれ、ふわりと眠気が意識を包む――が。
 度々耳朶に響く「かりかりかり」との引っ掻き音が、気が付けば大きく脳内に響くまでに育っていた。利き手を見下ろすと、爪の下に垢が溜まっているほどだ。

 ――虫刺されか、この痒さは一体――

 ふいに、ミスリアの背中が離れる感覚があった。突然の寒さに驚き、思わず振り向いた。
 ギョッと限界まで見開かれた茶色の両目と視線が合った。

「そ、れは――どうされたんですか!?」
 言っている意味がわからず、ゲズゥは眉を寄せて見つめ返すしかできない。

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23:28:53 | 小説 | コメント(0) | page top↑
昔の恥さらしでお許しいただこう
2015 / 08 / 18 ( Tue )
あ、本編は書いてるんですよ。でも何かとリアルが邪魔をしやがって(めっちゃ色々あった週末だった)、まだ書き上がってはいないんですよ。明日がねらい目です。

そこでまったくどうでもいいのですが、昔の創作物を掘り起こしたので、ちょっとポロリしちゃいます。

昔の小説は色々とひどいので、ここはひとつ小説に付属した「詩」をご紹介しちゃいます。実を言うと、何で書いたのかが思い出せません。第三部のキャラ関連だったかな…ぶつぶつ



大爆笑したよ! などの感想お待ちしています(自虐

続きへどうぞ。


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21:19:31 | 余談 | コメント(0) | page top↑
完全なるひとりごと
2015 / 08 / 15 ( Sat )
中華風ふぁんたじー書きたいなぁ…( ・ρ・)

多分それ系の音楽を流してる影響に過ぎないんですが(と言っても前々からやりたい気持ちはあった)。

気が多い!

子供の頃から武侠ものとは縁があったものの、研究者の眼(?)で観てたわけでもなく、しかも最近では完全に離れてます。あんまり説得力のある舞台やキャラを創るだけの力量が備わってない感じです。

しかし、あの複雑な髪型や露出があるのか無いのか曖昧な衣装で、美しい髪と布を垂らしながらカンフーを華やかに披露する女性たちには、手を出してみたい気がしますね。

大体のキャラが多才で、文武両道だったり楽器弾けたりするんですよね。
あ~ いいな~ 武侠~


…何を言ってるんだw


そもそも私の文章力でアレをうまく書き上げるのは無理でしょうな。でも大抵の武侠って小説原作なんですよね。偉大なる作家たちめ… 漢詩のひとつも書き上げられない教養レベルじゃ、私の手には届かない話だな。<たまに再発する「いろいろ勉強したい病」


大人しく手持ちの連載と向き合います!!

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00:40:04 | 余談 | コメント(0) | page top↑
47.b.
2015 / 08 / 12 ( Wed )
 きょとんとした顔で言われ、いよいよゲズゥは返す言葉が見つからなかった。やむなく、会話の矛先を逸らした。

「それより痛い所と言ったが」
 またもや歯を食いしばり、緩慢に上体を起こした。こんな当たり前の動作をこなすのに、いちいち激痛の火花が弾ける。
「はい」
 察したのか、ミスリアは四つん這いになって背後に回る。次いで息を呑むのが聴こえた。

「こ、れは……ものすごく、痛いのでは」
 眺める方も随分と苦しそうである。当事者は患部が見えないので、その点に関しては救われているのかもしれない。
「ああ」
 短く答えた。というより、息が上がってそれ以上言葉を継ぐことができない。

「じっとしていてくださいね」
 すぐさま温かい風みたいなものが背中を掠めた。
 そこを中心に雨の感触が遠のくようだった。目を閉じると、瞼の裏が淡い白光に満たされる。

 これまでにミスリアから受けた聖気となんとなく質が違う気がした。より清涼で、濃い。それでも少女の心根を感じさせる点で言えば、変わりはないのだが。
 数分もしない内に、打って変わって――ついさっきまで全身を蝕んでいた「痛覚」という概念は何だったのか、ふと思い出せなくなるくらいには気分が良くなっていた。

 それでいてこの間(かん)、左眼だけは時折、ちくりとささやかな不快感を訴えてくる。

「もう大丈夫でしょう」
 ミスリアが満足気に告げるのを合図に、ゲズゥは目を開けて速やかに四方に視線を走らせた。目当ての物を見つけ、立ち上がる。
「移動する」
「え、あ、はい」

 目標の場所まで歩き出しながらも、少女がちゃんとついて来ているのか、振り返って確かめた。
 やがて一つの谷肌の窪み、つまりは洞窟の前に辿り着けた。洞窟と言っても、浅く狭い。五人も詰め込められたら頑張った方だろう。

 とはいえ、あの重苦しい雨を逃れるには十分だった。
 早速地面に腰を落ち着けたミスリアの傍らで、ゲズゥは屈んで土の中を漁り出した。

「何か探してるんですか?」
「薪になりそうな物を」
「なるほど……」
 頷き、ミスリアも倣った。だが洞窟の中は湿った臭いが充満している。見つけられたとしても、なかなか火は点かないと予想がつく。

 とりあえず五分かけて、二人で樹皮やら小枝やらをそれなりに集めた。もういいだろうと考え、ゲズゥは土を探る手を止めた。同時に、失念していた重要事項に思い当った。

「忘れていた。服を脱げ」
 ゲズゥは屈んだまま、背中越しに指示した。
「へ?」
 少女から素っ頓狂な声が返る。

「早くしないと冷えるぞ」
 指示した内容のままに自分も実行した。ずぶ濡れの状態では、服は余計な枷でしかない。しかも、既に体温は大分下がってしまっている。
「火が起こせたら、乾かせばいい」
 脱いだマントと腰布を適当に捨てて、ゲズゥは今度は洞窟の外へ一歩足を踏み出した。

「ま、待ってください、その格好でどちらに?」
「火打石を探す」
 そう言い残して、ゲズゥは小走りで岸に向かった。

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14:13:18 | 小説 | コメント(0) | page top↑
47.a.
2015 / 08 / 10 ( Mon )
 闇に呑まれそうになる一歩手前、留まることができたのは背中に走った痛みのおかげだった。
 皮膚が裂け肉が抉れる激痛。焼けるような傷口に染み込む冷たい水の刺激は、まるで我が身が真っ二つに裂けるのではないかと錯覚させる。

 ――取り巻く全てを忘れ、手放して、苦しみに身を任せて悶えたい。
 この時のゲズゥ・スディル・クレインカティには、呼吸への欲求以上にその衝動が強かった。

 だが打ち勝たねばならない理由が腕の中にある。
 歯を食いしばった。
 岸に辿り着き、すっかり汚泥となった土に爪を立てられる一瞬まで、彼は衝動を抑制しぬいてみせた。

「がはっ」
 立てた指に力を込めて身を引き上げる。抱き抱えていた少女ごと、ドサッと雑に寝転がった。
 オルトに借りたマントが半分ほど下敷きとなってくれた。水を吸った状態の残る布は、ただの冷たい重しにしか感じられない。

 ここで力尽きて意識が飛びかけたのも無理はない。
 背中だけでなく、体中の至る箇所が水面を打った反動で痺れて痛かった。水を吐こうとして咳き込み、それが治まったら次は呼吸という必須機能に従事せんと胸板や腹筋が重苦しく上下する。

 満身創痍だ。この機に敵に襲われたとしても、呆気なく敗北すること間違いなしだ。
 もう何も考えられない。動けない。寝たい。
 そんな途切れ途切れな思考も弱まり、瞼が縫い付けられたように下りたまま開けられなくなる――

「……――ですか!? 気をしっかり!」
 泣きじゃくる声と頬を叩かれる感触によってゲズゥはまどろみから呼び覚まされた。
「すごい血!? 痛いところは――」
 よほど気が動転しているのだろう。こんな状況、常ならば喋るよりも早く聖気とやらを使用しているはずだ。突然の展開続きで落ち着きを失くしているのだと思えば、得心がいく。

「…………そんなに叫ばなくても聴こえている」
 少女に対して、ゲズゥは気だるげに抗議した。ゆっくりと瞬きを繰り返すと、視界に聖女ミスリアの輪郭が浮かんだ。
「す、すみません。でもよかった……」
 謝罪と安堵の言葉と共に、大粒の涙が零れ落ちる気配があった。
 その涙を美しいと思った時もあった。しかし何故だか、以前は嬉しいとすら感じたこの様子が、今は不愉快でならない。

「泣くな」
 気が付けば疲労困憊していた身体を動かせた。頬に添えられたままの小さな手をそっと握る。か細い指からぴくりと、微かな痙攣にも似た身じろぎが返った。「お前が泣いても、俺はどうもしてやれない」
 束の間を置いて、ミスリアが囁くように訊ねる。

「本気で……そんなこと思ってるんですか?」
 姿形がまだくっきりとしないため表情は見えないが、声の調子を聴く限りでは驚いているらしかった。
「質問の意味がわからない」
 そう返事してやると――ふ、とミスリアは小さく息を吐いて笑った。

「ゲズゥは優しいですね」
 計らずも瞠目してしまった。多分、少女の声音があまりに柔らかく、聴いたこともないような温もりを含んでいたからだろう。
 反応に窮した果てに、ゲズゥは訝しげに答えた。

「その手の寝言をぬかすのはお前だけだ」
「でも、私は本当にそう思ってますよ」

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13:38:40 | 小説 | コメント(0) | page top↑
アクリル2
2015 / 08 / 10 ( Mon )


新作アクリルたわしっす。
もっと花っぽいデザインを追求したけど微妙にうまく行ってない?

本編続きは今日明日辺りにポッと出るでしょう( ̄▽ ̄)

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01:32:13 | 余談 | コメント(0) | page top↑
突発的A
2015 / 08 / 06 ( Thu )
Qがあったわけではないんですが、突然やってみたくなったので、勝手に遊んじゃいます。
ふひひ。

そういえばツイッターで「力を入れたシーン」に関する質問を見たりするんですが、今私が振り返ってみるとどの作品も至るところで力を入れているので、答えづらいなとおもいました、まる


Q: ミスリアとゲズゥは宿などに泊まるとき、同じ部屋?
A: 同じ部屋です。2ベッド以上を頼むのがデフォルト。1ベッドしか無い場合は、ゲズゥが扉に背を預けて寝ます。本人はあまりベッドを必要としない感じ。教会みたいな危険人物の気配が薄い場合、木の上や屋根の上で寝たりします。

Q: ゲズゥはよく木の上で寝てるけど、落ちたりする?
A: 落ちます。眠りが浅いので大抵は寝返り打つ前に気付くんですが、たまに普通に落ちます。こう書くと間抜けっぽいですが、これが現実です(笑

Q: ゲズゥはミスリアの風呂や着替えを覗かないの?
A: 興味ないらしいです。ミスリアの「女」をあまり意識してないのがメインな理由。しかもあくまで身近にいる存在なので、欲しくなったとしてもいつでも手を伸ばせる、という余裕があります。その際はこそこそせずに真っ向から攻めるでしょう(笑) お年頃のもどかしさを一切搭載してない野郎ですみません!

Q: リーデンとイマリナは一体どういうアレなのか?
A: 私にも謎です。この二人が清い仲か否かは想像にお任せします。多分最終回を跨ぐまでは誰にもわからないでしょう。



アンケート、こっそりチェックしてますよ。圧倒的主役カプ支持に2828してます。
ごほうび(?)の番外編は近々書くかもしれません。

ひゃっはー!

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21:27:57 | 余談 | コメント(0) | page top↑
46 あとがき
2015 / 08 / 05 ( Wed )
今回のカルロンギィのエピソードは「ミスリア」にしては予想(私の)を超える複雑化が進んでいますが、すっきりとした問題解決に向かって頑張りますw

渓谷のコンセプトに10%くらいニーアゲシュタルト(スクエアエニックス)の影響が出ているかもしれません。


つづきは読み終わった人どうぞー

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00:27:21 | 挨拶 | コメント(0) | page top↑
46.h.
2015 / 08 / 05 ( Wed )
「そうですね」
 せっかくなので、ミスリアは王子にも当の聖地の逸話を語り聞かせた。七百年前に起こったとされる一つの衝突の話を。
 聞き終わった王子は、「怪獣大戦だな」と笑った。

「しかし、これはヒントかもしれない」
 最初はニヤニヤ笑いを浮かべていた彼が、次第に思慮深い表情に変化していった。
「ヒントとはどういうことですか?」
「もしも谷底の混じり物がその怪獣伝説を――」

 オルトファキテ王子がみなまで言うことは無かった。
 大気を切り裂く甲高い鳴き声が響き渡ったからだ。三人は弾かれるように音のした方を見上げた。
 遥か頭上を、巨大な影が飛行している。

 影の形は長く、左右対称的で、まるで尾や翼を有したように見える。尾の形状を見るに、鳥とはかけ離れた外観だった。
 ――竜などという存在は、空想か伝承か魔性の中にしか具象化されない。そう、ミスリアは認識している。

(まだ陽が落ちてないのに魔物!?)
 それともこれこそが王子の言う「混じり物」だろうか。
 影は咆哮した。骨の髄まで揺さぶられるような、ただならぬ振動だった。一行はその場に縫い付けられて微動だにできない。

 余韻が消えて谷が静寂に包まれてもまだ、呼吸をしていいのかわからなかった。
 影は大きく羽ばたいてゆったりと旋回する。己の意思とは無関係に、魅入ってしまう。
 やがて、ぱらぱらと小石の落ちるような音が耳朶に届いた。

(あれ? 影がこっち来る)
 放心状態からのろのろと抜け出し、目を擦る。
「ミスリア!」
 いつになく切羽詰った声が呼ばわったのと時を同じくして、雨粒が頬を打った。
 あっという間に大雨になった。この世の一切を叩き潰すかのような勢いをつけた水が、忽ち身体を重くする。

 次いで腕を掴まれ、引かれた。暗転した視界に驚いている間に岩場が激しく震動した。何か大きな物がぶつかったのだろう。
 足の下にあった地面が突如崩れ――
 ――落下が始まった。

「目を閉じて息を止めろ! 運が良ければ河の中に落ちる」
 聴き慣れた低い声が怒鳴りつけてくる。
「んっ」
 即座に指示通りにした。

 運が悪かったらどうなるの、と想像している余裕も無かった。抱き抱えてくれる腕に負けじと、ミスリアは必死に青年にしがみつく。
 直後、衝撃が意識を埋め尽くした。

_______

 左眼に映し出される映像が一瞬だけ見知らぬ別物とすり替わった。

(……水飛沫?)
 あまり経験しない現象ではあるものの、リーデン・ユラス・クレインカティには何が起きたのかちゃんと飲み込めた。

「どうかされましたか、解放主(ヴゥラフ)?」
 その所為でぼんやりしてしまったらしい。すぐ近くに控える中年の女が、眉根を寄せて覗き込んできた。
「何でもないよ。で、何の話だっけ」

「あなたさまに、谷底に根付いた脅威を排除していただきたいと、申し上げたのです」
「ふうん。そんなことして僕に何のメリットがあるのかな」
「あまり多くのお礼はできませんけれど……」
 彼女の目線が向かった先には、民がかき集めた食物やら薬草やら山羊やらがある。

「あー、いいよいいよ。大体わかった」
 問いは形式的なもので、リーデンはこんな辺鄙な小国にこれといった期待をしていたわけではない。どう返されたところで決断は変わらない。面白けりゃ何でもいいや、くらいにしか思っていないのである。

「解放主、お供の方をお連れいたしました」
 一人の男が前に進み出た。その背後から人影が飛び出て、一直線に向かってくる。
 ちなみにカルロンギィの民の勝手な思い込みの中では、いつの間にかリーデンが集団のリーダーだったみたいな解釈になっている。実際は十四、十五歳ほどの少女がその立場だったと知れば彼らはどう思うのか、興味深い。

「おかえりマリちゃん」
 リーデンは胸に飛び込んできたイマリナをしっかり抱き止めた。彼女の温もりを身近に感じ、宥めるようにその背中をさすりながらも、そのまま取り囲む連中を観察した。
 連中は他の二人については何も言わない――しかし少なくともミスリアが自ら脱走したらしいのはさりげない手話で今しがた知ったので、よしとする。

「で? さっきの鳴き声、何? みんな、何も聴こえてませんみたいな顔して全力で無視してたみたいだけど」
 そう責めた途端、通訳の女は気まずそうに俯いた。

「……あれは催促ですわ」
「あのさぁ。もっとこう、わかるように言ってよ」
「ですから……我々に、妙齢の娘を差し出せと。数週間ごとに、化け物が催促に来るのです」
 手を握り合わせた女が消え入るように答える。

「へ、えー? それはまたどっかの神話みたいなやり口だね」
 自分はそれを聞いてどんな感想を抱いたのか、それとも抱けばいいのか、リーデンはすぐにはわからなかった。
 ただ、イマリナを一層きつく抱き締めながら、小さな聖女の安否に思いを馳せた。

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00:12:42 | 小説 | コメント(0) | page top↑
46.g.
2015 / 08 / 03 ( Mon )
 そもそも呪いなんてものが本当に実現可能か? この時この瞬間、ミスリアが思い起こせる知識に照らし合わせただけでは、判断しかねる。

(聖気が生き物に影響するように、瘴気にもそんな効力があるとしたら、可能なのかな)
 しかしそう決めつけるには材料が足りない。器を核として瘴気の流れを生じさせ、それを何かに向けて流し込む――その工程は聖気を施す以上に、術者の「意思」に依存している気がする。

 そんなことが可能だとすれば、扱うのは魔物などではなく、人間と同等以上の自我を持った存在でなければならない。
 しかも、聖気を扱う為の知識と技能は教団や旧信仰の神官たちが長年研究してきたからこそ、人生経験の浅いミスリアのような人員にも習得できるようになっている。ならば瘴気で似たことをするには何が必要か?

 ――ゾッとした。

(待って。違うの、私は瘴気を呪いに進化させようとずっと研究している人間が居たのかなって仮定したかったのであって……違うの。聖気を熟知した立場の人間が逆の試みをしたとか、そういう疑いを持ちたかったわけじゃ)
 混乱のあまり、ミスリアはその場に立ち止まって両の拳を握りしめた。

(考えすぎよね)
 最近やたらと魔物信仰だとか、魔物を体内に取り込んで人間の枠を超越したがったエピソードだとか、道を外した行いに関する見聞を広げ過ぎただけなのだろう。そう、自分に言い聞かせた。

「オルト、この風」
 最後尾を歩いていたゲズゥがふいに声を張り上げた。意外と声が近くてミスリアは小さく身じろぎした。
「ああ、まずいな。一雨来るやもしれん。濡れたら足場がかなり歩きにくくなる。急ぐぞ」
 二人の話をきっかけに、ミスリアも空気の流れに意識を集中させてみた。なるほど、気温は下がっているし肌寒い風も前よりも頻繁に吹き抜けている。

 王子の急かす一声に従い、一同は小走りになって坂を下りた。最早それは獣道と化しており、ミスリアにとっては何度かバランスを崩すまでの難易度に上がっていた。その都度後ろから腕を掴んで支えてくれるゲズゥを振り返ると、彼は傷だらけの足をなんともなさそうに進めていた。

(ひと段落ついたら治癒してあげよう)
 と言っても、あとどれくらい歩くのか、わからない。先刻からずっと風景は変動しているはずなのにミスリアにはあまり見分けが付かなかった。左右にそびえる谷の高さからして、大分降下してきたという点には自信が持てるけれど。

「そういえば聞きそびれたが、お前たちは元々巡礼の為に来ていたのか」
 意気消沈しそうな間際。有り難いことに王子がまた気を紛らわせる為に話を振ってきた。ミスリアは特に警戒せずに応じた。
「はい。カルロンギィ渓谷に、聖地と認められている箇所があります」
「ほう、それは知らなかった」

「前回聖獣が蘇った約四百年前ではなく、更に三百年遡った頃の出来事だと言い伝えられています」
「七百年前か。想像も及ばぬような時間だな」

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07:22:17 | 小説 | コメント(0) | page top↑
46.f.
2015 / 08 / 02 ( Sun )
 ゲズゥはくるりと王子に背を向けて、こちらを見下ろした。

「怪我」
 この冷静な双眸と視線を絡めると、ミスリアは逆に落ち着かない。そんなに寒いわけでもないのに両手の指を擦りあわせた。
「ありません。檻や崖を登る苦労も王子が負担して下さったので、私は擦り傷すら負ってません。ゲズゥの方こそ大丈夫でしたか?」

「逆さに吊るされてた名残を除けば、大したことない」
 そう答えて彼はこめかみに指関節を押し当てた。よく見ると足首や手首の周りに充血の痕がある。
 というよりも、改めてみると、この不自然なまでの肌の露出。ミスリアも上着や荷物がなくなっているが、ゲズゥに至っては言葉通りに身ぐるみを剥がされている。

 まるで見計らったかのようにぶわっと何かが宙を横切って飛んできた。大きな布を、ゲズゥは片手で受け取る。

「お前には丈が短いだろうが、無いよりマシだ。使え」
「…………」
 ゲズゥは訝しげに眉をひそめた。その手にあるのは、砂色のマントである。ついさっきまでの持ち主であった王子は、黒に近い濃い茶色の髪をかき上げる。

「流石に腰布一枚じゃあ過ごせまい? 悪いが、私物の回収は後にしてもらおう。じきに日が暮れる」
 彼は時刻を気にする発言をし、サッと天を一瞥した。青空はいつしか雲の割合がかなり増えている。
「……不本意ながら、礼を言う。ミスリアに関しても」
 やっとのことで口を開いたゲズゥは、機械的に言葉を連ねた。言い終わる前にも手を動かし、マントを羽織っていた。胸元で紐を結び合わせると、少なくとも上半身は完全に覆われる。

「気にするな。借りとは、返せばいいだけのもの」
 もっと恩着せがましいことを言うのかと思いきや、王子はあっさり流して歩き出した。深く考えずにミスリアたちもその背後についた。
 岩場なのに裸足で大丈夫かな――とミスリアはゲズゥの足の裏の皮膚が気がかりだったが、私物の回収をしている暇は無いという発言の方が重要度が上だと判断し、道すがら問い質すことにした。

「あの、じきに日が暮れるというのは、魔物の出現を危惧してるのですか?」
「魔物じゃなく――『混じり物』の活動時間に、おそらく昼夜の制限は無い。ただ、理由はまだ突き止めていないが、ヤツは夜に活動するのを好むらしい。私がこれまで観察してきた分にはな」
 オルトファキテ王子は大袈裟に肩をすくめてみせた。

「活動していない時間に探りを入れるのが狙いか」
 そこでゲズゥが静かに口を挟む。
「そういうことになる」
 王子は振り返らずに相槌を打った。

(でもオルトファキテ王子なら、探りに行くくらい一人でも向かってそうなものだけど……)
 もしや腕の異常はその結果だったりしたのだろうか。
 毒などではなく魔物か「混じり物」が発した呪いみたいな物だったりして――?



ほぼ裸マントってなんだwwww 気が付けば状況的にこうなったのであって、断じて私やゲズゥの趣味ではありませんよwww

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11:55:37 | 小説 | コメント(0) | page top↑
46.e.
2015 / 07 / 30 ( Thu )
 それに対して先ず抱いた感情は、畏怖だった。
 ミスリアは内ポケットの水晶を無意識に撫でた。

(すごくハッキリしてる)
 眼窩に戻った呪いの眼があの光の発信源なのは明白だが、以前は微かにしか目視できなかったのが、今度は昼間にも目に見えるほどに濃い。半歩後退ったのは不可抗力だ。
 ゲズゥは崖を登り切ると、鍵束を落として尻餅をついた。息を整えてから、どことなく不機嫌そうにこちらを向いた。

「ミスリア」
 首を斜めに逸らす仕草で、こっちに来い、と伝えている。
 呼ばれたミスリアはたじろいだ。彼の不機嫌の原因に思い当たらなくて、気後れする。
(ううん、きっと大丈夫)
 再会への心配と安心を胸の奥でモヤモヤさせたまま、結局駆け寄ることにした。

「オルト、お前には用が無いが」
 立ち上がったゲズゥは「さっさと消えろ」とでも言いたげな視線を知人に向けた。不機嫌の原因は王子だったようだ。なんとなくミスリアは気が抜けて、ゲズゥの隣に立った。
 どうしてかその位置には言葉に表せない安心感があった。無事で良かった――しみじみそう思う。

「ご挨拶だな。私も久しぶりにお前に会えて嬉しいよ」
 王子は浴びせられた嫌味をものともせずに笑った。そんな彼を、ゲズゥは目を細めて睨んだ。
「見ていたな」
「ほう、何を?」

「リーデンだけが連れ去られた場面だ。何故崖に吊るすのか……連中の狙いも、わかっていただろう」
「ああ、わかっていたぞ。何を隠そう先に同じ目に遭っている。よってお前たちに比べれば遥かに状況を理解していた」

「放っておいてもいずれ解放されていたはずだったのも、か」
 もしかして助けに来てくれたことを責めているのだろうか、とミスリアは意外に思って隣の青年を見上げた。

「解放どころかその眼があれば優遇すらされたかもしれないな。妙な手違いによって、崇められているのはお前ではなく銀髪の方だが」
 王子の思わせぶりな眼差しや仕草からは、呪いの眼の正体や、ゲズゥの左眼から漏れる瘴気が見えているのかどうかまでは読み取れない。或いは彼はあらゆる事情を把握しているのかもしれない。

「だからこそ逃れる必要があった。連中の四六時中の監視の目があっては望むように立ち回れないし、隠し事もされやすい。情報に誤りが生まれては面倒だ」
「……お前は俺らに何をさせる気だ」
 その問いかけで、腑に落ちた。ゲズゥが不機嫌なのは、助けられたことに不信感を持っているのは、目の前の王子が企みを秘めているからだ。

 そこまでわかると、ミスリアも興味津々に返事を待った。

「わかっているくせにいちいち訊くな。私は都市国家郡を連邦とし、他国に抵抗しうる一つの勢力として育て上げるのが目的だ。残る地の一つ、カルロンギィ渓谷は国としての機能が不完全だったため、偵察に来た」

「そうしてお前一人の手には負えない厄介ごとを見つけたと」
「うむ。よって、お前たちの手助けを乞うことに決めた。何だ、姫君を救ってやったというのに礼の一言も無いのか?」

 口の端を歪に吊り上げた笑い方は、見る者の不快感を煽ごうとしている――ミスリアにはそんな気がしてならなかった。



ふと、オルトの発言のノリがちょっと折原○也に似ている気がしてきた…やべえ。嘘だと言ってよママン。


その辺に漂う瘴気と魔物が発する光はほぼ同じものです。ただ魔物に付着しているかしていないかで色が付きます。
同様に、大気中の聖気はあまり色がついてるようには見えませんが(レティカ除く)、器を通して発せられていると金色、魔性の物と混ざると銀色に見えます。

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13:53:49 | 小説 | コメント(0) | page top↑
46.d.
2015 / 07 / 29 ( Wed )
_______

 岩陰から崖下を見下ろしていたところ、急にミスリアは目を逸らした。谷を意識していると気分が悪くなるのだ。ましてや現在進行中に吊るされている者の心境を想像すると、もう最悪である。
 一方で隣のオルトファキテ王子は、平然とした顔で独り言交じりに状況を分析した。どうやってゲズゥを助け出そうかじっくり検討しているらしい。

「さて。本来ならばここは手詰まりとなるところだったが――何と間の良いことに、ちょうど見張りの連中が来ている上、その内の一人は鍵束を腰に提げている。これを好運と呼ばずしてなんと呼ぶか」
 岩陰に身を潜めたまま、王子は人差し指だけを動かして指摘した。彼の指差す方向には確かに三人の男性の姿がある。

 王子が身に纏う代物とよく似た砂色の服装をした現地人の内、二人はそれぞれ腰に縄を巻き、その端を崖上の低木に結び付けている。残る一人は縄の長さを調整する係として低木の傍に陣取っている。

「地上に残った方が鍵束を持ってる。つまり、まだゲズゥを解放する気は無さそうだな」
 ぼそりと王子が呟いた。
「様子を見に行っただけなんでしょうか……」
「かもしれん。どちらにせよ、動くなら今しかない」

 言いながらも腰が浮いている。王子は既に行動に移す好機をうかがっているのだ。
 彼は何の指示も出さなかったが、この場合自分にできることは身を隠して大人しくしていること、それのみだろうとミスリアは判断した。

 縄を締めた一人の男性が素早く後ろに跳び、崖を降下し始めた。もう一人も彼に続く。
 オルトファキテ王子は岩陰から飛び出し、谷肌に沿った坂を駆け下りた。あれほど狭い道だというのに、まるで躊躇なく進んでいる。
 頃合いを見て地面を蹴った。

「――!」
 仲間たちの為に縄を持っていた現地人の男性は、異変に気付いて喚いている。しかし役割上、踏ん張るしかできない。避けたり逃げたりすれば縄を離してしまうし、そうなれば仲間たちの大怪我は必然である。

 ところが跳び蹴りはフェイントだったらしい。すんでのところで王子は着地して身を屈め、いつの間にか構えていたナイフを薙いで鍵束を奪い取った。
 奪われた側は吠えるようにして喚いた。

(この後どうするんだろう)
 ミスリアは身を乗り出して見守った。鍵を奪ったはいいが、どうやってそれを使うつもりなのか、降下中の二人をどうする気なのか――
 その時、袖の中から白い物が飛び出した。

「え!?」
 瞬く間にそれは視界から消えた。
(真っ先に考えられるのは、主の元に戻ったってことだけど!)
 気が付けばミスリアは岩陰から駆け出していた。

 崖っぷちに悠然と立っていた王子は視線を下に向けたまま、顎に手を当てた。何故か手ぶらになっている。
 そして次の瞬間には、縄持ち係の男のみぞおちに肘を当てて気絶させていた。唐突に尺の余った縄は、ぐんと張り、低木を軋ませた。

「何を――」
「まあ待て。この縄なら二人分の体重がかかっても平気そうだ」
「はい?」
「ほら、自力で上がってくるぞ」

 王子が指を指す方に目を向けた。すると、鍵束を歯の間に咥えた青年が縄を登って来るのが見える。
 無表情の青年は、顔の左半分から青白い光を立ち上らせていた。

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23:13:56 | 小説 | コメント(0) | page top↑
ぶははは(拍手コメ返信)
2015 / 07 / 28 ( Tue )
@みかんさま 46.a.

重いのかな(乙女の秘密)

兄弟はいつも軽々と持ち上げてますが、オルトさんは見た目はともかく実際の腕力は中の上程度なので、今回の救出劇もいっぱいいっぱいなのではないかと(笑





@ミスリア親衛隊さま 45.d & g.

うちのミスリアが心配おかけしました。
主人公には目玉のストーカーがついているので大丈夫です。

最近の護衛くんたち、おいしいところを関係ない人に掻っ攫われてばっかですねww
まあ、彼らは未熟者の青二才なんですから大目に見てやりましょう。


>>ゲズゥさん目玉が自立歩行してるんですが、実はちっさい生き物の集合体ですか? 臓物一つ一つが勝手にウロチョロしだすとかだったらグロいけれどシュールですね。

 あなた が 天才 か !

そんなメカニズムでしたらもはやファンタジーじゃなくてホラーです。夏のホラーです。エイリアン? うーん、改めて想像してみたら相当にキモいですな。


>> 久しぶりの瘋癲王子、なんでこんなところにいるんですか!?

【瘋癲(ふうてん)】
 精神的な疾患。
 定職を持たず街中などをふらつくこと。またはその人。
 1960年代から1970年代の日本における和風ヒッピーの俗称「フーテン」。
Wikipediaより

漢字が読めなくて思わずぐぐってしまいましたよ。
和風Hippie!? 果たしてどの意味で使われているのでしょうかw
定職持っているのか怪しいのは間違いないですけどね!



我らが王子に安定した収入はあるのか!? 
続報を待て! (嘘予告

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