夢のできごと
2013 / 06 / 24 ( Mon ) そういや今朝、夢にミスリアとゲズゥが現れました。
自キャラが夢に出るのはたまにあることなんですが、この二人は何気に初めてかも……? いやブログの過去ログ読めば他にもあったりしてw? ストーリーの方はというと。 何かの戦いか場所の副作用で紫外線(?)を多く受けてしまったミスリアが、ブレスみたいなデジタルなアイテム(時代錯誤・笑)で体内の危険度の数値を確かめていて。減ったと思って安心してたらぐっと急上昇して、死から逃れられないという事実が発覚して。その様子を傍で一緒に眺めているゲズゥが、顔には出さないけど心のうちで動揺・焦りを募らせるという話。 謎。 本編とはまるで関係が無い夢の中でのできごとでした、まる |
ないないづくし
2013 / 06 / 22 ( Sat ) 時間が足りないというよりもう人生が足りないです。
あと三回くらい生きられたらやりたいことやりつくせるかも……無理ですかね。 私は多分運よく100歳まで生きられたとしても「来月の○○が楽しみでまだ死ねない!」とか言いそうな。それまでに興味の有るものが減ればいいんだけど。まあ、体力落ちすぎてそれどころではない可能性もありますね。 せめて一日の9時間ほどを仕事して過ごせなくても良かったら―― って、仕事も好きなんですけどね!!! 人物紹介と地名紹介ちょっと付け足しました。 ぶっちゃけアルシュント大陸はカリフォルニア型だと思ってます、はい。 そろそろ地図描かないといけないくらい混雑してきたかしら…… 余談。この曲にはまってます→ http://www.youtube.com/watch?v=9XT72VAk1M0 |
23.e.
2013 / 06 / 21 ( Fri ) いくら何でも気前が良すぎる。そう思ったが、口には出さなかった。こちらにとって都合が良いのだから敢えて不平を言うのもおかしい。
「そんな――」ミスリアは何かを言いかけて顔を伏せた。 逡巡してから、再び顔を上げる。 「教団との協力関係への感謝……そして代わりに、巡礼を必ず成功させて欲しいとの期待を込めてのことでしょうか」 「……町の偉いさんの考えはわからんよ。わしらが聖女様の成功を願ってるのは間違いないがね。とにかく気にせんでくれい」 職人は分厚い手で帽子を被りなおした。屈託の無い笑顔が印象的である。 「わかりました。ご厚意、有り難く頂戴します」 ミスリアが返したのは、民の期待を一身に背負った聖女に相応しい、使命感と誇りに溢れた微笑みだった。 鍛冶屋の師弟は反射的に手を合わせて頭を下げる。傍らではエンが物珍しげな顔つきをしていた。 「あ、でもそっちの兄ちゃんは何かして欲しいなら払わないといかんぞ。すまんな」 職人が祈祷の姿勢から顔を上げる。 「当然だな」名指されたエンはまったく気を悪くした素振りを見せずに笑った。「で、それなんだけどー」 エンは腰の鉄鎖を外し、先端についている細い三又(みつまた)のフックを掌に乗せた。フックは鋭いものではないらしく、鎖を何かに巻き付ける時の滑り止めに見えた。 歯の二本が歪に折れ曲がっている。 「む。ぼきっといっちゃってるのう」 「いっそ直さずに取り替えてみては? 確か武器屋に似たものの完成品が置いてあるはずです」 「それが良いな」 職人は己の弟子の提案に首肯した。 「大剣は預けてもらえんかね。ちょうど今、手が空いててな。ちょっと向こうで時間潰してくれればその間に修理するぞ」 「できれば鞘も頼もうと思っていた」 ゲズゥは大剣を両手に乗せ、差し出す形で応じる。 「あぁ、なるほど。だったら合わせて数日かかるな。とりあえず代わりになる得物を武器屋から借りるといいぞい」 職人が剣を受け取った。 ゲズゥはミスリアを見下ろした――この町で何日を過ごす気でいたのか知らないが、一応同意を得る必要はあるだろう。少女は小さく頷きを返した。 「どうか私からもお願いします」 「うむ。この形だと剣を『引き抜く』タイプの鞘じゃダメだな……二つの面を合わせて留め金付けるのがいいじゃろう。それで後ろ手に外せれば……」 ブツブツと職人はひとりごちる。やがて、弟子の方も案を挙げていく。 「形はお前らに任せる」 二人の会話を遮るようにしてゲズゥは言った。彼は鞘の質にはこだわっていなかった。 それに、こういったものは玄人の考えに従うのが一番だ。この二人ならおそらく大丈夫だろう。工房の壁や床など至る所に積まれているさまざまな鉄器の試作品を見るに、腕は確かなようだった。 「おう、任せとけい」 「では後で教会でお会いしましょう」 「はい。案内ありがとうございました、ラノグさん」 簡単な別れの挨拶を交わしてからゲズゥたち三人は工房を後にした。 来た道を辿ると、坂を上ってすぐそこに武器屋があった。 品揃えはそこそこ良かった。ゲズゥは隠し持てるタイプのナイフと予備の短剣を新調し、ついでに曲刀を借りた。際立った特徴の無い、一般的な曲刀である。 ミスリアにも何かしら持たせた方がいいのか迷ったが、使いこなせないのならかえって危険だと考えて、止めた。 エンは鉄鎖に付ける新しいフック、直刀、そして黒革の手袋を買っていた。指の第二関節までの長さの、指先が空いた手袋である。 「ふー、いい買い物したな」 「私も何か買ってみたかったです」 「や、別にいーんじゃねーの、嬢ちゃんはそのまんまで」 「そう思いますか?」 昼も近い頃、三人はぶらぶらと町をふらついていた。ふいに小さな花壇の前でミスリアがしゃがみこんで、鮮やかな色の蝶を見つめる。 ゲズゥはその姿を背後からぼうっと観察していた。一眠りしたくなるようないい天気である。 その時、何か気になるものが目の端を過ぎった。首を振り向くと、横でエンが手袋を付けたり外したりと調整をしている。 奴の手首の内側、黒い革が途切れるすぐ下。そこにミミズが這うような皮膚の盛り上がりがあった。 ――あれは……いつも手をポケットに入れているからあまり気付かないが、そういえばごくたまにチラリと目に入ることがあった――。 他人の事情に関与しない主義のゲズゥは、これまでは無視し続けていたのに、何故かその時声を出さずにいられなかった。 「……エン」 「んあ?」 「お前がやたらと姉を避けるのは、その傷痕を見られたくないからか」 治った痕を見る限り、それはためらい傷と呼ぶにはあまりに深かった。死ぬつもりだったというより、まさに死にかけたのかもしれない。 |
23.d.
2013 / 06 / 13 ( Thu ) どうして人混みに揉まれていたのか、向かう場所があったのかそれともふらふらと目的地も無く暇を潰していたのか。訊ける前に彼の方が先に問いを振った。
「どっか行くん?」 「鍛冶工房と武器屋」 これにはゲズゥが答えた。 「マジでー、いいなソレ。オレも行く」 「あの! その前にちょっと」 ミスリアは思わず声を上げた。この流れのままに進む前に、伝えるべきことがある。 「ヨンフェ=ジーディが探していましたよ。血相を変えていたと言ってもいいでしょう」 その先を、戻ってきたラノグが告げた。心なしか責めるような声音だった。 「へえ。そりゃ悪いことしたな、後で謝っとくよ」 対するイトゥ=エンキは含みのある笑みを作った。紫色の双眸を明らかな拒絶の光が過ぎる。まるで「身内の問題に他人が口出しするな」とでも言いたげだ。 「……なら、いいのですが」 ラノグは食い下がらず、むしろ気圧されたように僅かにたじろいだ。 「で、武器屋に行くんだって? オレも連れてってくれよ」 打って変わって、イトゥ=エンキの雰囲気が明るくなった。束の間張り詰めてた空気が和らぐ。 「…………そうですね。この道です。ついてきてください」 まだ何か言いたげな、複雑そうな表情を浮かべつつも、ラノグは一同を先導した。 _______ 南端に並ぶ店の背後。緑茂る坂を下りた先に、一軒だけ建物がポツリと建っていた。 街から少し離れているのはおそらくはあの煙突から上るおびただしい煙が人の迷惑にならない為だろう、とゲズゥ・スディルは考える。 灰銀色の屋根とベージュ色に塗られたレンガは薄汚れ、街中の建物より全体的に華やかさで劣る外観だが、二階建てで広そうではある。 ハンマーが何かを叩く音が外にまで響いている。 これでは扉にノックをしたところで聞こえやしない、ということで全員はそのまま入口から入った。鍵はかかっていなかった。 工房の中心にて鉄を鍛える初老の男がいる。 「師匠、おはようございます! 昼前に起きてらっしゃるなんて珍しいですね!」 「おう、ラノグか。よく来たな。死んだ女房に怒鳴り散らされる夢見て、目が早く覚めただけじゃい」 ハンマーを下ろす手を止め、鍛冶職人は前歯の抜けた笑みを返した。その背後で、加熱炉の炎が激しく燃えている。おかげで屋内の温度はなかなかに高かった。 「んで? 客か、さっさと紹介せんか、バカ弟子」 「バカは余計です。えーと、こちらが巡礼の聖女様と護衛の方。こちらは……」弟子の男はエンに顔を向けて、口ごもった。「お二人と一緒に来た方で、まあヨンフェ=ジーディの弟さん? だそうですけど……?」 「ほお」 「よろしくお願いします。ミスリア・ノイラートと申します。それから、私の旅の護衛のスディル氏です」 スカートを広げる礼と共にミスリアは自己紹介をした。隣でゲズゥは特に何もしなかった。 「どーも。オレはイトゥ=エンキってんだけど、ヨロシク」 エンは片手をポケットに突っ込んだまま、空いた片手を振った。 「ほお、ほほお。聖女様、しかも可愛いお嬢さんは大歓迎だ。よろしくよろしく。にしてもそっちの兄ちゃんは顔にすごい刺青じゃな」 長いあごひげを撫でながら、値踏みする目で鍛冶職人は来訪者を一人一人見回した。 「コレは生まれつきですよー」 「生まれつき? ソイツは傑作じゃ」 何がどう傑作なのかよくわからないが、エンと職人が笑い出したので弟子もミスリアもなんとなく合わせて笑っている。 「さぁて。今日は何か特定の用向きでもあるんかいの。そのバカデカい剣なんてどうじゃ。鞘が無いのかね」 職人は腕を組んでゲズゥを見上げた。正確に言えばゲズゥの背中の大剣を凝視している。 ゲズゥは剣を下ろし、巻いてある包帯を手早く解いた。 刃が露わになった途端に職人とその弟子が真剣な面持ちになって近付いてくる。 「こりゃあ見たことの無い型の剣じゃな。しかも鉄も珍しい……」 指を刃の上に滑らせたりしている。 「こことか、所々に綻びが見えますね。修理しますか?」 弟子の方が顔を上げて訊ねる。 「ああ。いくらかかる」 金の管理をしているのはミスリアであるにも関わらず、ゲズゥは真っ先にそれを訊いた。 「まさか、受け取れませんよ。巡礼中の聖人・聖女様方からはお金を取らないのがナキロスでの原則です」 弟子は意外な返事をした。 |
ぱちぱち
2013 / 06 / 11 ( Tue ) |
23.c.
2013 / 06 / 08 ( Sat ) 弟と言っても二十六歳の成人男性のことだ。普通なら、一晩姿を見なかったくらいでここまで気にかける必要は無いはずである。しかしこの姉弟は十五年も離れて生きていて、突然再会したばかりだ。決して普通とは言えないだろう。
「大体、身体が弱いのに一人で街中をふらついていいはずが無いんです」 「あ、そのことでしたら、もうすっかり健康になったそうですよ」 彼女のただならぬ気の揉み方に別の理由が垣間見えた気がして、ミスリアは思わず言った。 「強がりではなくて?」 ヨンフェ=ジーディが訝しげに眉根を寄せる。 「はい。実際、旅の道中も涼しい顔で長い時間ずっと走っていましたし」 「そう、ですか」 彼女は考え込むように口元を指先で押さえた。きれいな形に切り揃えられた爪が目に付く。 (改めてよく見ると、イトゥ=エンキさんにどこもかしこも似てない) 髪や瞳や肌の色だけでなく輪郭や顔のパーツですら似ている箇所が無い。唯一共通しているのは、紋様の一族である点だけだ。ここまでだと、いっそ血が繋がってないのかな、などとも考える。 ふいに背後で扉が開く音がした。皆の注目がそちらに集まる。 「……もしも街中で奴に会ったら、お前が探していたと伝えておく」 振り返らずにゲズゥが無機質に言った。その言葉をきっかけに、ラノグも動き出した。 「じゃあそういうことだからヨンフェ、また後で」 「わかったわ……。気を付けて」 頷いたヨンフェ=ジーディに、ミスリアは会釈した。 教会を出て通りに出るとラノグが申し訳なさそうに笑った。 「すみません、聖女様。ヨンフェは元から心配性なんですけど、今回はなんていうか……特別なんでしょうね」 「気にしていません。それだけ彼女は思いやりが深いのですね」 「そう、そうなんです」 彼はとても嬉しそうに破顔する。なんとなくこっちも嬉しくなってきて、笑みをこぼす。 ミスリアとラノグは並んで道を歩いた。大剣を背負ったゲズゥが無言で数歩後ろをついてきている。 レンガに舗装された道の手入れが行き届いていて歩きやすいことに、なんとなくミスリアは気が付いた。 「何を隠そう僕は行き倒れていたところを彼女に救われまして」 「行き倒れたのですか?」 「はい、その時は一人旅をしていて、この町に辿り着いて間も無く体力が尽きたんです」 「大変ですね」 「そうですね。でも皆さまの優しさに救われた、という大切な想い出なので……」 ラノグは急に手を広げて町並みを指した。 「この町、ナキロスは美しいでしょう?」 彼の動きに吃驚した鳩がパタパタと飛び交う。 美しいか、と訊ねられてミスリアは周囲に視線を巡らせた。 辺りの建物の輪郭が青い空にくっきりと浮かんでいる。黒または灰色の屋根が白とパステルカラーの外装の建物たちによく似合っていたし、植物の緑に彩られたベランダや丸く可愛い窓の形まで、すべて丁寧に設計されたのだと素人目にもわかる。 外観だけではない。設備がしっかりしているのだろう、汚水の漏れや汚臭も無い。町の清潔は生活水準の高さと結び付きが深いものだ。 この町は西に断崖、東に樹海と地理的に孤立していながらも栄えている。それはヴィールヴ=ハイス教団が多方面で支援しているからであって、一方で国家からはある程度の自治権を認められているらしい。 「確かに素敵だと思います」 (きっと美しいのは見た目だけじゃなくて) |
えびに素敵な淡い色合いのらくがきもらいました
2013 / 06 / 05 ( Wed ) ミスリアはどこか居心地悪そうに辺りをきょろきょろと見回し――ある壁の前で唐突に表情が翳った。 |
23.b.
2013 / 06 / 01 ( Sat ) (昨夜から姿を見ないと思ったら……樹の上で寝たのね……) 祭壇の前で泣き崩れる所を見られた所為で気まずいかも、と心のどこかで心配していたけれど、おそらくゲズゥは気に留めていない。だったら、一方的に気にしても仕方のない問題だった。 「それで一言『かわる』と言って斧を取られました。おかげで休憩できましたよ」 (いつもと同じ無表情なのに。どうしてかな、ちょっと楽しそう) 「さて。そろそろまた僕がやりますよ。あと少しですね」 (あ、コップ一つしか持って来てないわ) ゲズゥはコップではなく水差しを片手に取った。それを頭よりも高い位置に持ち上げ、上向きに首を傾け、開いた口にとくとくと水を注ぎ込んだ。注ぎ口に触れることなく。 「き、器用な飲み方ですね」 「町に?」 「鍛冶屋ですか」 「行きます。ラノグさんも、是非、ご案内お願いします」 数十分後には割り終えた薪を纏めて教会の中に持ち込み、三人は町に出る為に正面玄関に向かった。 「どこ行くの?」 「やあ、ヨンフェ。少し早いけど、鍛冶屋の方に行くよ。聖女様方も行きたいそうだし」 「ねえ。イトゥ=エンキを見なかった? あの子、昨日はどこ泊まったのかしら……晩餐にも来なかったわ」 昨晩、イトゥ=エンキが「町に消える」や「晩御飯を適当にどこかで食べる」と言っていたことは伝えるべきだろうかと迷う。本人は、あまり追われたく無さそうだった。 「朝は一瞬だけ聖堂に居たって司祭様の証言があるのだけれど。逃げられている気がするのはどうしてかしら」 「聖女様、お願いです。昨日は訊けなかったけど、教えて欲しいことがあります。イトゥ=エンキとはどうやって出会ったんですか? どうして一緒に旅をしてたんですか? あの子は今までどこで何をして――」 |
長い名前
2013 / 05 / 31 ( Fri ) ファンタジーとか古代史もの読んでて思った。
名前のリズムって大事だよね。 かの有名なピカソのフルネームですら、自然な区切りというかリズムがあるがゆえに言いにくいとは別に思わないけど、古代日本名で いもよろずはたとよあきつひめのみこと とか見て、これはどう区切って発音するのだろう? とものすごく頭をひねった私がいます。 発音しにくい・リズムが無い、となると覚えにくさがかなりUPします。私の中では。 まあ、上記の登場人物は通称「とや」だけどさw ちなみに、マダガスカルの過去の王 Andrianampoinimerina もまたすごい区切りにくそうなニオイだよね。うぃきぺでぃあの記載によると アンドリアン・アンポイン・イメリナ になるらしいけど、果たしてどうだろうか。 |
着せ替えミスリア2
2013 / 05 / 29 ( Wed ) |
ぷち修正
2013 / 05 / 24 ( Fri ) ちょっと思い直して時計塔の屋根の色を灰銀にしました。
私(と本編)の中でのつじつま合わせなので、別に深い意味というか意味は無いです。 どうでもいいけど最近天気が良くて風が気持ちいい^p^ ミスリアの世界は文化が中世欧州寄りですが、天候や植物・動物などの「自然」は北米をモデルにしています。 |
23.a.
2013 / 05 / 21 ( Tue ) 時計塔の鐘が鳴り終わるまで、ミスリア・ノイラートは灰銀色の屋根の塔を見上げて待った。 十回鳴った後で音が止まる。 その余韻がまだ耳朶に残っている内に、ミスリアは目を瞑って一呼吸した。 日差しが心地良い。どこからか風に乗って伝わってくる焼き立てのパンの匂いが香ばしい。足元で、鳩が食べ物を求めてレンガの道を突く音がする。 通りを行き交う人々の声に、雑踏に、活気が溢れていた。こうしていればその活気を分けてもらえる気がした。 (よし。私も一日頑張ろう) 両手で頬を軽く叩いて、ミスリアは目を開いた。 「おはようございます、聖女様」 開いた目に入ってきたのは黒い服と銀のアミュレット。真正面に、いつの間にか誰かが立っていた。聖女の制服を着ていないのにそう呼ばれたからには、知り合いなのだろう。 ミスリアは目線を上げて、茶色の巻き毛と垂れた耳たぶが特徴の、昨日出会ったばかりの中年男性を認めた。 「おはようございます、神父さま」 「まだ寝ているものかと思っていました。疲れていらっしゃるでしょう」 神父は元々細い目を更に細めて、のほほんと笑った。 「いいえ、そんな訳には」 ミスリアは頭を振った。 この町の朝は早く、既に一日が始まってから数時間経っている。旅の疲れがあったものの、周りより起きるのが遅かったことに対してミスリアは何故か申し訳ない気持ちになっていた。 「そういえば神父さま、聖地へご案内していただけませんか?」 思い出したようにそう訊ねると神父の笑顔が揺れた。 「聖女ミスリア、それはいけません。週の始めの赤期日と言えば聖職に携わる者にとっての正式な休日。今日は、のんびりと何もしなくて良いのですよ」 「で、でも……。ではせめて何かお手伝いします」 何もしなくていいと言われると余計に戸惑う。 教会に住んでいる人間は休日を利用して家事やら買い物やらに忙しいのに、自分だけ何もしないのは気分が落ち着かなかった。 「それも、いけません。貴女様は大切なお客様です。お手を煩わせるなど」 口元をむっと引き結んで、神父は取り合わなかった。 「私が望んでいても……ですか」 「困った言い方をしますね。では、そうですね。庭の方で薪割りをしていらっしゃるラノグさんに飲物を持って行って下さいませんか」 「勿論構いません」 ミスリアは笑顔で請け負った。 そうして、水差しとコップとスコーンの乗ったトレイを持って裏庭に向かうことになった。 庭は広く、ずっと先まで見渡せばやがて庭から野原に変わり、そして緑が途絶える。あそこが聖地たる崖なのだろう。いずれゆっくりと見て回る必要があった。 右へ進み、斧が木を打つ小気味良い音を辿って、ミスリアは探し人を見つけ出した。 しかし彼は木の株に腰を下ろしていた。ミスリアに気付いて顔を上げ、明るく手を振って来る。 「聖女様! おはようございます。いいお天気ですね」 「おはようございますラノグさん。休憩中なら調度良かったです、お水とお菓子をどうぞ」 ミスリアは薪割りを続行するもう一人の人物の姿に驚きながらも、まずは挨拶した。 差し出されたトレイをラノグが受け取ると、ミスリアは水差しからコップへと透明の水を注いだ。 「有り難いです。いただきます」 ラノグは夢中になってスコーンの山を一個ずつ崩し始めた。その間も、すぐ隣で薪が割られる音は続いた。 しばらくしてミスリアは薪割りに没頭する長身の青年を振り返った。 脱いだシャツを腰に巻いて、青年は傷跡だらけの褐色肌の上半身を日に晒していた。どれくらい作業をしていたのだろうか、黒髪から汗の粒が滴っている。 苦笑しながら、ミスリアはラノグに小声で問うた。 「……ところで、どのように誘って彼の協力を得たのですか?」 「僕から誘ったワケでは無いですよ。ここで薪を割ってたら降ってきたんです。えーと、ちょうどあの辺りの樹の上から」 ラノグは近くの大樹を指差して答えた。 |
22 あとがき
2013 / 05 / 17 ( Fri ) |
22.g.
2013 / 05 / 17 ( Fri ) ミスリアの顔に安堵の色が広がるのを目の端で捉えた。 一方、優男教皇は胡散臭い笑みを浮かべている。 「そうですか、失礼しました。なにぶん少数民族に関する情報が少なすぎますから。聖女ミスリアは息災そうですし、私は護衛である貴方に感謝こそすれ責め立てる理由はありませんね」 そう言ってやっと手の力をいくらか抜いた。 奴はまだ何か訊きたそうな目をしていたが、ゲズゥはその隙に手を引いた。これ以上の会話をする気は無いとの意思表示で顔を逸らす。 一瞬、黒い兄弟から鋭く睨まれた気がした。 「では、そろそろ私は皆に挨拶をして回ります。また後ほどお会いしましょう」 意思が通じたのか、教皇は裾を翻してすたすたと聖堂を後にした。兄弟がその後ろに続く。奴は結局何の為に聖堂に寄ったのか、これではまるで雑談をしに来ただけである。 残った三人の間に数秒ほどの沈黙が訪れた。 「じゃあオレは町にでも消えるかな」 と言ってエンも出入口に向かい出した。 「イトゥ=エンキさん? 晩御飯はいいのですか?」 「パス。適当にどっかで食ってくるから」 「そうですか……」ミスリアは残念そうに俯き、次いで何か思いついたように顔を上げた。「余り分があったら夜食として出しっぱなしにされると思います。後で、誰も居なくなった時にでもどうぞ」 「おー、気が向いたら寄っとく」 振り返りざまに一度笑ってから、エンは音を立てずに去った。 おそらく姉を避けたい理由が口で言った以上にいくつもあるのだろう。事情は詳しく知らないが、複雑な心境であることは間違いない。ミスリアもそれを察し、寂しそうな表情を浮かべるも引き留めようとしなかった。 しばらくして、脱いだ手ぬぐいを両手の間に折ったり広げたりして、少女は何か言いたそうに視線を彷徨わせた。 「大丈夫ですか」 ミスリアがゲズゥを見上げて訊ねる。 「何が」 思い当たる節が無くて思わず訊き返した。 「……その眼の話をするのは、好きではないのでしょう?」 伏し目がちに、静かな口調でミスリアは言った。 「群れのボスより、俺を気遣うのか」 気が付けばそう答えていた。 「ボスって、教皇猊下の事ですか? それは……立場も大事ですけど。身近……な人間を思いやりたいですから。ゲズゥを私の旅に付き合わせて、嫌な想いをさせたかった訳ではありませんし……」 遠慮がちに答える少女を見下ろし、ゲズゥは得体の知れない優越感を覚えていた。 頂点に立つ上司よりも優先してもらえたから? 「身近」と言ってもらえたから? ――わからない。実に、得体の知れない―― 「気にするな。ああいう誤認には慣れている」 「……本当に?」 上目づかいで茶色の瞳が見上げてくる。 「一族も別に正そうとしなかった。『呪いの眼』と自称していたのは、ソレを持って生まれた人間が呪われているからだ。最初から、他人を呪う力など無い」 だったら「呪われた眼」と呼ぶべきだったかもしれない。先祖の考えた事はわからない。 「なら……理不尽な差別に怒らないのですか……」 「無意味だ。何を主張した所で、見た目が気味悪いのは変わらない」 「私は綺麗だと思います」 「お前は少数派だ」 そこで、会話がぱたりと止んだ。 ミスリアはどこか居心地悪そうに辺りをきょろきょろと見回し――ある壁の前で唐突に表情が翳った。 何を見たのだろうかとゲズゥは視線を追う。演壇から見て左隣の壁だ。台の上で蝋燭が列になってびっしりと並べ置かれている。蝋燭は全部に火が点いていない。 急に我を忘れたように、滑るように歩いてミスリアはその台を目指した。ゲズゥは動かずに、目だけで後ろ姿を追った。 蝋燭の一本一本に、銀細工のリングみたいな蝋燭立てが付いていた。何か彫られているのだろうか、ミスリアは指先でそれらを夢中で確認している。 やがて目当ての一本を見つけ、白い指はある一本の蝋燭の前で止まった。ミスリアは片手で口元を覆い、空いた手をマッチ箱へ伸ばした。震える手で蝋燭に火を灯す。 ことん、と音を立ててマッチ箱が戻された。 少女はしばらく揺れる炎を見つめていた。 次には両手を絡み合わせ、祈る姿勢で何かを呟いていた。それもしばらくして崩れる。ミスリアは力なく床にへたり込んだ。頼りなく細い肩が激しく震えている。 すすり泣きが、聴こえた。 |
22.f.
2013 / 05 / 15 ( Wed ) 顔を上げ、ミスリアは差し伸べられた手を小さな両手で口元に引き寄せ――教皇の右手の中指に嵌められているごつい指輪に口付けを落とした。 ゲズゥは片眉を吊り上げた。男が女の手にキスするのはそれなりによく見る挨拶だが、女が男にそうする場面は初めて見たかもしれない。 「よくぞ無事にここまで辿り着けましたね。安心しました。貴女は世に出た聖人聖女たちの中でも最年少ですし、何かと気がかりで」 教皇は子供か教え子にするように少女の頭を優しく撫でた。ミスリアはくすぐったそうに身じろぎする。 「ありがとうございます、猊下。苦難あれど、何とか旅を進めています」 ミスリアの返答に教皇は満足げに微笑むと、今度はゲズゥへと眼差しを移した。振り向く際に、低い位置で一つにくくられた髪が揺れた。 「左目がうまいこと黒い前髪に隠れていますけれど、貴方がゲズゥ・スディル氏ですね。お初にお目にかかります、私はヴィールヴ=ハイス教団を代表する者の一人。位は教皇。聖女ミスリアがお世話になっております」 優雅に一礼してから教皇は右手を伸ばした。数フィート離れているというのに、まさか握手しに来いとでも言いたいのだろうか。ゲズゥは微動だにしなかった。 「ちなみに指輪にキス、は信徒の挨拶。信徒じゃないなら握手でいいんだよ」 エンが楽しげに耳打ちしてきた。 「教皇っつーと最高責任者だな。そいつの握手を拒むのって、スッゲー失礼だと思うぞー? 従者の黒い兄弟に刺されるかも」 そういうエンも失礼な口を利いていたはずだが、特に問題ないのか、教皇や兄弟からの反応は無い。 「俺に礼節を重んじろと」 「ココの飯食うつもりなら重んじた方がいーんじゃねーの。ミスリア嬢ちゃんの生活費とか教団からもらってんだろーし。お前も世話になってんじゃん?」 声を小声から普通の音量に戻し、エンは肩をすくめた。 「貴方の釈放を許可したのも私ですけれどね?」教皇がにっこり笑う。「おかげさまで対犯罪組織の怒りを買ってしまいましたよ。とはいえ元々あの組織もシャスヴォル国もいちいち過激です。死は本当の意味では贖罪になりえませんのに」 「…………」 どうやらこの男は死刑に対して反対のスタンスを通しているらしい。だからこそ「天下の大罪人」の釈放に繋がったのだろうが、それでも礼を言う気になどならない。 ゲズゥは沈黙の内にいくつかの事項を考慮し、主にエンの意見を取り入れて噛み締めた。 この優男教皇と友好関係を築いた方が今後動きやすそうだろうという結論に至り、重い足取りで教皇の前まで歩いた。顔を見ずに、奴の骨ばった細い手に己の手を重ねた。想像通りの弱い握手が返ってきた。 「時に、スディル氏」 何故かシーダーの香りが鼻をかすめた気がしたのと同時に、教皇の握手に見た目からは想像できない強い力が加えられた。反射的に抵抗しかけ、思い直して力を抜いた。相手の骨を折る結果を招きかねない。 「経過はどうです。貴方にとってどのような行路であるのかは存じませんけれど、我々の大事な人財に、まさか呪いをかけたりはしていませんね?」 脈絡の無い問いかけにゲズゥは教皇の白い顔面へと目線を上げ、瞬いた。 ――旅の途中でミスリアに呪いをかけたりしていないか――? 普段のゲズゥならば馬鹿馬鹿しいと一蹴するか無視するような、くだらない質問である。 そんな心配をするぐらいなら最初から釈放を許可しなければいいだろうに。そもそも「呪いの眼」という呼び名から派生する誤解と迷信を信じているなら、当人に面と向かって訊けないはずだ。冗談に過ぎないのか、教皇の意図が掴めなかった。 ところが優男の鮮やかな青い双眸や掌を圧迫する握力が、何故か言い逃れを許さない雰囲気を湛えている。意図が何であれ半端な答えに納得するとは思えない。いっそ今からでも無視してやろうか、と奴の顔から視線を外した。 不安と気遣いに表情を曇らせる少女の姿が目に入り、ゲズゥはしばらくミスリアの茶色の瞳を見つめて更に思考を巡らせた。 気遣いの心が何を意味するのかはわからない。ただ、他でもないこれからも一緒に旅を続けなければならない聖女に、こっそりと化け物と疑われるのは面倒ではある。 「…………思い過ごしだ。左眼に他人を呪う力は無い」 やがてゲズゥは、これまでぼかし続けてきた問題について、今は真実を答えるべきだと判断した。 |