言葉の間違いについてお詫び
2013 / 01 / 07 ( Mon ) 18で書いた「バルコニー」ですが。
多分私の頭の中でBleacher と Balconyを混乱したのだと思います。 そこはバルコニーでなくスタンドと書くべきでした。 バルコニーは壁の外側などに引っ付いているスペースなんですね。 野外のコロッセオみたいなのにどうやってバルコニーを付けるんだって感じですね。 気にしてた人は少ないと思いますが万一読んでて「なんだろうこれ」な気分になってたらすみません! 手の空いた時に直します! |
19.c.
2013 / 01 / 07 ( Mon ) ふいに温かい柔らかさに包まれた。 どうやら後ろから抱きつかれたらしい。 「じゃあね」 数秒後には甘い残り香だけを残して、温もりは離れていた。 「ああ」 これが今生の別れになるかもしれないが、特に悲しいとも寂しいとも思わなかった。 ゲズゥは父親の形見である湾曲した大剣を左脇に抱えなおして歩き出した。革の鞘を部分的に嵌めている。その内に父が使っていたような、全体を覆う鞘を用意した方がいいだろう。 通路を抜けた途端、目を背けた。そうしなければならないほどに外は明るんでいる。予想通りに空は晴れていた。 円状の観覧席は、人でひしめき合っている。山の上によくもこれだけ大きな建物を建てられたものだ、とも思うが、それよりもこれだけの人が一体どこから現れたのが謎だった。おそらくは山賊団の団員以外の知り合いも数時間の間に呼ばれたのだろう。 ――どいつもこいつも暇なのか? そう考えかけて、闘技場の中心にこちらに手招きするエンの姿を認めた。 「よっ。こっちこっち」 エンは麻ズボンと白いシャツの上に、上等そうな青みがかった黒のベストを着ていた。飄々と笑いつつ普段より僅かに気が引き締まったような姿勢を見せ、黒髪を頭の後ろでくくっている。腰回りに太い鎖がかかっているのは先刻と同じである。 「揃ったことだし、始めようぜ」 彼がそう言った途端、雄叫びのようなものが闘技場に響き渡った。 その音の波に打たれた観衆は直ちに静まり返り、至近距離でそれを聴いたゲズゥは無意識に半歩さがった。更に至近距離で聴いたであろうエンは、目を細めるだけで笑みを崩さない。 エンの背後に仁王立ちで構えていた大男が、閉じた口の端を吊り上げた。 「楽しみに待っていたぞ、ゲズゥ・スディル」 がはは、と大笑いしながら頭領は前へ出た。 改めて見上げると随分と独特な顔立ちだ。大きな鼻と耳と口に、主張の強い眉骨。世間がこういう顔をどう評するかはよくわからないが、肉食獣を連想させる、野性的で強そうな雰囲気を醸し出しているのは確かだった。 「そんじゃあルール説明しますよー」 都合よく訪れた静寂に乗じて、エンが両手を広げて喋り出した。 「時間は無制限、使用可能な武器は開始時に身に付けてたモノのみ。勿論、身に付けているモノなら靴でも服でもアクセサリーでも何でも使ってよし。ここまではいつもと同じな」 一拍置いて、彼はまた大きく息を吸って話を続けた。段々と口調が砕けてきている。 「ただし、勝敗の決まり方。いつもだと敗北の条件は勝者または観衆に任せてるわけで、気絶でも口での『参った』でも相手を殺してもいいけど、今日は事情が絡んでっからオレが審判だ。よって、気絶して二十六秒以内に起き上がらなかった方を負けとする!」 「二十六? どうせなら三十でいいだろ?」 観覧席の誰かが不思議そうに問う。 「何でそんな半端な数字かってーとオレの歳の数だからだ。そんだけ」 エンがあっけらかんと返事をすると、会場中に笑いが広がった。 「両者から何か質問は?」 「ねぇよ。さっさとやり合わせろ、イトゥ=エンキ」 「無い」 満足そうに顎を引いてから、エンは後ろへ数歩下がった。壁まで下がったところで、左右へそれぞれ人差し指を指した。 「先ずは、十ヤード以上離れてもらう」 ゲズゥは言われた通りにした。頭領もズシズシと砂利を踏みしめながら離れていく。 「さてココに木の実がある。皆おなじみの緑色の酸っぱい奴」 エンは指の間に、拳よりも小さい緑の球体を持っていた。 「オレがこれを上へ投げる。木の実が地面に落ちたら、開始だ」 わかりやすい合図だ。音が小さいのが難点だが、会場には当然のように静寂が落ちたので問題ない。 ゲズゥは大剣を包む革の鞘の留め金を外し、鞘のパーツを遠くへ投げた。 どんな武器も身に付くとはよく言ったもので、それは裏を返せば一つの武器を集中的に極めていないとも言う。旅の途中で手に入ったこの大剣は使い慣れただけで極めてなどいない。 ゲズゥは素手での肉弾戦が最も得意だったが、今日の相手に、素手では分が悪すぎた。 勝算があるとすれば、あの巨漢から戦斧を離すしかない。 「用意はいいかー」 エンは肘を曲げた腕を下ろしては上へ上げた。 鮮やかな緑色の木の実が宙に放たれる。 ゲズゥは己の敵手へと視線を降り戻した。 頭領の放つ殺気に当てられないように、心を鎮める。これが森の中で遭遇した野獣なら、選択肢はたった二つ――完全に静止してやり過ごすか、一目散に逃げるか。決して戦おうなどとは考えない。 しかしここは森の中ではなく、相手も野獣ではなく人間だ。 ――ボトッ。 待っていた音が、右横からハッキリと聴こえた。 |
気になるキャラあんけは今月末までで
2013 / 01 / 05 ( Sat ) ――閉じることにしまーす(・∀・)
色々と(?)参考になりました。 とりあえず主人公zが普通に愛されていてよかったよかった。 余談ですが今後は伊藤さんことイトゥ=エンキのバックストーリーが出てくる予定。この子はくだけた喋り方が扱いやすく楽しいわー。 |
19.b.
2013 / 01 / 02 ( Wed )
「それより、頭のコレな」
エンは手の中の戦斧を指差した。
何か有力な情報を得られる予感がして、ゲズゥは顔を上げた。紫色の瞳と目が合った。
「コレは昔使ってた奴。最近のとはちょっと違うぜ。今は腰に提げてる短い斧と、背負ってる長い斧があって……長い戦斧の方は、どっちかっつーと鈍器に近い。昔は鋭利なのを使ってて短い方は投げる専門だから今もそうだけど。長いのはあんまり斬れない方が相手をもっとよくいたぶれるからってさ」
そう言ったエンの顔にはハッキリとした嫌悪の感情が浮かんでいた。
「だから攻撃喰らったら骨が砕けて、内出血が無ければ、苦しみは長引く。しかも斧の部分は、昔のコレよりずっと重い」
逆に言えば打ち所が悪ければ間違いなく死に向かうということだ。内出血は厄介すぎる。砕かれた骨が急所に刺さっても厄介。
「……頭領の戦闘種族としての特性は、腕力に長けているように見えた」
「そんなんあるのか? まあ力は間違いないけど、頭はああ見えて脚力も人並み以上だぜ。でも大技ん時は右脇ががら空きだ。本人も熟知してる弱点だから簡単には突けないけどな」
手本のつもりか、エンは戦斧を大きく振った。
長い間あの頭領を注意深く見ていたからだろう。昨夜数分だけ戦ったゲズゥにもわかるぐらいに、型の再現率が高い。が、再現しているのは型だけで、速度や威力は比べ物にならない。
――身の丈に合った武器を選べ。誰かを真似ては無意味だ。
また、懐かしい声がした。
本来エンがひいきにしている武器が斧ではないから、なんとなしに振るっても頭領に敵わないのは当然だ。
よく見れば、最初丸腰だと思ったが、実はベルトか装飾品のように巻いている鎖が本来の奴の愛用する武器なのかもしれない。
「ちなみにお前の特性は?」
エンはまた斧を一度大きく振って、起き上がろうとしている魔物を斬った。
「俺の先祖の系統は優れた筋力と、主に瞬発力が特徴だ」
自分でも驚くほど、躊躇無く答えた。今まで誰と話していても決して舌に乗せなかった情報だ。この男に対して、妙な仲間意識でも芽生えているのだろうか?
危機感は無かった。ただの勘だが、この男は自称していた通りに信用に値する人間に思えた。
「ゼロから全力、静から動に移るのが速いってとこか。加えて、細マッチョ体格にしてはバカ重い剣を振り回せる力……天性の才能ってスゲーな」
「…………」
否定しなかった。この身体能力が祖先から受け継いだ数少ない重要な財産であるのは確かだ。
これだけを土台に、強くならなければ生きていけなかった。どうせならもっと別の何かを残してくれれば良かったのに、と考えても仕方が無いことだった。
ゲズゥは今度は自分から質問した。
「お前が常に感情を押し殺しているのは、『紋様の一族』のもう一つの特性が原因か」
紫色の双眸が一瞬、大きく見開かれる。
「それも知ってたのか。その通りだよ。まあその内見せてやるから、楽しみにしとけ」
淀みない答えが返ってきた。
「じきに夜が明ける。行こうぜ」
エンの提案に、ゲズゥは素直に頷いた。
これから死闘が待ち受けているというのに、心の内にさざなみ一つ立たなかった。ただ、自分だけでなくミスリアの命までかかっている点だけが気がかりであった。
_______
「後悔、してない?」
柔らかい微笑をたたえた絶世の美女が、いきなりわけのわからない質問を投げかけてきた。
ゲズゥは振り返る姿勢のまま、無言で続きを待った。
ここは闘技場の中心へ続く通路。あと二歩進めば屋外に出る。今まさに夜明けを迎えようとしている外では、鳥たちがしきりに鳴きあっていた。
アズリは今日は髪を頭の後ろに複雑に結い上げている。泡沫を思わせる淡い色のビーズや羽などが編み込まれ、色合いは首飾りや耳飾と揃えられている。当然、地面に引きずるほど長いガウンを彩る宝石とも合う。
腹の足しになどなりやしないのに、女はよくも外見にここまで手を込められるものだ。――いや、この女の場合はそれを武器に男に取り入るのだから、ある意味腹の足しになっているとも言えるか。
初めて出会った頃のアズリは今より遥かに化粧っ気がなく、飾らない服装に肩に届かない長さのストレートヘアといった、地味な外見をしていた。それでもその存在感や造形の美しさは、初めて見る者を絶句させるほどだった。
後に知ったことだが、それは当時の男の好みに合わせていたのだと言う。
我の強い彼女が性格や生活習慣まで調整することは無くても、なるべく外見を男の好みに合わせるのがポリシーだと言うのだから、今の派手な格好も頭領に合わせているのだろう。
「あの時私を望まなければ、アナタがあそこを追い出されることも無かったわ」
ようやくアズリが話を続けた。組んだ両腕の中で、輝かしい腕輪が幾つも重ねらた細い手首の内側を見つめている。そこに施された青い花の刺青は、かつて共に属していた集団の象徴だ。
「さあな」
ゲズゥはそう答えた直後に、ある日を回想した。
――アナタとは一緒に行けないの。悪く思わないでね。
――結局こうなるのか。
――わかっていたことでしょう? アナタの為にこのポジションを捨てることはできないわ。まぁ、殺されなかっただけよかったじゃない? 寛大な処置を有難く思って、一人で頑張って生きることね――
無邪気な、まったく悪びれない笑顔。
自分が何かくだらない衝動に憑かれていたに過ぎないと、真に発覚したのはその時かもしれなかった。しかしもともと他人に執着しない性格ゆえに、醒めた後はあっさり忘れるのも簡単だった。
現在のアズリが口元に手を当てて、困った顔で首を傾げた。滅多に見ない表情だ。
「私は楽しかったからいいけれど。せっかく仲間に迎えた十五歳の少年を独り苛酷な世に戻したの、これでも後悔したのよ?」
と、口では言っているが、本心がどうか知れない。ゲズゥはこの際相手にしないことに決めた。
「気にするな。見ての通り、生き延びている」
振り返っていた肩を戻して一歩前へ踏み出した。
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19.a.
2012 / 12 / 31 ( Mon )
両の手のひらの上に乗った重みを確かめるように、棒状のそれを僅かに上へ投げては受け止めた。見た目以上に、ずっしりと重い。握り締め直し、構えた。
木製の柄の先に斧を取り付けただけの簡素な戦斧だ。柄の部分は長いが、己の全身の身長にはまるで及ばない。とりあえずは軽く、何度か振り回してみた。普段あまり使わない筋肉が軋みを上げる。
――武器とは――
過去に受け取った言葉が頭の中に浮かんだ。勿論一句漏らさずに聞き取ったものではなく、記憶に残った解釈ではあるが。
――使いこなせなければ、かえって害になり得る。先ずは慣れろ。体の延長、果ては体の一部のように認識するんだ。
微かな懐かしさがこみ上げる。あの男から学んだことは多い。
「へぇ、様になってるじゃん」
現実に、掠れているとも言えるような声がした途端、ゲズゥ・スディルは戦斧を振り回す手を休めた。奴はまたしても余程警戒していなければ気付けないほど、巧みに気配を消していた。
「まさかソレ使う気か? 頭に対抗して」
「……原理を確かめている」
「あー、そっちか。真面目っつーか勤勉でカッコいいな。どんな武器も身に付くのって才能だぜ。戦闘種族だからか?」
声の主――ボサボサの黒髪に左頬の複雑な模様が印象的な男が、口元に薄い笑みを乗せて拍手した。布を巻かれた大きな板のような荷物を背負っている。
ゲズゥは男から顔を背け、戦斧へと注意を戻した。
夜明け前の山上は、薄明るくて少し肌寒い。
本来なら山賊の朝は遅いのだろう――他に誰かが起きている気配は無い。
この食堂スペースから見える空は灰色だったが、これから晴れそうな気がする。決闘を行う闘技場に天井は無いのだから都合がいい。
「これ、返すぜ」
模様の男は背の大荷物を降ろした。見渡す限りの山々に現れた幾つかの影を見据えている。
ゲズゥも風に乗った嫌な臭いと、聴き慣れた鳥の鳴き声に混じった不自然な鳴き声にすぐに気付いたが、対応に急がなかった。
「どうせ陽に当たれば霧散すんだから、わざわざ構ってやんなくてもいいかな」
のんびりとした提言があった。
「準備運動代わり」
男から大荷物を受け取ったゲズゥは、逆に戦斧を渡した。見たところ、模様の男は丸腰だ。男は戦斧を受け取ると、思案するようにその柄をトントンと肩に当てた。
「やっぱ真面目だな。じゃーオレも付き合うとするか」
二人はそれぞれの武器を構えた。ゲズゥは模様の男と自然に背中を合わせた。
見渡す限りの山と空に、冗談みたいな外観の化け物が複数邪魔をしている。豚と蛇と魚をごちゃ混ぜにして羽根を生やしたようなものだ。
先に、模様の男が動いた。素手で戦っていた時よりもややスピードの劣る動きで、襲い来る魔物を払う。
ゲズゥも一拍後に続いた。布を巻かれたままで大剣を振るうも、それ自体は大した妨げにならなかった。ほとんどが単独に真っ直ぐ向かってくるだけの雑魚に過ぎない。ゲズゥはあくまで準備運動と称すにふさわしい軽やかな動きで、呼吸に合わせて剣を薙ぎ払った。
そうして数分としない内に、二人で敵を残らず討ち取った。軽く走った時と同じように息が上がり、全身の筋肉に心地よく血が巡る。
「模様の男」
霧散するまでに再生しないように蠢く化け物を一匹踏みつけながら、背後に呼びかけた。すると目の端に奴が大袈裟に肩を落としたのが映った。
「その呼び方はねーよ。イトゥ=エンキが覚えにくいってんなら、特別にエンって呼んでもいいぜ」
呆れた声が返ってきた。
少しの間考えてから、ならばとゲズゥは再び口火を切った。
「エン――」
「やだよ」
「…………」
「引き受けらんねーな。悪いがオレは自分のことで精一杯なんだ、岸壁の教会まで一緒に行けてもそっから先は嬢ちゃんの面倒は見れねーよ。あの子を守るのはお前の役目だろ」
まだ何一つ言っていないのに、模様の男――エンは、こちらの考えを総て見通していた。
しかし岸壁の教会とやらまで辿り着けさえすれば、後は教会の援助でミスリアは旅を続けられるはずだ、とふと思った。
「守るのが役目、か」
「ん? 違ったんか?」
「――――いや」
違わない、とまでは言わなかった。
確かにミスリアには母の魂を解放してもらった恩があるが、それ以外に自分があの少女の盾になろうとする根底には自己の願いがあるのではないか、と最近疑問に思う。
故郷もアレも満足に守れなかった自分が、運良く得た第二の人生で誰かを守ろうとしているなど滑稽だ。
ゲズゥはそれ以上は何も言い出さずに剣の布を解き始めた。奴も言及しない。
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ふらいんぐ Happy New Year
2012 / 12 / 29 ( Sat ) |
めりくり。甲は家族旅行中です
2012 / 12 / 25 ( Tue ) アズリとゲズゥは二人、食事をしつつ赤ワインを飲んでいた。
「メリークリスマス!」(ワイングラスを合わせる)
「何だ? それは」
「遠い世界の祭日よ。祝い方は色々あるみたいだけど、中には恋人同士で聖なる夜を過ごすとこもあるってね」
「……誰と誰が恋人同士だって?」
「冷たいわねー アナタと私の仲でしょう」
「より強い男が現れれば簡単に乗り換えるような女と、どんな仲になれと」
「それは性分だから仕方ないの。悪く思わないで」(にっこり)
「……」
「あ、でも、家族と友達とかと大勢で祝うとこもあるって。というわけでミスリアちゃんも誘おうかしら」
「好きにしろ」
「また素直じゃないんだから……いなくて退屈してたでしょう? ずっとしかめっ面だったもの」
「……言ってろ」
「はいはい♪ 呼んでくるわー」
近未来にあるかもしれないお話。ないだろうけど )^o^( |
18 あとがき&19 前書き
2012 / 12 / 22 ( Sat )
どうもー。無事に脱アフリカ(?)を果たした甲です。
そして速いネット万歳。
Dir en grey 新曲万歳。
北は寒いね!! 雪降ってるよ雪!
指先の感触が無い!
ちょっと遅れましたがあとがきです。っていうか前書き?うん。
続きへどうぞー
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18.j.
2012 / 12 / 19 ( Wed ) イトゥ=エンキはゲズゥの方に視線を投げた。
彼は既に壁から離れ、振り上げられた凶器の延長線上を外れている。 「折れた」 ゲズゥは、イトゥ=エンキに向けて心なしか申し訳無さそうに呟いた。折れた直刀を見せるようにして差し出している。 「あー、気にすんな。別に値打ちもんじゃねーし。お前のでっかい剣は保管スペースに置きっぱなしだからな、そいつで我慢させてこっちこそ悪いな」 「……いや。助かった」 彼は軽く目礼を返した。 (あら、素直) どうやら直刀はイトゥ=エンキが貸したらしい。 ――どういう思惑があって? 他の皆も同じ疑問を抱いているだろう。あの人といえば、嫌そうに顔を歪めている。 「ちっ」 興をそがれたのか、あの人は力を抜いた。それに応じてイトゥ=エンキが鎖を緩め、戦斧は下ろされた。 これまで傍観を決め込んでいたヴィーナは立ち上がり、騒ぎの中心へ歩を進めた。まずはあの人の腕にそっと触れて笑いかけ、彼の表情が和らいだ後、ヴィーナは残る二人の方を向いた。 「あなた達いつの間に仲良くなったの?」 「仲良くはなってませんて。すれ違いざまに渡しただけですよ」 食えない笑顔で、イトゥ=エンキが否定した。 「それより、提案があります」 「おう、儂もおめぇが何考えてんのか聞きてぇなぁ」 あの人のやんわりとした威嚇にも、イトゥ=エンキはまったく動じなかった。 「はい。ただの試合じゃあつまらないから、条件付けませんか? もしソイツが頭に勝てば、二人を無傷で送り出すってことで。聞けば、西へ進みたいんだそうです。ついでにそこの坊(ボン)の命もオマケにつけるってどうですか」 彼は床に転がる貴族の五男坊を指差した。元はといえばゲズゥはその男を助けようとしていたはずである。 「いいんじゃない、賭けるモノがあった方が断然面白いわ」 ヴィーナはすかさず賛成した。 戦闘種族同士が本格的に決着をつけるというのなら、それだけで退屈しないだろう。ただ、ゲズゥは淡々とした性格のまま、戦闘に於いてもどんなに劣勢になっても一貫して冷静である。ヴィーナとしては彼がもっと必死になっている姿も見てみたい。 「ほう、では負けたら三人とも人生をわしに預けるってことでいいんだなぁ?」 「ん。そこんとこどうよ? ミスリア嬢ちゃん」 イトゥ=エンキの一声で、全員の注目が後方の小さな女の子に集まった。ヴィーナが着せた衣装のままだ。何度見てもよく似合っていて可愛い。 急に話を振られたミスリアは三度、瞬いた。まるで三人分の命を背負う覚悟を、一人ずつ決めたように。 彼女はゲズゥを一瞥し、そして茶色の眼差しをあの人に注いだ。 (断れる訳が無いわよね、他に取引に使える材料が乏しいから) 彼女にとっては苦渋の選択かもしれないが、選択肢が一つしかないのだから、どうしようもない。可哀相だと思うよりもプレッシャーに潰れて泣き出す様を見てみたい気もするが、そうはならなかった。 巨漢を見上げたまま、少女のピンク色の唇が花びらのように静かに開いた。 「条件を受けましょう。約束します。お互い決して破りませんよう、この場に居る皆様と、イトゥ=エンキさん、貴方が証人です」 「任せろ」 左頬に鮮やかな紋様を持つ男がニヤリと笑った。 「決まりだ。明日、夜が明けたら開始だ」 あの人もいつの間にか楽しそうにしている。観衆も大盛り上がりだ。ヴィーナとて自然に顔が綻んだが――ゲズゥだけが顔をしかめたのが、視界の端に映った。 _______ 冷たく湿った部屋の中でそこだけが暖かそうに見えたのは、あの淡い金色の光の所為に違いない。少女の小さな背中を眺めつつそんなことを思った。 ゲズゥはミスリアと背中合わせに床に腰を下ろした。宴は再開され、そのため今は此処には誰も居ない。 「きゃ! あ、ゲズゥですか……」 一度吃驚して震え上がったのが背中越しに伝わる。 ミスリアは先刻拷問を受けていた男を自分の手で介抱していた。水と少量の食べ物を与えたらすぐに眠ったので、今のうちにバレない程度に聖気を当てているらしい。 「……すみません。貴方ばかり、危険な目に」 展開されていた聖気が消えたのと同時に、ぽつりと謝罪の言葉が響いた。 「どうせ、成り行きに任せようものなら不定期に拘留されただろう。むしろ願っても無い話だ」 ゲズゥは肩から振り返った。 何を思うわけでもなく、少女の柔らかい栗色の髪を一房、指ですくった。――暖かい。するりと、ぬくもりが指の間から逃げる。 驚きに彩られたミスリアの瞳が見上げてきた。 「――万が一俺が死んだら、模様の男と結託して逃げろ」 言うかどうか迷っていた言葉を、やはり言うことにした。 負けたら終わりなのだから自分は負けはしないだろう、と思う。しかし、それはありのままの現実を無視した精神論でしかない。 「そんな悲しいこと言わないでください」 「悲しいも何も、現実に有り得る。対策は必要だ」 ミスリアが俯いた。 物分りがいいのだから、こちらの意図は充分に伝わり、何が正しいのかもわかるのだろう。 「貴方が死んで、私だけ生き残るのは、ダメです」 「…………」 わかったとしても、受け入れないらしい。それはミスリアが後を追って無駄死にしたいという意味ではないだろうが、真っ先にその考えにたどり着いた。 「そんな命の懸け方は……ダメです」 ミスリアの声は震えていた。 「せめて私も戦えたなら、良かったんですけど……」 「詮無いことを言うな。役割分担と思えばいい」 ミスリアは、そもそも用心棒のような役割をあてがう為にゲズゥを探り出したはずだ。 「……はい。ですから何としても一緒に、生き延びます。お願い、します」 ゲズゥは前を向き直った。心のどこかで、この反応を予想していたのかもしれない。それに対して、はっきり何とは言い切れないようなもやもやとした感情が沸き起こる。 「ひとつだけ訊きたい。お前は例えば他の誰とも知れない人間が処刑されるとしても、止めたのか? 自分にとっての利用価値など抜きにして」 「それは――偶然、見ず知らずの人間が処刑される場面に通りかかる場合……ですか?」 「ああ」 「……そんな状況にならないとわかりませんが、何もせずに見過ごしたりは……しないと思います」 澄んだ声が、静かに告げた。 即ち、何も見返りを求めていなかったとしても、ミスリアは無償の慈悲で助けてくれたかもしれない、と。そう思うと何故か嫌な気はしない。 「お前みたいな人間がもっと多く居たら、或いは……」 「?」 ――或いは、生き苦しくない世界であったかもしれない。 喉まで出掛かっていた言葉を飲み込み、ゲズゥは立ち上がった。 「もう寝る」 話を打ち切り、踵を返した。 「……はい。お休みなさい」 ミスリアは、別れを仄めかす言葉を口にしなかった。 |
名づけバトン
2012 / 12 / 17 ( Mon ) 淡色綺譚(http://awairo.iza-yoi.net/)の管理人さんがやってたの見て拾ってきたバトン。
【オリジナル名付けバトン】 1.オリジナル作品のタイトルを挙げてください 「聖女ミスリア巡礼紀行」 2.その由来(意味)を教えてください 物語の内容をスパッと一言で言い表すようなタイトルにしたくて、巡礼紀行とつけました。実際は紀行やら旅行記やらの作風ではないのですが。 「聖女巡礼紀行」だけで真面目な宗教関係の人の検索に引っかかりたくなかったので(笑)、主人公の名前を入れておきました。 3.主人公の名前は何ですか? ミスリア・ノイラート 一応ミスリアが主人公ポジションですが、ゲズゥも主役みたいなもんです。 4.その由来(意味)を教えてください 多分ミスリルから取ってます。理由は何もありません。ノイラートも適当です。 私は語呂というか頭の中に浮かんだ音の羅列をまず気に入って、それを名前に使いたくなるので…… 5.主人公以外のキャラの名前を挙げてください ゲズゥ・スディル カイルサィート・デューセ シューリマ・セェレテ オルトファキテ・キューナ・サスティワ ヴィーナキラトラ イトゥ=エンキ など。 6.その由来(意味)を教えてください 明確な由来があるのは少ないです。 デューセ→知人の苗字「ドゥーセット」から。 ヴィーナキラトラ→マダガスカルの州「ヴァキナンカラトラ」から。 イトゥ=エンキ→イトゥはインドネシアのバハーサ語から。意味は知らないw 7.舞台となっている場所(星、国、街、学校、組織) アルシュント大陸 大陸を縦断する旅の話なのでよく移動してますが、全部の場所に名前をつけているわけではありません。 大陸は現在18カ国という設定ですが、おそらく全部の国は出ません。 8.その由来(意味)を教えてください ただの語呂の思いつき。別の考えでは、最後まで名前付けずに「大陸」と呼ぼうかとも考えていました。 9.名前を付ける時の傾向、癖は何かありますか? 音を使いまわさないように気を使います。日本語名だと意味やキャラクターの性質を名前に結び付けますが、この「ミスリア」の場合はそんなの全然無いです。一貫して適当です。 ただ、ヨーロッパ風ファンタジーにありがちな名前は全力で避けています。その努力が反映されているのか、「サスティワ」や「ツェレネ」みたいな名前が出来上がり…。 地名をつけるときは検索にかけて、既存の名前でないことを確認してます。 10.回す人5人挙げてください ご自由にどうぞー。 |
12.17
2012 / 12 / 17 ( Mon ) どうも、ブログ公開一周年ですね。おめでとう私。
何かしたいとは思っていたのですが実生活が邪魔をする…! 二日後には大西洋を越えます。 ついでにDir en greyのニューシングル発売です ひゃっはー せめてクリスマスか新年は番外編を書きたいと思います。 次回更新は明日? になるかしら? では、どうかこれからも引き続きミスリア&ゲズゥの旅を見守っててください! |
18.i.
2012 / 12 / 12 ( Wed ) 防ぐ為の道具も武器も持っていなかったはずなのに? そう思った次の瞬間、ゲズゥが地面に垂直に構えた直刀が目に入った。 巧く防げたのは良いけれど、あまりもの衝撃で両腕が痺れたのだろう。彼は次に降りかかってきた一撃を満足に受け切れず、たたらを踏んだ。 既にあの人は新たに攻めに入っていた。 槍のように長い戦斧が力強く振り回される。 二人が打ち合う度に金属がぶつかり合う音が大きく響いた。 ゲズゥは振り下ろされる斧の攻撃を避けたり受け止めたりが精一杯といったところの、防戦一方を強いられている。しかも一撃一撃の重みを受け止めた直後は、次に体勢を立て直すまでのラグがある。段々と余裕が無くなって行ってるのは見ていてわかる。 (スピードはゲズゥの方が上なんだから、流れさえ掴めればひっくり返せるかもしれないでしょうに。最初の腕の痺れで遅れを取ったわね) それでも彼は脂汗一つ浮かべていないのだから、大した精神力である。負ければ自分の死に繋がる状況で。 一方、ミスリアといえば笑みを崩していない。こちらも存外、肝が据わっているのかもしれない。 ふいにあの人の顔が険しく歪んだ。斧の長い柄を握る大きな両手が小刻みに震えている。 「戦闘種族かあっ!」 突拍子も無い怒号に、観衆は何が起きたのかわからずに静まり返っている。 「戦闘種族」の性質を知らなければ、何を訴えているのか思い当たらないだろう。たまたまヴィーナは、前に聞いたことがあった。 あの人曰く、戦闘種族の血を受け継ぐ人間は、互いに共鳴する。といってもそれは目に見える現象ではなく、単に組み合えば、お互いがお互いに対し「もしかしてコイツも?」ってピンと来る程度のものらしい。 「儂の一番嫌いな人種だ!」 余興の邪魔をされた時と比べ物にならないほど怒り狂っている。鬼気迫るとはまさにこのこと。 更に激しい攻防が続いた。 「生まれ付き人より頑丈で優れて――」 ――ギィン! ゲズゥの手に持つ直刀が、半分になった。 「……お前も戦闘種族だろう」 静かに、ゲズゥが指摘した。その声は微かに息が上がっている。 「そうだ。だが薄い。より濃い血筋の奴らにゃあどう足掻いたってかなわねぇ」 「…………」 「てめぇが濃い目なのはやり合ってりゃすぐわかんだよ!」 斧がまた振り下ろされる。 ヴィーナはそのやり取りをのんびり静観しつつ、考えを巡らせていた。 ゲズゥが戦闘種族だったのは知らなかった。が、そうだと言われても驚けないような、並外れた身体能力の持ち主ではある。 驚く点は、戦闘種族がまだ居ること、それ自体だ。歴史の流れと共に数が減り、しかも同胞同士で群がって生活しないため、血は薄れる一方であるはずだ。知名度はイトゥ=エンキの「紋様の一族」よりも更に低い。 (まあ、重要なのはそこじゃなくて、あの人……) 彼は時折、戦闘種族に対するわだかまりを吐き出していた。その根底にあるのは劣等感だ。それに打ち勝とうとして長年弛まぬ努力を積み重ねてきたのを、一年前知り合ったばかりのヴィーナでもよく知っていた。本人は隠しているつもりで、頭のゆるい団員の多くは気付いていないが。 (ほんと、男ってかわいいわ) 弛まぬ努力と生まれ持った素質が合わさって、今の彼が出来上がった訳だ。 はっきり言って、いかにゲズゥが「天下の大罪人」でも戦闘種族でも、たったの十九歳では到底敵わない。体格だけじゃなくて武器や技の練度の問題である。あの人の前では青二才でしかない。 とはいえ、ゲズゥも鍛錬バカだから、そこら辺の青二才よりはできる。 もう少し育っていれば、ヴィーナも彼に本気で興味を示したかもしれない――。 その時、斧を避け続けていたゲズゥがついに追い詰められた。背中が壁に当たったのである。 ――終わったわね。 そう思ったが、鎖が振り上げられた戦斧の柄に巻きついた。今まさに斧を振り下ろさんとしていたあの人を背後から制した男は、飄々と笑った。 「ちょっと待ちませんかー、頭」 拷問の対象や他の人間を巧く避難させ、自分が介入する隙を伺っていた彼。 「おめぇは引っ込んでろ。イトゥ=エンキ」 「んー」 曖昧に唸るだけでイトゥ=エンキは鎖を握ったまま、応じない。 力で振り払うことは簡単だろうけど、あの人はそれをしない。我が子のように可愛がってきた男を万が一にも傷付けられないのである。本人もまたそれをわかっていて、無茶ができるのだろう。 |
18.h.
2012 / 12 / 10 ( Mon ) 最後に会った四年前と比べてゲズゥ・スディルが強くなっているのは想像が付く。そして近い未来にあの人と衝突するのも目に見えている。
くすりと笑いが漏れた。何事かと隣の巨漢がこちらを見遣るも、ヴィーナはただ微笑んで誤魔化した。 (細マッチョと正統派マッチョの対決、ね。見ものだわ) ヴィーナにこれといった筋肉愛好の趣向は無いが、男は強いに越したことは無い。権力者に寄り添うことが、彼女の何よりの楽しみだった。 雄というのは競い合っていないと落ち着かない生き物。ならば雌は、頂点に立つ者を選ぶことに意義がある――。 (さて、あの子は何をするつもりなのかしら?) わくわくと心が躍る。ヴィーナは赤ワインを飲み干した。 もう一人、揺れ動く人影を目の端に捉えた。ゲズゥほどではないにしろ背が高くて程よい筋肉体質。山賊団の中で実力も器も並み以上でありながら、なるべく目立ちたがらない稀有な男。 (イトゥ=エンキ……あの人と何かただならぬ因縁がありそうだけど、上手に隠しているものね) 親子のような関係だと他の団員は言っていたが、果たしてそんな単純な話で済むのか、ヴィーナは密かに疑問を抱き続けている。 (きっともっと泥臭くて血生臭いんでしょう) ここで彼が何をするつもりなのか、それもまた興味深い。 その時、鞭を持つ手がまたもや振り上げられた。それに釣られて観衆が歓声を上げる。 ヒュン、と空が切られる音。 しかしそれに続いたのは鞭が人の肌を打つ小気味いい音ではなく、何かを弾き飛ばしたような、奇妙な音だった。時を同じくして、拷問を受ける男の前に誰かが立ち塞がっている。 弾かれたのはおそらくゲズゥが手にしていた煙管。 的を外して空振った鞭が力なく垂れている。それを持っている男は頭が弱いのだろう、状況が飲み込めていなくて口を開けて呆けている。 虚ろな目の貴族の五男坊は、数瞬遅れて事態を飲み込めた。何もかもに諦めていたように項垂れていただけの彼が、身をよじり出した。両手両足を縛られているのでミミズが這うようだ。 「た、すけてくださ、い」 「……何だ! 邪魔すんな!」 我に返り激昂する執行役の男を、ゲズゥは無言で蹴倒した。 「たすけ、たすけてくれるんですか」 被害者はこの上なく見苦しくゲズゥの膝裏に頬を擦り付けて縋り付いている。ワインが不味くなりそうな気がして、ヴィーナはグラスを置いた。 「…………」 答えないことが、彼の答え。 早速面白くなってきた。ヴィーナは長い髪を首の後ろに払い、周りの反応を待った。 こんな大勢の見てる前で大胆に「余興」に邪魔立てするからにはあの人も黙っちゃいないだろう。 「ほ、う。いい度胸だ」 案の定だ。巨体が、怒気を漂わせながら仁王立ちになる。 「客だからって付け上がるのは許せねぇな。てめぇらの命なんざ儂の手のひらの上だ」 磨かれた戦斧がギラリと光った。 「だが一応理由は聞いてやろう」 「……が、そう望んだから」 問われて彼は淡々と答えた。主語が抜けていてもこの場合は関係なかった。 (その感情に形など無くても、特別なのは確かなのね) 右手に頬杖付いて、ヴィーナは離れた位置に居るはずの少女の姿を探した。怯えて隠れているのかと思ったが、その予想は外れていた。 派手なひらひらドレスに身を纏ったまま、彼女は真っ直ぐ姿勢を正して、笑っていた。優しく、優雅に、余裕を含んだ笑みが、実に興味を惹くものであった。 他にも振り返っては驚き、唖然とする人間が多く居る。 (聖女様はただの役職名だけではないということね) つまりはカリスマ性のようなものを発揮できるのかもしれない。 現に、他の団員はまだ彼女の正体に気付いていないだけに当惑気味だ。魅了されていると言ってもいい。 「ほほう、従順でカワイイな」 ゲズゥはそれに対して声に出して何も言わなかったが、彼を知るヴィーナにはその心の声が聴こえた気がした。 ――そう見えるなら、そうなんだろう。 ゲズゥ・スディルにとって他人の評価など何の意味も持たない物。他人の顔色を窺いながら生きるのが愚かだと思っているから――。 斧が回転しながら宙を舞った。 中距離からの投擲だとゲズゥなら避けるのは容易い。ただし人の密集しているこの広場では、彼が避ければ他の人に当たるのは必然だ。 (どうするかしら) 長い一瞬が過ぎ去った。 そして彼が素早く動いたかと思えば、次いで大きな衝撃音が響いた。 |
らくがき天国4
2012 / 12 / 09 ( Sun ) |
2000の想い
2012 / 12 / 09 ( Sun ) 私は今、重要な人生の一場面を前にしている。
大きなハードカバーの本で顔を隠したまま、すー、はー、と深呼吸を繰り返した。 失敗すると思う。激しい動悸で胸が痛い。 でもそれは挑む前に諦める言い訳にはならない! 今日こそ絶対に言ってみせる! 私は本を閉じ、ドンッと机に置いた。しまった、図書館なのに不自然に大きな音を立ててしまった。 目当ての人物は音に振り向かずに、腕に抱えた本を棚に戻す作業に夢中になっている。 偶然にも図書館に二人きりだなんて、貴重なチャンスである。私は立ち上がった。両手を背中に隠して、あの人に接近する。 「あの――」 声をかけようとして、詰まった。 彼が棚から視線を移し、腕の中に残る最後の一冊の本を確認している。ふいに見えた真剣な横顔に、私はうっかりドキッとした。 呆然と眺めていたら、彼が私の視線に気付いた。 「どうかしました?」 秋風のように清々しい声と爽やかな笑顔を向けられ、私はまた放心しかける。 「?」 彼は背に隠された私の両手に興味を示している。そこで私は我に返った。 「せ、先輩!」 「はい?」 「私、修道女過程で準備期間中の者ですが。あの、勉強会いつも有難うございます」 私は次に名を名乗った。 彼がたまに講師役を引き受ける勉強会に参加してると言っても、何十人中の一人だ。しかも私は際立った美人でもなければ秀才でもなく、発言もあまりしないから記憶に残らなくてもなんら不思議は無い。 彼の琥珀色の瞳が、僅かに見開かれた。 「ああなるほど、覚えているよ。こちらこそ参加してくれてありがとう」 「あ、あああのコレ! お誕生日おめでとうございます! プレゼントです受け取ってください!」 勢いが萎れない内に私は行動に移した。 白い包装紙に包まれた拳ほどの大きさの包みを、ずいっと差し出す。 きっと見苦しく茹で上がっているだろう顔を見られないように、深く頭を下げつつ。 それからしばしの沈黙があった。 先輩はきっとドン引きしてる。何で誕生日知ってやがるんだこの気持ち悪いヤツ――ときっと思っている。 いや、そんなヒドイこと考えるような人じゃない。 私は心の中で一人悶々と会話をしながら時が過ぎるのを待った。 「ありがとう。大事にするよ」 くしゃり、包装紙が音を立てた瞬間、私の手のひらに乗っていた重みが消えた。 私は弾かれたように顔を上げる。 「でも、僕の誕生日なんてよく知ってるね。誰にも教えてないと思うんだけど」 「……不審に思いますか?」 「ううん、驚いてるだけ」 綻んだ優しい笑顔に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚える。 好きな人のことは何でも知りたくなるから、本当は情報を求めて教団中を駆け回ったり、名簿を見せて欲しいと管理人に泣き付いたりした訳で。 知らずともその過程は彼になら容易に想像できるはず。 そこに悪意が無かったとはいえ、先輩は私を気味悪がってもいいと思う。そんな素振りを見せないのは私の必死さを見て気持ちを汲んでくれているからだ。 いつも相手の気持ちを思いやる――そう、私はこの人のこういうところに憧れたのだ。 私はもう一度深呼吸した。体中の細胞がそわそわしているような錯覚を覚える。 ――言わなきゃ。 逃げ出したい自分を奮い立たせ、私は背筋を伸ばした。 「あの、カイルサィート・デューセ先輩。こんなこといきなり言われても迷惑かと思いますが、その」 一拍置いて、また息を吸い込む。 「お慕い申し上げております!」 勢いで頭を思いっきり下げた。 ――言った! ちゃんと言えた! そしてもうダメだ恥ずかしくて死にそうだ逃げる! 私は先輩の反応を、どういう顔をしているのかすら見れずに、図書館から飛び出した。 忘れていませんよ2000HITお祝い(ノ)・ω・(ヾ) 踏んだのがえびだったのでカイル番外編です。私には珍しく一人称。 なんだろうコレ、なんか楽しくなってきた……ミニ連載化してやろうかな。3~4話完結の。 多分、つづく (笑) |