33.b.
2014 / 06 / 10 ( Tue ) 大聖堂の最上階には個人で使える礼拝室が幾つかある。人ひとりしか快適に過ごせないような狭い部屋の中、光源は三つ――机の上の蝋燭立て、聖堂を望める縦長の窓、ひし形の天窓。今はまだかろうじて自然光だけで明るい時刻だ。 部屋の中に椅子は無かった。代わりに長時間跪いていられるようにと置かれた柔らかいクリーム色の座布団が一枚、低い机の前にある。 長方形の机には引き出しに祈祷書や聖歌集、そして白紙と筆記用具が備えられている。白紙は祈祷を通して得られた発見や気持ちなどをしたためたり、祈りや歌を書写する為の物だ。 座布団の上に正座し、清めた身体から火照りが冷めていくのをぼんやり感じていた。体内から零れて散っていく温かさを惜しむようにミスリアは靴下のみに覆われた足を白いスカートの裾に包(くる)み、両手を擦り合わせた。 礼拝室は壁の色からカーペットや家具に至るまで、明るい色をベースにまとめられている。 通常であればもう精神は統一しやすい状態になっているはずだった。身を清めて純白の衣装に袖を通し、靴を脱いで穢れなき部屋に踏み込めば、その時点で準備は整っている。 机を構築するオーク材の香りが心をいくらか安らがせてくれる。 それでも胸の内がざわつき、思考がまぜこぜになっているのは変わらない。 (落ち着いて……、頭の中をちゃんと真っ白にしてから……) そうは思ってもうまく行かない。 (聖気、を…………急がなきゃ……) あちらこちらへと気持ちが浮遊していて物思いに耽ることさえできない。アミュレットを右掌にのせて何度か深呼吸をしてみた。 どうすれば考えを整理できるのか。 なんとなしに引き出しを引いて中身を改めて確かめた。 ふと、筆記用具がミスリアの興味を引いた。羽ペンとインクボトルを取り出して机の上に置き、次いで白紙に指を触れた。カサリ、爪の先をそっと引っ掻いてしまう。 「そうだ、手紙を書こう」 名案に辿り着いて、独り言が漏れた。 誰かに語る形式なら物事を順序良く並べ替えながら思い出せる。それもせっかく書くのだから、実際に手紙を出してみることにしよう。 机の前で膝立ちになって姿勢を正し、ペンにインクをつけ、そうしてミスリアは自身が唯一友人と呼べる人物に向けて手紙を書き綴った。
まずはユリャン山脈付近での集落に起きた悲劇を語った。それから山賊団と関わったこと、イトゥ=エンキを伴って山越えをしたこと、樹海を通り抜けてナキロスの町を訪れたことを書いた。ナキロスの町で教皇猊下に会って聖地を巡る意味を再考させられたことも綴った。 思い返しながらも時々沸き起こる悔恨を感情の中枢から切り離して、ペンを進める。 (さすがに自分がさらわれた話をするのは少し恥ずかしいかも……) 手を止め、ミスリアは一人苦笑いをした。時が経っても、味わった恐怖が悪夢に蘇ることは度々ある。 それでも語った。ただし、ゲズゥと交わした会話の一部は紙面に載せずに端折る。 やがてイマリナ=タユスを訪れて仇討ち少年や魔物討伐について書き出した頃、五枚目の紙に突入していた。 無力さに打ちひしがれての後味は鮮明だ。手先が小刻みに震え、黒いインクが数滴弾けて欄外に落ちた。 時間が惜しい。 今の自分が最も必要としているのはこの先を想うことだ。 震える右手を左手で掴んで押さえた。ミスリアはもう一度深呼吸し、白紙と向き直る。
視線は宙をさ迷い、脳裏には三日前の出来事が浮かび上がっていた――。 |
33.a.
2014 / 06 / 05 ( Thu ) これまでにも幾度となく見上げてきた背中が遠ざかっていく――。 聖女ミスリア・ノイラートはそれが人混みに呑み込まれて完全に見えなくなるまで、静かに見届けていた。あまり多くの時間を要しなかった。去り行く青年、ゲズゥ・スディルは元より足が速くて、そして今、何一つ顧みずに走っている。 そう、必死に駆けている。 ミスリアは彼の心中を想像してえもいわれぬ心苦しさを覚えた。同時に、幾月も共にあった護衛が離れて行くことに不安も覚えていた。 旅を始めた当初から変わらず、姿が見えなくてもいつも近くにその存在を感じていた。ウペティギの城での一件で一度引き離された時があったが、それを除けばほぼずっと一緒に居た。今はあの時とは事情が違うし、自ら送り出したのだと、わかっている、けれど。 モヤモヤとした薄暗い感情を鎮めようと、両手を握り合わせる。 「……どうか」 司教座聖堂の玄関先であることも気に留めずに跪き、深く頭を垂れて祈る姿勢を取った。 「どうか、彼らに大いなる神々と聖獣の加護があらんことを」 ヴィールヴ=ハイス教団に賜った聖女の証、十字に似た特殊な銀細工のペンダントを親指と人差し指の間に握った。 強く、強く握り締めた。 (お願い神さま聖獣さま……ううん、この祈りが届くなら誰でもいい) ぎゅっと目を瞑り、歯噛みして無心に祈った。 ――あのひとを助けてください――! 無事を願う、ひたすらにその為だけに。 力みすぎているのか、両手がガタガタと震えていた。 祈る心の強さが力となって通じるならば何時間でもそうしていたかった。けれども現実はあっさりと横槍を入れてくる。 「聖女ミスリア!? そのようなところで膝をついてはいけません、礼服が汚れましてよ!」 「お立ちになって!」 イマリナ=タユスの大聖堂(カテドラル)に仕える修道女たちが玄関に姿を現す。 両肩を掴まれ、強引に立たされる。ミスリアは特に抵抗しなかった。 そのまま蒼穹の建物の中へと引かれていった。 「まったくどうされましたの? 護衛の方もいきなり憑かれたように飛び出しますし……」 「聖女様、お顔色が優れませんね」 二人の修道女の呼びかけに、ミスリアは弱い笑みを返した。 「夕方の参拝……水晶の祭壇に祈りを捧げる時刻まで、どれくらいの猶予がありますか」 古風な造りの渡り廊下を歩きながら、口早に訊ねた。 外の風はもう冬のものと間違いないくらいに冷えている。 「え? そうですわね、二時間未満でしょうか」 二人は顔を見合わせてゆったり応ずる。 「では私はその時に備えて先に身を清めます。それからは礼拝室に篭もりますので、時間になったら呼びに来てください」 「まあ、篭もってどうされるんですの?」 「一切の妨げを失くして祈祷する以外に何がありましょう」 修道女の一人が首を傾げて質問するも、もう一人が当然だと言わんばかりに答えた。 「それはそうでしょうけれど……」 「聖女様がそれを望まれるのなら、わかりましたわ。後で呼びに行きます」 「ありがとうございます」 ミスリアは精一杯の微笑みをつくって一礼した。 _______ 始まりますよ~。 今回のエピソードは正統派群像劇(?)になると思います。またぐわっと長いかもしれませんが、一緒に走り抜けましょう★ね |
画像補足
2014 / 06 / 04 ( Wed ) |
最近の拍手コメ返信
2014 / 06 / 03 ( Tue ) 05-28 みかん様
大好きだなんて(ノД`;)・゚・ ありがとうございます( ;∀;) そうですね、難しいことは後回しにしてこの物語の最大の醍醐味(?)である二人に集中すべきですね。もうどんどんなつかせまする! 06-03 えび反り ロリコン爆誕ってなんだw 爆誕ってwwww 三十代と少女って危険なかほりがしますね。が、とりあえずあの埃臭い城はこれからモノクルかけたおっさんの後ろにちょこちょこくっついていく幼女zの光景が住民の心を癒してくれることでしょう。 って、いよいよガチでロリコンファンタジーに…。幼女が増えるのはいいのだがまともな大人も増えないとな!!!! |
はくしゅおれい
2014 / 05 / 30 ( Fri ) 入れ替えました。
今回はちょっと拍手ネタにしては長い(?)ので頑張って尺におさめました。 掌編の短さでオチをつけるのって超難しいですね。もうあばばばです 33が始まるのはもうちょっと先になると思います。なんか納得の行く形がまだ見えてきません。もやもや~っとしてます。 では~ |
32.j.
2014 / 05 / 28 ( Wed ) 「助けに戻り――」
「ダメ。無理だよ聖女さん」 「でもあれだけの人を見捨てるわけには――」 「アレと戦うことは、僕や兄さんにはできない」 反論の余地を与えない声音でリーデンが言い切った。 「理性で抑えられる本能には限界がある。助けようとしても無理。恐れおののいて動けなくなるか、勝手に体が逃げ出す。僕らはそういう種類の人なんだって、そう思ってくれればいい」 彼は戦闘種族の性質を語っているようだった――戦うまでもないほど強大な敵と対峙した時の対応を。 「それに、生存本能を押しのけてまで他人にそこまでする義理は、やっぱり無いんだよ」 そんな風に言われては唇を噛み締めるしかできない。 ミスリアはゲズゥの姿を探し、すぐ後ろにみつけた。杖を使っている人間にしては異様に速く歩を進めている。彼が何も口を挟まないので、弟と同意見なのだと感じた。 三人は戦陣の中心であった、結界に守られた小さな範囲の目前まで迫った。そこで止まる気は無いのか、リーデンは全く減速しない。 「六十人いてもやはりダメなのか!」 司教様の失意の喚声。 「何をご存じなんですか司教様!? 教えて下さい!」 思わず叫んだ。 「聖女ミスリア!? ここで守られていなさい!」 彼はただならぬ表情で勧めた。リーデンは何を思ったのか、数秒ほど結界のすぐ傍で立ち止まってくれた。中にまで入る気は無いらしい。 「さっき声が聴こえた気がしました。あの魔物の素は魍魎ではなく人間でしょう? どういうことですか? 忌み地とされるような大きな事件が無かったはずでは」 最初の質問を受け流されたことにミスリアは苛立って、詰め寄るように質問を畳みかける。 「……確かに大きな事件は無かった。無かったのですが、時間をかけてありふれた『死』の集大成が……」 後ろめたそうに顔を逸らし、司教様が口早に答えた。情報を出し惜しみしたことへの後ろめたさだろうか。 「そこから先は移動しながら話してもらうよ。どうせ君らも、あの混乱の中に飛び込んでお仲間を助けるつもりなんて、無いんでしょ。何度『討伐隊』が全滅しても、司教が死んだって噂は聞かないからね」 「ぐぅ……」 「ボクらも興味ありますね」 遅れて追いついたエンリオが言った。彼の後ろでは、「離しなさい! 皆を助けに行きます!」と嫌がる聖女レティカを抱えて走る女騎士レイの姿がある。あちらの護衛も同じ判断をしたようだ。 「仕方がありませんね」 諦め半ばに言って、司教様が結界を解いて動き出す。 そして語った。 ――ことの始まりは河で死んだ人間が幾人かこの場所に「集って」塊を構築したことと思われる。 それを討伐する為に魔物狩り師が訪れるようになり、完全に元を絶つことは出来なかったのか、今度は討伐で死んだ人間が混じる。 塊は大きくなり、やがて初めての分離が起こる。 分離した魔物が新しい死を調達して戻る―― 延々と繰り返されるフィードバック・ループ、それが徐々に魔物の源を育み、今に至る。 ループを絶つ術が見つからなければ、永遠に問題は大きくなり続けるしかない。 (……忌み地として封じる以外にどうしようもないわ) どうして今までそうしなかったのか。考えうる可能性は幾つもあるが、もう考える気力も問い質す気力も起きない。 真実を噛み締める暇も無い内に、リーデンが加速した。司教様や逃げ延びられた魔物狩り師たち、そしてレティカ一行を置いて先に進む。 ようやく河を離れて静かな夜の世界に戻れた頃、リーデンに地に降ろしてもらった。 脱力した。 ちょうど絶妙な位置にあった石の上にミスリアは腰を落とした。 (どうして、私は。こんなに無力なの) やや遅れて追いついたゲズゥが、こちらを見下ろしている。黒曜石に似た瞳には案じる色があった。 何かを思うよりも先に行動していた。 ミスリアはよろめきがらも立ち上がり、ずっと旅の供で居てくれた青年の傍に近寄る。 理由はわからない、ただこの人の近くでは、普遍な存在に触れるのと同じような安心感を得られる気がした。 そうしてゲズゥの袖にしがみついて泣いた。 以下あとがき |
32.i.
2014 / 05 / 26 ( Mon ) 「よせ! 戻るんだ、君!」
「じゃまだ! はなせえええ」 再び、目と鼻の先で魔物狩り師たちが仇討ち少年と揉み合っている。 「何の騒ぎです?」 浄化を終えたレティカがレイを伴って近付いてきた――その時。 空気の色が変わった。 厳密には、上から降り注ぐ青白い光に周囲が照らされたのだ。 あまりに唐突だったのでミスリアは遅れて空を仰いだ。 喉が恐怖に収縮する。 それがどういう形をしているのか全体像を捉えられないくらいに、対象は視界からはみ出ていた。 人間の顔に似た無数の隆起が呻き声と腐臭を放っている。 その上、一瞬を追うごとに近く感じる。 ――呑み込まれる!? ぐにゅり、と人面型の突起が、丸い吸盤に覆い尽くされた柔軟な足に変化した。 足が獲物めがけて伸びる。 咄嗟に顔の前に手をかざしたミスリアは、右手首を絡め取られた。強力な吸引力によって上へ引っ張られる。靴の裏が地面から離れていく―― 『むねん』 『いきができない。くるしい』 『いたいいたいいたいいたい』 『たすけて。だれかたすけてよ』 いくつもの悔しげな囁きが鼓膜をかすめた、気がした。 「リーデン!」 「わかってる!」 兄弟間で短いやり取りが交わされた直後、ミスリアの身体を上へ引っ張る力が消えた。 横抱きにされたかと思えば、視界が疾く動いた。 しかし慣れた感じと何かが違う。乗り心地、とでも言うのだろうか? それに爽やかな香りがする。 「聖女さん、手大丈夫?」 「リーデンさん!?」 自分を抱き抱えている人物の正体を知って驚愕する。 が、それ以上に手首に吸い付いたままの魔物の足の先端に吃驚して、左手で慌てて浄化した。白い足が完全に消えると、肌に赤い痕がだけが残った。 作業も終われば今度は背後から響く悲鳴に注意が行く。 (状況は……!?) リーデンの肩越し、今しがた逃げてきた場所へと視線を向けた。 そして絶望した。 そこには地獄絵図が広がっていた。 倒れたテントみたいに、平坦な形をした大きな魔物がパタパタはためきながら人間たちに覆いかぶさっている。 逃れんとする人間をしなやかな足で捕まえて、下面の口と思しき空洞へ引き寄せている。 絡まった魔物狩り師は各々の武器を手に、吸盤付きの足に斬りかかる。だが斬っても斬っても解放されない。 紫黒色の液体が飛び、朱色の血飛沫も飛び交い、河岸は阿鼻叫喚の巷と化していた。 誰かの腕が引き千切られる展開を見届けて、ふいに吐き気を催した。 (なにが、これ、なに) 口元に手を当て、ミスリアは信じられない想いでそのシュールな光景を眺めていた。 顔から血の気が引いていく。 仇討ち少年の姿はどこにも無い。 が、彼の高らかに笑う声が聴こえてくる。 距離が開けてきているのに、嫌にハッキリと聴こえた。 「いける! これであえる! まってて、おばさん! アハ、はははははははははははは!」 ミスリアは両耳を手で塞いだ。どうか錯覚であって欲しい。 ――幻聴だとしても、なんてひどい笑い声――! 哀しい狂気に憑かれた子供を、ついぞ救うことができなかった。 現実の重さが心を侵していく。 |
32.h.
2014 / 05 / 26 ( Mon ) (違う……確かに一部の死んだ人が魔物になるけど、だからって会いたい人に会えるわけじゃないわ)
少年の願いが叶わないとわかっていながら、何も口にすることはできなかった。 魔物は歪な道を辿った異形の存在だ。死を越えた先にあるのは自我の崩壊、或いは意識の混濁、そして魂の混合。生前のままに人格が保たれる可能性は限りなく少ない。 「君、こんなところにいてはいけない!」 「ここは危ない! 下がりなさい!」 魔物狩り師の何人かが少年の傍へ進み出る。 「ずっと町の中をさがしたんだ。どうしてみつからないんだろ。わかんない。でも、わかった。おれも同じモノになれば、あえる」 少年は誰の声も聴こえていないようだった。 彼の細腕が魔物狩り師たちに掴まれる。仇討ち少年は、剣呑な表情で振り返る。歯噛みし、充血した両目を見開き、小刻みに震え出した。 先日ミスリアを蹴った時と同じ、刹那の激しさが垣間見えた。 暴れる少年は拘束から逃れ、ゲズゥの前へとズカズカ歩み出た。 ミスリアの身体は無意識に動き出していた。 また危害を加えられるのではないかと思って少年の前に立ちはだかる。少年は今度は鉈を取り出したりしなかったが、その苦しげな瞳はミスリアの上を通り過ぎて行った。 「あんたを殺しても、楽になれないんだろ。すこし考えたら、わかった。きっともっと苦しくなるだけだ。だから他の方法をさがした」 「魔物に変じれば楽になれるとでも、思ってるのか。それもおそらく違う」 ゲズゥの低い声はいつもと違う微かな振動を含んでいた。 「もう、いいよ。どうだっていい。おれは行く! そしておばさんに会うんだ。でももし魔物になっても会えなかったら、あんたを一生呪ってやる」 「…………怨念が連鎖し、循環するとは、よく言ったものだな」 ゲズゥが言い終わる前に、少年は背を向けていた。彼の行く道に幾人もの魔物狩り師が飛び出している。 「待って!」 引き留めようと一歩踏み出るも、ミスリアは横から現れた杖によって阻まれた。 「あの子供が決めたのなら誰にもそれを止める権利が無い。奴にとって、生きていても死んだとしても苦痛しかないのなら、他人がしてやれることは無い」 「そんなはずありません……」 「死してなお、浄化されることなく存在し続けることにならないよう、責任を持って斬る」 「違う――それは違います! 生きていれば、いつか苦痛が和らいで、諦めないで良かったって思える時が来ます!」 抗議しながらも、いつしかミスリアは泣いていた。 「前向きな見解を持てない人間に、わからせることは不可能だよ。子供に『今は苦しくても十年後に大人になったら色々見えて来る』って言うのと同じ。わかってくれる時までひとつところに留まらせるならまだしも、そこまでする義理はないね。ましてやあの雌豚と縁があるんでしょ。死ねばいいんじゃない」 「……っ」 今度は絶世の美青年が冷徹な意見を投じる。 |
河
2014 / 05 / 22 ( Thu ) クリックで大きく 皆様こんにちは。 32を一気に最後まで書き上げてから投稿しようともくろんでいる甲です。 写真はミスリアではなく「滝神」の方のイメージになります。滝がないけど。 あちらの方も読んで下さってる方ありがとうございますん 無言の拍手もありがとうです超やる気出ます(・∀・) 以下拍手返信↓ 拍手5-13&5-15 みかん様 新作までらぶとは私を嬉し死させたいのですか! 一記事単位に一言いただけるのは本当に素敵なことですありがとうございます。 これからもドキドキハラハラさせるような作品を目指します! |
32.g.
2014 / 05 / 20 ( Tue ) 彼らの言う通りにした方が得策だということはわかるし、言い分を無条件に信じても構わない。けれどそれを受け入れるのは、集団に対する無責任になってしまう、とどうしてもミスリアは考える。 そう抗議したら、リーデンはフッとため息をついた。彼はエンリオと共に何を発見したのか手短に説明し、最後に問うた。「もう一つだけ情報確認いい?」 「はい」 「人里の方に降りて来るのではないかと危惧されているけど実際はまだそんなに来ないんでしょ?」 リーデンにそう質問されて、ミスリアはついエンリオを見やった。自分よりも自信を持って答えてくれそうだと感じたからだ。 「そうですね。此処ではこれだけの大群が出て来るのに、野田近くで目撃されたのはせいぜい二、三体と聞いています」 エンリオはこちらの意図を汲み取った。 「つまりいくら数が多くても、ほっといたって河から遠くは行かないんだね。理由はもしかして、河から長く離れられないからじゃないの? 水気が無いと消えるとかベタな何か」 「あ、ああー! すごい発想力ですねアナタ!」 驚嘆にエンリオが震え出した。 「川底とやらは」 無表情にゲズゥが言うと、リーデンが腕を組んで答えた。 「そうだね。川底と言ってもどこからどこまでが魔物なの? ソレが広がりつつあるから、ヤバイんじゃない。長く離れられないと言っても、本体が大きくなれば、結局は分離した個体が襲える範囲も広がるってこと。それに、限定要素が水辺ってだけなら、分離した個体も普通に泳いで南……遠くまで行けるね」 「そんなの、一体どうすれば……」 ミスリアは想像してみた――封印する以外で、川底に巣食う巨大な魔物を倒す方法を。 (聖気と結界を組み合わせれば) まず聖気を施す人員を結界で守り、本体まで近付かせる。そして魔物全体が浄化されるまで、根気良く聖気を展開し続ける。 そこまで考えて、二つの制限に行き詰まる。 ――敵の数が多過ぎて、結界だけでは作戦の要となる人物を護り切れなかったら? 結界の外から魔物狩り師を待機させればどうにかなるだろうけど、それではどうにもいたずらに犠牲が出そうな作戦になる。 ――そして、浄化しなければならない魔物が大きすぎたら? 浄化し切れるまでの時間が長ければ長いほど、こちらに不利な状況になる。 (こうなれば聖女が二人だけでは心もとない) 準備不足だ。何度考えてもその結論に至る。 「討伐隊を引き上げるように、司教様と話してみましょう」 意を決して、ミスリアが提案した。 「そうしましょう」 エンリオも同意し、共に走り出す。背後にはゲズゥたち兄弟がついて来た。 突然、すぐ隣で走っていたリーデンが、躓いたようだった。いつも軽やかな足取りを繰り出す彼の足がもつれることを意外に思い、ミスリアは振り返った。 「どうしました?」 「ぐっと胃を握り潰された感じがしてね。でも、僕じゃない。兄さんの動揺が伝わったんだよ」 「動揺? ゲズゥの?」 ますます意外に思って、長身の青年の姿を探した。彼は裾の長いコートをはためかせ、一対のT字型の杖に体重を預けたまま、河の方面に黒い眼差しを注いでいる。感情が欠落したかのような表情は、心の内を容易に明かしたりしない。 目線の延長線上に居るのは低い人影。伸び放題の髪に、ボロボロに汚れた衣服。乾いた唇からはとめどない謝罪の言葉が漏れていた。 「仇討ち少年!?」 他に何と呼べばいいのかわからないので、気が付けばミスリアはそう叫んでいた。 どうしてまたこんな危険な所に居るのか。いつの間にかこの大人数の中を通り過ぎて行ったのか。だが彼のそれは、生きている人間の気配とは言い難い、生命力に乏しい空ろな存在感だった。通り過ぎていても気付けないのは仕方がない。 「ごめんなさい。ごめん、おばさん。ごめんな。おれ、仇をうてなかったよ。だって、人を殺すのは、怖い。こわいんだよ。むりだった。ごめん」 少年の口元が歪な笑みの形を作った。 「もういいや。仇は、どうでもいい。あいたいよ。あえるよな? だって……」 泣きそうなほどに上ずった声だった。 「おれ、知ってるんだよ。死んだ人は魔物になるんだ。だからさがすんだ。きっとまたあえる」 今にも入水しそうな雰囲気の、少年の昏い呟きを聴いてミスリアは鋭く息を呑み込んだ。 |
32.f.
2014 / 05 / 15 ( Thu ) 翼幅が四フィート程度のエイの上は狭い。 幸い今は物理法則を無視した魔物が重力に逆らってくれているおかげで、河の中に逆戻りしなくて済んでいる。二人仲良くあの渦の中に落ちたらどうなるのかなど、知りたくはない。こちらの心配を察したのか否か、エンリオが近くの別のエイに向かって跳び、そのピンと張った尾を掴んだ。 彼は飛び移った勢いのままスイングし、尾を離してくるくると宙を舞って行った。リーデンもその後に続き、エイの背中を踏み越えて岸に戻った。 直に土を踏みしめるのには何とも言えない安心感を覚えた。 振り向けば、エンリオが用無しになった魔物たちを次々とナイフで撃ち落としていた。それが終わると、彼はリーデンに向き直って一礼する。 「助かりました。見かけによらず腕力があるんですね」 「よく言われるよ。君はなんていうか、曲芸師みたいだね。雑技団でもやっていけそう」 「わかります? 実はサーカス団で育ったんですよ」 「へえー」 河の方面からを目を離さずに、二人は戦陣の方へと一歩ずつ慎重に後退る。 「で、何かわかったの」 リーデンは早速本題へ移った。 訊ねた途端、エンリオの童顔が翳った。 「かなりまずいかもしれません」 「具体的にどうまずいの?」 「…………あの一帯の川底そのものが、魔物です」 蒼白になった顔でエンリオがぐっと唇をかみ締めた。 「は? 川底が生きてるって?」 川底に潜む魔物に足首を掴まれたのではなく川底の触手に捕えられたのか、と奇妙なイメージが脳裏に浮かび上がる。 「いいえ、生きてるって表現は不適当ですが……。パッと見ただけでは、川底がそうなのか単に底に横たわっている巨大な魔物の塊が在るのか、どちらとも言えませんね。ただ、敵が無尽蔵に分離して現れるのは間違いありません。あの塊をどうやって討伐すればいいのかわかりませんけど、こうやって分離してきた魔物を倒していても底が尽きることはない……そんな予感がします」 「なにそれ、普通にやってても無意味じゃん。もう忌み地でいいんじゃない」 エンリオの話は、聞くだけで脱力してしまう、無限に終わらない戦いを示唆している。 何故だか首の後ろがぞわぞわと粟立った。野性の本能が、その場を離れろと警告を出している。 「外的要因が見つかれば――」 「おっと、伏せてね」 エンリオが顎に手を当ててひとりごちるのを遮り、リーデンが右の踵を軽く地に叩きつけた。ブーツの爪先に仕掛けた刃物を発動させる為だ。 素直に身を伏せたエンリオの頭上で回し蹴りを繰り出す。 降ってわいた魚の魔物が真っ二つに裂け、どろどろとした液体が四方に飛んだ。 横から来るもう一匹が、リーデンが手を出すまでも無く、木製の杖によって殴り飛ばされた。 「引き際だな」 いつの間にか近くまで来ていたゲズゥが、静かに言った。リーデンと似た左右非対称の瞳は、ただならぬ空気を湛えていた。 「同感だよ」 これまでの短い人生経験からして、野性の本能には従うべきなのは重々承知していた。兄まで同じ危惧の念を抱いているというのなら、選択肢は一つだけ。 他の誰が何と言おうと、この世には確かに手を出してはいけない領域というものがある。見極められなかったら、死あるのみだ。リーデンは魔物狩り師の美学はよく知らないが、戦っても勝てない相手と対面したことはいくらでもある――それが人間にしろ、人間以外にしろ、勝てないのなら戦わないのが正解だ。もしくは相手の土俵から引きずり出せるならそれもいい。死を覚悟して戦うのは、本当に逃げ場が無い時だけ。 「引き際って、どういうことですか……?」 ゲズゥの後ろにくっついてきていた聖女ミスリアが心配げに訊ねた。それにはリーデンが淀みなく答えた。 「多分だけど、長居したらその内ヤバイのが出て来る。だから逃げるんだよ、この地域の討伐隊全滅記録に組み込まれたくなかったらね」 |
ちょっと浮気していまして
2014 / 05 / 13 ( Tue ) 皆様いつもお越しくださってありがとうございます★
宣伝の挨拶になります(? 先週から新作を書いたりしてました。てへ 前に出した行き場の無いネタを練り直して展開していったものです。 大学生が異世界トリップで原住民とサバイバルするお話……になるかは不明。 もし「読んでやろうじゃないか」なんて心優しい方がおりましたら、以下のリンクからどうぞ! (小説家になろうサイトに飛びます) http://ncode.syosetu.com/n3105cc/ そういえば拍手コメントで「お猿さんw」といただきましたが、何気に甲の子供時代のあだ名のひとつが猿でした。あれ、呼んでたのはお母さんだけ? ┌(。Д。)┐いやん |
32.e.
2014 / 05 / 12 ( Mon ) 跳んだり跳ねたりしながら投げナイフを操る、あのすばしっこくて小柄な男を猿と重ねるのは容易である。 ゲズゥに「何でお猿さんを?」と訊ねると、「目が良いから」と答えが返った。リーデンは納得してその人物を呼びに行った。 「お猿さん、お願いがあるんだけど」 「猿!? ボクのことですか」 「うん。君、目が良いんでしょ」 「それなりには良いですよ……」 猿と呼ばれたことに不平があるのか、エンリオは口を尖らせた。それには構わずに、一緒に河を見に行って欲しいと話したら、彼は二つ返事で同意した。彼なりに何か引っかかっているらしい。 「これだけの数が一斉に現れるからには、統一された意思、つまり『源』があると考えるのは当然です。そこから分離した個体が陸に上がって人間を襲っている」 「どこかに大きなお魚さんが居るってことだね」 「ひとつの例ですね。昨日も探したんですけど、これといったモノは見つかりませんでした。今日はどうでしょうね」 リーデンとエンリオは、岸まで歩み寄った。 「暗くてイマイチ何も見えないね」 人並み以上に夜目の利くリーデンでも、水の中までは見えない。視線で遠くまで探るが、やはりダメだ。 隣のエンリオは黙りこくっている。右から左へとゆっくり頭を巡らせながら、両目を細めたり見開いたり、を何度も繰り返している。 彼の目線の先を辿ってみても何もわからなかった。 一分後、エンリオが口を開いた。十時の方向を向いている。 「…………左、あっちの方で水底が薄っすら光ってるように見えます」 「んー、ゴメン、僕には見えない」 「水に入って確かめても?」 その提案に関してリーデンはしばし考え込んだ。自分にはそこまでする必要があるように思えないが、なんとなく、兄の視線が後ろから注がれているのを感じ取った。 おそらく根源を絶たなければどれだけ討伐隊を送り込んでも無駄だ。民の不安とやらは消えない。 リーデンはそんなものはどうでもいいが、魔物の根源の正体には興味がある。 「わかった。僕は入らずに岸から援護するけど、それでもいい?」 「十分です」 そういうことに決まったので、二人は件の場所に近づくように左に少しずれた。水に入る前にエンリオが余計な外套や装備を脱ぎ捨てている。 水面は、先程魔物の大群を吐き出したとは思えぬほどに凪いでいる。 リーデンは両手それぞれに武器を用意して待った。光っているのがどの辺りなのか、エンリオの泳ぐ方向を確認しながら探す。 何も見えないのは変わらないが、エンリオが止まったので、大体の位置は掴めた。 彼は立ち泳ぎをしながら水底をじっと睨んでいる。 潜るべきかどうか迷ってるのかな、などと考え、引き続き見守っていると―― ――ゴボボボボ。 渦でも発生したのかと疑わせる、水が吸い込まれるような耳障りな音がした。次いで、エンリオが叫び声を上げて暴れた。目に見えぬ敵に引っ張り込まれまいと、溺れまいと抵抗している風である。 (これはヤバそう) 手を貸してやるべきなのかもしれない。 リーデンは素早く辺りを見回し、河の中で足場になりそうな物を探した。残念ながら何も見つからない。 束の間逡巡していたら、巨大なエイの形をした魔物が四匹、水の中から飛び上がった。 「なんて素敵なタイミング」 巨大な魔物たちは低空飛行をし出した。リーデンにとっては足場にしか見えない。 高く跳び上がり、四匹の魔物を順番に踏み越えて行った。四匹目の上に立つと、振り落されないように身を屈め、左の袖に隠し持っていたナイフを取り出した。やはり振り落されない為にエイの背中にナイフを突き刺し、右手で自身の帯を引き抜いた。 リーデンが日頃から身に着けている帯は二本ある。普段、他人の目につく上の帯は鉄輪を提げる為につけているものであって、服を調整する為に着けている帯はその下だ。より長い下の帯を引っ張り出して、エンリオに届くようにと垂らした。 パニックに陥っていながらも、エンリオはすぐにこちらの意図を察した。手を伸ばし、手袋をした手で帯を握る。 水中の渦巻きと方向を同調させてぐるぐる飛ぶエイの上で、リーデンは唇を噛んで腹に力を入れた。目が回る前に、急いで帯を引き上げる。 |
【キャラ絵】義姉弟
2014 / 05 / 12 ( Mon ) |
【キャラ絵】おさななじみって扱いにくい
2014 / 05 / 11 ( Sun ) |