ふらいんぐ Happy New Year
2012 / 12 / 29 ( Sat ) |
めりくり。甲は家族旅行中です
2012 / 12 / 25 ( Tue ) アズリとゲズゥは二人、食事をしつつ赤ワインを飲んでいた。
「メリークリスマス!」(ワイングラスを合わせる)
「何だ? それは」
「遠い世界の祭日よ。祝い方は色々あるみたいだけど、中には恋人同士で聖なる夜を過ごすとこもあるってね」
「……誰と誰が恋人同士だって?」
「冷たいわねー アナタと私の仲でしょう」
「より強い男が現れれば簡単に乗り換えるような女と、どんな仲になれと」
「それは性分だから仕方ないの。悪く思わないで」(にっこり)
「……」
「あ、でも、家族と友達とかと大勢で祝うとこもあるって。というわけでミスリアちゃんも誘おうかしら」
「好きにしろ」
「また素直じゃないんだから……いなくて退屈してたでしょう? ずっとしかめっ面だったもの」
「……言ってろ」
「はいはい♪ 呼んでくるわー」
近未来にあるかもしれないお話。ないだろうけど )^o^( |
18 あとがき&19 前書き
2012 / 12 / 22 ( Sat )
どうもー。無事に脱アフリカ(?)を果たした甲です。
そして速いネット万歳。
Dir en grey 新曲万歳。
北は寒いね!! 雪降ってるよ雪!
指先の感触が無い!
ちょっと遅れましたがあとがきです。っていうか前書き?うん。
続きへどうぞー
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18.j.
2012 / 12 / 19 ( Wed ) イトゥ=エンキはゲズゥの方に視線を投げた。
彼は既に壁から離れ、振り上げられた凶器の延長線上を外れている。 「折れた」 ゲズゥは、イトゥ=エンキに向けて心なしか申し訳無さそうに呟いた。折れた直刀を見せるようにして差し出している。 「あー、気にすんな。別に値打ちもんじゃねーし。お前のでっかい剣は保管スペースに置きっぱなしだからな、そいつで我慢させてこっちこそ悪いな」 「……いや。助かった」 彼は軽く目礼を返した。 (あら、素直) どうやら直刀はイトゥ=エンキが貸したらしい。 ――どういう思惑があって? 他の皆も同じ疑問を抱いているだろう。あの人といえば、嫌そうに顔を歪めている。 「ちっ」 興をそがれたのか、あの人は力を抜いた。それに応じてイトゥ=エンキが鎖を緩め、戦斧は下ろされた。 これまで傍観を決め込んでいたヴィーナは立ち上がり、騒ぎの中心へ歩を進めた。まずはあの人の腕にそっと触れて笑いかけ、彼の表情が和らいだ後、ヴィーナは残る二人の方を向いた。 「あなた達いつの間に仲良くなったの?」 「仲良くはなってませんて。すれ違いざまに渡しただけですよ」 食えない笑顔で、イトゥ=エンキが否定した。 「それより、提案があります」 「おう、儂もおめぇが何考えてんのか聞きてぇなぁ」 あの人のやんわりとした威嚇にも、イトゥ=エンキはまったく動じなかった。 「はい。ただの試合じゃあつまらないから、条件付けませんか? もしソイツが頭に勝てば、二人を無傷で送り出すってことで。聞けば、西へ進みたいんだそうです。ついでにそこの坊(ボン)の命もオマケにつけるってどうですか」 彼は床に転がる貴族の五男坊を指差した。元はといえばゲズゥはその男を助けようとしていたはずである。 「いいんじゃない、賭けるモノがあった方が断然面白いわ」 ヴィーナはすかさず賛成した。 戦闘種族同士が本格的に決着をつけるというのなら、それだけで退屈しないだろう。ただ、ゲズゥは淡々とした性格のまま、戦闘に於いてもどんなに劣勢になっても一貫して冷静である。ヴィーナとしては彼がもっと必死になっている姿も見てみたい。 「ほう、では負けたら三人とも人生をわしに預けるってことでいいんだなぁ?」 「ん。そこんとこどうよ? ミスリア嬢ちゃん」 イトゥ=エンキの一声で、全員の注目が後方の小さな女の子に集まった。ヴィーナが着せた衣装のままだ。何度見てもよく似合っていて可愛い。 急に話を振られたミスリアは三度、瞬いた。まるで三人分の命を背負う覚悟を、一人ずつ決めたように。 彼女はゲズゥを一瞥し、そして茶色の眼差しをあの人に注いだ。 (断れる訳が無いわよね、他に取引に使える材料が乏しいから) 彼女にとっては苦渋の選択かもしれないが、選択肢が一つしかないのだから、どうしようもない。可哀相だと思うよりもプレッシャーに潰れて泣き出す様を見てみたい気もするが、そうはならなかった。 巨漢を見上げたまま、少女のピンク色の唇が花びらのように静かに開いた。 「条件を受けましょう。約束します。お互い決して破りませんよう、この場に居る皆様と、イトゥ=エンキさん、貴方が証人です」 「任せろ」 左頬に鮮やかな紋様を持つ男がニヤリと笑った。 「決まりだ。明日、夜が明けたら開始だ」 あの人もいつの間にか楽しそうにしている。観衆も大盛り上がりだ。ヴィーナとて自然に顔が綻んだが――ゲズゥだけが顔をしかめたのが、視界の端に映った。 _______ 冷たく湿った部屋の中でそこだけが暖かそうに見えたのは、あの淡い金色の光の所為に違いない。少女の小さな背中を眺めつつそんなことを思った。 ゲズゥはミスリアと背中合わせに床に腰を下ろした。宴は再開され、そのため今は此処には誰も居ない。 「きゃ! あ、ゲズゥですか……」 一度吃驚して震え上がったのが背中越しに伝わる。 ミスリアは先刻拷問を受けていた男を自分の手で介抱していた。水と少量の食べ物を与えたらすぐに眠ったので、今のうちにバレない程度に聖気を当てているらしい。 「……すみません。貴方ばかり、危険な目に」 展開されていた聖気が消えたのと同時に、ぽつりと謝罪の言葉が響いた。 「どうせ、成り行きに任せようものなら不定期に拘留されただろう。むしろ願っても無い話だ」 ゲズゥは肩から振り返った。 何を思うわけでもなく、少女の柔らかい栗色の髪を一房、指ですくった。――暖かい。するりと、ぬくもりが指の間から逃げる。 驚きに彩られたミスリアの瞳が見上げてきた。 「――万が一俺が死んだら、模様の男と結託して逃げろ」 言うかどうか迷っていた言葉を、やはり言うことにした。 負けたら終わりなのだから自分は負けはしないだろう、と思う。しかし、それはありのままの現実を無視した精神論でしかない。 「そんな悲しいこと言わないでください」 「悲しいも何も、現実に有り得る。対策は必要だ」 ミスリアが俯いた。 物分りがいいのだから、こちらの意図は充分に伝わり、何が正しいのかもわかるのだろう。 「貴方が死んで、私だけ生き残るのは、ダメです」 「…………」 わかったとしても、受け入れないらしい。それはミスリアが後を追って無駄死にしたいという意味ではないだろうが、真っ先にその考えにたどり着いた。 「そんな命の懸け方は……ダメです」 ミスリアの声は震えていた。 「せめて私も戦えたなら、良かったんですけど……」 「詮無いことを言うな。役割分担と思えばいい」 ミスリアは、そもそも用心棒のような役割をあてがう為にゲズゥを探り出したはずだ。 「……はい。ですから何としても一緒に、生き延びます。お願い、します」 ゲズゥは前を向き直った。心のどこかで、この反応を予想していたのかもしれない。それに対して、はっきり何とは言い切れないようなもやもやとした感情が沸き起こる。 「ひとつだけ訊きたい。お前は例えば他の誰とも知れない人間が処刑されるとしても、止めたのか? 自分にとっての利用価値など抜きにして」 「それは――偶然、見ず知らずの人間が処刑される場面に通りかかる場合……ですか?」 「ああ」 「……そんな状況にならないとわかりませんが、何もせずに見過ごしたりは……しないと思います」 澄んだ声が、静かに告げた。 即ち、何も見返りを求めていなかったとしても、ミスリアは無償の慈悲で助けてくれたかもしれない、と。そう思うと何故か嫌な気はしない。 「お前みたいな人間がもっと多く居たら、或いは……」 「?」 ――或いは、生き苦しくない世界であったかもしれない。 喉まで出掛かっていた言葉を飲み込み、ゲズゥは立ち上がった。 「もう寝る」 話を打ち切り、踵を返した。 「……はい。お休みなさい」 ミスリアは、別れを仄めかす言葉を口にしなかった。 |
名づけバトン
2012 / 12 / 17 ( Mon ) 淡色綺譚(http://awairo.iza-yoi.net/)の管理人さんがやってたの見て拾ってきたバトン。
【オリジナル名付けバトン】 1.オリジナル作品のタイトルを挙げてください 「聖女ミスリア巡礼紀行」 2.その由来(意味)を教えてください 物語の内容をスパッと一言で言い表すようなタイトルにしたくて、巡礼紀行とつけました。実際は紀行やら旅行記やらの作風ではないのですが。 「聖女巡礼紀行」だけで真面目な宗教関係の人の検索に引っかかりたくなかったので(笑)、主人公の名前を入れておきました。 3.主人公の名前は何ですか? ミスリア・ノイラート 一応ミスリアが主人公ポジションですが、ゲズゥも主役みたいなもんです。 4.その由来(意味)を教えてください 多分ミスリルから取ってます。理由は何もありません。ノイラートも適当です。 私は語呂というか頭の中に浮かんだ音の羅列をまず気に入って、それを名前に使いたくなるので…… 5.主人公以外のキャラの名前を挙げてください ゲズゥ・スディル カイルサィート・デューセ シューリマ・セェレテ オルトファキテ・キューナ・サスティワ ヴィーナキラトラ イトゥ=エンキ など。 6.その由来(意味)を教えてください 明確な由来があるのは少ないです。 デューセ→知人の苗字「ドゥーセット」から。 ヴィーナキラトラ→マダガスカルの州「ヴァキナンカラトラ」から。 イトゥ=エンキ→イトゥはインドネシアのバハーサ語から。意味は知らないw 7.舞台となっている場所(星、国、街、学校、組織) アルシュント大陸 大陸を縦断する旅の話なのでよく移動してますが、全部の場所に名前をつけているわけではありません。 大陸は現在18カ国という設定ですが、おそらく全部の国は出ません。 8.その由来(意味)を教えてください ただの語呂の思いつき。別の考えでは、最後まで名前付けずに「大陸」と呼ぼうかとも考えていました。 9.名前を付ける時の傾向、癖は何かありますか? 音を使いまわさないように気を使います。日本語名だと意味やキャラクターの性質を名前に結び付けますが、この「ミスリア」の場合はそんなの全然無いです。一貫して適当です。 ただ、ヨーロッパ風ファンタジーにありがちな名前は全力で避けています。その努力が反映されているのか、「サスティワ」や「ツェレネ」みたいな名前が出来上がり…。 地名をつけるときは検索にかけて、既存の名前でないことを確認してます。 10.回す人5人挙げてください ご自由にどうぞー。 |
12.17
2012 / 12 / 17 ( Mon ) どうも、ブログ公開一周年ですね。おめでとう私。
何かしたいとは思っていたのですが実生活が邪魔をする…! 二日後には大西洋を越えます。 ついでにDir en greyのニューシングル発売です ひゃっはー せめてクリスマスか新年は番外編を書きたいと思います。 次回更新は明日? になるかしら? では、どうかこれからも引き続きミスリア&ゲズゥの旅を見守っててください! |
18.i.
2012 / 12 / 12 ( Wed ) 防ぐ為の道具も武器も持っていなかったはずなのに? そう思った次の瞬間、ゲズゥが地面に垂直に構えた直刀が目に入った。 巧く防げたのは良いけれど、あまりもの衝撃で両腕が痺れたのだろう。彼は次に降りかかってきた一撃を満足に受け切れず、たたらを踏んだ。 既にあの人は新たに攻めに入っていた。 槍のように長い戦斧が力強く振り回される。 二人が打ち合う度に金属がぶつかり合う音が大きく響いた。 ゲズゥは振り下ろされる斧の攻撃を避けたり受け止めたりが精一杯といったところの、防戦一方を強いられている。しかも一撃一撃の重みを受け止めた直後は、次に体勢を立て直すまでのラグがある。段々と余裕が無くなって行ってるのは見ていてわかる。 (スピードはゲズゥの方が上なんだから、流れさえ掴めればひっくり返せるかもしれないでしょうに。最初の腕の痺れで遅れを取ったわね) それでも彼は脂汗一つ浮かべていないのだから、大した精神力である。負ければ自分の死に繋がる状況で。 一方、ミスリアといえば笑みを崩していない。こちらも存外、肝が据わっているのかもしれない。 ふいにあの人の顔が険しく歪んだ。斧の長い柄を握る大きな両手が小刻みに震えている。 「戦闘種族かあっ!」 突拍子も無い怒号に、観衆は何が起きたのかわからずに静まり返っている。 「戦闘種族」の性質を知らなければ、何を訴えているのか思い当たらないだろう。たまたまヴィーナは、前に聞いたことがあった。 あの人曰く、戦闘種族の血を受け継ぐ人間は、互いに共鳴する。といってもそれは目に見える現象ではなく、単に組み合えば、お互いがお互いに対し「もしかしてコイツも?」ってピンと来る程度のものらしい。 「儂の一番嫌いな人種だ!」 余興の邪魔をされた時と比べ物にならないほど怒り狂っている。鬼気迫るとはまさにこのこと。 更に激しい攻防が続いた。 「生まれ付き人より頑丈で優れて――」 ――ギィン! ゲズゥの手に持つ直刀が、半分になった。 「……お前も戦闘種族だろう」 静かに、ゲズゥが指摘した。その声は微かに息が上がっている。 「そうだ。だが薄い。より濃い血筋の奴らにゃあどう足掻いたってかなわねぇ」 「…………」 「てめぇが濃い目なのはやり合ってりゃすぐわかんだよ!」 斧がまた振り下ろされる。 ヴィーナはそのやり取りをのんびり静観しつつ、考えを巡らせていた。 ゲズゥが戦闘種族だったのは知らなかった。が、そうだと言われても驚けないような、並外れた身体能力の持ち主ではある。 驚く点は、戦闘種族がまだ居ること、それ自体だ。歴史の流れと共に数が減り、しかも同胞同士で群がって生活しないため、血は薄れる一方であるはずだ。知名度はイトゥ=エンキの「紋様の一族」よりも更に低い。 (まあ、重要なのはそこじゃなくて、あの人……) 彼は時折、戦闘種族に対するわだかまりを吐き出していた。その根底にあるのは劣等感だ。それに打ち勝とうとして長年弛まぬ努力を積み重ねてきたのを、一年前知り合ったばかりのヴィーナでもよく知っていた。本人は隠しているつもりで、頭のゆるい団員の多くは気付いていないが。 (ほんと、男ってかわいいわ) 弛まぬ努力と生まれ持った素質が合わさって、今の彼が出来上がった訳だ。 はっきり言って、いかにゲズゥが「天下の大罪人」でも戦闘種族でも、たったの十九歳では到底敵わない。体格だけじゃなくて武器や技の練度の問題である。あの人の前では青二才でしかない。 とはいえ、ゲズゥも鍛錬バカだから、そこら辺の青二才よりはできる。 もう少し育っていれば、ヴィーナも彼に本気で興味を示したかもしれない――。 その時、斧を避け続けていたゲズゥがついに追い詰められた。背中が壁に当たったのである。 ――終わったわね。 そう思ったが、鎖が振り上げられた戦斧の柄に巻きついた。今まさに斧を振り下ろさんとしていたあの人を背後から制した男は、飄々と笑った。 「ちょっと待ちませんかー、頭」 拷問の対象や他の人間を巧く避難させ、自分が介入する隙を伺っていた彼。 「おめぇは引っ込んでろ。イトゥ=エンキ」 「んー」 曖昧に唸るだけでイトゥ=エンキは鎖を握ったまま、応じない。 力で振り払うことは簡単だろうけど、あの人はそれをしない。我が子のように可愛がってきた男を万が一にも傷付けられないのである。本人もまたそれをわかっていて、無茶ができるのだろう。 |
18.h.
2012 / 12 / 10 ( Mon ) 最後に会った四年前と比べてゲズゥ・スディルが強くなっているのは想像が付く。そして近い未来にあの人と衝突するのも目に見えている。
くすりと笑いが漏れた。何事かと隣の巨漢がこちらを見遣るも、ヴィーナはただ微笑んで誤魔化した。 (細マッチョと正統派マッチョの対決、ね。見ものだわ) ヴィーナにこれといった筋肉愛好の趣向は無いが、男は強いに越したことは無い。権力者に寄り添うことが、彼女の何よりの楽しみだった。 雄というのは競い合っていないと落ち着かない生き物。ならば雌は、頂点に立つ者を選ぶことに意義がある――。 (さて、あの子は何をするつもりなのかしら?) わくわくと心が躍る。ヴィーナは赤ワインを飲み干した。 もう一人、揺れ動く人影を目の端に捉えた。ゲズゥほどではないにしろ背が高くて程よい筋肉体質。山賊団の中で実力も器も並み以上でありながら、なるべく目立ちたがらない稀有な男。 (イトゥ=エンキ……あの人と何かただならぬ因縁がありそうだけど、上手に隠しているものね) 親子のような関係だと他の団員は言っていたが、果たしてそんな単純な話で済むのか、ヴィーナは密かに疑問を抱き続けている。 (きっともっと泥臭くて血生臭いんでしょう) ここで彼が何をするつもりなのか、それもまた興味深い。 その時、鞭を持つ手がまたもや振り上げられた。それに釣られて観衆が歓声を上げる。 ヒュン、と空が切られる音。 しかしそれに続いたのは鞭が人の肌を打つ小気味いい音ではなく、何かを弾き飛ばしたような、奇妙な音だった。時を同じくして、拷問を受ける男の前に誰かが立ち塞がっている。 弾かれたのはおそらくゲズゥが手にしていた煙管。 的を外して空振った鞭が力なく垂れている。それを持っている男は頭が弱いのだろう、状況が飲み込めていなくて口を開けて呆けている。 虚ろな目の貴族の五男坊は、数瞬遅れて事態を飲み込めた。何もかもに諦めていたように項垂れていただけの彼が、身をよじり出した。両手両足を縛られているのでミミズが這うようだ。 「た、すけてくださ、い」 「……何だ! 邪魔すんな!」 我に返り激昂する執行役の男を、ゲズゥは無言で蹴倒した。 「たすけ、たすけてくれるんですか」 被害者はこの上なく見苦しくゲズゥの膝裏に頬を擦り付けて縋り付いている。ワインが不味くなりそうな気がして、ヴィーナはグラスを置いた。 「…………」 答えないことが、彼の答え。 早速面白くなってきた。ヴィーナは長い髪を首の後ろに払い、周りの反応を待った。 こんな大勢の見てる前で大胆に「余興」に邪魔立てするからにはあの人も黙っちゃいないだろう。 「ほ、う。いい度胸だ」 案の定だ。巨体が、怒気を漂わせながら仁王立ちになる。 「客だからって付け上がるのは許せねぇな。てめぇらの命なんざ儂の手のひらの上だ」 磨かれた戦斧がギラリと光った。 「だが一応理由は聞いてやろう」 「……が、そう望んだから」 問われて彼は淡々と答えた。主語が抜けていてもこの場合は関係なかった。 (その感情に形など無くても、特別なのは確かなのね) 右手に頬杖付いて、ヴィーナは離れた位置に居るはずの少女の姿を探した。怯えて隠れているのかと思ったが、その予想は外れていた。 派手なひらひらドレスに身を纏ったまま、彼女は真っ直ぐ姿勢を正して、笑っていた。優しく、優雅に、余裕を含んだ笑みが、実に興味を惹くものであった。 他にも振り返っては驚き、唖然とする人間が多く居る。 (聖女様はただの役職名だけではないということね) つまりはカリスマ性のようなものを発揮できるのかもしれない。 現に、他の団員はまだ彼女の正体に気付いていないだけに当惑気味だ。魅了されていると言ってもいい。 「ほほう、従順でカワイイな」 ゲズゥはそれに対して声に出して何も言わなかったが、彼を知るヴィーナにはその心の声が聴こえた気がした。 ――そう見えるなら、そうなんだろう。 ゲズゥ・スディルにとって他人の評価など何の意味も持たない物。他人の顔色を窺いながら生きるのが愚かだと思っているから――。 斧が回転しながら宙を舞った。 中距離からの投擲だとゲズゥなら避けるのは容易い。ただし人の密集しているこの広場では、彼が避ければ他の人に当たるのは必然だ。 (どうするかしら) 長い一瞬が過ぎ去った。 そして彼が素早く動いたかと思えば、次いで大きな衝撃音が響いた。 |
らくがき天国4
2012 / 12 / 09 ( Sun ) |
2000の想い
2012 / 12 / 09 ( Sun ) 私は今、重要な人生の一場面を前にしている。
大きなハードカバーの本で顔を隠したまま、すー、はー、と深呼吸を繰り返した。 失敗すると思う。激しい動悸で胸が痛い。 でもそれは挑む前に諦める言い訳にはならない! 今日こそ絶対に言ってみせる! 私は本を閉じ、ドンッと机に置いた。しまった、図書館なのに不自然に大きな音を立ててしまった。 目当ての人物は音に振り向かずに、腕に抱えた本を棚に戻す作業に夢中になっている。 偶然にも図書館に二人きりだなんて、貴重なチャンスである。私は立ち上がった。両手を背中に隠して、あの人に接近する。 「あの――」 声をかけようとして、詰まった。 彼が棚から視線を移し、腕の中に残る最後の一冊の本を確認している。ふいに見えた真剣な横顔に、私はうっかりドキッとした。 呆然と眺めていたら、彼が私の視線に気付いた。 「どうかしました?」 秋風のように清々しい声と爽やかな笑顔を向けられ、私はまた放心しかける。 「?」 彼は背に隠された私の両手に興味を示している。そこで私は我に返った。 「せ、先輩!」 「はい?」 「私、修道女過程で準備期間中の者ですが。あの、勉強会いつも有難うございます」 私は次に名を名乗った。 彼がたまに講師役を引き受ける勉強会に参加してると言っても、何十人中の一人だ。しかも私は際立った美人でもなければ秀才でもなく、発言もあまりしないから記憶に残らなくてもなんら不思議は無い。 彼の琥珀色の瞳が、僅かに見開かれた。 「ああなるほど、覚えているよ。こちらこそ参加してくれてありがとう」 「あ、あああのコレ! お誕生日おめでとうございます! プレゼントです受け取ってください!」 勢いが萎れない内に私は行動に移した。 白い包装紙に包まれた拳ほどの大きさの包みを、ずいっと差し出す。 きっと見苦しく茹で上がっているだろう顔を見られないように、深く頭を下げつつ。 それからしばしの沈黙があった。 先輩はきっとドン引きしてる。何で誕生日知ってやがるんだこの気持ち悪いヤツ――ときっと思っている。 いや、そんなヒドイこと考えるような人じゃない。 私は心の中で一人悶々と会話をしながら時が過ぎるのを待った。 「ありがとう。大事にするよ」 くしゃり、包装紙が音を立てた瞬間、私の手のひらに乗っていた重みが消えた。 私は弾かれたように顔を上げる。 「でも、僕の誕生日なんてよく知ってるね。誰にも教えてないと思うんだけど」 「……不審に思いますか?」 「ううん、驚いてるだけ」 綻んだ優しい笑顔に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚える。 好きな人のことは何でも知りたくなるから、本当は情報を求めて教団中を駆け回ったり、名簿を見せて欲しいと管理人に泣き付いたりした訳で。 知らずともその過程は彼になら容易に想像できるはず。 そこに悪意が無かったとはいえ、先輩は私を気味悪がってもいいと思う。そんな素振りを見せないのは私の必死さを見て気持ちを汲んでくれているからだ。 いつも相手の気持ちを思いやる――そう、私はこの人のこういうところに憧れたのだ。 私はもう一度深呼吸した。体中の細胞がそわそわしているような錯覚を覚える。 ――言わなきゃ。 逃げ出したい自分を奮い立たせ、私は背筋を伸ばした。 「あの、カイルサィート・デューセ先輩。こんなこといきなり言われても迷惑かと思いますが、その」 一拍置いて、また息を吸い込む。 「お慕い申し上げております!」 勢いで頭を思いっきり下げた。 ――言った! ちゃんと言えた! そしてもうダメだ恥ずかしくて死にそうだ逃げる! 私は先輩の反応を、どういう顔をしているのかすら見れずに、図書館から飛び出した。 忘れていませんよ2000HITお祝い(ノ)・ω・(ヾ) 踏んだのがえびだったのでカイル番外編です。私には珍しく一人称。 なんだろうコレ、なんか楽しくなってきた……ミニ連載化してやろうかな。3~4話完結の。 多分、つづく (笑) |
18.g.
2012 / 12 / 08 ( Sat ) 相槌を打たずにミスリアが俯いた。長くなりつつある栗色の前髪が目元を隠したため、その表情は窺えない。
ゲズゥは身体の向きをゆっくりと変えた。数ヤード離れた場所に模様の男が立っている。 ポケットに片手を突っ込み、誰とも絡まずに一人で「余興」を見つめるその横顔には、笑みの欠片も無かった。 今の様子然り、ミスリアへの接し方然り、模様の男が仲間の価値観を共有していないのは明らかだ。それ故に、山賊団の中で浮いているように見える。 おそらくこの男は根はまともな感性の持ち主なんだろう。少なくとも、自分よりマシなのは間違いない。 「……です……」 ミスリアが何かを呟いたのが聴こえた。ゲズゥは動かずに、耳だけ澄ました。 「いやです」 二度目ははっきりと聴こえた。 「何が」 「また誰かが目の前で死ぬのは嫌です。見殺しになんて出来ません」 「だからって邪魔する気か」 呆れて、ゲズゥはミスリアをまじまじと見た。これだけの人間を敵に回すなど面倒以外の何物でもないというのに、それを示唆しているように聴こえる。 「私は自分が総ての人間を総ての苦しみから救ってあげられると思うほど、夢見がちじゃありません。これでも現実を見ています」 顔を上げた少女の両目は確かに正気の光を保っている。 「なら、大人しくしていろ」 煙を吐いてからゲズゥはそう言った。 「でも、目の前で苦しんでいる人を放っておけないのとは別問題です!」 「具体的にどうするつもりだ」 と、訊ねたら、ミスリアはそこで押し黙った。 自分に出来ることを真剣に考え連ねる為の沈黙だろう。 長い目で見るなら、世の中の美しいモノも醜いモノも経験し正面から直視してこそ人は成長するのではないか、と思うことがある。ゆえにこの場に干渉する気も失せる。 だが、目の前でまた人が惨たらしく死ねば、今此処で少女の心が折れる可能性は高い。 そうなってはまずい、気がする。 願おうと願うまいとこの少女は自分の今後の運命に深く関わっている。先に進めなくなったら、その時自分はどうなる? 数分ほど思案してから、ゲズゥは心を決めた。 「わかった」 「はい?」 「あの男を助ける。それでいいんだろう」 茶色の瞳に困惑が浮かんだ。耳を疑っているのだろう。 しかし冗談ではないと理解すると、ミスリアは瞠目した。やがて、頷いた。 「ありがとうございます」 いつに無く力強い目線が返ってきて、何故だか今度はこっちが困惑しかける。 相変わらずよく礼を言う女だ、と思いながら、ゲズゥは動き出した。 _______ くつろぎながらも周囲に抜かりなく注意を払っていたヴィーナは、長身の青年の動きにすぐに気が付いた。 彼は普段呆けていて何を考えているのかわからないくせに、一旦思い立てば間髪入れずに行動に移す節がある。 思慮深いとは思うけれど、度々直感に忠実に動くのだから、やっぱり浅慮とも取れる。 (存在感だけなら「静」に近いのに、行動力があって、立ち止まらない。フシギな子……見ていて飽きが来ないわ) ヴィーナはワイングラスをくるくる回して、赤い液体の放つ香りを楽しんだ。 |
あ。
2012 / 12 / 06 ( Thu ) |
18.f.
2012 / 12 / 05 ( Wed ) 血と吐瀉物(としゃぶつ)にまみれた膝立ちの男が、項垂れながら呻いていた。元は丁寧に仕立てられたのであろう衣服が無様に汚れて破けている。
一番近くに立つ人影が腕を振り上げて下ろすと、男は鞭打たれる痛みに悲鳴を上げた。 それに応じて男を取り巻く観衆が嘲笑う。 ――これは拷問ではなく見世物だ。 壁に背中を預け、ゲズゥは天井に向けて煙管の煙を吐いた。つまらない。 一通り宴が進んだ後に頭領は「余興」と称して最近拉致してきた若い男を広場の中心に引っ張り出したのである。どこぞの貴族の五男坊らしく、身なりはそのまま育ちの良さを反映して小奇麗だった。それも最初のうちだけだったが。 水責めにかけられ、鞭に打たれ、爪を剥がされて。男はそれでも思い通りの情報を吐いていない。 だが山賊団の方に焦りはまったく無い。家への責任感と自覚が比較的薄い五男が折れるのは時間の問題であり、しかも、既に次女から引き出すべき情報を残らず搾り取っているらしい。これは言わば答え合わせだ。幾つかの別荘を含んだ広大な敷地を、効率良く襲う為の準備。 ちょっと強姦しかけたら家宝の在り処を全部教えてくれたそうよ、とアズリは微笑んで話していた。それはゲズゥにとっては何も感じない話だが、隣で聞いていたミスリアの表情が揺れたのは知っている。 今もドレスを縁取るフリルを握り締めて茶色の瞳に涙を溜めている。 どうして当事者でも何でもないミスリアが苦しがるのか、ゲズゥには考えが及ばない。 例えば、自分に置き換えて感情移入をしているとか? ならばと思ってゲズゥも拷問されている男の立場に自分を置き換えてみた。 特に何も感じない。 そもそも以前似たような目に遭わされたことは何度かあった。肉体というのは器用なもので、「死にたいくらい痛かった」という認識が脳に残っているだけで、身体は明確な感覚をもう忘れている。脳が嫌な思い出を消去するのと同じくらい、生き続ける為には必要な処置かもしれない。 きっとこの少女は、目の前で苦しんでいる男の痛みとリアルタイムに同調しているのではないか。そう仮定してみたら納得できそうだった。 相手が誰であっても、心を拡張して取り込むのが何故か、それだけは謎である。 「な、んで……こんな酷い真似を……」 澄んだ声が漏らした疑問は、すぐ隣に立つゲズゥにしか聴こえなかった。独り言かと思ったが、その声には回答を求める痛切な響きがあった。 「奴らにしてみればただの娯楽だ」 なので、身も蓋も無い事実を答えた。 「理解できません」 涙が白い頬を伝った。 「そうだろうな」 ゲズゥはまた煙を吐いた。 生きる上で、奪う・奪われるの関係性は当たり前のように在る。いくらミスリアでもそれはわかっているだろう。 その上で、彼女にはまだ見えていない、業の深さ。 ――必要な時に必要なだけ奪って生きるのと、組織立って略奪を生業としているのとでは違う。 酒と快楽に溺れ、声を上げて笑っている観衆が抱える歪みを見れば明らかである。朝から晩まで健気に働く心を持たずに、他者から奪って楽をしようとしている。奴らはそれを当然と思い、他者を積極的に蹴落として嘲笑っている。 ゲズゥは顔をしかめた。 果たして他者を喰らうことに「何も感じない」自分と、「快楽を感じる」奴らに、如何ほどの差があるだろうか。 いや、自分は割り切っているだけで何かを感じてはいるのか? 突き詰めれば、どうでもいいことだった。 滅びた一族に代わって生き延び、従兄との約束を果たす。そればかりを想ってどんな生き地獄でも這い続けた。そしてアレが何処かで元気にしていれば、それだけで充分だった。 ――充分だった、はずだ。 「あの人は、どうなるんですか」 ミスリアが小さく問うた。 「……最終的には殺されるだろうな」 答え合わせが済めばそこまでだ。帰して泳がせる必要も無ければ、身代金を要求するまでの人物でも無い。 ならば後に不安要素にならないように消しておくべきである。 |
気になるキャラアンケート
2012 / 12 / 04 ( Tue ) ←横パネルにてどうぞ
忍者アンケートの機能性を試したいのも動機の半分。 今まで頂いたコメントだとメインの二人が普通に愛されてる印象が強い(特にげっさんw) 私から見て今後化けそうなのは適当に登場させたイトゥ=エンキですね。山賊編が頭とあずりんと雑魚ばっかりじゃいかんからと思いつきで出した彼がこんなに動かしやすいなんてズルだわね。 さて、1周年記念に えび をとっ捕まえてなんか描かせたいのもやまやまですがそれは私が決めることでもない…^p^ |
18.e.
2012 / 12 / 01 ( Sat ) 「真ん中の二人がこっちに手振ってるぜ。呼んでるっぽいな、行けば?」
「い、いえ、遠慮します。私は輪の外側でいいです」 激しく被りを振った。ただでさえ人の多さに酔ってしまいそうなのに、中心になんて行ける訳が無い。社交性を特徴としないゲズゥもまた、同じ気持ちであると信じている。 その時、中年ぐらいの女性がイトゥ=エンキの肩を叩いた。 女性は身をかがめた彼に何かを伝えた。 「わり、ちょっと外すわ。すぐ戻ると思うけど」 話を聞いていた時の彼の表情の変化を見るに、それほど深刻な話でもないようだった。 「どうぞお気になさらず。案内ありがとうございました」 「おー、後でまた話そうぜ」 イトゥ=エンキは中年女性について行ってその場を去った。 ミスリアはふとゲズゥを振り返ってみた。彼は通常通りに何の感情も表していない。 黒曜石を思わせる色の右目がじっとこちらを見下ろした。 「あの親父」 前触れなくゲズゥが呟いた。すぐに視線を別の方へ投げかけた。 彼の目線の先を追うと、そこは輪の中心だった。となると頭領の話をしているのだろう。 「もしかしたら、――――かもしれないな」 「え? 何ですか?」 肝心な言葉だけが騒音に掻き消されて聴き取れなかった。繰り返すように頼んでも、ゲズゥはあさっての方向を見ていて答えない。 何て言ったんだろう、と考えを巡らせていたら、誰かにいきなり横からガッシリと肩を抱かれた。ここでのこういう展開にはもう慣れたけど、身体は勝手に吃驚して震えた。 「お嬢ちゃん! しけたツラしてないで飲め! 飲んで食え!」 銅製のゴブレットが視界に飛び込んできた。静かに考え事を続けられる環境でないのは明らかだった。 「お気持ちは有難いのですが、私はお酒は飲めません」 などと断りの言葉を色々並べてみたものの、まったく聞き入れてもらえない。 「ほらほら」 「ですから、私はお酒は……」 「はい飲んだ!」 唇に強引にゴブレットを押し付けられた。こうなっては仕方ない。解放されたいが為に、ミスリアは琥珀色の液体に口をつけた。この状況なら教団の規制に背いてもやむなしである。 立ち上る強烈な臭いに頑張って耐えながら、少量の酒を喉に流し込む。 そしてすぐに噎せ返った。 (うっ、な、何これ! 不味い!) というより喉がヒリヒリする。儀式や祭日の際の濃度の薄いワインしか飲んだことが無かったから、こんな衝撃に対して心の準備はしていなかった。 「あーあ。そんな飲み方じゃあダメだ。なあ?」 男は傍に居る仲間たちに話を振った。すると男たちは一斉に手拍子を叩き出した。 「一気飲みしかないぜ! 一気!」 誰かがそう叫ぶと、皆が一斉に「イッキ! イッキ!」と何かの呪文のように唱え始めた。 (無理! 誰が何と言おうと無理なものは無理っ) しかし包囲されていては成す術も無い。涙目になりながら、ミスリアは手が滑った振りをしてゴブレットを落とそうか、と思案した。 救いの手は唐突に伸びてきた。 見覚えのある手がミスリアの右手からサッとゴブレットを奪い取った。呆然と視線を巡らせれば、既にゲズゥが酒を飲み干した後だった。 周りは豪快な飲みっぷりに歓声を上げる。 当のゲズゥは総てどうでもよさそうに、銅製のゴブレットを壁に投げつけた。大きな音の後、すぐに歓声が止んだ。広場中の注目が長身の青年に集まる。 その間、輪の中心の二人は面白そうに眺めるだけで関与しない。 「不味い酒より、飯」 短く言い捨てた後にゲズゥはミスリアの腕を掴んでその場を離れた。 酔っ払いたちはもう飽きたのか、追ってこない。広場の喧騒が元に戻るのに数秒とかからなかった。 ミスリアは前を歩く青年の背中を見上げて口を開いた。 「あ、ありがとうございました」 あそこから救い出してくれたことに関してのお礼を言った。ゲズゥは歩を緩めないので、聴こえたのかどうかは定かではない。 食べ物が並べられているテーブルの前でようやく彼は足を止めた。 (ご飯を食べたいというのは本気だったのね) かくいうミスリアも空腹だったと、今更ながらに思い出した。 ボウルを取ろうと手を伸ばす。 「…………お前、よくわかっていないだろう。模様の男の話し方だと伝わりにくかっただろうがな」 ミスリアは頭上からかかってきた声の方を向いた。 「わかっていないって、何をです?」 空虚な両目に見つめられて、ドキッとしながらも訊き返した。 「業の深さ」 低い声が、ずしりと重く言い放った。 「今にわかる」 ゲズゥが何を指して言っているのか皆目見当が付かなくて、ミスリアはただ彼を見上げて瞬いた。 **この場面で登場しているお酒はCognacみたいなものと想像してください。 ただし質が悪いので不味い(・∀・) |